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異世界で子育て始めました  作者: あるみす
1/19

異世界

 ここは定食屋の二階に存在する宿屋。

  俺達はこの八畳とキッチンが備え付けられた部屋に住んでいる。

  キッチンの設備は炎を操る魔法具だったりと日本とは勝手が違うし、四人プラス一妖精で暮らすには少し狭いけど、それなりに楽しい生活を送っていた。

「あっ!メルヴィ!そのお肉私が焼いてたやつ!!」

「フッ、悪いね。ノアは隙が多いから」

「喧嘩するなら私が頂きますよ?…いただきまーす」

「「あっ!」」

「イリア〜お肉焼けたぞ」

「ありがとう、しろにぃ♪」

 今日も一つの卓袱台を囲い、賑やかな声が響き渡る。


  拝啓、天国のお父さんお母さん。色々合ったけど今精一杯生きてます。

  どうしてこんな事になったのか、思い返せば長いけど…全ての始まりは小さな妖精との出会いだった。






「………きて……さい。」

 何処からか声が聞こえる。

 そもそも俺はどこに居るんだ?

 さっきまで妹と一緒に居たはずなんだが…

「……きてくだい。」

 誰なんだよ。この声は。

「もう!いい加減起きて下さい!!」

「痛いっ!ってか、ええええええええええ!?ここ何処だよ!!」

 バシンと音が響いたかと思うと頬に強烈な衝撃が訪れる。

 俺が居るのは深い森の中だった。

 木々は深々と生い茂り、草も無造作に生えている為に先が全く見えない。

 俺は頬を抑えながらはね起き、声の主を探すが見つからない。

「誰も…いない?」

「ったく、何処見てるんですか!私はここです」

 不意に下から声が聞こえてくる。

 恐る恐る声がした方を向くと、可愛らしい妖精がいた…

 その妖精は体長10cmくらい、クリクリっとした瞳を持ち、少し緑がかった金色の髪の毛をなびかせていた。

「よ、よう、せい?俺は夢でも見てるのか?」

 俺は未だ信じられない光景に目を丸くする。

 妖精の頬をつついたり、頭を撫でてみたりしていると、妖精は手を腰に当て、頬を少し膨らませた。

「一々めんどくさい人ですね…早く本題に入りたいのですが」

「あ、はい。すいませんでした。」

 妖精の可愛いさに押されて驚くべき速さで土下座を繰り出す。

 妖精はふぅと小さく深呼吸し、俺に向き直った。

「改めましてこんにちは。私は妖精族のルウと申します。これから貴方、三奈坂白さんの生活のお手伝いをさせて頂きます。」

「と言うかその前にここはどこなんだよ。いきなり『お手伝いさせて頂きます。』とか言われてもわけが分からん」

 ルウは小さくコテンと首を傾げ、そして思い出したかのようにポンと手を叩いた。

「ここは天界です。人間の言う所の『あの世』です。白さんは不運な事に、死んでしまったんですよ。とっても無残な死に方で」

 俺はルウの言葉を聞いて頭が真っ白になる。……主に後半部分。

「え、ええ?今無残な死に方って…それにそこには妹も居た筈じゃ…」

「?そうですよ、白さんは妹様を……………ご愁傷さまです」

「ん、あれ?な、何で?思い、思い出せない…俺の、妹は……どうなったんだ…」

 俺は何故か思い出せない『妹』についての記憶に苦悩し、地面をバァンと殴る。

「まぁまぁ、落ち着くのです。

 死んだ時に記憶を失くす人は多いですから。気に病む事は無いのです」

  俺はそれを聞いて少し気持ちが軽くなった。

「うぅ…くそっ。と言うか、さり気なく慰めてくれてありがとう」

「うっ、そ、そんな事はどうでもいいのです!…ここからがとっても重要なので良く聞いてて下さいね?」

 コクリと俺が頷くと、ルウはその重要な事とやらについて話し始めた。

「貴方にはこれから異世界に行ってもらいます。そこである事を成し遂げて欲しいのです。」

「異世界?そんな物が実在するのか…それと、ある事ってなんだ?」

「まぁ、もう少し私の話を聞いてくださいよ。

 今異世界では魔王軍というのが幅を効かせてるんですよ。昔は…平和でとっても綺麗な世界だったのに、今は見るも無残な………光景にはなっては無いんですが取り敢えず魔王をぶっ倒して欲しいんですよ」

