4:気付き。
問四:おかしなモノが、あるんですけど?
リズさんが食べるものを準備すると言ってから、だいたい四十分くらいが過ぎた頃。
窓から外を見る限り、日が沈んでかなり経った時間。
――ふはぁぁ…………。
僕が目を覚ました建物……つまりは宿屋なんだけど。その宿屋の中にあった浴場で身体を洗い、これまた宿屋で借りた子供服に身を包んだ僕は、現在、再び目覚めた部屋の中に居た。と言うか、部屋の中でまったりお白湯を飲んでいたりする。
自分でもハッキリわかるくらい、かなり緩んだ顔をして。
泣いたりなんだりしたのが嘘みたいな、ほんわかした雰囲気で。
――いや、だって、これ以上落ち込んでたって仕方ないし。
そう思う僕は、手に持ったコップのほんわか温かいお白湯を、一口飲み込んで。
座っている椅子の上で、満足そうに「はふぅ……」と息を吐いて。
「……ホントに、暴れたり泣いたりしてたのが嘘みたいだな」
――うぐっ、それは……言わないでほしいかも。
なんて思う僕は、肩をすくめながらお白湯を飲むふりをして顔を隠し。
微笑ましい視線を向けてくる、部屋の隅の机で何かを書いてるアクセルさんへジト目を向けて。
さっきも言ったけど、僕は今、僕が目を覚ましたあの部屋の中に居る。それも、僕を誘拐したのかもしれないアクセルさんと一緒にお風呂に入り、更にはその後、部屋でお白湯を飲みまったりさせても貰っているという状態で。もはや『無警戒』って言えるレベルで、リラックスした時間を過ごしているんだ。……いや、うん。こう言っちゃうと、なんか僕が警戒心の無いアホみたいだけど。でも、ほら……こうなるのも仕方ないっていうか、なんていうか。
だってアクセルさん、警戒するのがバカらしくなるくらいに子供っぽいし。
子供っぽいくせにお人好しなもんだから、よけいに警戒する気が無くなるし。
――そうなんだよ。アクセルさんは、すごくお人好しなんだ。
――お人好しだけど、すんごく子供っぽいんだよ。
リズさんが居なくなってから、アクセルさんは何を思ったか鬱陶しいくらいに僕へ構ってきた。それこそ、やれ「気分は悪くないか?」だの「喉渇いてないか?」だのと、とにかく体調を気遣ってきたり。どころか「服は自分で脱げるか?」とか「便所は一人で行けるか?」とか……もう、『僕をなんだと思ってるんだ!!』って叫びたくなるくらいに、お節介をやいてきたんだよ。……ホントに、有難迷惑って言いたいくらいに。若干、僕をバカにしてるんじゃないかって思っちゃうくらいにさ。
だから僕は、この人を警戒することがバカらしくなっちゃって。
こんなにも世話をやきたがる人が、悪い人とは思えなくなっちゃって。
いや、勿論僕だって、このくらいの事でアクセルさんへの疑いを完全に消そうとは思ってないよ?
良い人そうに見えてヤバい人とか結構いるってお父さんも言ってたし、お母さんも、「貴方は嘘が吐けないんだから、人を信じすぎちゃダメよ?」って言ってたし。僕も自分が騙されやすいって自覚、一応は持ってるからね。
……でもさ?
僕に気を使ったのかなんなのかわかんないけど、お風呂場で水遊びに誘ってくるとか、疑うとか以前の問題だと思うんだ。いや、確かに温泉みたいな感じの浴場だったから僕もテンション上がったけど、普通、こういう『公共の場』では遊んじゃダメって、皆知ってるよね? 僕でも知ってるんだから、誰でも知ってるはずだよね?
なのに、アクセルさんは楽しげに水を掛けてくるわ「ティノは泳げるのか?」とか言って泳がそうとしてくるわ、ホント、周りの迷惑を考えて欲しいよ。……周りに人、居ないから良かったけど。でも、だからってやって良いわけがないじゃんっ!! ちょっとは考えようよっ!!
