地下に住む人間
12話です
刃を突きつけられた俺の首筋から一筋の血が流れる。
いきなり訪れた身の危険期に俺はバクバクと心臓を鳴らしつつ、絞り出す様に声を発する。
「俺達は、に、人間だ。話だけでもさせてくれ…」
先程こいつは言葉を発したのでモンスターでは無く人間であると確信していた。
「人間…?地上から来たの?」
「そうだ。だからあんたと敵対するつもりも無い。」
さしずめ俺たちを人型のモンスターか何かだと思っていたらしいその人物は俺からナイフを離し数歩下がった。
そいつは俺の肩ぐらいまでの背丈で全身を厚いコートを羽織っている。そしてフードを深く被っているため全く素顔が分からない。
「本当に…本当に人間なの?」
「だからそう言ってるだろ」
少し狼狽えているそいつに向かって俺の肩に腰掛けていたルウが近づく。
「きゃっ!何!?これ!」
ルウはくるくるとそいつの周りを飛び回ると目の前で静止して口を開く。
「あなた、ナイフを当てたのが白じゃ無くてモンスターだったら今頃死んでますよ?盗賊職の弊害だと思いますが対処方法をかんがえませんと。モンスターと人間は違うんですから」
「は、はい!……って言うか何で初めて見た妖精さんに怒られてんの!?」
急にルウに軽くお説教されたその子は両手をブンブン振ってツッこむ。
「え?はにゃ!?」
えい!っと声を上げながらルウがその子のフードをはね上げるとその子は驚きの声を上げ、手をワチャワチャして慌てふためく。
「え?女の子だったの!?」
「は?分からなかったのか!?」
ノアがその子の素顔をみて驚愕に顔を歪める。
いや、流石に声とかで分かるだろ…
その子の素顔は見た目の割に大人びていてそれで且つ、垢抜けてない感じだ。
艶やかな黒髪は肩の辺りで切りそろえられ、その子が動く度にさらさらと揺れている。
その子が数歩下がったと思ったら無数にある入口の一つから若い男性の声が聞こえてきた。
「どうした?ジーニャ何かあったのか?」
「あ、兄ちゃん!えっとね、人が居たんだよ」
その子はジーニャと言うらしくジーニャは振り返り、兄の元まで走っていった。
今俺達とジーニャ兄妹の間には数メートルの距離が離れている。
「君達は地上から来たのか?」
ジーニャ兄は俺達、と言うより俺に向かって話しかけてきた。
ジーニャ兄の視線はどこか疑うような、いや、敵意に満ち溢れていた。
「さっきここに無理やり召喚されたんだ。お前達と殺り合う理由もないし、何より人を傷つけたくないんでね」
昔の、地球にいた時のことは殆ど思い出せないが俺は何故か殺気と言うものに慣れているらしい。
だからジーニャ兄が幾ら殺気を放とうと俺は全く動じない。
ジーニャを自分の後ろに庇うと腰に付けていたルーンワンドを引き抜き、要求を突き出してきた。
「武器を捨てろ。」
「何でだ。何で俺が武器を捨てて無防備にならないといけないんだ」
「お前の事が信用出来ないからだよ。だからせめて態度で示せ」
ジーニャ兄からは一歩も引かないというオーラが滲み出ていたので俺は背中から剣を抜き、鞘ごと地面に置いた。
「『湧き踊れ 命じられし血肉』」
俺はジーニャ兄達に聞かれない位のトーンで素早く身体能力強化魔法を唱え、バランス良く魔力を配分した。
まぁ、何か合った時の為にな。
「武器はそれだけか?」
「これだけだよ…はぁ。見てわかるだろうが」
ジーニャ兄はしつこく聞いてくるので俺は若干うんざりしつつ両手を上に上げる。
「そのポーズの意味は分からないが……まぁ、いいだろ。死ね!『ファイアーチェイン』!!」
「ちょっと兄ちゃん!?」
ジーニャ兄はいきなり呪文を唱え炎の鎖を作り出し、四方から俺を縛り上げようと打ち出してきた。
「なっ……ルウ!二人は守ってくれ!」
「わ、分かりました!『気高き精霊 我らを守り給え 炎神の壁』」
俺とルウ、ノア、メルヴィの間に炎で形成された壁が出現する。
「白はどうするんですか!」
「さっきから大体殺気は俺に向けられてたからな!俺が何とか話しつける!」
刹那。俺に複数の炎の鎖が肉薄し、俺はそれを身体能力魔法に全てを委ね、寸での所で回避していく。
当たらなかった鎖と炎の壁が接触するとボウっと音を立てて小さな爆発を起こした。
ジーニャ兄はウィザードであるらしくグリモアの俺とは魔法の威力が段違いの為かなり分が悪い。
それに唯一の武器である漆黒の剣もルウ達のサイドにあるので魔法の威力を上げることが出来ない。
俺はその場から横っ飛びで離脱し、脳をはたらかせ、有効な魔法がない考える。
考える。考える。考える。
脳の中には今まで見てきた魔法やアーカイブの呪文がどんどん浮かび上がってくる。
しかしグリモアの魔法は基本的に付加魔法なので基本的に遠距離では役に立たない。
どうする。どうしたら近づける。
ジーニャ兄は依然として炎の鎖を打ち出してくる。
ほんと、ウィザードとグリモアでここまでの差が生まれる理由が分からない。
……ん?
