月夜見と幽霊
16話です
戦闘が始まって数10分が経過した。
俺は必死に茨姫の怒涛の攻撃を一振りの相棒《漆黒の剣》で捌いていく。
しかし、攻撃を全て捌けるはずも無く、俺の周りには付けられた傷から吹き出た血が撒き散らされる。
そして、剣にも魔力を注がないと折れてしまうため魔力供給を切ることが出来ず、俺の魔力はほぼ尽きかけであった。
それに加え、属性魔法を付加出来たら良いんだがそんな隙があるはずも無く、付加魔術師に有るまじき零付加で戦っている為、いつも捌けていた攻撃まで体に傷を残していく。
「(どうすればいい…何かっ、何かアイツを欺ける手段は無いか)」
茨姫は最初の位置から1歩も動かずに蔦を巧みに操って攻撃してくる。
零付加の状態は思考速度も遅いため、改善策が思いつかない。
「(一度距離を取って…)」
俺が後ろに飛んで距離を取ろうとした瞬間。
「逃がさんよ?ほれ、もっと近寄れ」
茨姫は俺の右足に蔦を絡みつかせ、動けないように拘束した。
「くそっ、せめて身体強化だけでもっ」
魔力調整への意識が薄くなっていた為解除されていた身体強化魔法を口早に一節で唱える。
「あと、ついでだ!炎帝の牙!!」
身体強化のついでに炎属性基本魔法の炎帝の牙を発動させ、自身の剣に紅い炎が纏い、燃え上がる。
蔦だったら火に弱いだろうという安直だが、常識的な理由で俺はこの魔法を唱える。
そして、封じられた禁呪があったことを思い出し、発動させにかかる。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は腹から雄叫びを上げながら足に絡みついている蔦を強引に切り裂き、全身の魔力を倍に活性化させるグリモアの特性スキル《超越》を発動させる。
「ちょっと、白!!超越はダメです!身を滅ぼし兼ねません!!」
俺の急な魔力変動を察知したルウが叫ぶ。
「うるさい!俺は…俺はお前らが救えるなら自分の身がどうなろうと構わない!」
「白ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
段々ルウの絶叫も耳に入ってこなくなってくる。
典型的な《超越》による影響である。
《超越》は一時的に魔力を倍加させることが出来るがその反動はとてつもない。
視力が弱まったり、聴力が弱くなったり。
色々あるが今の俺の身体に起きている影響は………
俺の視界から色が消えた。
全てが白黒でしか判断出来なくなった俺は失ったのが視力で無かったことを自分の運に感謝し、思いっきり地面を蹴った。
真っ直ぐ直線的に突っ込むのは茨姫にとって愚策だ。
そう判断した俺は壁を蹴り、天井を蹴り、自分の目でも追えなくなるスピードで立体的移動を行う。
ビシッ!!