なんて思うから、僕はやっぱり、アクセルさんを疑う事がバカらしくなってて。
お人好しで僕よりも子供なアクセルさんを、警戒しようって気が全く起きなくて。
――いや、まあ、お陰で『重要なこと』に気が付けたから、なんとも言えないんだけど……。
そう考える僕は、それとなく部屋の中を見渡して。
目につく『不思議なモノ』を視界に入れて、目を細め。
「ん、どうしたティノ? なんかあるのか?」
――っとと、危ない危ない。
不思議そうな顔をして話しかけてきたアクセルさんへ、僕は曖昧に笑ってみせて。それから、首を左右に振って、しれっとベッドの方へと移動し。ベッド脇のテーブルにコップを置きつつ、アクセルさんが再び机で何かをカリカリ書き始めるのを見てから、気付かれないように部屋の中を見渡して。……そうしてまた、目につく『不思議なモノ』に、思いを巡らせる。『意味不明なモノ』を、思考する。
例えば……そう、部屋の天井に『浮いている』、凄く明るいランタンだとか。
アクセルさんが使っている、『白い綺麗な羽ペン』だとか。
小さなテーブルの上に乗っている……見たことのない、『果物っぽい何か』とかにね。
――……ホントに、どうなってんだろ、これ。
改めて思うけど、この建物は、どうにも色んな所に『変なもの』があるみたいだ。いや、立地とかそう言うのはわかんないけど、こう、設備が不思議って言うか、摩訶不思議なモノがいっぱいあるって言うかさ。
だって、宿屋の中の照明、全部浮いてるんだよ? ……紐も何も繋がってないのに。
浴場なんて、壁の赤い宝石に手をかざすだけでお湯が出てくるんだよ? ……ホースも何にも繋がってない、シャワーヘッドから。
なのに、プラスチックで出来たものが一切ないし。
トイレも、なんでか古い感じのものだし。
だから、僕には何もかもがチンプンカンプンで。
何がどうなってんのか、ぜんっぜん理解が出来なくて。
――まさに、キツネに化かされてる……みたいな?
「……ティノ、やっぱりまだしんどいのか?」
そう言われた僕は、いつの間にか隣にアクセルさんが居ることに気が付いて。
と言うか、ベッドの縁に座ってた僕の、額に手を当てられてる事に気が付いて。
「んー……ちょっとのぼせたか?」
――って、うわぁぁああぁあっ!?
「お、おいティノっ!?」
そう言われた僕は、ベッドからガバッと飛び降りて、部屋の壁にビタッと張り付き。
音もなく突然隣に現れた、アクセルさんから距離を取り。
――び、ビクッた!! しんぞ、止まるかと、思た!!
驚きすぎたせいかゼェゼェと息を吐く僕は、唾をゴクリと飲み込んで、アクセルさんを凝視する。そんな僕を見るアクセルさんは、しばらくポカンと僕を見て……でも、しばらくしたら、安心した顔で「考え込んでただけか」って呟いて。……優しい顔をしながら、「ほら、戻ってこいよ」って手招きしてきて。
けれども僕は、怖いから首を左右にふるふると振る。
アクセルさんを視界に入れたたま、壁伝いに手近な椅子を取りに行く。
――だって、怖いもん。急に来られたから、怖いんだもん。
「……ったく、お前って警戒心があるのかねーのか、わけわかんねーのな」
アクセルさんが困ったように笑ってるが、んなこと知ったこっちゃない。確かに僕も『警戒する気が起きない』って思いはしたが、だからって近寄られる事を許してるわけじゃないんだ。……僕、グイグイくる人苦手だし。いや、一緒にお風呂も入っちゃってるけど、でも、やっぱり急に来られると怖いし。出来れば、適度な距離を保って欲しいし。
そりゃあ……グイグイ来られて、ちょっとはありがたい部分もあるけど。
お湯の出し方とか、替えの服とか、お節介やいてくれたから、色々と助かったけどさ。
――でもでも、それとこれとは話が違う。
――僕には僕の、ペースがあるんだ。
そう思う僕は、だからじぃっとアクセルさんを見続けて。
すると、アクセルさんは「はぁ……」と息を吐いて、下を向き。
頭を左右に振ってから顔を上げると、おもむろにベッドから立ち上がり。
「……ほら、オレは机に戻るから、ティノはベッドで横になっとけ。
今は暑い時期だけど、湯冷めしたら大変だし。それにお前……ホントはまだしんどいんだろ? 目が覚めてから緊張しっぱなしだっただろーし、飯もまだ食えてねーし。
大丈夫、何度も言ってっけど、オレはお前を傷付ける気なんてねーから。……あ、いや、オレ、デリカシーねーから、既に傷付けちまってんのかもだけど。それは……えっと、ごめん」
