3:ゆっくりと。
問三:気持ちの整理って、どうつけるんですか?
「それじゃあ、話を始めるわね?」
片付けて綺麗になった部屋の中で、リズさんは静かにそう言って。
ベッドに座る僕に向かい合う格好で、椅子に座って口を開いて。
「まずは……そうね、自己紹介からしましょうか。
私はリズ、見ての通り……って言ってわかるかわかんないけど、一応、旅をしているの。で、私の後ろに立ってるのが私と一緒に旅をしてる……」
「アクセルっていうんだ、よろしくな!」
そう言うアクセルさんは、人懐っこい笑顔を浮かべながら、僕に手を差し出してきて。
多分握手なのかなって思ったから、僕は、おずおずとアクセルさんの手を取って。
「それで、えっと……次は貴方の名前を聞きたいのだけれど……声、出る?」
そう言われた僕は、だから声を出そうと口を動かしてみたけれど……でも、やっぱり声は出てこなくて。
だから、首を左右に振って、『声が出ない』って口パクで伝えることにして。
「そっか……やっぱり、喋れないのね」
「ま、こればっかりはしゃーねーだろ。……あ、えっと、お前も、あんまり落ち込むなよ?
喋れなくたって言いたい事を伝える方法はあるし、オレ達も出来るだけ、『うん』と『いいえ』で返事出来るようなことしか聞かねーから。だから、そんな泣きそうな顔するなって……な?」
そう言うアクセルさんは、多分、僕の頭を撫でてくれようとしたのだろう。……だって、腕がそんな感じに動いたし、それにこういうタイプの人って、妙に肩を組んできたりなんだりしてくる印象があるし。何より雰囲気がお父さんに似てるから、こう……感覚的にわかるっていうか、なんて言うかさ。
でも、アクセルさんは途中で思い留まった。
不自然に自分の頭を掻いて、誤魔化した。
アクセルさんがそうした理由は……多分、僕がビクッとしたからなんだと思う。いや、僕はアクセルさんの事を詳しく知ってるわけじゃないから、本当は別の理由があるのかもしれないけど。……でも、小声で「ミスった」とかなんとか言ってるし、「怖がらせてどーすんだ」とかも言ってるし。だからきっと、そう言う事なんだろう。
この人、なんか嘘つくの下手そうだし。多分だけど、思ってることを全部口に出しちゃうタイプだと思うし。
――それに、なんとなく……お父さんに似てる気がするし。
そう思う僕は、だけども二人にはバレ無いよう自分の太ももをつねって。
変な事を考えてた自分に、『しっかりしろ』って言いきかせる。
――だって、この人達は誘拐犯かもしれないんだ。なら、疑ってなきゃ……隙を見せちゃ駄目だろ。
「……えっと、話を戻すね?
私達が貴方と出会ってからの事なんだけど……その、あの後貴方、急に気絶しちゃってさ。
どうも何処かで毒草に触れたみたいで、かなり熱が出ていたのよ。それで、その場で毒消しを飲ませて様子を見てたんだけど、どうにも具合が良くならなくってね。
だから、アクセルが背負って貴方を『トルイド』の町の宿に運んで……それから丸々二日間、貴方は眠り続けてた。つまり、貴方と私達が出会ったのは、二日前の夜って事になるの。此処までは、大丈夫?」
そう言われた僕は、若干驚きながらもなんとかコクリと頷いて。
聞きなれない言葉に、ふと、疑問を抱いて。
――『とるいど』って、なんだ?
熱が出ていたとか、丸二日も寝ちゃってたこととかは、正直どうでも良い。いや、お父さん達にその分たくさん心配をかけることになっちゃうから、どうでもよくは無いんだけど……でも、そこはほら、山で迷子になってる時点で一緒だし。それに、僕が早く帰って謝れば、何とかなると思いしさ。
だから、多分『今は』そこまで気にしなくていいと思う。
けど、だからこそ僕には、聞きなれない言葉が気になった。
リズさんはさっき、『とるいどのまち』って言っていた。と言う事は多分、『とるいど』っていうのは『町の名前』になるんだと思う。……けど、僕はそんな町の名前を、聞いたことが無い。と言うか地元の町も隣町も、その隣も隣もずぅっと隣も……そんな意味不明な名前じゃあ無かった筈だ。
――つーか、『とるいど』って何だよ。漢字でどう書くんだよ。
そう思った僕は、だから、訝しむような視線をリズさんに向けて。
なんだか胡散臭くなってきた話に、現実感ってのが感じられなくなってきて。
「……うん、やっぱり、そうなのね」
――……いや、何がだよ?