ルウの展開している炎の壁と鎖が交わる時、爆発して霧散しているものだと思っていたがどうやら違うらしい。
爆発した後、分散された炎のエネルギーは全てルウの魔法に吸い込まれているのだ。
なら、あの魔法を身体本体に付加させたら。
頭の中で一つの結論に行き着いた俺は炎の鎖の猛襲を掻い潜りながらメラメラと真っ赤に燃え盛る炎の壁まで走る。
「あっつ!」
俺は焼けることにより引き起こされた痛みに頭が狂いそうになるが、しっかりと両掌を壁に突き立て大声で一言だけ叫ぶ。
「『オーバーエンチャント』!!」
すると俺の腕を伝って俺の全身を蒼い炎が包み込む。
魔力の乱れを感じだ為か魔法を解いたルウと俺の奇行に驚いたジーニャ兄が目を丸くしている。
「白!?だ、大丈夫ですか!?」
俺は蒼炎に包まれながらも意識をしっかりと固め、全身を這う蒼炎の魔力を制御する。
「ふぅ………」
ため息をつく頃には全身を包んでいた蒼炎は縮小し、両腕からめラメラと燃え上がっている。
因みに炎の色が蒼いのは俺の魔力に合うように変換した時に変わったらしい。
「し、白!…」
ルウが心配そうに声を掛けてくるが俺はそれを軽く制し、ジーニャ兄に向かって走り出した。
それを見たジーニャ兄は目を丸くしたまま先程の様にファイアーチェインを打ち出してきた。
目前に迫る炎の鎖を俺は両手で叩き落とし、殴り、吸収し着々と距離を詰めていく。
「話を聞けぇぇ!!」
遂に肉薄した俺は一応腕の蒼炎を解除し、右腕を引き絞り顔面を殴り飛ばした。
「に、兄ちゃん!!」
3メートルは後ろに飛んだ兄の元にジーニャは駆け寄り、介抱する。
「ハァハァ…うぐっ、ハァハァ…一体何だってんだよ」
想像以上に精神力と魔力を消費したオーバーエンチャント通称『超越付加魔法』によりその場に座り込み、肩で息をする。
正直目眩がしているので今すぐにでも倒れそうだ。
「白!大丈夫ですか!?身体に異常はありませんか!?」
そこに皆が寄ってきてルウが特に心配そうにしている。
「大丈夫だよ…ちょっとフラフラするけど」
魔力が足りず思考もままならない俺は声を絞り出す。
横で膝を付いていたメルヴィが俺の頭を抱え、もたれかからせてくれる。
抜群のプロモーションを持つメルヴィは暖かく、それでいて身体の力が抜けていく。
俺の剣を抱えて持ってきてきてくれたノアが俺が腰に付けているホルスターからポーションを取り出し、飲ませてくれる。
無くなりかけていた魔力がゆっくりと回復してきて呼吸も落ち着いてくる。
「う、うぅ…」
ジーニャ兄が呻きながらゆっくりと身体を持ち上げる。
そして俺を一瞥すると口を開いた。
「女性に身を委ねるなど男の恥だろ」
「うるせえ。仲間なんだ頼るのが普通だろ。それにお前だって妹に介抱してもらってただろ」
「仲間…か。その仲間がもし危険な目に会ったら捨てるんだろ?」
俺はジーニャ兄のその言葉を聞いてキレた。それも静かに。
「お前。口が過ぎるぞ。メルヴィはまだだとしてもノアとルウは同じファミリエなんだ。家族たぞ?俺は家族を失う程嫌いな事は無いんだよ」
割とドスを聞かせていたのでジーニャ兄は黙ってしまった。
俺達の間にはしばしの沈黙が流れる。
暫くしてジーニャ兄がゆっくりと話し出した。
「僕の名前はゼル。さっきは失礼した。君達を僕達の隠れ家に招待しよう」
「誰が…そ、んな…所……」
俺は断ろうとしたが精神力が持たず意識がこと切れてしまった。
「どうする?」
ジーニャ兄は白達にもう一度尋ねた。
精神力が切れ、深い眠りに落ちている白をルウは心配そうに見た後ふわりと羽を震わせ飛び上がるとジーニャ兄の目の前まで高度を上げた。
「その隠れ家とやらに連れて行って下さい」
「ルウちゃん…」
ノアが心配そうにルウに声を掛けるがルウはノアに笑顔を向けた。
「心配は入りませんよ。イザとなったら私がぶっ飛ばしますから」
「じゃあ決まりだな。着いてこい」
そう言ってしゼルは方向を変え、歩き出した。
するとジーニャが近寄ってきて頭を下げた。
「すみません。うちの兄ちゃんが…」
「大丈夫ですよ。白も目立って怪我はしていませんし、何か事情があるんですよね?」
「はい。後でちゃんとお話しますね」
そう言うとジーニャはゼルの後を追っていった。
ルウ達も荷物をまとめ、立ち上がった。
「白どうやって運ぶの?」
「あたしが運ぶよ。こう見えて鍛冶師だから力は強いんだよ」
「じゃあ私が荷物持ちますね」
そうして荷物を全て持っているノアと白をおぶっているメルヴィもゼルの後を追った。
「そう言えばさお前達ファミリエ入ったのか?」
メルヴィが思い出したように二人に質問した。
「あぁ、それですか。昨日結成したんですよ。ファミリエ」
「へ、へぇー。そうなのか」
「何ですか?とっても入りたそうな顔をして」
「へ?いや、そんな顔してないぞ?」
「白なら絶対OKすると思いますよ?メルヴィの事も仲間だっていってたんですから」
「そうか。じゃあまたこいつが目を覚ました時にでも聞いてみるか」
メルヴィは背中でスースーと寝息を立てる白に柔らかな笑を向けた。
「着いたぞ。ここだ」
「「「えええええ!?」」」
開けた場所に出たルウ達は驚きの声を上げる。
何と彼女達がそこで見たのは…
青い空が広がり暖かな空間で中央には小さなお屋敷が建っていたのだ。
僕なら炎に突っ込んだ瞬間に気絶してますね