「おおっ!と言うと俺は伝説の勇者に選ばれたのか!」

「いや、違います。嫌だなぁ貴方みたいに死んだ理由も思い出せない人に勇者が務まるわけが無いでしょうに」

「一々ムカつくなお前は…」

  俺は顔を顰める。

  ルウはハイハイと受け流すと

「それでですよ。魔王を倒してって言うのは他の人向けの理由です。」

「他の人?」

「はい。異世界転生する人間なんてそこら中に居るんですよ?だから貴方なんて全然特別じゃないんです」

「……はい。分かったので先続けてください…」

「何故貴方に私みたいな優秀な妖精が一緒に異世界に行くのか。貴方にやって欲しい事は!」

「……事は?」

「あるお方の『保護者』をやって欲しいからです!」

「……………保護者?」

  俺が想像していた言葉と違い、思わず聞き返す。

「はい!」

「ひょっとしなくても保護者?」

「はい!」

 俺はスクっと立ち上がり

「遠慮しとくわ。異世界で保護者する位なら輪廻転生する方がマシだわ」

 踵を返して歩こうとするが、ルウに引っ張られてなかなか前に進めない。

「何でそんなに力、強いんだ!?」

「妖精を甘く見ないで欲しいですね。本気出したら人間なんて一握りですよ」

 妖精思ってたより力強くて怖っ!

 とうとう俺は根負けして妖精の話を受ける事になってしまった。

  決してルウが怖かったって訳じゃ無いからな!

「それで、俺は一体誰の保護者をしたらいいんだ?」

「はい。えーっと、大天使ラファエル様の一人娘であるイリア様です。」

「なるほど、なるほど。天使の娘か」

「はい。」

「天使の」

「はい。」

  妖精から告げられた情報は俺の頭のキャパシティを超えていて、頭が真っ白になる。

  そしてしばしの沈黙の後、

「ええええええええええ!?何で!?何で俺みたいな一般市民が天使様の一人娘の面倒見るの!?」

  理解してもなお、現実離れしたその情報に俺は絶叫してしまう。

  と言うか、俺みたいな人間が天使の保護者を務めても良いのだろうか…

  罰とか当たらないだろうな。

  すると、ルウは何を思ったのか、俺の顔の目の前に身体を寄せてきた。

「強制的に転移させられるみたいです。気を確かに持っていてください」

  ルウの突然の警告についていけない。

「え!?急になんだ?…って、ちょっと待てぇえええええええええ!!」

  俺とルウは何者かによって強制的に転移させられ、真っ暗な世界に引きずり込まれる。

  やばい、あの何か、グルグルする感じが気持ち悪すぎる…吐きそう。もう二度と転移なんてするものか。

  心の中でそう誓った所で急に視界が開ける。

 俺達が降り立った所はギリシャ神話に出てくるパルテノン神殿を模した様な場所だった。

  いや、パルテノン神殿の原型…?

  両脇に立っている柱の所まで行き、外の景色を恐る恐る見てみると、そこには無限と思わせる程大きく、深い青空が広がっていた。

「また、えらく神秘的な場所だな」

  初めて見る景色に心を奪われ、惚けていると

「神秘的で当たり前です。だって此処は天使以上の階級が住む天空庭園ですから。」

「天空庭園って言うのか、何かすっごいテンション上がってきた!」

「ちょ、ちょっと静かにしてください!私達を転移させたお方は大天使様なんですから!」

  ルウが焦った様に俺に釘をさす。

『大丈夫ですよ。妖精さん。』

 すると、急に耳に聞きなれない声が響き渡る。

  そして、俺とルウの目の前に大きな水色の魔法陣が現れ、ハーブの様な音色と共に二人の天使が姿を現した。

  恐らく大天使ラファエルだと思われる大人の天使様は、なんと言うかとてつもなく神々しかった。シルクの様にキメ細やかな肌と銀髪に透き通るような碧眼。そして極めつけは聖書で見たのと全く同じ服装だ。

  これには無宗教の俺も声も出ない。

  そして、もう一人。明らかに子供の天使。背から判断するに、日本での小学生上がりたて位かな。ラファエルとは違い、少し癖っ毛で見てるだけでフワフワしてるのが伝わってくる。しかし、銀髪や碧眼は完璧に母親から受け継いでいた。