そう思った僕は、更に視線を鋭くして。
けれども次に出て来た言葉に、大きく目を見開くことになって。
「貴方は多分、『トルイド』っていう名前に聞き覚えが無いんじゃない?
それと、多分だけど……私の話を『胡散臭い』って思った。……違う?」
――……え? なんで……?
「お前に自覚があんのかどうか分かんないけど、全部表情に出ちゃってるぜ? ……まあ、オレも人のこと言えねーけど」
そう言うアクセルさんを見ると、なんか……微笑ましいモノを見るような感じに、笑っていた。
「わかりやすいんだな」とか言いながら、優しい顔をして微笑んでくれていた。
だからか、僕は急に恥ずかしくなって。
隙を見せないようにしてたのに、隙だらけだったことが悔しくて。
「……ま、そりゃあオレ達のことを疑ったりするよな、普通。
どう考えてもオレ達怪しいし。ってか、目が覚めたら知らない場所に連れてこられてたんだから、不安に思わねー方がおかしいよな」
そう言うと、アクセルさんは短く「ふっ」と息を吐いて頭を左右に振って。
おもむろに僕の前でしゃがんで、僕の手を優しく握ってくれて。
「お前の気持ちはちゃんとわかってっから、無理にオレ達を信じろとは言わねーよ。
けどさ、だからってわけじゃねーけど……お前ももっと気楽にしてくれていいんだぜ?
無理にオレ達の機嫌を取ろうとか思わなくて良いし、怖いんなら……泣いてくれたらいい。そうしてくれたら、オレ達はお前が落ち着くまでちゃんと待つし、なんだったら、部屋からも出ていくから。お前が『良い』って思えるまで、ずっと待っててやるから。
だから……あんまり我慢するなよ。大丈夫、オレ達は、お前を傷つけたりしねーから」
そう言ったアクセルさんは、僕に目線を合わせながら『にかっ』っと笑ってくれた。
僕を安心させたいんだって、嘘を吐いてないってわかる目をして、そう言い切ってくれた。
だから僕は、涙が出てきそうになって。
でも、『泣くもんか!!』って思って、我慢して。
――だって、悔しいもん。僕の事を分かった風に言われるのが、嫌なんだもん。
そりゃ、僕は確かに十歳の子供だよ。大人から見たら幼稚な考えしか出来てない気がするし、よく先生からも、「落ち着こうね」って言われるし。だから、きっと子供なんだろうさ。
でも、こんな見ず知らずの人に同情されるとか、すっごく嫌だ。誘拐犯かもしれないヤツに、こんなっ、全部わかられてるみたいに言われるのは嫌だっ!!
そう思うから、僕は『キッ』とアクセルさんを睨んで。
そうしたら、アクセルさんは苦笑いを浮かべて。
「……あちゃー、こりゃ、オレ、完全に嫌われてんな!」
「笑って言うことじゃないでしょ、もうっ!」
「だってしゃーねーだろ? こういうモンは気長にやってくしかねーんだし。
それによ、『ティノ』の事を思えばこそ、焦っちゃならねーってな!」
「それは、そうかもしれないけど…………ねぇちょっと待って。アクセル、『ティノ』って誰? まさか、この子の事を言ってるの?」
そう言うリズさんは、アクセルさんに詰めよって。
僕の事なんてそっちのけで、喧嘩みたいな会話をはじめて。
「ほら、やっぱ名前がねーと不便だろ? コイツだっていつまでも『お前』だの『貴方』だの言われたくねーと思うし、これからの事を考えれば絶対名前が必要になるしさ」
「それはそうだけど、でも、この子にだってちゃんとした名前があるはずでしょ!? なのに、いきなり変な名前で呼ばれたら気を悪くしちゃうじゃない!!」
「へ、変って……けっこー良い名前だろ!? カッコ良さの中に可愛いげがあるし、コイツっぽさが全面に出てるじゃねーか!! オレ、ネーミングセンスにだけは自信あんだぞ!?」
「あっきれた! どうせなら、チャウチャウとかポメラニアンとか、そういうのの方が可愛いじゃない!! 音の響きとか凄く綺麗だし、何より可愛いし!!」
「おまっ、そんなのゼッテーダメに決まってんだろ!? ティノだって男なんだぞ、将来を考えろ将来を!! ゴッツイおっさんが『チャウチャウさん!』とか呼ばれてたら怖いじゃねーか!!
