試練の始まり
11話です
時間は一日遡り日も落ちたルーラの街。
私、メルヴィは酒を呑みにソルティーヤに向かっていた。
少し人の減った大通りをゆっくりと歩き続けていると、脇の路地から私をじっと見つめてくる視線に気づいた。
無視しようとしたがその視線には何故か逆らえず、私は視線の送り主に近づいた。
「あたしに何か用かい?」
ある程度近づき声をかけるがそいつは踵を返し路地の中に消えた。
流石に不審に思った私もそいつを追って路地裏に入った。
路地裏は大通りとは違い、人を常闇に吸い込ませる様な雰囲気に包まれている。
そいつは人目の付かない所まで進むと、立ち止まり、こちらに振り向いた。
暗くて良く見えないが、そいつは少女であるらしい。
背はあまり高く、無く華奢な体付き。
つば付きの帽子を被っている為顔つきは分からないが肩の高さで切りそろえられた銀髪は暗闇でも薄らとわかる輝きを放つ。
そして体には黒いコートを着込んでおり、ほぼ暗闇に一体化している様だ。
幾らか経った時。少女が口を開く。
「貴方、三奈坂 白と言う人物を知ってますよね?」
「あ、あぁ。知ってはいるが…」
何だこいつの聞き方…
まるであたしと白が知り合いである事を確信しているような…
少女の言葉に少し疑問を抱くが追求はせず、少女の言葉に耳を傾ける。
「貴方に一つ依頼をしたいんですよ」
「依頼だって?」
少女はコクリと小さく頷く。
そして懐から小さな布袋を取り出し、その中身を取り出した。
袋から姿を現したのは小さな透き通る様な水色の宝石を埋め込み、リングを一周する様に何か文字の様な物が刻まれた指輪だった。
「これを白に届けて欲しいのです」
「それ位し自分で行けば良いだろ?あいつならソルティーヤにいるだろうし」
すると少女は小さく首を横に振り、目線を足元に落とす。
「もう行きました。しかし、クエストに行っているみたいで…」
「なら、帰ってくるまで待てば良いだろ?」
「それじゃ遅いんです!!」
表情を厳しいものにした少女はいきなり声を張り上げる。
いきなりの事にあたしは少し肝を抜かれる。
そして落ち着いた少女は再び口を開く。
「これをすぐに渡さないと行けないんです…私が行ければ良いんですがここに居られるのも残り数時間。だから、あなたに依頼しているんです…もちろん依頼料は払います!」
落ち込んだ表情で依頼料と思われるお金の入った袋と指輪の入った布袋を差し出してくる少女に根負けしたあたしは依頼を受ける事にした。
「とまぁ、こんな経緯であたしはここにいるってわけだ」
昨日あった事などを教えてくれたメルヴィは俺に小さな布袋を手渡してくる。
身を乗り出して受け取った俺は中から例の指輪のを取り出す。
「なぁ、その少女の名前って聞いてないか?」
「ん?あぁ。確か『ラフィア』とか言ってたっけな」
俺はそれを聞いて確信した。
この指輪を渡して来た持ち主を。
「俺、その人知らないんだけど…」
「はぁ!?」
メルヴィはいきなり素っ頓狂な声を上げ、聞き直してくる。
「いや、あいつ確かにお前の知り合いだって言ってたぞ?」
俺は異世界に来てからの人間関係を思い出すが銀髪でラフィアと言う名前の少女なんて出会ったことが無い。
「でもルーラに三奈坂 白なんて名前の奴なんてお前しか居ないんだから持っときなよ」
それもそうだと俺は頷き、指輪を左手の中指にはめる。
すると心なしか宝石の輝きが増した様な気がした。
「それはそうと、随分白に懐いてるんだね」
メルヴィは僅かに視線をずらし、先程から俺の横に腰掛け、俺の服の裾を掴んでいるノアを見る。
「なっ、懐いてなんかいないよ!」
ノアは頬を軽く染め、メルヴィに対して叫ぶ。
しかし服の裾は離さずに握っているままだ。
熊に食われかけた後って事もあるので俺は別にノアの手を払ったりせず、そのままにしている。
それよりも俺はメルヴィの使った能力に興味を持った。
いきなり鎖を創り出したり、壁を創ったりする能力なんて初めて見た。
「メルヴィの力って何なんだ?鎖作ったりしてたやつ」
「ん?あぁ、あたしは錬金術師だからね。このカードに書かれた錬成陣で色々錬成してるんだよ」
メルヴィはそう言って腰に付けたホルダーから数枚のカードを取り出した。
カードには多種多様、様々な形の錬成陣が描かれているが素人目には何が何なのかわからない。
「休憩もいいですが、さっさとクエスト項目をクリアして帰らないと今日中に帰れませんよ?」
少し時間が経った後、ルウが催促する様に発言する。
俺は立ち上がりノアの手を取り、引き上げる。
そして改めて神殿の中を見渡す。
壁と天井で囲まれた細長い通路が中心部まで続いている。
通路の天井は色とりどりの宝石が埋められており、光が反射して何とも幻想的な空間を創り出している。