  幼女天使はラファエルの裾から顔だけをこちらに覗かせている。

  「貴方が三奈坂白さんですね?」

「はい、大天使様。正直展開が早すぎて着いていけてないです。」

「ちょ、ちょっと余計な事は言ったらダメですよ!」

  俺が何か失礼な事でも言うと思ったのかルウが慌てた様子で耳打ちしてきた。

  失礼な。俺がそんな事する訳無いだろうが

  すると、フフッとラファエルが小さく笑う。

「やはり白さんとルウさんは優しい方なのですね」

「「え?」」

  そんなラファエルの言葉に俺のルウは顔を見合わせる。

「私は癒しの天使ですからね。人の性格を詠むのは得意なのですよ?」

  ラファエルは右手の人差し指を頬に当て、小さくウインクしてくる。

  意外と気さくな方何だなと心の中で呟いた俺であった。

「さて、本題に入りましょうか。今回貴方達を呼んだのはこの子の保護者として異世界に行ってもらいたいからです。」

「あの、天使様。一つ質問しても宜しいですか?」

「何ですか?遠慮なく言ってくださいな」

「天使様が下界に行くって言うのは皆さんやって居られるんですか?それとも…」

「天使の子供を下界に送り出す事は普通は行いません。特にミカエルとかは拒絶反応を起こしますし…」

「じゃあ、何で今回はその子を?」

「最近の天界のものは人間を下に見すぎているのです。」

 ラファエルは少し表情を曇らせた。

「私は人間はとても輝いた存在だと思うんですよ。一人では出来ないことを二人、三人と手を取りあって成し遂げる。なんて事も人間にしか出来ないこと何です。それでこの子には将来の天界を担う者として人間の事を良く知っておいて欲しいのです」