な、お前もそう思うよな!? 絶対、ティノの方が良いよな!?」
「そんなこと無いよね!? 可愛い名前の方が、絶対良いよねっ!!」
咄嗟に壁際へ張り付くように逃げた僕へ、二人は鬼の形相で問い詰めてきた。と言うか、二人で僕に詰め寄ってくる姿が恐ろしくて、小さく「ひっ」と息を飲んだ音まで出してしまった。
けれど、二人はそんな事も関係ないって感じに、「カッコいい方が良い」だの「可愛い方がいい」だのと言い合って。と言うか、僕をそっちのけで口喧嘩をはじめて、僕から離れていって。
だから、しばらくぼうっと二人を眺めて。
なんかこう……漫才を見てる気分になって、気付けば、笑っちゃっていて。
――いや、だって……この人たち、変だもん。
真剣な雰囲気で話をしてた筈が、どーでもいいことで喧嘩するとかワケわかんない。つーか、こんな変な人達が誘拐犯とか……どんだけだよ。漫画でも滅多に見かけないよ、こんな人達。
そう思うから、僕は笑って。
声は出ないけど、なんかバカらしくって笑うしか出来なくて。
「……おいリズ、なんかオレ達、笑われてるぞ?」
「アクセルが変なこと言うからでしょ!? もう、せっかく色々と段取り組んでたのに!!」
「えっ、オレのせいっ!? ……おいティノ、今のオレが悪いのか!? 違うよな、ぜってーオレじゃねぇよな!?」
そう言うアクセルさんは、何故か真剣な表情で聞いてきて。
なんでそこまでムキになるのかわかんないから、僕は、ちょっとだけ悩む素振りをみせて。
アクセルさんが、あんまりにも子供っぽい言動を取るもんだから、僕はちょっとだけ、からかってみたいなって思った。それで、『どうだろ?』って言うみたいに肩を竦めてみたら、アクセルさんは「うわ、ひっでぇ!!」と言って物凄く落ち込んだ。しかも、その隣でリズさんが「ふふんっ」て鼻で笑ったから……なんか、お父さんがお母さんにおちょくられてる時のように思えて、また笑ってしまって。
――やっぱりこの人達、お父さん達に似てるや。
そう思った僕は、少しだけ、二人に対する警戒を解いても良い気がした。
こんなにも変な二人を疑う自分が、とてもバカみたいに思えた。
だって、どうみてもこの人達、人を騙せるとは思えないし。
このやり取りが全部嘘だったなら、僕には……この人達を出し抜ける気がしないしさ。
だから、今は疑うのを止めよう。
難しく考えるのは、止めておこう。
――出来ないことををやるより、まずは、自分に出来ることから……ってね。
そう思えたから、僕は、アクセルさんの方へと近寄って。
落ち込んで床に何かを描き始めたアクセルさんの頭を、よしよしと撫でてみて。
「…………なんかオレ、慰められてるはずなのに……すっげぇ惨めなんだけど」
「ふふっ、別に気にしなくても良いんじゃない? アクセルよりも、この子の方が賢そうだし!」
「…………言い返してーのに、何故か言い返せねぇ」
そう言うアクセルさんは、しばらくムスッとした顔で僕を見てきて。
でも、直ぐに「ふっ」て優しく笑って、僕を抱えながら立ち上がって。
――って、ちょ、いきなりなんなのっ!?
「取り敢えず、小難しい話は後にしてさ! 今は皆で飯でも食おうぜ?
ティノだって腹減ってるだろーし、つーかコイツ、二日間なーんも食ってねーんだろ? んな状態で難しい話なんかするもんじゃねーし、話もグッダグダんなってるし、何よりオレが腹減った。だから、食いに行こーぜ?」
そう言いきったアクセルさんは、抱え上げた僕に向かって、「ティノもそう思うよなー」っと明るい笑顔で話しかけてきた。と言うか、気付いたらものすごく馴れ馴れしい感じで接してきててビックリだし、つーか、この人、こう、距離が近くて苦手だ。物理的にもだけども、心の距離的なものがすっげぇ近くて超苦手だ!
