地下の豪邸
13話
窓から吹き込む優しいそよ風。
俺は長く深い眠りから覚め、起き上がり目を擦る。
(ん?確か地下のダンジョンに居たよな…まだ夢でも見てんのか?)
窓から見える青く澄んだ空や風に吹かれてザワザワと葉を揺らす木々に俺は疑問しか生まれない。
寝起き直後と言うことも相まって頭が全く働かない。
「やっと起きた。身体は大丈夫?」
不意に横から声を掛けられ一瞬ビクッと体が震えた。
声のした方を見ると俺の寝ているベッドの傍の椅子に座って、眠そうな目を擦っているノアが居た。
様子を見る限り精神力の消耗で昏睡した俺を看病してくれてた見たいだな。
……悪い事をしたな。
「大分良くなったよ。看病しててくれたのか?ありがとう、面倒かけたな」
「大丈夫だよ。ルウちゃんもメルヴィさんもお疲れ見たいですぐに寝ちゃったから」
ノアは椅子に座ったまま両手を挙げてググッと伸びをした。
よく見るとノアの服装はいつもの軽めの冒険服からゆったりとした私服に変わっていたため印象が物凄く可愛いらしい女の子と言う感じがした。
「って、俺の服も変わってるじゃねぇか!?」
「あ、あぁ。服はね?ルウちゃんとメルヴィさんが…」
「いや、照れないでよ…まさか何かされたのか!?」
頬をほんのり染め、上目遣いでこちらを見てサイドテールの髪の毛先を指で弄るノアに恐る恐る尋ねる。
「いや、ほんとに俺は何かされたのか?」
ノアは顔を上げ、軽く笑顔を作ると
「ありがとうございます♪」
「お粗末さまでしたよ!ちくしょう!!」
ノアの反応であらかた想像の付いた俺は泣きそうだった。
普通逆だろうが!と声を大にして言ってやりたいよ!
「う、うん。それでここは何処なんだ?俺達って確かダンジョンに居たよな。俺にはこの空とか高そうなベッドが備え付けられた部屋が信じられないんだけど」
ノアにさっきから気になっていた事を尋ねる。
そしてノアが渋い顔をして途切れ途切れに説明しようとしたその時。
「それに関しては僕が説明しようか」
いきなり扉が開かれそこには茶髪の長身で顔立ちの良い男、ゼルが立っていた。
「感心しないなぁ。ノックも無しにドアを開けるとは」
俺はゼルの事がまだ信用出来た訳ではないので口を付いて突っかかってしまう。
しかしゼルは俺の指摘を華麗にスルーを決め込み、何事も無かったように口を開く。
「朝食が出来たから降りてこい。ここの事はその後にでも話そうか」
ダンジョンに何故食べ物があるのかどうか疑問に思う所は多いが何せ空腹で胃がキリキリしていた俺はノアと共にゼルの後に続いた。
階段を降りると玄関前のロビーから食堂と書かれた看板が付けられている道が見つかる。
食堂に入ると、それはもう豪華な作りで驚いた。
赤い絨毯を敷き詰め、南には大きな窓が付けられ日光がキラキラと差し込んでいる。
「皆ちょっと待ってて、今出来るから」
可愛らしいエプロンを付けたジーニャが厨房らしき所から顔を覗かせる。
厨房からは何やら香ばしい香りが漂い、限界まで空かした胃が反応する。
この食堂にはメルヴィとルウの姿は無いのでまだ寝ているらしい。
後で厨房借りて何か作って挙げないとな。
俺とノアは部屋の中央に設けられた長いテーブルのゼルの目の前の席に着いた。
このゼルと言う青年の行いがどういう理由だったのかなど今までの会話など思い出せる限り思い出す。
顔を顰めて考える俺を他所に手の上で小さめの水晶を三つ同時に器用に転がすゼルを俺の横に座るノアが心配そうに見比べる。
朝っぱらの食堂で考えられない位の重い空気が流れる。
ジーニャ等との会話を一通り思い出し、一つの仮定を考えた俺はゼルに問いかける。
「なあ、ここの説明は別に良いんだがお前のダンジョンでの行動について説明して欲しい」
ゼルは手の上で水晶を転がすのを辞め、それらを机の上にコトリと静かに置き、顔を上げ俺の顔を見た。
「あれに関しては本当に済まないことをしたと思っている。だが、ああでもしないと人は信用出来ないんだよ」
「ふーん。あれか、俺達より前に来た人間に騙された口だな?」
俺の読みが当たっていたのかゼルは俯いて黙り込んでしまう。
「まぁ、いいさ。俺もお前の事を信用しよう。だけどな、俺の家族を傷つける様な事があったなら俺はお前を許さないからな」
「肝に命じておこう」
俺はゼルを信用するに当たって一つにして最大の条件を突きつけ、了承させる。
