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1:此処はいったい何処ですか?

 僕は、今年で十歳になる普通の小学生だ。


 運動も勉強もそこそこに出来て、クラスにはそれなりに友達も居る。おまけに両親ともかなり仲が良くて、毎日の生活に不満も殆ど無くて……うん。例えるなら、『絵に描いたような』っていうみたいな?

 そんな風に、とっても幸せな毎日を過ごしてきたのが、僕と言う人間である。


 で、まあ、そんな普通の小学生な僕には、昔から続けてる事があってさ。

 実は僕、毎月必ず一回は、家族みんなで山を登ってるんだ。


 これまでに登ってきた山の数は、一つ、二つ、三つ……うん、間違いなく、片手じゃ足りないね。いや、だってさ、地元の山は勿論だし、他の県にも何回も連れて行ってもらったし。

 それにさ、この前なんて、富士山に挑戦もしたんだぞ? どうだ、凄いだろ!! ……あ、いや、えーっと、流石にてっぺんには……行けなかったけど。でも、てっぺんにもうちょっとで辿り着けるくらいの高さまでは、登ったんだぜ。ふふん、どうだっ!!


 ――って、違う違う、そんな自慢はどうでも良いんだ。


 僕が何を言いたかったかっていうと、ハッキリと言っちゃえば、「僕は山登りに慣れてる」って伝えたかったわけだ。……だって、ほら、こんだけ自慢げに話せば、「自慢したくなるくらいに登ったんだね!」って言ってもらえそうだし。この前学校の先生に話した時も、先生、「ソレは凄いね」って優しく言ってくれたしさ。

 だから、うん! 僕は、山登りには慣れてるんだ。……慣れてるって、言っていいよね? 言っても良い事にしておこう、うんうんっ!


 と、まあ、僕の自慢話はここで終わって。

 こっからが本題、もとい大事なお話だ。


 お父さん達に連れられてたっくさん山を登ってきた僕には、お父さんから、耳タコでしつこく言い聞かされてきた言葉があるんだ。……そう、もう何回も言われてきて、その場でそらんじられるくらいに耳に残っちゃった言葉が。というか、夢にまで出てきそうな位言われてきた、大事な言葉があるんだよ。


 『どんなに上りなれた山でも、絶対に! なめてかかっちゃあ駄目だぞ?』っていう言葉がさ。


 あ、なんかこう言うと僕がお父さんの言葉を適当に聞いてたみたいに聞こえるけど、勿論僕だって、軽い気持ちで聞き流していたわけじゃあないよ?

 お父さんの事は大好きだし、だから疑ったこともないし。それに、山を登るときはちゃんと服装だって整えてたし、荷物だって、ガイドブックを見てちゃあんと揃えてたし。お父さん達の言いつけも守ってたし、うん。


 間違いなく、僕はお父さんの言葉を真剣に聞いていたはずだ。

 絶対に、軽い気持ちで聞いていたわけじゃあないんだ。


 ……けど、うん。

 ……多分、僕はさ。


 力いっぱい、自信満々に「ちゃんと聞いてた」って言ったけど、きっと、お父さんの言葉の意味を半分も理解できていなかったんだろうって、今はそう思う。

 ううん、理解した気になってただけで、本当は何も……なーんにも理解しようとしてなかったんだって、そう思うんだ。


 ――なんで、そう思うのかって?


「お父さん、お母さん……!! ずぴっ……お願いだがら、返事してよっ!!」


 ――だって、僕は今……。


 ――山で、迷子になっちゃってるんだもん。




 問一:此処は一体、どこですか?




「おどうさん……おがあざん……!!」


 俯きながら、泣きながら。

 涙でぐずぐずになりながら、そう呟いて。


 僕がお父さん達とはぐれてしまってから、いったいどれくらいの時間が経ったんだろう?

 朝にやってた天気予報通りに空は綺麗だけど、よく見れば、星の光がチラチラと見えている。というか、僕がはぐれた時にはギラギラと輝いてた太陽が、なんでか見えなくなっていた。……いや、うん、多分……単純に陽が落ちちゃっただけだと思うけど。まだ空が赤いから、夕日位なのかもしれないけど……森の中じゃ、水平線なんて見えないし。だから多分、きっと、そう言う事なんだろう。


「うぅ……ぐすっ……なんで、こんな事になったんだよぅ……」


 なんて呟いても、何かが変わるわけも無く。

 むしろよけいに寂しくなって、また涙があふれてきて。


 僕が覚えている限りだけど、僕には、自分が迷子になった原因が何一つ思い至らなかった。……いや、だってさ、僕ははぐれる直前まで、お父さんと手を繋いでいたんだよ?

 なのに、靴ひもが解けたことに気付いて手を放して、結び終わった途端にお父さん達が居なくなるとか、意味わかんないじゃん。つーか、顔を上げる直前まで笑って会話してたのに、顔を上げたら皆居なくなっちゃってるとか、わけが分かんないじゃん。……これが僕のせいだって言われても、僕には納得なんて出来ない。つ-か、納得できるわけないだろ、こんなの!!


 だって、足音だってしなかったんだぞ!?

 顔を上げるまでは、お父さんの息の音だって、聞こえてたんだぞ!?