僕に向かって申し訳ない感じにそう言ったアクセルさんは、宣言どおり、僕には近寄らないよう机の方へと戻っていった。そうして、僕へ視線を向けることなく、また何かをカリカリと書きはじめて。僕がそろそろと動きはじめても、チラリと盗み見るような事もしなくって。
だから僕は、ベッドに着くとホッと息を吐き出した。
けど、なんだか申し訳なくなって、胸がきゅっとなっちゃって。
――……ちょっと、自分勝手過ぎた……かな。
アクセルさんへの疑いは消えないけど、でも、ちょっとだけ落ち着いた僕の頭は、『もしも』の話を考えた。『もしもアクセルさん達が、本当に僕を助けてくれただけだったら』って考えて、胸の中に、モヤモヤしたものが出てきたのを理解する。
何故なら、もしもそうなら、僕は恩を仇で返してるってことになる。
僕を助けてくれた人に、酷いことをしてるって事になっちゃうんだ。
――だから、申し訳ないし。
――でもでも、やっぱり怖いし。
そう思う僕は、だからソロリと立ち上がり。
ベッドから離れて、中途半端にアクセルさんへ近寄って。
「……ティノ?」
僕の行動の意味がわからないんだろうアクセルさんは、だから不思議そうに顔を向けてきた。
逆に僕はビクッとしちゃったけど、でも、怖くて逃げたくなるのを堪えて、じぃっとアクセルさんを見つめる。
『この距離までなら近付いても良いよ』って、そんなことを思いながら。
『距離を守るなら、話しかけても良いよ』って伝えたいと思いながら。
だって、それが僕に出来る唯一のことで。
僕が許せる、歩みよりってヤツだから。
――でも、これ以上はダメだからねっ!? 次グイグイ来たら、引っ掻くからねっ!!
「……ぷっ、あははっ! そっか、ありがとなティノ! オレも気を付けるよ。
……っと、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど……あ、大丈夫、近寄ったりはしねーからそこで聞いてくれ。
で、えっと、今さらって感じの質問なんだけどよ。……ティノって、歳幾つなんだ? 見た感じ八歳か七歳っぽいんだけど、あってるか?」
軽いけど真面目な雰囲気で聞いてきたアクセルさんは、じっと僕の目を見てきて。
何故そんなことを聞かれたのかわかんない僕は、キョトンと首を傾げてみせて。
「あ、あー、えっと、今お前の事を紙に書き出してんだけどな。身長とか見た目は書けんだけど、やっぱ、年齢とかわかった方が色々と楽だろ? お前の両親を探すにしても、なんにしてもさ。
まあ、ホントはお前自身に書いて貰うのが一番なんだけど……お前、多分オレ達の文字書けねーだろ? 森で、その……あの文字書いたくらいだし。
それに、声も出ねーみたいだから、わかる範囲で教えてくれたら嬉しいなって、そう思ってさ。…………教えて貰っても、良いか?」
そう言われた僕は、『なるほど』と納得し。
首を縦に振ってから、両手を広げて『十』って伝えようとして。
「……あー、それは、『思い出すからちょっと待って』ってことか?」
――そうそう、今すぐ思い出すから……って何でだよっ!! 十歳だよ十歳っ!!
「ははっ、冗談だって! ……しっかし、十歳なのかぁ。てっきりオレ、八歳くらいかなって思ってたよ。背ぇ低いし、体重も軽かったし」
――わ、悪かったな背が低くて! この前百二十二センチになったばっかですよ、悪いか!!
そう思うから、僕はムカッとした顔でアクセルさんを睨み付ける。
ほんっとうにデリカシーが無いんだなって、身に染みて痛感もする。
――……背が低いの、気にしてるのに。
「ごめんごめん、そう怒んなって。……けど、そっか。教えてくれてありがとな」
そう言いながら紙へサラサラと書いたアクセルさんは、恐らくインクを乾かすためだろうか。紙を手でパタパタと扇ぎ、汚さないよう丁寧に机の端へと移動させる。
それから、引き出しから新しい紙を取り出し、また何かをサラサラと書いて、再び僕の方を見てきたわけだけど…………僕は、アクセルさんが机の端に移動させた紙を、凝視して。中途半端に……二メートルくらいの距離まで近寄ってるから、見えた『モノ』に注意を持っていかれて。
――……いや、だって……これ、子供の落書きじゃん。
そう、僕の目には……それが子供の落書きにしか見えなかった。
アクセルさんが書いたモノが、下手な落書きにしか思えなかったんだ。
――って言うか、僕、これ、どっかで見た気が……。
――でも、何処でだっけ? 確か、学校かどっかで……?