  正直、想像していたより壮大でそして、深刻な理由だったから少し戸惑ったが、心を決めた。

  ここで人生辞めるのも勿体無いし、それに……アイツの、妹の事しっかり思い出したいからな。

「天使様。その使命、命の限り全うさせて貰います!」

  急に俺の態度が変わった為、隣にいるルウの表情が驚きに変わる。

 そして、ラファエルは顔を緩めると

「良い返事が聞けて嬉しいです。…ほらイリア。彼らにご挨拶しなさい。」

 イリアと呼ばれた女の子は緊張しているのか口もとをむにむにさせていたが、ゆっくりと口を開く。

「これからよろしく、お願いします」

「ああ、よろしくな。」

「私もよろしくです♪」

 俺達の軽い挨拶が終わるとラファエルは両手を前に突き出し、呪文を唱え始める。

  すると、俺達の足元に先ほどの魔法陣が現れる。

  ひょっとしなくても、これ。

「もし、魔王を討伐出来たら使いを出すので!二人ともどうか、どうかイリアをよろしくお願いします!」

  ラファエルの言葉を聞き終えると身体が浮き始めた。

「ちょ、ちょっと待ってくれええええええ!」

  こうして、俺と妖精のルウ。そして天使のイリアの三人による異世界での生活が始まった。




 異世界に無事転生する事の出来た俺達は街の中央にある大きめの広場の噴水の前で休憩を取っていた。

 多分普通の人なら直ぐに行動を始めているだろう。

 しかし、俺は完全にテレポート酔いしていた…

「もう、マジでふざけんなよ…何でテレポートで酔わにゃならんの」

 その場に座り込み、胃の中身をリバースしそうになるのを必死に堪える。

「それにしても弱すぎじゃ無いですかー?こんな貧弱神の化身みたいな野郎に保護者が務まるのですか?」

「しょうが無いだろうが…元々そんなに乗り物強い方じゃないんだよ」

 笑いをちっとも堪えようとしないルウがこれ見よがしに煽ってくる。

 俺、こいつに何かしたか?ぜんっぜん思い当たらないんだけど…

 すると、イリアが近づいてきて俺の目の前でしゃがみ込み、顔を覗き込んできた。

「大丈夫?気持ち悪いの?」

 そんな純粋無垢なイリアの優しさに当てられてクラっときた。

 慈愛の天使とはよく言ったものだ。

 俺は、苦しさに堪え、必死で笑顔を作り、イリアの頭に手を乗せ優しく撫でて上げた。

「大丈夫、ありがとうイリア。ちょっとテレポート酔いしちゃっただけだから。」

「ふぁぁ。でも…うん。無理しないでね?」

 イリアは撫でられてなのか、くーっと気持ち良さそうに少し目を細める。

 そんな、イリアの表情が可愛い過ぎるので俺自身蕩けそうになる。

 俺は手を離すと横目でちらっとルウを見る。

 そ、そんなに呆れた顔をしないで下さいよ…

「いきなりイリアに攻略されてやがるですよ。この男は…」

「こ、ここ、攻略なんてされてねーし。ちょっとイリアが可愛すぎてクラっと来ただけだし!?それよりも、お前こそイリアをちょっとは見習ったらどうだ!」

「お、お前は今妖精族を貶しましたね!落ち着いた頃に夜も眠れないようなイタズラを仕掛けますよ!?」

「仕返しが陰湿だな!?」

 俺とルウがギャーギャー言い合っていると、涙目のイリアが割って入り、

「け、喧嘩しないで?二人が仲悪いところ見たくない…」

 そんなイリアに完全に毒気を抜かれた俺とルウは顔を見あわせた。

「ご、ごめんな?イリア。俺達はちょっとからかい合ってただけだから。お前もそうだよな?」

「そうです。そんな、壊滅級に仲が悪いって訳じゃ無いですから。」

「おい。それじゃ仲が悪いとも取れるだろうが」

 ルウをジト目で見つめると、いきなり何か思い出した様な表情をした。

「さっきから気になってたんですが、私の事はルウと呼んでください。『妖精』やら『お前』で呼ばれるのは少し気に入らないです」

「何かと思ったらそんな事か。なら俺の事は白って呼んでくれて良いから」

「白、しろ…し、」

「ん?どうしたイリア?」

 イリアが急に俺の名前をボソボソと呟きながら、黙り込んだ。

 少し心配になった俺は、イリアの顔を覗き込む。

 するとイリアは急にバッと顔を上げ、尋ねてきた。

「しろにぃって呼んでいい?」

「大歓迎さ!」

「言葉遣い変わってるんですけど、表情が緩みきっててキモいんですけど」

 さっきから外野がうるさい。

 俺とイリアの世界に入ってこないでほしい。

「ねえねえ、私の事はなんて呼んでくれるの?」

 何だかんだ言って、ルウも気になったらしくイリアの頭に乗って尋ねてる。

「ルウって呼んだら、だめ?」

「良いですよ!なら、私もイリアって呼びますね!」

 ルウは少しだけ残念そうな表情をしたが、直ぐに笑顔になってイリアの前をふよふよ浮いている。

 ちょっとは姉として見て欲しかったのかな。


 意外と可愛い所あるんだな。声には出さないけど、悔しいから。


 少しして幾らか気持ち悪さも落ち着いた俺は立ち上がる。


「少し体調も良くなってきたし、そろそろ行動しようか。って言っても何からしたらいいか分からんけど」


「先に宿屋を見つけた方が良くないですか?夜になってからじゃ大変ですし」


 ルウが人差し指を立てて、そう提案してくる。