なんか、こういうところもお父さんに似てるけど!
この無駄にグイグイ来る感じが、お父さんにソックリだけど!
――でも、だからって、僕を子供扱いすんなよなっ!!
そう思う僕は、じたばた暴れて降りようとして。
でも、がっちり抱えているアクセルさんの腕は、全く緩んでくれなくて。
「こらっ、暴れないの! ……アクセルも、早くティノく……じゃなかった、この子を降ろしてあげなさい。嫌がってるでしょ?」
「んー、嫌じゃねーよなティノ。そうだ、肩車してやろっか?」
――いや、止めてっ!? 部屋の中で肩車とか、ホントに止めてっ!!
「いたっ、わかった、わかった降ろすから髪の毛引っ張んなって!! ……ったく、ハゲになっちまうじゃねーか」
そう言うアクセルさんは、不機嫌そうではあるけれど……うん。なんとなくだけど、怒っているようには思えなかった。ううん、ちょっといじけているだけで、実際はなんとも思ってないのだろう。
僕の方を見て、また「ふっ」て優しく笑ってくれたし。
またグイグイ来るのかと思ったら、小さく「良かった」とか言ってるし。
それに、リズさんの方を見てみたら、リズさんもまた、アクセルさんと似たような表情で僕に優しく微笑んでくれていた。……こう、お母さんが僕を見てくれる時のような、温かい感じに。『安心できるなぁ』って思えるような、そんなふんわりした表情でさ。
だから僕も、気付けば普通に笑い返してた。
ガチガチに緊張してた筈が、いつも通りに戻ってたんだ。
そう、いつも通りの……僕に。
「んじゃ、改めて……飯食いに行くぞー!」
「はしゃがないで! ……ティノくんも、ごめんね? アクセル、お人好しではあるんだけど、妙に子供っぽくってさ。
……あ、えっと、ごめんなさい! アクセルがずっとティノティノ言うから、つい……嫌だったよね。ごめんね?」
そして、だからこそ僕は、リズさんの言葉に頭を左右に振って。
どうせ呼ばれ続けるんだろうなって思って、にかっと笑ってみせて。
――だって、お父さんも一度こうだって決めたら、変えないし。
――お母さんも、なんだかんだでお父さんの意見に流されるし。
だからきっと、この二人もそう言う関係なんだろうなって、僕は思う。口調も見た目も全然似てないけど、雰囲気なんかがそっくりだからこそ、僕は自分の予想が正しいんだって思える。
現にアクセルさんは、リズさんへ「ほら、ティノも気に入っただろ?」って言ってるし。
逆にリズさんは、「しつこく言うからでしょ!?」って怒ってるし。
なのに、二人ともギスギスした空気にはなってなくて。
むしろ二人の間には、温かい雰囲気がたくさんあるような気までして。
そういうところが、おんなじなんだ。
僕の大好きな、お父さんとお母さんと一緒なんだ。
そう、一緒なんだよ。
いろんなものが、一緒なだよ。
お父さんと、お母さんに。
僕の大好きな、人達と。
僕が会いたい、二人と。
――だから、会いたいよ……。
――お父さん達に、会いたいよぅ……っ!!
「お、おいティノっ!?」
「ちょっ、君、なんで急に泣いて……どうしようアクセルっ!? どうしたらいい!?」
胸の中に溜まった思いが溢れて、僕は、泣きたくないのにボロボロと泣いてしまった。
そんな僕を見て二人は戸惑うけど……戸惑い方がお父さん達と一緒で、だからまた、胸がきゅっと苦しくなる。
そりゃそうだ、当たり前だ。
怖くないわけ、寂しくないわけないだろ。
不安に決まってるじゃないか、辛いに決まってるじゃないか。
だって僕は……子供だぞ!?
普通に生きてた、普通の子供なんだっ!!
――なのに、なんでだよっ!!
――なんで僕が、こんな目に遭うんだよぉ……っ!!
そう思うから、僕はその場でへたり込んで。
鼻水と涙を拭いもせず、上を向いて泣き続けて。
――会いたいよぅ……お父さん達に、会いたいよぅ…………っ!!