俺に取っちゃ自分の痛みより家族が受ける痛みの方が痛く感じる。
「それで?此処は何なんだ?」
俺はゼルにこの環境について質問する。
「この屋敷はその昔アステカの一味が使っていた七つの遺産の一つだ」
「七つの遺産?」
「ああ、ダンジョン内に作り出した空や植物、幾ら使っても尽きない水や食料。出鱈目な常識外の設備はアステカによって作られた。」
「なるほど、考えるだけ無駄って事か。お前達は少なくとも俺達よりも長く此処に居るんだ、帰る方法とか分からないのか?」
「残念だけど見つかってない。唯一見つかってるのは第一階層のボス『剣鬼ブレイドダンサー』の試練が待ち受けている部屋があっただけだ」
「ならそこをクリアしたら次に進めるって事なんだろうな」
だんだんこのダンジョンの仕組みについて理解が追いつきてきた。
「俺からも質問いいか?」
話の続きでゼルが俺に聞いてくる。
俺は別に断る謂れも無かったので了承する。
「お前が使った魔法は何なんだ?あんなの普通のウィザードの魔法に無いだろ」
こいつグリモアの魔法を知らないのか?スカしたイケメンの癖に。
「俺はグリモアなんだよ。だから同じ魔法職でも戦法も違えば魔法も違う」
それを聞いてゼルは初めて驚愕に目を丸くする。
「お前はあのグリモアなのか!?」
「な、なんだよそんなに大きな声を出すなよな!」
ゼルが声を張り上げ身を乗り出してくるので俺はビックリして身体を震わせる。
「このダンジョンには明らかにグリモアでしか攻略が出来ない場所が有ると以前このダンジョンに挑戦していた人物の日記に書いてあったんだ」
ゼルは嬉しそうにグッと右手を握った。
すると、ノアが俺の耳元に顔を寄せヒソヒソと呟いてきた。
「この人ちょっとやばくない?」
「かなりやばいな…」
俺とノアが身を少し寄せ合い、ゼルに対して軽く引いていると、いい匂いのする美味しそうな朝食を持ってジーニャが食堂に入ってきた。
「皆〜おまたせ〜」
「おお!美味そう!」
「ホントだ!すっごく美味しそう♪」
「ありがとう♪」
ジーニャの持ってきた朝食は卵料理や魚料理でどれも丁寧で俺やノアは感嘆の声を上げる。
そして、ジーニャはゼルの隣に座り俺達は朝ごはんを食べ始めた。
見た目通り料理はとても美味しくジーニャやノアと軽く談笑しながら食べる。
「そう言えば白はどこ出身なの?」
ジーニャが俺の出身地を尋ねてきた。
普通なら東の国とか言うのだろうがこの世界は異世界人なんて普通らしいからなぁ。
「俺は地球の日本出身だよ」
「日本?地球?どこなの?異世界?」
ノアが眉を顰め首を傾げている。
「正解だよ。俺はこの世界で言う異世界から来たんだよ」
俺の話を聞いてゼルがカランとフォークを皿の上に落とした。
ゼルの顔を見ると目を丸くし、眉をピクピクさせている。
「異世界だって…?じゃあ何でお前は魔法が使えるんだ!?」
「何でって…深く考えた事無かったが普通は使えないのか?」
「俺は何人かその地球出身の奴らに会ったことがあるが誰一人として魔力の適性が無かった。これは一見解だが、魔法文明の無い世界出身の人は魔法が使えない見たいだ」
「うーん…何で使えるんだろうな。まぁ良いじゃねぇか使えるんだし」
俺は考えることを放棄し、ニッと軽く口角を上げご飯を食べ続ける。
俺達がそれぞれご飯を食べ終わった時食堂のドアが開かれた。
「おはよ〜。お!白起きたのか!」
「白!?もう身体は大丈夫なのですか!?」
ドアを開けたのは眠そうな顔のメルヴィとルウだった。
ルウは俺が起きてる事に気づくとビューンと飛んできて俺の胸に抱きついてきた。
ルウを手のひらに乗せてやるとルウは目を涙で滲ませながらも安心した様に笑顔を作る。
「ごめんな、途中で倒れたりして。迷惑掛けたな」
「いいんですよ、そんな事。私達は家族何ですから」
俺とルウが言葉を交わしてるとジーニャが困った声を上げた。
「どうしよう…二人とももっと寝ると思ってたから量が足りないんだけど」
「あ、なら厨房貸してもらえるか?俺が作るわ」
「え?白さん料理出来るの?」
俺が料理出来るのが意外だったらしくジーニャが聞き返してくる。
「まぁ簡易のだけどな。これからは食事の準備手伝うよ」
「本当!?ありがとう助かるよ〜。こっち来て?厨房まで案内してあげる」
俺はジーニャに案内してもらい短時間でルウが好きなサンドイッチとメルヴィの為のボリュームの多い物を素早く作る。