「また広くて綺麗な場所だなぁ」
俺は中心部に来てまた感嘆の声を上げる。
大きな円形の広間の天井は吹き抜けており、光が差し込み、反射して黄金に輝いている。
そして中心には台座の様な物が作られており、そこには紫色に輝く水晶の様な宝石が祀られている。
俺達はそれぞれバラバラに神殿の中を散策する。
「なぁ、ルウ。クエスト内容って何だっけ?」
すっかり忘れていたクエストの内容についてルウに尋ねるとルウはハァと溜息をつき、説明してくれる。
「散策ですよ。アステカの神殿は言わば初めてのクエスト的な存在ですから特別何かする必要はありませんよ」
なら帰るか、と言おうとした瞬間。
紫水晶に光が当たり不思議な空間が生成される。
「な、なんだ!?なにが起こってるんだ?」
俺が驚いて声を上げると紫水晶の輝きが増したと思ったら円形の地面に紫色の複雑な魔法陣が浮かび上がってきた。
「皆さん!構えてください!何か良くない魔力が働いてます!!」
ルウが激昂し、俺の胸ポケットに身を隠す。
そして俺達3人は一箇所に固まり、予測出来ない事態に備えて身を構える。
すると紫色の光はどんどん強くなり視界を奪っていく。
俺達はお互いの手を握り合い、はぐれないようにする。
そして視界が光で奪われた後。床がフッと消え去り、俺達は奈落の底に落とされた。
「な、なぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ………!?」
俺たち三人はそれぞれ悲鳴を挙げて三人で肩を抱き合い、とてつもなく長い浮遊感に抗う。
「………お前ら生きてるか?」
「な、何とか……」
「生きてるよー…」
「死ぬかと思いました…」
あの高さを落下したにも関わらず、大きな怪我をしなかった俺達はお互いの生存を確認する。
「ここは何処なんだよ…」
俺は立ち上がり周りを見渡す。
周囲は壁に囲まれていて薄暗く、光源は壁に等間隔で備え付けられた松明のみだ。
松明も普通の物では無いらしく魔力でいつまでも燃え続けるという街では見た事も聞いた事も無い代物だった。
俺達が居る部屋からは一本の通路が伸びておりその先からは『近づくな』と直感がビシビシと主張してくる。
「これは…文字か?」
突然メルヴィが何かを見つけたらしく驚きの声を挙げる。
俺達はメルヴィの周りに集まりその物体を注視する。
「読み上げますね。……我々、アステカ盗賊団は未だ見ぬ若者を後継者として育成する為に一種のダンジョンを造り上げた。生きて帰れた者には我々が残した宝具を授けよう。」
ルウが読み上げた内容は今は亡きアステカ盗賊団からの挑戦状らしい。
理由はわからないが俺達は試練への挑戦する権利を得たらしくこのダンジョンへと召喚されたらしい。
「試練とか宝具とか全く興味無いんだけど……イリアに会えない事が死ぬほど辛いんですけど」
俺はげんなりして項垂れる。
そしてアステカ盗賊団のダンジョンが簡単にクリア出来る筈もないのでイリアに当分会えない事を確信し、益々落ち込む。
「でも、この文章を読む限りこのダンジョンをクリアしないと帰れないんだよね?」
ノアが少々顔を引きつらせながら呟く。
俺達はお互いの顔を見合わせ、頷き合い気持ちを一つにする。
「本当に、ほんっとうに嫌だけどイリアに会えない事の方が死ぬより嫌だからこのダンジョンを死ぬ気でクリアしてやる。」
「私もこんな所で死ぬ訳には…」
「あたしも目標を成し遂げてないからね」
そして俺達はドキドキする心を落ち着けながら通路へと足を踏み出した。
しばらく歩き続けて俺はふと疑問にぶち当たる。
ダンジョンと言う割には敵とのエンカウントが圧倒的に少ないのだ。
さっきから出会った敵といえばゴブリン1匹位のものだ。
今歩いている道は真っ直ぐ続いており途中で大きな広間に出た。
「また、大きな場所ですね〜」
「ゲームとかじゃボスとか出そうだな」
俺はフフッと笑い、ルウに反応する。
他の二人もクスクスと笑い合っている。
意外と気が合ったらしく俺としても嬉しい事だ。
そして俺達がこの広間で立ち止まった理由は単純に道に迷ったのだ。
それも道が四方八方に伸びており、広間が円形の形をしているため来た道も分からないのだ。
「どれを行くんだい?」
「ぬぅぅぅ……どこに行ったら良いのかも、何もしに行けば良いのかも分からん…」
メルヴィの問に俺は答えを詰まらせる。
しばらく唸っているといきなりフッと視界を黒いものが過ぎった。
そして次の瞬間。
俺の首筋には一筋のギラリと光る銀色の刃が当てられていた。
「アンタ達。………何者?」
黒い人形からはくぐもった声が発せられる。
あぁ…これ死んだかも。
ここからおよそ10話の間、イリアはでませんがバトルはふんだんに盛り込まれます