茨姫の背後に一瞬で回り込んだ俺は剣を振りぬこうと足を踏み込んだが骨が鈍い軋みを上げる。
「ぐう……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今の高速立体移動で足に多大な負荷を掛けてしまい骨にヒビが入ったみたいだが、俺は痛みに顔を歪めながらも炎に包まれた剣を振り抜いた。
しかし、剣が茨姫の肉体に接触する寸前。
俺の剣が蔦の盾によって阻まれる。
「惜しかったのぉ。今のは危なかったぞ」
「まだむぁだぁぁぁぁ!!《猛る炎帝 神火を灯したまえ》!!」
盾に阻まれてなお、俺は剣を離さず荒々しく燃える剣に乱暴に魔力を注ぎ込む。
《超越》使用時のみ使う事の出来る神聖魔法を唱えている為、また身体の器官が一つ失われる。
「くっそ、それは反則だろ……」
俺の左腕から神経が途絶した。
色覚は奪われ、左手はタダの重り。
身体的にも不利な状況でも俺は神の炎を生成し続ける。
苦労の甲斐あってか、今まで絶対的な強度を誇っていた茨姫の蔦に炎が燃え移り、次の瞬間盾を真っ二つに切り裂いた。
「くふふ。なかなかやるでは無いか。ここまでやる人間は久しぶりじゃのお」
「黙れ、この化け物め。消し炭にしてやる」
盾を破られ、蔦を引き裂かれたこの状況ですら茨姫はニヤリと笑っているように見えた。
俺は左手をダランと垂らしたまま、流れるような連撃を茨姫に叩き込む。
そして遂に茨姫の肉体に数十センチの距離まで肉迫する。
「コレで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
身体に残る最後の魔力を振り絞って炎を一層強化し、剣を振り下ろす。
「はぁ、甘いの。甘々じゃ」
ドスッと鈍い音がした後、俺の剣の炎は完全に消滅していた。
蔦で一突きされたらしい。
それも、俺にとって心臓の次に大事な臓器を…
「お前…何で、俺の魔臓の位置を」
魔臓とは魔道士、魔術師に関わらず全ての職業に関する冒険者にとって大事な臓器であり、ここを損傷すると魔臓が回復するまで魔力を使う事は出来なくなり、全ての魔法が解除されてしまうのだ。
その魔臓は人それぞれ位置が違う筈なのにこの茨姫は俺の魔臓の位置を特定し、貫いたのだ。
俺は口から大量の血を吐血し、その場に倒れ込む。
身体能力強化も解かれてしまった為痛みなどがさっきの数倍の威力で襲いかかってくる。
「白っ!!」
俺の元に駆け寄ろうとするルウとノアをジーニャとメルヴィが止めてくれている。
皆ありがとうな。俺のために涙を流してくれて。生き延びてくれよ。
俺を見下ろしたまま茨姫は口を開く。
「お主はもっと勉学を積むべきじゃったの。グリモアの《超越》発動時は魔力が荒々しくなるのじゃ、魔力が感じ取れる者ならどこに魔臓があるかなど取るに足らない事じゃ」
「くっそ……あと少しだと思ったんだけどな」
俺は右手を握り、悔しさに耐える。
これから「死ぬ」という恐怖が襲いかかってくる。
流石にここまで負傷してしまっては回復の見込みはないからな。
本当にラファエル様には顔が上がらないな。
「まぁお主は見所のある者じゃった。今時自分の身を犠牲にして人を守れる者など居らんわ。………じゃから、生かしてやろう」
突然身体に蔦が絡みつき、空中に持ち上げられる。
そして、茨姫は無数の蔦を操作し、地面を思い切り叩き割った。
恐ろしい崩壊音を響かせながら俺は茨姫に抱えられながらどんどん地下へと落ちていく。
頭上を見ると色が無いながらも皆が叫び、見下ろしている姿が見えた。
そこで俺の意識は一旦暗闇に引きずり込まれた。
あれから幾らか時間が過ぎ、誰かに頬を叩かれる。
「起きろ。起きるのじゃ」
重い瞼を持ち上げるとそこには茨を全身に纏った茨姫がいた。
「何で俺はまだ生きてる?それに……ここはどこだ?」
俺は色の消えた目で状況を確認する。
体からは未だ血が流れており、止まる気配はない。
そして、周囲は。なんだ?草?空?
アジトがあった部屋の様な空間がそこには広がっていた。
しかし、建物は見当たらないため別の空間だと思われる。
「お主を生かしてやると言ったじゃろうが…本当にこいつで良いのか?アイシャ」
誰だ?ここにはまだ人が居るのか?
茨姫の目線を追うとそこには綺麗な女性が立っていた。
その姿は柔らかい表情で、ゆったりとした服装。髪は基本的に黒髪のロングだが、ひと房だけ色が違う。色覚が無いため分からないが色が違うのは分かる。
ただ、一つ気になるのがその女性の身体が少し透けている事だ。
「ゆ、ゆう。れい?」
俺は少しずつ言葉を並べる。
幽霊など普段なら驚くだろうが今の死にかけている状況では全く何も感じない。
「夜見ちゃん。その子で合ってる。助けて上げてくれる?私も魔力は出すよ」
アイシャと呼ばれた女性は綺麗な透き通る声で茨姫の事を呼んだ。
え?夜見?茨姫が?
