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異世界で子育て始めました  作者: あるみす
14/19

茨姫

14話です

「ちゃんと止め刺せるんだろうな!」


「あんまり馬鹿にするんじゃねえよ!?」


 俺達は今地上へ帰るためにダンジョンへ潜っていた。

 相変わらず俺とゼルの仲はあまり良い物とは言えず、何か有ると良く言い合いをしていた。


 そして、今はダンジョンに潜ってから何度目かになる戦闘の途中。

 女子陣でゴブリンの群れを相手にしている間、俺とゼルは超巨大なスライムと対峙していた。


「今から怯ませるからちゃんと凍らせろよ!!《全てを焼き尽くす 烈火の炎よ 炎帝の牙》」


 エイラさんに無理やり叩き込まれたモンスターの情報を思い出し、スライムが熱感知で動くモンスターである事を知っていた俺はいつもの様に剣に火焰を纏わせ、スライムを両断するつもりで切りつける。


 普通だったらスライムなら刃物で倒せると思うだろうがこの世界のスライムはそうじゃないらしく、あらゆる物理攻撃を吸収してしまうのだ。

 なので、倒すには魔導師が大火力で倒し尽くさないといけない。


 ゼルもかなりの魔導師ウィザードであるのだがここまで大きいと流石に無理らしいので付加魔術師グリモアである俺がトドメを刺すことになっていた。


「ハァァァァァ!《エターナルブリザード》!!」


 ゼルのルーンワンドから放たれた氷の吹雪はスライムを一瞬で凍結させる。

 しかし、スライムはまだ原型を留めているため少しずつ氷の魔力を吸収してしまう。


 そして、俺はトドメを刺すために巨大なスライムの上空へ飛び上がり、衝撃魔法を唱えながら剣の柄で思いっきり叩きつけた。


「《全てを破壊する 破壊の衝撃》」


 柄から放たれた衝撃は氷全体に伝わり、大きな音を立てながらスライムは氷と共に砕け散った。


 地面に着地して一息付くとルウがふよふよと飛びながら俺の頭に降り立った。


「二人共喧嘩してる割には息ぴったりですね。これは名コンビ誕生ですか?」


「ねー!あんなに生き生きしてるお兄ちゃん初めて見たよ」


 キャッキャと騒ぐルウに同調してジーニャが感動してる。

 ゴブリンの群れは難も無く処理出来たみたいだな。


 まぁ、ノアやメルヴィも滅茶苦茶強いからな。

 普段俺がやってる事なんて身体能力を底上げしてる位だし。


「ノアー。魔力調整はどうだ?」


 俺は戦闘が終わってフゥと息を吐いているノアに声をかける。

 実のところここ二、三日で一番難しいのはノアの魔力調整なのだ。


 戦闘の時は職業の関係で魔法が掛からないゼル以外の全員に身体能力強化魔法をかけてるんだが『騎士殺し』の身体バフ能力を持つノアは敵の数が一体に変わった時、身体の魔力が大幅に変動する。


 なので、普段と魔力の関係にズレが生じるのだ。


「ちょっと、最後動きにくいかなぁ」


 ノアは頬に汗を流し、肩で息をしながら苦笑いする。


 俺はそうかと頷くとノアの側に近寄り、それぞれの手でノアの両手を軽く握る。


「にゃっ!?ど、どうしたの?」


 ノアは顔を一瞬で真っ赤に染め、声を裏返して叫ぶ。


「は、ハレンチな!君は女性の手を何だと思っているのだ!」


 背中からゼルが叫んで抗議してくる。

 女性の手もなにも普通の手だろうが。


「うるさいなぁ。ちょっと魔力の確認してるだけだろ。それを言うならゼルだって何時も妹の手握ってんだろ?」


 俺はノアの魔力を測り始めながら、背中越しにゼルに言い返す。


「なっ、何故君が知っている…!?」


「は!?マジで握ってんのか?適当に言っただけだったんだけど…」


 突然の衝撃発言に俺は目を丸め、ゼルの方を振り返る。


「別に良いだろ?僕達は兄妹だ。兄妹なら大丈夫だ問題ない」


「妹なら何でも許されると思うなよ!!??」


 俺は一瞬地球にいた時の妹の顔を思い出したが、すぐに振り払いゼルに大声でツッコむ。


 気を取り直した俺は再びノアの方を見つめて魔力感知に集中する。


「ノア。俺を殺すつもりでスキルを発動してくれ」


「うん。分かった」


 ノアから殺気が放たれ始めるとノアの魔力が荒く暴れ始める。


 それも不規則に。


 やがてノアの魔力はある一定値に脚力、腕力、集中力が並ぶ。

 少しのブレのない完璧に同じに揃えられた魔力値に俺は驚きを隠せない。


 なるほど、平常値でバラツキのある魔力値を魔法で強化していたからスキル発動時にそれぞれの能力に差が生じて動きが鈍くなったのか。


「もう少しそのままで居てくれよ」


「う、うん。…ひあ!んんん、にゃあ!?」


「君!何をしてるんだ!」


 俺はノアのスキルで強化された魔力に更に上乗せし、それを寸分のブレを生むことなく配分していっているんだが、極限まで感覚が研ぎ澄まされている今のノアは魔力の変化を敏感に感じ取っているらしい。