「じゃあ、取り敢えず先に宿屋探すか。…あっ。ルウって今お金持ってる?」


「持ってるわけないじゃないですか。そもそも天界で下界の通貨なんて出回ってませんですし」


 俺とルウは顔を見合わせたまま硬直する。


「お金無きゃ宿にも泊まれないだろ!そもそも何も食えなくてのたれ死ぬわ!」


「ホントですよ!白は野宿でも良いけど、私やイリアはちゃんと宿に泊まりたいです!」


「何で俺だけ野宿なんだ!?」


 俺とルウが言い争ってるとイリアがクイクイと俺の袖を引っ張る。


「どうした?」


 俺がイリアの方を見るとイリアは両手で袋を抱えていて、それをズイっと俺に差し出した。

 差し出された袋の中身を見ると、そこにはたくさんの金貨が詰まっていた。

 脇から金貨を見たルウも目を丸くしている。


「イリア!?どうしたんだこれ!」


「お母さんが下界でかせいだお金なんだって。生活のしきんにしなさいってゆってた」


 イリアはそう言ってほのかに笑顔を浮かべる。

 イリアは笑ってるが俺とルウは感動して今にも泣きそうだった。


「なんて、優しいお方なんだ…そもそもどうやって稼いだんだ?」


「知らないですよ…でもラファエル様は昔から自由奔放な方だと聞いてました。」


「流石に自由過ぎるだろ!?」


 勝手に下界に降りて仕事してたって事だよな。


 俺達は近くのベンチに座り直し、ルウは袋の中に入り金額を確かめ始める。

 暫くすると、ルウは袋から顔だけひょこっとだす。そして、その表情はとても落ち込んでいるように見えた。


「どうした?そんなに浮かない顔をして」


「白…やばいです。すっごくやばいです。」


 ルウがとても普通じゃない雰囲気なので俺は心配になる。


「お、おい。本当にどうしたんだ?」


 肩をプルプルと震わせるルウはゆっくりと話し始めた。


「大半が今使われていない硬貨です…」


「えええええ!?使われてない?」


「だって、金貨いっぱいだっただろ?金の価値は変わらないんじゃないのか?」


 焦った俺はルウに訴える。


「金貨だったのは上の方だけで下は昔の貨幣だったんです」


 上の方に金貨を置いて金貨がいっぱいある様に見せかけるなんて…

 何お茶目なことやってくれてんだよ。


「なあ、ルウ?金貨だけならいくら位合ったんだ?」


「20万R位です」


 ルウはまだ動悸が収まらないのか肩を震わせている。


 因みにルウによると(ルイス)はこの世界の共通通貨単位で、1R=1円らしい。


「20万R合ったらどれ位生活出来るんだ?」


「どんなに節約しても宿代込みで1日最低1万Rはかかるので長くて20日位です」


 20日は耐えれるとは言え冒険者とかやってる暇はないな。装備とかも揃えないといけないからな。


「これは先に安定して稼げる仕事を探すか」


「冒険者はどうするんですか?」


 魔王討伐の目的も忘れないで下さいと言いたげにルウが尋ねてくる。


「仕方ないだろ?俺は日本ではろくに部活も出来なかったからな。そんな直ぐに3人分の生活費が稼げるとは思えん。だったら先にバイト先見つける方が良いだろ。」


「で、ですが…あうっ!」


 俺は指先でちょんっとルウのおでこをつつくと軽く笑って言う。


「心配すんな。冒険者やらないって訳じゃないから。冒険者始めるまでの繋ぎだって。それに定食屋とかで働けば仲間も見つかるかもしれないだろ?」


「分かったです。じゃあ、まずは宿屋探してそこで仕事について聞きますか」


 そう言って、ルウは俺の指先を両手で包む。


「よし、じゃあ行くか!」


 俺はルウがお金の勘定をしている時から俺の膝を枕にしてすぅすぅと可愛い寝息を立てているイリアを起こさないように立ち上がり、お金の袋を腰に吊るすとイリアを抱き上げた。


「私も何か持つですよ?」


「ん?大丈夫、大丈夫。イリア軽いから」


 イリアは無意識のうちに落ちないように両手を俺の首に回す。

 そんなイリアの寝顔に癒されながら俺達は宿屋を目指して街中を歩く。


 よく見るとこの街は活気に溢れている。

 道には色々な店が出品してるし、人通りも多い。雰囲気としては日本の昔の商店街に近い。


 そこで、俺はふと思った事をルウに尋ねる。


「なあ、さっきから色んな人達から見られてないか?」


「そうですか?…あー、アレですね。白の服装が珍しいからですね。」


「そうか?パーカーに長ズボンだし、そんなに派手じゃないだろ」


 俺は言いつつ自分の服装を見る。


「まあその二つともこの世界には無いものですからね。いつか服も買いに行かないとダメですね」


 確かにこれ一着じゃ辛いな。追加で買わないとダメだな。


「後もう一つ気になってたんだけど何で俺この世界の文字が読めんの?」


 そうなのだ。覚えたこともないのに俺は看板に書いてある見た事も無い文字を読めているのだ。


 ルウは少し面倒くさそうにしながらもカラクリを教えてくれる。


「普通の人なら話しは通じても文字は読めないので勉強しないといけないんですが、白の場合は転生される直前にラファエル様が魔法で翻訳魔法をかけてくれたんですよ。だから読むことは勿論、書くことだって出来るです」