それらを持って食堂に戻り、それぞれの前に出して上げる。
「さんきゅ!白〜♪お前の飯美味いんだよ」
「流石白ですね、私の好みを完全に把握してますね♪」
「ゆっくり噛んで食べろよー」
むしゃむしゃと美味しそうに朝食を頬張る二人を見て俺とノアは柔らかい笑を浮かべる。
すると顔面蒼白のジーニャがノアの袖をちょいちょいと引く。
「どうしたの?ジーニャちゃん。そんな白い顔をして」
「し、白いのは元からです!それよりも、ノアさん。白さんって何者なんですか?何であんなに料理上手いんですか!」
ノアはチャームポイントのサイドテールの毛先を指で弄りながら軽く泣きそうなジーニャの頭を撫でている。
「しょうがないよ。白って何気ないところでスペックすっごく高いから。でもジーニャちゃんの料理もすっごく美味しかったよ!全然負けてないよ!」
慰めるノアにジーニャは泣きそうな目を擦り、笑顔を浮かべた。
意外とこの二人の仲が良さそうで安心したな。
ゼル達との話し合いの後ダンジョン攻略に協力する事を決めた俺達は各々リラックスして攻略までの時間を潰していた。
屋敷の庭をブラブラと散歩している時、横をふよふよといつもの様に飛んでいるルウが話しかけてきた。
「ゼルさん達と協力するので本当に良かったんですか?私個人としては白にいきなり攻撃を仕掛けたあの人は信用出来ないんですが」
「まあ俺もあんまり乗り気では無かったけどな」
「じゃあ何で…」
俺は立ち止まりルウの方に体を向け、右手をグッと握る。
そんな俺を見てルウも止まり、小首を傾げている。
「戦力は少しでも多い方が早く攻略できてイリアに会えるだろ?」
「はぁ。本当に白の頭の中はイリアでいっぱいですね…」
「しょうがないだろうが。イリアは俺にとっての天使であり癒しなんだから」
言い切る俺にルウは腕をダランと垂らし首をフルフルと振る。
「ほんとに白の頭の中はイリアで一杯何ですね…呆れたものですよ」
「失敬だな。イリアは今の俺の生きる意味なんだよ」
「私の事は考えてくれてないんですか?」
ルウはジト目で俺を見つめてくる。
ルウの長い緑を帯びた金髪がそよ風にユラユラと靡く。
てか最近ずっとルウと一緒に居るからかルウの態度が始めて会った時より丸くなったと感じる。
目つきは相変わらずきついけど、今ならとっても可愛らしく思えてくる。
俺は人差し指でルウのおでこをチョンとつつくとルウが両手で俺の指先を包み込む。
「最近お前可愛くなったよな」
「な!?いきなりなんですか!頭でもおかしくなっちゃったんですか!?」
ルウは俺の指先を握りながら顔を真っ赤に紅潮させる。
うん。こんな表情半年前には絶対見れなかったからな。
「初めてあった時より性格が丸くなったなって思ってさ」
「あぁ…そりゃあ、性格だって変わりますよ。それを言うなら白だってそうでしょ。最初は私に悪口ばっかり言ってたのに最近は言いませんし、それに物凄くお人好しですし」
「お前は俺にとって大事な相棒だからな。それに誰よりも信用してるからこそお前やイリアは大切にしようって思えるんだよ」
俺とルウは軽く思い出に浸りながら取り留めのない雑談を続ける。
「それにしても相変わらず出鱈目な構造してんのなこの空間は」
「ですね。アステカの盗賊団は世界一と謳われた盗賊団ですからね技術もあれば資産もあったのですよ。この空間も何らかの魔法で生成されたと考えるのが妥当でしょうね」
「何でもあり過ぎて逆に呆れるわ。食料だって無限に生成されるんだぞ?」
「それがアステカですからね」
アステカだからと言う言葉でまとめられるぐらいとてつもない集団だったって事なんだな。
こんな空間を見せつけられて疑うのもおこがましいと思うけどな。
すると屋敷の窓から手を振って注意を引こうとするジーニャの姿が見えた。
ジーニャは手を振りながら大声で俺たちに知らせてくる。
「そろそろ攻略に行くって!!二人とも準備は大丈夫?」
どうやら、もうダンジョンの攻略に取り掛かるらしい。
もう少しゆっくりしたい気持ちも合ったがいち早くイリアに会うためだサクッと攻略してやりますか!!
この時はまだ俺達はこのダンジョンについて良く知らなかったんだ。
よく考えたらそうだろ?あのアステカ一味が作ったんだから。
もし、「あの時」にそれに気づいていたら…
こんな家に住みたかった…