一瞬戸惑っていると茨姫はその場で立ち上がり、何かを呟いた。
すると、先程まで茨姫を纏っていた茨が消滅し、可愛らしい少女が現れた。
身長はイリアより少し高い位だから10歳位か?
「お主、今妾の事子供だと思ったじゃろ。まぁ、良い先に治してやるかの」
するとアイシャさんが魔法で俺の上半身を浮き上がらせ、俺は座っている状態になる。
そして茨姫、改め夜見が俺の足に跨り、その端正な顔を近づけてくる。
「えっ、ちょっと。何すんだ……むぐっ」
次の瞬間俺は夜見に唇を塞がれた。
そして、莫大な魔力が流れ込んできて、空っぽの身体を満たしていく。
夜見の魔力は暖かく、そして優しい物でゆっくりと癒していく。
数分の治療の後、俺の視界には色が戻り、左手の感覚が戻り、身体の傷も癒えた。
「ぷぁ…ふぅ。お主、見かけに寄らず割と多量の魔力を備えておるんじゃな」
夜見は唇離すとふぅと息をついた。
そして、俺の足の上から立ち上がったので俺も合わせて立ち上がり、二人を詳しく見る。
アイシャさんは予想通り幽霊っぽいな、肉体が無い。だけど強い魔力が感じられる。
俺と同じ黒髪でひと房を銀色に染めていた。
この美しいお姉さん姿が生前の姿なのか。
しかし、俺はこのアイシャという女性が優しく見つめてくれる事に何故か親近感と言うか、懐かしさを感じていた。
そして茨姫こと夜見という少女。
さっきは色覚異常で分からなかったがこの少女腰までサラサラとした金髪を伸ばし、アイシャさんと同じ様にひと房を銀色に染めていた。瞳は夜の闇の様な深い黒。端正な顔立ちにプニプニした肌を持っている。
更に、さっきからは想像出来ないような可愛いらしいワンピースに似た服装を着こなしている。
「それで、茨姫。俺を助けた意味と何をしたかを詳しく教えて貰おうか」
「めんどくさいの、教えてやるからそう急かすで無いわ。あと茨姫はただの仮名に過ぎん、夜見と呼べ」
夜見は手を組み、面倒くさそうに息を吐くと経緯を話し始めた。
「妾達はアステカ一味ではあぶれ者として扱われておったのじゃ」
「なんだ?そんな事聞いてないんだが」
「黙っ取れ、ちゃんと最初から話してやると言っとるのじゃ。……コホン。それでの?このアイシャは特に扱いが酷くての。アステカのリーダーじゃった光の王がアイシャの事を恐れたのじゃ。アイシャが始祖のグリモアであった為に…の」
「始祖のグリモア…?じゃあアイシャさんはグリモアでアーカイブを作った人なのか!?」
「そうじゃ。それで現に今もこのダンジョンの階層をアイシャだけは任されておらんしの。アステカから無い存在として世間に広まって行ったのじゃ。そのアイシャと妾は仲がよかったのでの、妾も同じく迫害を受けたものよ」
夜見は怒りを噛み殺す様に右手を強く握り締める。
「そこで、妾とアイシャは共に研究した結果、一つの属性を作り上げる事に成功したのじゃ」
「属性を!?作った!?」
俺は流石に驚きを隠せない。
魔法を作ったというのは良く聞くが属性そのものを作り上げるなんて…
流石は始祖のグリモアと言った所か。
「それで何の属性なんだ?」
「《白銀》と呼ばれる白の属性じゃ。」
「《白銀》……」
「《白銀》は全てを受け入れ、力と変える。そして汝を癒す癒しにもなる。そんな光と希望を持ち合わせたのが白銀魔法じゃ」
「白銀魔法か。…それで、俺を助けたのは?」
「お主を生かしたのはこの白銀魔法を継いで貰う為じゃ」
「白銀魔法を!?良いのか…?」
そんなに強い魔法を教えて貰えるなら嬉しいに越した事は無いぞ。みんなを守れる力が手に入るかもしれない。