「何か、ラファエル様には感謝してもしきれないな」


「ホントですよ。私も感謝してるですからね…」


「ルウは何を感謝してるんだ?」


 尋ねてもルウは何故か顔を少し赤くしてそっぽを向いてしまった。


 少し歩くと、駐屯所の様な場所が見つかった。

 前には憲兵らしい人が立っていたので宿屋の場所を聞くために尋ねかける。


「あの、この辺で安い宿屋ってあり…」


 まだ話してる途中だったんだけど、憲兵は俺を無視して手に持っている何かの道具に


「通信お願いします。こちら23番区画憲兵所。幼い女の子を抱えた見るからに誘拐犯を見つけ…」


 憲兵が持ってる道具は通信が出来るらしく、いきなりそんなデタラメな報告をしだしたので…


「ふぅざけんなよ!?何でいきなり犯罪者に仕立てられてんだよ!!」


 相手が憲兵だって事も忘れて叫んでしまう。

 憲兵は一度通信機から顔を話すと、怪訝そうな顔をしてコチラを向く。


「え?違うんですか?じゃあ、アレですか。隠し子ですか」


「隠し子でもないわ!」


 何言い出すんだこの憲兵は。話にならないんだけど…


 俺と憲兵のやり取りに見かねたルウが俺の前に出てきた。


「この子はこの男の妹なのです。それよりも、私達の質問に答えて欲しいです。この辺りで安い宿屋はどこですか?」


 憲兵はいきなり出てきたルウに驚いたのか、落ち着きを取り戻した。


「おや、妖精の方とは珍しいですね。この辺りで一番安いですか…なら22番地10番通りの角にあるソルティーヤに行ってみたらどうでしょうか」


 俺達は憲兵にお礼を言い、ソルティーヤという店を目指して歩き出す。


「なぁ、妖精族って下界にも居るのか?」


 ルウに尋ねると、ルウは質問の意図が掴めなかったのか不思議そうな表情をしている。


「いや、さ。さっきの憲兵の人が妖精に対して驚いて無かったからさ」


「あぁ、そんな事ですか。下界にもいるですよ、妖精は。ただ、同じ妖精族であっても出来ることは全く違うんですけど」


「何でだ?」


 俺は天界の妖精とこの世界の妖精との違いに純粋に知りたくなった。


「………まぁ、時が来たら話すですよ。」


 何故かルウはその時教えてくれなかった。


 そんな事を話していると目的地であるソルティーヤが見えてきた。


「へぇー、定食屋の上に宿屋が併設されてるのか」


 ソルティヤは少し入った所に位置する為大通りには面していないけど結構賑わっている様子が外からでも分かった。

 そして、淡い水色で塗られた壁はなんというか、とてもこの世界の雰囲気に溶け込んでいた。


「くあ…」


 すると、ずっと寝ていたイリアが小さい欠伸をしつつ目を覚ます。


「おはよ、イリア」


「しろにぃ。ここどこ?」


 まだ眠そうに目を擦っているイリアにルウが答える。


「ここは宿屋ですよ〜♪今日は皆でここにお泊まりするです」


 目を覚ましたがイリアが降りようとしないので腕に抱えたままソルティーヤのドアを開ける。


「いらっしゃい!…あら?初めての方?」


 入口で出迎えてくれたのは中学生位の女の子の店員さんだった。

 女の子は店の外装の様な淡い水色の瞳と髪の毛を持ち、髪を腰の当たりまで伸ばし、下の方で大きなリボンで括っている。

 しかし、子供っぽいあどけない顔立ちをしているので精一杯背伸びしてる様に見える。


「は、はい。宿屋として紹介されたんですが…」


 俺が答えると、それはもう見事な営業スマイルで


「ありがとうございます!今案内しますね。…お母さーん。宿泊のお客さんを部屋に案内してくるから注文よろしくー」


 そう大きな声で言うと奥から母親と思われる若い女性が出てくる。

 少し汚れたエプロンをしてるから厨房で働いてるんだろうな。


「こっちよー」


 店員の女の子が2階へと続く階段の途中から俺たちを呼ぶ。


 彼女について2階に上がると廊下に沿って五つ部屋が合った。


 そして、1番奥の部屋に案内されると俺達は中に入った。

 イリアをベットの上に降ろし、俺は店員の女の子に料金について尋ねる。


「いくら位払ったらいいんだ?」


「その事なんだけど、契約は1日にする?それとも1ヶ月?」


「1ヶ月契約なんてあるのか?」


 少女はこれまた見事な営業スマイルで説明してくれる。


「うん!結果的に見たらお安くなってるよ。だけど、宿屋扱いじゃなくて貸家扱いになるからご飯とかは出ないけど、一ヶ月6万R!」


 一ヶ月6万で過ごせるのは正直有難いな。


「よし、じゃあ一ヶ月でよろしく頼む。」


 俺はルウに6万R数えてもらってそれを少女に手渡す。


「後、仕事を探してるんだけど良いの知ってたりしない?」


「仕事?」


 少女はその質問は予想していなかったのかきょとんとしてしまう。


「うん。ちょっとお金に困っててな。アルバイトでも始めようかと思ってさ」


 すると少女は俺の体を色々眺め回す。

 そして、小さく「よしっ」と呟くと


「お兄さん、料理は出来ますか?」


「え?まぁそれなりには出来るけど」


「なら、オススメな仕事がありますよ!」


 そう言った時の少女の表情は営業スマイルとは違う本当の笑顔の様な気がした。


書きだめ分が沢山あるので思い出した時に更新しようと思います。

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