 ノアの甘い声色に内心ドキッと来たが気を散らすことなく魔力を調整していく。




「どうだ?これで幾らか動きやすいはず」


「よっ!…わぁ!すごい、体が動かしやすい!」


 ちゃんと上手く行ったらしく軽く体を動かすノアは感動の声を上げる。


「よし、じゃあとっととボスに行くか。案内してくれよ?ゼルさんよ」


 俺はジト目で睨みながらゼルに言葉を飛ばす。


「お、おお。大丈夫だ。任せておけ」


 いや、心配しか生まれないんだが。

 俺達はため息を付きつつ前方を歩くゼルに付いていく。



 その後も何度か戦闘を経てとうとうボスらしき部屋にたどり着いた。


 ボス部屋のドアは身長の何倍もあり、重々しい威圧感を放っている。


「開けるぞ」


 ゼルは皆の顔を見回した後ドアに手を掛けた。

 すると、あの重々しいドアがギシギシ音を立てながらゆっくりと開いていく。


 部屋の中は青白い炎で照らされており、奥へと道が続いている。

 俺達はそれぞれ武器を手に持ち警戒しながらゆっくりと奥に進んでいく。


「あれは何だい?でっかい塊が落ちてるよ」


 メルヴィが部屋の中心に何か黒くて大きい塊が鎮座しているのを見つけた。


「俺が見てくるからここで待ってて」


 何か有ったらすぐに回避出来るように足裏に風の魔法をストックしておく。


 2m、1mと着々と塊との距離は狭まっていく。


 右手で漆黒の剣を固く握りつつ左手でその物体に触れる。

 塊の表面はザラザラしており、ほんのり熱を持っている。

 漂ってくる臭いから燃やされた後だと分かった。


 その塊の周囲を回りつつ調べると段々この塊の正体が分かってきた。


「これ、人型だぞ…」


「えぇ!?これがですか?」


 すぐにルウが皆の所から飛んできて俺と共に塊を確認する。


「白…これ。恐らくこの階層のボスだと思われます」


「これがか!?じゃあ何で黒焦げで死んでるんだよ」


「知りませんよ!でも自然発火とかしないでしょうし…」


 俺とルウはその場を離れ、皆がいる所に戻り状況をまとめる。


「多分あの集団の仕業だろう」


 ゼルは腕を組み、眉をひそめて呟く。


「あの集団?」


 ノアが聞くとジーニャが口を開く。


「えっと、ノアちゃん達が来る前にこのダンジョンに来た集団が居たの。熟年冒険者の集団だったんだけど柄が悪くて…」


「なるほどな…」


 俺はこのダンジョンに潜っている集団の力に恐怖を抱くのと同じ様にこの死体の様に強く、大きな敵とこの先戦っていかないといけないと考えると先が思いやられた。


 1階が突破されていたこともあり、順調に2階へと進んだ俺達は途中何度か屋敷に戻ったりしながらも着々と攻略していく。


 道中の敵はそんなにlevelは高くないので難なく安全に突破出来た。

 そして2階のボス部屋らしき場所にたどり着いた。


「じゃあ、開けるぞ…」


 俺が扉に手をかけ、開けようとすると扉は独りでに開き、中から数人の集団が駆け抜けてきた。


「に、逃げろっ…あんなブス野郎俺らには勝てん。体勢を整えるぞ!」


「「「おう」」」


 4人くらいの冒険者集団は俺達に気づかないまま、階段方面へと走り去って行った。



 俺達はたった今起きた光景に呆気に取られ、そして今も開かれている扉の向こうへ行く勇気が失せかけていた。


(ここは一回引くか)


(コクリ)


 俺達は無言で頷き、その場から退散しようとしたその瞬間!