「見ての通りアイシャも、先は長くないからの。この先グリモアがここに来るとも限らんじゃろ」
「俺で良いのなら是非その魔法教えて欲しい。」
俺は腰を曲げ、頭を下げた。
「頭を上げて?私達の勝手に都合に巻き込んでるんだから悪いのは私達よ」
俺は言葉に甘えて頭を上げ、さっきから気になっていた事を尋ねた。
「二人は何で髪がひと房銀色に染まっているんだ?」
「そりゃ、妾達は白銀魔法に触れておるからの。外観に出るのは当たり前じゃ。お主を助けた魔法も白銀魔法じゃったし、お主と妾の魂をリンクしたからお主も同じ様に銀色に染まっておるぞ。それに、お主は白銀魔法の影響が色濃く出るみたいじゃの」
そう言って魔法で鏡を作り出した夜見を覗き見ると、今までの黒髪ではなく全てを銀色に染めた俺の姿が写っていた。
「マジかよ……遂に厨二っぽくなっちまったよ。しかも、俺だけ全部銀色に染まってやがる……それで、リンクしたってどういう事だ?」
さっきの夜見の言葉でリンクというのに引っかかったのだ。
「お主は死ぬ寸前だったからの、妾とお主の魂を魔力で繋いだのじゃ。じゃからお主が感じる痛みや心の不安は全て妾にも伝わるからの。一種の一心同体の様な物じゃ」
俺は頭の処理が追いつかず、夜見の言った言葉の意味を完璧に理解できないが、いつかの日本で見ていたアニメで似たような設定があったのを思い出し、強引に納得した。
「そ、それは悪い事をしたな。俺なんかと結ばしちまって」
「まぁ良いわ。長い事生きてるからの少しぐらいスパイスがあっても良いじゃろ」
俺はさっきから冷や汗が止まらない。つい数時間前まで殺し合いをしていたのに、幼い少女に口付けされて、よもや魂を結ばれて。それに魔法まで教えてくれるなんて…
もう、訳が分からん上に怖くなってきた。
本当、早く普通の生活に戻りたいよ…
イリア…イリア会いたいよイリア。
「色々追いつかなくて頭痛くなってきた…ついでに聞くが夜見。お前は何者なんだ?」
長い時間生きているとか言ってたし、白銀魔法にそんな魔法もあるのか?
「ん?あぁ、妾は神じゃよ」
「へ?神?」
「ん、神」
「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は頭を抱えて絶叫する。何なんだよどこまでビックリ設定なんだよこいつら!
「なんじゃ、なんじゃ。急に叫びおって、そんなに驚く事も無いじゃろうが。神じゃぞ?お主かてこの世界に来る前に会ったじゃろうが」
「へ?お前。俺が異世界人な事何で知ってんだ?」
「お主の魔力はこの世界の物と少し違うからの。この型は地球の型じゃ」
「魔力に型なんてあるのか?と言うかそもそも何でお前が地球の事知ってるんだよ」
「くふふ、そりゃあ妾が地球の、日本の神じゃからよ」
「マジかよ……」
今日何度目かわからない位マジかよって言ってる気がする。
「妾は月の女神、月夜見じゃ。しっかり覚えとくのじゃぞ?」
月の女神はくふふと口を抑えながら無邪気に笑っている。
時は遡ること数時間前。
白が茨姫に地下に連れていかれた大穴の前で立ち尽くしているルウ達は悲しみに暮れていた。
「あぁぁぁ、白っ。ぐすっ、うわぁぁぁぁん」
最も付き合いの長いルウは可愛らしい顔をぐしゃぐしゃに歪めながら大粒の涙を流し、大穴に入ろうと試みる。
しかし、ガシガシと何度通ろうとしても穴全体に張られた結界によって阻まれる。
「うぁぁぁぁぁ!!《忌むべき幻想に 終止符を》!!《気高き光の精霊よ 我の光の剣とならん》!!」
ルウは泣きながら様々なスペルブレイクを唱えたり、悪魔を滅する力を持つと言われる光の精霊魔法を唱えたりして結果を破壊しようとするも、あの始祖のグリモア、アイシャが作り出した結界には傷一つ付いていない。