けれど、そうして声も出せずに泣く僕へ、アクセルさんが近寄ってきて。
服が汚れるのも関係なく、僕を、ぎゅっと抱き締めてくれて。
「……だいじょぶ、大丈夫だから。ほら、ゆっくり息吸って、んで、吐いてー……大丈夫、大丈夫だから……な?
ちょっと、怖くなったんだよな?
少し、不安になっただけなんだよな?
なら、大丈夫だ。思いっきり泣いて、全部吐き出しちまえ。……大丈夫、一人で抱え込まなくていいんだ」
そう言って、アクセルさんは僕の背中を優しく叩いてくれたけど……僕は、しばらく泣き続けた。
溜まった思いを吐き出すように。
声は出ないけど、叫ぶように。
ただ泣くことしか、僕には出来なかったんだ。……だって僕は、本当は限界で。色んな事が怖くて、胸が押し潰されそうだったから。
だから僕は、泣きながらアクセルさんにしがみつき。
でも、『泣いてちゃダメだろ!』って、そうも考えて。
「……おい、ティノ?」
少しの間しがみついてから、僕はアクセルさんから離れる。
そして、自分の両目をごしごしとこすり、服の袖で鼻水も拭って。
頭を左右にブンブンと振ってから、ほっぺたを両手でしっかり叩く。
それから、ちょっと歪んだけど。
ちゃんと笑って、アクセルさん達を見るんだ。
僕はもう、大丈夫って言うように。
僕の思いを、伝えるために。
――そうだよ。僕はもう、平気だっ!!
「……そっか。ティノは、強いんだな」
だからかアクセルさんは、優しく笑ってそう言った。
「……そうね」
オロオロしていたリズさんも、安心したように笑ってくれた。
そうして、ちょっとだけ、静かに笑いあって。
でも、何かに気が付いたのか、リズさんはおもむろに口を開いて。
「…………ただ、うん。外でご飯を食べるのは、やっぱり止めておきましょうか」
「へ?」
――へ?
そう思う僕と、僕と同じようにキョトンとした顔をしたアクセルさんは、同時にリズさんへ振り返り。
すると、僕らへ満面の笑みを向けながら、リズさんは否定の出来ない『事実』を僕達に突き付けて。
「そんな涙と鼻水まみれの格好じゃあ、ご飯、食べに行けないでしょ」
「げっ」
――あっ。
「全くもうっ! ……もう遅いし、食べるものは私が準備するから、二人は早く服を着替えなさい。それと、ついでに身体も洗ってきておくこと!
……はい、わかったら返事!」
「あい!!」
――はいっ!!
「あと、アクセルはちゃんとティノくんの面倒を見ること! 今度暴れまわったら……わかってるよね?」
「あいっ!!」
そう返事するアクセルさんは、気を付けの姿勢で、更には冷や汗だらだらでリズさんに向き直り。
そばに居た僕も、なぜか背筋を伸ばしてビシッと気を付けの姿勢になっていて。
――いや、だって怖いもんっ! 空気がおっかないんだもんっ!!
溜め息を吐きながら外へと向かうリズさんを見送ってから、僕とアクセルさんは、同時に「はぁぁ……」と溜め息を吐き出した。それはまるで、僕とお父さんがお母さんに怒られたときの仕草と一緒で、でも、ちょっとだけ違うところもあって。
だって、お父さんは溜め息を吐いた後、いつも舌を出して笑ってた。
でも、アクセルさんは困ったように笑うだけで、舌を出したりはしなかった。
そんな違いを見付けた僕は、だからかもう、胸がきゅっとすることはなくって。……ううん、多分きっと、僕がアクセルさんを『アクセルさん』として見れるようになっただけなんだ。
僕が泣いたとき、お父さんはオロオロするだけだったけど。
アクセルさんは、オロオロしなかったから。
たったそれだけの違いだけど、でも、だからこそ『違う』ってわかったから。
――そう、『違う』んだ。『似てる』だけで、『違う』んだ。
そう思う僕は、だけども少しだけ、胸が軽くなっていた。
寂しい気持ちはあるけれど、それでも、ちゃんと笑うことが出来ていた。
――――無理する事もなく、ごくごく当たり前に。
取り敢えず、ここまで再投稿。