「まだ誰か居るのかの?」


 ゾワッと背筋を寒気が撫でるような感覚を覚える声色。

 恐らく女性なのだろうが恐ろしく心臓に悪い声だ。


 俺は額から止まらずに溢れ出る冷や汗を袖でぬぐい取る。


「に、逃げろ!!」


 ゼルの掛け声で俺達は元来た道を全力で駆け出す。


「おっと、逃がすわけないじゃろ?こう、何度も何度も来られるのは鬱陶しいのじゃ」


 後ろでボスが呟いた瞬間。

 地面を途轍もないスピードで蔦が這い、あっという間に行く手を塞いでしまった。


「ほっ!これもオマケじゃ!」


「きゃああああああ!?」


 ゼルの後ろで武装しようとしていたジーニャが蔦に絡め取られ、ボスの所まで引っ張られる。


 そこで初めて俺はそのボスの正体を目にした。

 全身を茨の蔦で覆い隠し、右目だけをギラギラと覗かしている凶悪な存在を。


「おい!僕の妹を返してもらおうか!!汚い手で僕の妹に触れるな!」


「お兄ちゃん!」


 ゼルがボスに向かって激昂する。

 ジーニャを取られた事に完全にキレてるらしくゼルのルーンワンドの周囲には火の粉が舞い始めている。


「この小娘はそなたの妹か。…なら尚更だめじゃ♪あと、汚い手とは失礼じゃな。この茨姫何時までも清いままじゃ」


「こ、このっ…お前、許さん!!」


 全く悪びれもせず、カカッと笑い飛ばす奴にゼルは我慢の限界を迎え、いきなり最高火力の炎属性魔法インフェルノをうち放った。


 それもジーニャには掠りもしない様に絶妙にコントロールしている。


「うむ。鬱陶しいの。」


 茨姫はさも、鬱陶しそうに蔦を操りインフェルノを振り払う。


 すると、周りの酸素を燃やし尽くす勢いの炎は何事も無かったように空中で霧散した。


「は……?」


 俺達は、いやゼルは驚愕に目を丸くした。

 間違いなく今のはゼルの本気の一撃だったのだ。

 明らかに今までの魔法とは威力が違ったし、使われていた魔力の量も破格だった。


 それを!あの茨姫はほんの何気ない一振りで打ち消しやがったのだ。


 これは、さっきの集団が逃げ出したことにも納得が行く。


 茨姫は腰に蔦で包まれた手を当て、言葉を紡ぐ。


「妾は愛とか友情だとか言う物が目障りでしょうがないのじゃ。よって、汝等の仲も妾が引き裂いてやろうぞ」


 茨姫がニヤリと笑ったと思うと捕まっていたジーニャが叫び声を上げる。


「うっ、うぁぁぁぁ!!い、痛い!」


 やばい。茨姫は力に任せてジーニャを握り潰すらしく、離れた俺達にもミシミシと音が聞こえてくる。


「の、ノアぁぁぁ!!手を貸せぇ!」


「何時でも大丈夫!!」


 俺は隣に居たノアに大声を上げ、二人で全力で茨姫に向かって走り出した。


「《湧き踊れ》!!」


 俺は普段三節で唱えている身体強化魔法を一節に改編し、俺とノア、そしてジーニャの魔力を底上げする。


「《騎士殺し》」


 ノアはスキルを発動させ、更に魔力をはね上げる。


「「うぉぉぉぉぉ!!」」


 俺とノアは四方八方から攻撃の手を伸ばしてくる鋭い蔦を一つ一つ、荒く対処しつつ茨姫の元へと爆走する。


 1m、また1mと距離は縮まっていくものの、まだ俺達と茨姫の間には10m余りの距離が開いている。


「背中ががら空きじゃよ?」


 茨姫は蔦でモンスターの形を作り、その剣で背中から斬りかかってきた。


 しかし、俺とノアはそれには目もくれずに走り続ける。


 なぜなら…


「なんじゃと!?」


 蔦の剣士の剣は高速で地面から錬成された盾によって阻まれたのだ。

 俺とノアはメルヴィとルウがそういう事をカバーしてくれると信じていたからこそ無視して前を向いていられたのだ。


「俺達は二人じゃ無いんでね!そっちは任せたぞ二人共!」


「はい!」「分かったよ!」


 次の瞬間、盾で剣を阻まれている蔦の剣士は横からゼロ距離で魔法を放ったルウによって消滅させられた。


「とりあえず!」


「ジーニャを離して!!」


 瞬時に茨姫の前に展開された盾を俺が全力でこじ開ける。


 そして、空いた隙間からノアが侵入してジーニャを拘束していた蔦を器用に切り裂いた。


「二人共後ろに飛べ!!」


 ジーニャにも身体強化を掛けていたので二人共ジャンプ力は人並み以上なので一瞬でその場から離脱する。


 俺は二人が十分な距離を確保できるまで二人を追おうとしている蔦を一つ一つ切断していく。


「よしっ!いいよ白!!」


 後ろに下がったノアから合図が飛んできたので俺も後ろに下がろうとするが足が動かない事に気づく。


「お主は今から妾と遊ぶのじゃ」


 茨姫はニヤリと顔を歪める。

 ギラギラしている右目からは黄金の光が漏れていた。


「本当、趣味悪いな」


 俺は内心死にそうなくらい心臓が脈打っていたが表に出さないように茨姫を睨み返すのであった。




ちょっとこの小説が伸び気味なのが不安です。

有難いことですけど、このままだと本当に続きを書くことになりそうです

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