「どうしたんだ、ティノ? ……もしかして、この紙が気になるのか?」
そう言われた僕は、コクコクと頷きじぃっと紙を凝視して。
だからかアクセルさんは、僕を驚かさないようゆっくりした動きで、紙を僕に渡してくれて。
「……あー、一応言っとくけど、変な事は何にも書いてねーからな?
一番上に『名前が不明のため、ティノと呼ぶことにした』って書いてあって、後は、お前の身長とか髪の色とか目の色とか、とにかく『目で見て』わかる範囲でお前の特徴を書いてるだけだから。悪口とかそう言うのは書いてねーからな」
何て言うアクセルさんは、優しい顔をして……くれてたけど、僕は現在、それどころではなく。ってか、うん、あー……内容とか以前に、その、えっと……。
――そもそもこれ、文字じゃないよね? どう見ても絵だよね?
だってこれ、鳥やら魚やらのイラストが並んでるだけじゃん。
毛虫みたいなのとかマルバツ三角とか、どうやって読めって言うんだよ。
つーか、そうだ!
どっかで見たと思ったら……時々書いてあるの、これ、漢字辞典に載ってた『しょうけいもじ』とか言うヤツだ!
国語の先生がウンチクで語ってた、『こうこつもじ』とか『ひえろぐりふ』とか言うワケわかんない文字だよ、これ!
ってか、僕、読めないんだけど!
こんなもん、読めるわけないんだけど!!
なんて思うから、僕は驚いた顔で紙を見るしか出来なくなる。
当然のように書かれていたからこそ、頭が痛くもなってくる。
いや、だって、意味わかんないし。
何がなんだかチンプンカンプンだし。
もうこれ、冗談だって言われた方が納得できるもん。
『ドッキリでしたー!』とか言って、カメラとかプラカードが出てきそうなノリなんだもんっ!
――そうだよ、きっと、ドッキリなんだ。全部全部、ドッキリなんだよ、きっと!
なんて結論が出せたから、僕はチラッとアクセルさんの方を見て。
でも、僕を見るアクセルさんは……悲しそうな感じに、僕を見ていて。
「…………ティノ、あのな。えっと、その……な」
――へ? 何、突然変な顔して。
「…………ごめん、なんでもねぇ。……そうだよな、ちょっとずつ知っていく方が良いよな。お前にとっても、オレ達にとっても。
リズにも、言っとかねーとな……」
――……何が? 何の、話?
そう思う僕は、急に変わった空気にビクリとしてしまい。
アクセルさんは、軽く頭を左右に振ると、また明るい笑顔を浮かべて。
「ん……此方の話だから、そう不思議そうな顔すんなって。大丈夫、オレが全部なんとかすっから! お前は大船に乗ったつもりで、自由にしててくれたらいいぜ!