「くっ、何でですか…何で白ばっかりこんな酷い目に……うぇっ、前の世界で……だったから私が頑張って励ましてあげようと思ってたのにっ…」
ルウは魔力の大半を使い切り、結界の上で項垂れてしまった。
ノアは泣き顔のジーニャに抱きつき、涙を流しながら嗚咽を漏らしている。
そして、二人をあやすかの様にメルヴィが彼女も目を赤く染めながらも背中をさすって上げている。
重い空気の中口を開いたのはゼルだった。
「ここは何が起こるか分からん。一旦アジトに戻るぞ」
「貴方は何でそんなに殺伐としていられるの!?仲間が、白が死んだんだよ!」
ノアが泣きながらゼルに怒号する。
「あそこで全員で戦っていたら勝機もあったかもしれない。だが、あそこで一人戦い、命を散らしたのはあやつ自身の問題だ。俺達がとやかく言う言われはない」
ゼルがこちらを振り返らずに低い声でそう呟いた。
それにはノアは白に対する侮辱や馬鹿にしている様に感じられた。
白は全員で戦っても勝てない事を本能的に察知したんだ。それは間違っていないとノア自身も理解している。いや、おそらく全員が分かっていただろう。
それでも白は私達が傷つかない様に自分を犠牲に助けてくれたのだ。
この、ゼルという男には成し得なかった『自己犠牲』を白は苦しみながらもやってのけたのだ。
それを、このゼルは非難したのだ。
ノアにはそれが死ぬほど許せなかった。
ノアは腰に差していた父の形見である刀を引き抜き、殺気を放つ。
「ノア!辞めときな」
メルヴィがそれを抑えるように声を荒らげる。
「で、でもっ…」
「ここでこの男と争って何になる。此処にいたらどんなモンスターがやって来るかわかったもんじゃない。白の命を無駄にする気かい?」
「うぅ………」
ノアは渋々刀を鞘に収め、結界の上からルウを優しく抱き上げ、とぼとぼと歩き始めた。
場所は再び白に戻る。
俺はあの後幾つかの説明と指示を聞き、アジトへの帰路に着いていた。隣を歩く夜見と一緒に。
「なぁ夜見。何でお前まで着いてくるんだよ」
隣を歩く幼くも月の様な美しさを備えている少女に尋ねる。
「そんなの決まっておろうが、ライフリンクしたのじゃぞ?妾達は運命共同体じゃ、これからはずっと一緒に生活するのは当たり前じゃろ」
さも当たり前の様に話す夜見に俺は頭が痛くなってきた。
こいつの正体に皆気づいたらめんどくさいんだろうなぁ。茨姫だしなぁ。
俺は茨姫の行動を全て許した訳では無いが体も癒してくれた為ある程度心を許している。
「あいつらに見つかったらどうしようか…」
「自分の妾を他の女子に見つかるのは嫌かの?」
夜見はくふふとお馴染みの笑い方でニヤニヤとこちらを見上げてくる。
「正体を隠せば良かろうに、妾は茨姫の間は顔を隠しておったのじゃからの」
「まぁ…それもそうか」
俺は頭をガリガリかきながら渋々納得する。
「あ。一つお主に言っておかんとならん事があったの」
「ん?」
「お主は妾と繋がって、自身の魔力の神の魔力を混ぜ合わせた形になっておる。じゃから今までより魔法の威力は上がったと思って良いじゃろ。ま、それでも通常の人よりちょっとばかし強いくらいじゃから過信はするでないぞ」
俺は自身の身体を流れる魔力を確かめ今までより優しい光を持っているのを感じた。
これが月の女神の魔力ってやつなのだろうか、未だに現実味のない話だ。
「夜見は戦いには手を貸してくれるのか?」
この幼女女神が味方に付いてくれたらこちらの戦力は大幅に強化されるだろうな。
だから、割と期待していたんだが
