死の覚悟
15話です
俺達はダンジョン二階層目にして強敵茨姫に遭遇し攻略の足止めを食らっていた。
茨姫はゼルの全力の魔法を打ち消し、高い攻撃力も備えている。
何とかジーニャを救い出す事には成功したがあの攻撃中に切断できた蔦の数はたったの1本だった。
今の俺達には足りないものが多すぎて茨姫との実力の差は計り知れないものだった。
そして今、俺は蔦で片足を縛られ、その場から身動きが取れない状況に陥っていた。
「勘弁してくれないか?俺は一端のタダの新人冒険者だし、さっき逃げてった集団よりもずっと弱いぞ?」
俺は緊張を顔に出さない様に気をつけつつ真っ直ぐ茨姫を見て話す。
「自分の仲間を命懸けで助けた事を妾は褒めておるのじゃ。さっきの輩は自分達の仲間を見殺しにしよったからの」
そう言って茨姫は1本の蔦を動かして奥から何やら長く、大きな物体を取り出した。
それは2m程あり、表面を赤黒い液体が張っている。
「お、おい。お前…それってまさか…」
俺は自分の頭が出した結論が間違っていて欲しいという希望でいっぱいだった。
しかし、茨姫は俺の希望とは裏腹にニヤリと目元を歪めると
「そうじゃ。これは人間じゃよ?それもついさっきまで生きとった出来立てホヤホヤの死体じゃ」
やはり俺の推測は間違ってなかった。
死体は身体の節々は粉々に粉砕されており、顔ももはや判別する事が出来ないほどに潰されている。
しかし、その死体の目には恐怖と仲間の裏切りに流した涙の跡がキラリと光っているのが見えた。
「おええええええええええええ!!!」
俺は堪らずその場に嘔吐した。
その死体の死ぬ寸前の気持ちを考えると、もう堪らなかった。
きっと、身体をひねり潰された事によって殺されてるから即死じゃ無かったはずだ。
痛みと仲間が去っていくのをひたすら眺めているしか出来ない絶望感。
それを思うと涙も溢れて止まらなかった。
それよりも、もしジーニャを放置していたらこの死体の様になっていたという事実に俺は震えが止まらなくなった。
「お主は優しいのお。誰とも知らぬ輩に涙を流せるとはの…しかし、優しさは時に牙を剥く」
「うぐっ…」
茨姫は俺の死角から蔦を伸ばし、思いっきり俺を跳ね飛ばした。
飛ばされた俺は壁に叩きつけられ、肺の空気を無理やり押し出される。
「白!!」
お腹を抱えて蹲る俺にルウが駆け寄ろうとこっちに向かって飛んでくる。
俺とルウの距離が段々近づいてくる。
残り数メートルに差し掛かった時茨姫の蔦が動く。
「おお、可愛らしい妖精じゃのう。じゃが妾は容赦はせんぞ」
「る、ルウ!逃げろ!!!」
やばいやばいやばいやばい。
茨姫はルウを殺すことに躊躇いがない。
茨姫が魔力を操作してルウを突き刺そうと蔦を伸ばす。
茨姫に気づいてルウも魔法を唱えるが圧倒的に時間が足りない。
このままじゃ、ルウが…俺のこの世界での初めての家族が…………殺される。
動け。動けよ俺の体!!
俺は痛みで痺れる足に身体強化の魔法で更にブーストしていく。
あと2メートルでルウに飛來する3本の蔦が突き刺さる。
足を踏みしめ、地面を全力で蹴る。
今までで一番早く、大好きな家族を守れるように。
ドスドスドス
通路に鈍い貫通音が3回響き渡る。
「ごはぁっ!」
俺は口から大量の血を吐きながら、自分の体に突き刺さっている茨に手をかけ、強引に抜き去る。
そして、剣を杖の代わりに床に突き立て、片手で傷口を抑える。
傷口からは赤黒い血がこれでもかと言わんばかりに溢れ出てくる。
流石にやばい。意識が朦朧としてきた。
俺は腰のカバンに手を伸ばし、ポーションを取り出すと、栓を乱暴に歯で抜き、飲み干す。
すると血の流れは幾らか収まり、貫通時の激痛が残る程度までには回復した。
流石に傷が深かった為、高い回復力を誇るポーションですら追いつかないらしい。
「白!ごめんなさい…私を守ってくれたばっかりに…そんな怪我を負わせてしまって…」
ルウは俺に近寄って顔の前で止まる。
ルウの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていて普段のキリッとした顔が台無しだった。
そんなルウに俺は微笑みかける。
コイツには泣いて欲しくないからな、俺が傷つくより家族が傷つく方が辛いから。
「泣くな泣くな。俺は大丈夫だよ。何も問題いらないよ」
「で、でもっ…」
「お願いだ、ルウ。ちょっと下がっててくれるか?アイツは俺が話を付ける」
「それなら私も一緒に……むぐっ」
俺はルウの唇を人差し指で抑え、再び口を開く。
「俺達二人共死んだら誰がイリアの面倒見るんだよ。ラファエル様には顔向け出来ないけどさ」
「白…死ぬ気ですか?」
俺は目を閉じ少し黙る。
「タダで死ぬつもりは無いよ。だけどさアイツの行動見ただろ?アイツは絶対に殺しに来る。全員では逃げられないだろ」
「じゃあ全員で挑むのはどうですか!?それなら…」
「冷静になれよ。お前もさっき見ただろ?俺達の全力で蔦をたった1本しか切れなかったんだぞ?それでどうやって倒すんだよ」
「嫌です嫌です嫌です!!私、私ここで白とお別れなんて嫌です!!」
ルウは涙をボロボロと流し、俺のそばを離れようとしない。
俺は剣を刺したまま、一度みんなの所に戻った。
「ノア。短い付き合いだったけどありがとう。楽しかったよ。お前はこのパーティで一番火力が出るんだ。皆を守ってくれよ?」
嫌だ嫌だと涙を流しながら首を横に振るノアを軽く抱きしめ、頭を撫でながらメルヴィの方を向く。
「メルヴィ。剣。ありがとうな。最高の相棒だよ…俺が死んだらすぐにここを後にしてくれ。ノアとルウを連れていってくれ。」
メルヴィも目を涙で麗しながらも無言で頷いてくれる。
「ジーニャ、ゼル。正直お前達の事はまだ許せないけどなこの際しょうがないからな。アジトに戻ったら人を待っとけ。アイツは生半可な人数で勝てるもんじゃねぇ」
「分かった、肝に命じておこう」
俺は皆の顔をもう一度良く見回し、背中を向け剣の所まで戻った。
「お主は本当に人が良いんじゃのう。まさか身体を張って庇うとは思わんかったぞ」
茨姫が俺に向かってカカッと笑いながら言ってくる。
「なぁ茨姫さんよ。もし俺が死んだらアイツらには手は出さないで貰えるか?」
俺は剣を引き抜き、魔力を交わしながら呟く。
「ふふっ。まぁ良いじゃろお主の勇気に免じて約束してやろうぞ」
「ありがとう」
俺は身体強化魔法を更にブーストさせ、茨姫に突進する。
茨姫は強い。尋常ではない強さを誇っている。
そんな圧倒的な力の差に押しつぶされそうになるのを必死で堪え、突進を続ける。
魔力が通い、青く輝きを放つ漆黒の剣を構え、全力の突きを放った。
次回、白死す!