あ、だからってまた暴れんのは無しだからな!? お前が暴れると、オレがリズに怒られんだからな!? ……ホントに、アイツの拳骨痛ぇんだぞ? ただでさえバカなのに、これ以上バカになるのは嫌だからな」
不満そうな顔をしながら自分の頭を撫でているアクセルさんは、多分、本気であの拳骨が嫌ってわけじゃあないんだろう。きっと、僕に暴れて欲しくないからわざとこう言ったんだろう。……なんかこう、雰囲気が冗談っぽいし。お父さんもよく、こういうノリで「だからやっちゃダメだぞ?」って言ってきてたし。
だから、多分暴れても、許してくれるんだろうなって、そうは思う。
でも、うん……僕は、暴れないようにしようって、そうも思う。
ちょっとずつだけど、アクセルさんの性格、わかってきたし。
わかって来たから、ちょっとだけなら信じていい気も、してきたし。
――少なくとも、僕を心配してくれてるのは……理解できたしさ。
なんて思ったタイミングで、部屋の扉がノックされて。
さして間を置かずに、がチャリと扉が開けられて。
入ってきたのは、片手に大きなお皿を持った、リズさんで。
「ただいま、ご飯作ってきたよ。……あら、二人とも何してたの?」
「おうリズ、ありがとう。……ティノについてわかったことをまとめとこうって思って、色々と紙に書き出してたんだ。ティノ、十歳なんだってさ!」
明るい調子でそう言うアクセルさんは、多分、きっと他意は無かったんだろう。
けど、アクセルさんの言葉を聞いたリズさんは、意外そうな顔で『僕』を見て。……瞬間、何を思ったのかが……理解できちゃって。
「……へぇ、意外。てっきり七歳くらいかと……あ、いや、別にバカにしてるわけじゃないからね? だから、怒んないでティノくん、謝るから!」
――……ふんだっ! どうせ僕は、チビですよーだ。
「はは、そう拗ねんなってティノ。きっとすぐに、オレくらいの身長になれっからさ……っと、そうだ。
リズ、汚れた服は宿屋のおばちゃんが洗ってくれるみたいでさ、ティノが今着てる服も、『もう使わないし、良かったらこれからも使ってちょーだい』だってさ。『依頼』の他に、雨漏りとか床とかを直してくれたお礼だってよ!」
「え、本当!? あ、でも、それだと逆に、報酬をもらい過ぎちゃってるんじゃ……」
「大丈夫。リズもそういうと思って、明日オレとティノで風呂掃除することになってるから! な、ティノ!」
――え、聞いてないんだけどっ!?
突然伝えられた明日の予定にビックリしちゃった僕は、目を見開いてアクセルさんを見てしまう。と言うか、服とか借りてるだけだと思ってたし、いつの間にそんな会話がされたのかもわかんなかったし、もう、驚くしか出来ないんだけど!?
なんて思ったのが伝わったのか、リズさんはアクセルさんにジト目を向けて。
だからかアクセルさんは、慌てた様子で言い訳をはじめて。
「ちょ、おい、ティノ!? お前、隣でオレとおばちゃんの話聞いてたじゃねーか!! なんでそんな、『今はじめて聞いた』みたいな感じで驚いてんだよ!?」
――え、そうなの!? いや、ええっ!?
「いや、だからなんで驚いてんだっつーの!」
「はぁ……もういいわよ、なんとなくわかったから。……本当に、こんな調子で大丈夫なのかしら。不安しか無いんだけど」
そう言うリズさんは、手に持っていた大きなお皿を『果物っぽい何か』が乗ってるテーブルに置いて。
「残りも持ってくるわね」って言って、また部屋の外へと出て行こうとして。
「あ、オレも手伝うよ。料理すんのは下手だけど、持って運ぶくらいなら問題ねーし。ちょっと話もあるしな。……流石に、運んでる最中に真っ黒焦げにはならねーだろ」
「なったら怖いでしょ! ……えっと、ティノくんはゆっくりしててね、直ぐに持ってくるから。つまみ食いしたら、メッ、だからね?」
僕も手伝おうかと思って立ち上がろうとしたら、リズさんは、ウィンクをしながらそう言った。
無駄に可愛いしぐさで、つまみ食いへの忠告もしてきた。
だから僕には、戸惑った顔で二人を見送るしか出来なくて。
急に一人にされたから、少しだけ……胸がきゅっとなってしまって。
……なんとなく、心細い気までしてきちゃって。
――……いや、心細いって…………そんなの、当たり前、じゃん。
そう思う僕は、だからまた、天井に浮いているランタンを見据え。
部屋の窓の方へと、視線を動かして。
そうして、ずっと意識しないようにしてた、『ソレ』をしっかりと目に焼き付けて。
――空に浮かぶ月が『三つ』……しかも、『青』と『紫』と、『赤』色……。
見間違いだと思ったそれは、今も空に輝いている。
チラチラと視界に入ってたそれは、堂々と僕も照らしている。
三つが少しずつ重なるようにして、僕の姿を。
きっと今にも泣きそうな、僕の情けない顔を。
――……全部、夢なら……良いのにな。
そう思う僕は、だから両手で目をこすって。
何も知らないフリをして、アクセルさん達を待つことにした。
――――何にも気付かなかった、フリをして。