「気が向いたらの」
この一言で言い切られてしまった。
それからという物、あまり会話が弾む理由でもなく普通に歩いていると1日前に見たアジトの入り口が見えてきた。
つまり、あの大広間に到着したのだ。
「やっとここまで帰ってこれたぁ」
安堵の声を漏らすと背後から数人の気配を感じ、素早く背中の剣を引き抜く。
「そこの銀髪の兄ちゃんちょっと聞きてえ事があんだけどよ」
あ、俺か。俺って今銀髪なんだよな
「さっきここを何人かの女が通ったけどよ、あれお前の連れか?」
斧を持った大柄の男はいきなりそんな事を聞いてきやがった。
「そうだけど、それが?」
するとニヤリと笑いこっちに近づいてき、いきなり腕を肩に回してきた。
「何人か貸してくれよ〜、最近溜まってんだよ。そこの金髪の嬢ちゃんでも良いからよ」
それに対し流石の夜見も顔を顰めている。
俺は本当に、本当に腹が立った。
疲れているからと言うのもあるがこいつらはさっき自分達の仲間が殺されたって言うのに平然とこんな事を言いやがるのだ。
「冗談もそこそこにしとけよクズ野郎」
「お?舐めた口聞いてると卸すぞコラ」
「汚ぇ手で触んじゃねぇよ人殺しが!」
俺は男の腕を掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばした。
「いって、てめぇ人が下手に出てやってるのに」
「本気で殺すぞてめぇら。仲間を大事にしねえ奴らに俺の大事な家族を渡せるかよ」
俺は持てる限りの殺気を放ち、口早に身体能力強化魔法を付加する。
お、今までと全然魔力の反応が違うな。ものすごく反応性が良いし、力が湧いてくる。
「お前らこいつ締めるぞ!」
いかにもチンピラというセリフを吐いて四方を囲んで向かってくる。
「夜見ちょっとまってろ」
「おお、妾の力に頼らずに守ってくれるなんての優しいではないか」
夜見は嬉しそうにニコニコ笑って俺の影に身を隠す。
「オラァ死ねや、小僧が」
俺は四方からいきなり飛んできた攻撃を夜見を左手で抱き抱えながら最小限の移動で全ていなす。
何だろう。超越の後だからか分からないが魔法と身体能力に更にキレがかかってきたかもしれない。
目が追いついてきてるし少し場馴れしてきてるのかもな。
「やるではないか!見直したぞー」
茨姫戦より圧倒的に成長している俺の戦闘に夜見が感心してる。
というかつい咄嗟に夜見の事抱き寄せちゃったけど大丈夫かな。
本人は何も嫌がってないみたいだから大丈夫そうだな。
それに、こいつめっちゃ可愛いし、何か澄んだいい匂いが漂ってくるし。
あと、所々柔らかい。
おっと、そんな事より。俺はチンピラ冒険者に向き直り、剣を向けた。
「もう逃がさねえからな。俺の仲間を狙った罪は重いぞ」
俺は剣に雷魔法を付与し、夜見から手を離して一人の剣士冒険者に肉薄する。
「なっ……」
「《紫電》!!」
俺は紫電と叫び、紫色の雷を纏わせた剣で思いっきり突き技を剣士の剣に放つ。
剣に紫電が当たった瞬間、閃光が弾け男の剣が粉砕する。
「次は?」
俺が睨みを利かすと剣を砕かれたのがそんなに恐ろしかったのかチンピラ冒険者集団はすっかり縮こまってしまった。
「わ、悪かった。だから見逃してくれ!アンタらには近づかないよ」
「それなら別にいい」
俺は戦う意思の無い相手まで傷つけたくは無いのでそのまま剣の魔法を解き背中の鞘にしまう。
「……とでも思ったか!宝具の力を思い知れ!!」
すると大柄の男が宝具?らしい斧で俺の背後から斬りかかってきた。
ハッキリ言って死角からの攻撃だった為このままいったら攻撃を喰らって死ぬだろう。
しかし、その攻撃は俺と男の間に割って入った金髪の少女によって止められる。
「ほんとに小さい男じゃの。妾の片割れを殺されると何かと困るのじゃが?」
夜見は宝具の桁外れの攻撃を細腕一本で展開した防御結界で難なく耐え、一瞬で男の懐に潜り込み、正拳突きを叩き込む。
「ぐっは!!このガキっ…何処にこんな力を」
男もまさか夜見にやられるとは思ってなかったらしく痛みと驚きで目を見開いている。
まぁ、夜見は神だからなこれでも。
勝てなくて当たり前だろう。
チンピラ冒険者集団は流石に懲りたのか大柄の男を連れて他の通路に消えて行った。
「夜見ありがとな。最後、助けてくれて」
「なに、気にするでない。お主が妾を守ってくれた借りを返したまでじゃ」
俺が礼を言うと夜見はフフンと小さな胸を張りながら片目を瞑って答える。
何だろう、物凄く可愛いし安心する。
ついさっきまで敵だったのにここまで心を許してしまうのはやっぱり魂を結んだ事に関係してるのだろうか。
めんどくさい事は後回しで良いか、今はとにかく体力が足りない。
もう、いち早く帰って寝たい。
夜見と連れ立って歩き出し、数分の後屋敷の前にたどり着いた。
部屋の内部はすっかり夜仕様で魔法で映し出された月が夜空に輝いている。
俺は屋敷のドアに手を掛けガタガタと揺らす。
開かないのだ。
いつもこの時間だと皆寝てるからな…戸締りしてて当たり前か。
どうするか、と夜見と顔を見合わせた直後。
「し、白?」
背後から不意に声を掛けられた。
この声質、抑揚。
「ルウか!?俺だ、白だ!」
俺だと確認したルウは目を潤ませながらフヨフヨと近づいてくる。
「ほんとに、本当に白なんですか?生きてたんですか?」
「あぁ、生きてた。と言うより生かされたんだけどな」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
普段なら絶対に上げないような泣き声を上げてルウが俺の胸に飛び込んできた。
俺はルウを優しく両手で包み込む。
「ただいま、ルウ。心配かけて悪かった」
「ホントです!白は私に迷惑かけてばっかりです!…でも、これからはこんな事無しにしてくださいね?」
ルウは嗚咽混じりに言葉を繋げる。
俺はそんなルウの言葉が自分が生きていることを実感させてくれた。
数分の後、ルウはやっと泣きやみ、段々冷静になってきたらしく俺の容姿など詳しく聞いてきた。
「どうしたんですか?その銀髪は、あとどうやって生き返ったんですか」
「まぁ色々あってな俺の命はこいつに助けられたんだよ」
そう言って俺は隣にいる夜見を指さす。
混乱が起きるのを考慮して夜見が茨姫である事は黙っておく。
「そうなんですか。ありがとうございました。私はルウと申しますので以後よろしくです」
「妾は夜見じゃ。ま、仲良うしてくれたも」
夜見とルウがそれぞれ自己紹介を終えた所で俺達は屋敷に入り、自室に戻った。
他の人達は寝ていたのでまだ会ってはいないが多分何事も無いだろう。
夜見は当然の様に俺と一緒に寝るらしく何故か問いただすと「自分の半身と寝るのは当たり前じゃろうて」と謎理論を唱えられたので渋々了承した。
他の代案を考えるのも面倒臭い。
俺は軽く水を浴びて汚れを落としサッパリした所でベッドの中に潜り込んだ。
今日一日は人生で一番頑張った一日かも知れないな。
自分の何倍も強い茨姫と戦って負けたり、よもやその茨姫であった夜見と魂の契約を結ばされたり、髪が銀色に染まったりな。
できれば当分は控えたいなど考えていると俺の意識はどんどん暗闇に引きずりこまれていった。
僕も可愛い神様と契約したい