 ――なのに、なんで消えちゃったんだよ。


 ――どうして、なんで!? お父さん達、どこに行ったの!?


 勿論さ、ボクだって当然、お父さん達を探したよ。今みたいに泣きながら、とにかく探さなきゃって思って、大きな声でお父さん達を呼んだりもしたよ。

 でも、僕が声を上げたら、僕の後ろで、急に『ガサガサッ』って音がして。

 だからビックリして、ゆっくりと振り返ったら、僕よりも数倍大きい影が見えて。

 その影が、のしのしこっちへやってくるのが、見えちゃって。


 だから、僕は全力で逃げたんだ。

 怖くて、だから、とにかく必死で走ったんだ。


 ――それで、それで……気付いたら、道も何もない、森の中に一人でポツンと立ってて。


 元の場所に帰るために、来た道を戻ろうとも思ったよ。でも、自分が何処から来たのかもわかんなくなっちゃってたし、あのでっかい影の事もあったから戻ることが出来なくて。

 仕方なく木の上から探そうともしたけど、僕、木登りなんてしたことないから木から落っこちちゃって。それで、腕とか足とか擦りむいちゃうし、落ちた時にぶつけて、すっごく痛くなっちゃったし。


 だから、今の僕はすごくボロボロで。

 歩くだけで体中が痛くなって、ずっと、泣くしか出来なくて。


「ずぴっ!! ……ぞうじゃないだろ、僕!! だいじょぶ!! 僕だっで、男だもんっ!!」


 そう言う僕は、涙を手でごしごしとこすって。

 ネガティブになってた自分のほっぺたを、両手で思いっきりひっぱたいて。


 僕は小学生だけど、だからってバカと言うわけじゃあない。

 泣いてたって何にもならないことくらい知っているし、ここで歩くのを止めたら二度とお父さん達に会えないかもって、そう思うくらいの頭はある。それに、早く逃げなきゃあの影に追いつかれるかもだし、そんなことになれば、非力な僕は多分助からない。……あの影が何かわかんないけど、そう思う。よくわかんないけど、立ち止まっちゃダメだって、そう思うんだ。


 だから、歩けよ、僕。

 手遅れになる前に、お父さん達を見つけるんだ。

 見つけて、こう言ってやるんだ。

 「勝手に居なくならないでよ!」って。

 「次、勝手に居なくなったら、嫌いになっちゃうぞ!」って。

 そうしたら、きっとお父さん達も、謝ってくれるから。

 僕の頭を撫でながら、「ごめん」って優しく、言ってくれるはずだから。


 ――そうだ、そうだよ。


 ――帰ったら、お父さん達にガツンと言わなくちゃ!!


 そう思う僕は、だからまた大声でお父さん達を呼んで。

 そうして歩いていたら、森の奥が……光っていることに気が付いて。


「……ぐすっ、ずぴっ! ……なんだろ、あれ」


 木々の間から見える光は、どうやら、沢山の色に変わっているらしい。

 と言うより、こう、水に何かが反射しているみたいっていうか、こう……万華鏡みたいっていうか。


「……水、の音?」


 ふらふらと、ゆっくり近づいていくと、僕の耳に『ざああああっ』と川が流れる時の音が聞こえて来た。

 どころか、水の臭いっていうのか、こう、川ぞい独特の臭いまで強くなってきた。

 だから僕の足は、自然と早くなっていって。

 水筒も飲み干しちゃってたから、急に、水が飲みたくもなって来て。

 だからこそ、気付けば僕は、音の方へと全力で駆けだしていて。


 でも、僕の足は、途中で止まった。

 目に入ってきた光景に、立ち止まるしか出来なかった。


 ――だって、だって……しかたないじゃん!!


「うっはぁぁ…………っ!!」


 ――だってさ、僕の目の前には。


 ――何とも奇妙な、虹色の、空に落ちていく滝があったんだから!!



「……って、いや、いやいやいや!! ちょっと待って!?」


 そう言う僕は、何故か誰かにツッコミするような体勢になって。

 頭を左右に振ってから、自分の目をごしごしとこすってみて。


「……夢、じゃ、無い…………よね?」


 何度瞬きしても消えないから、確かめるようにほっぺを叩いてみたけれど、うん。……目の前の滝は、変わらず空に落ちて行ってるね。ってか、うん……落ちてるっていうより、こう、登っていってるよね。

 だってこの川、途中で地面から離れちゃってるし。弓なりって言う感じで、地面から空に向かって流れて行ってるし。……だから、そうだね。多分、落ちてるんじゃなくて、登っていってるんだろう。あ、いや、空から見ると、やっぱり空に落ちてきてるってこと、なのか? よくわかんないけど。


 なんて思いつつ、僕は滝の方へと歩いて行って。

 けれども、何とも不思議な事に、僕は滝に近付けなくて。


 目の前にある筈の滝は、どういうわけか、歩いていた僕の後ろ側に移動していた。ううん、滝が動いてるっていうより、僕が、いつの間にか滝を超えちゃってるって言った方が良いのかもしれない。……それこそ、こう、小説を読んでる時に、間違えて三ページ位めくっちゃった、みたいな? そんなコマ落ちみたいな感覚で、滝を通り過ぎちゃう、みたいな?


 ――いや、いみわかんねっ、……あれ?


「……、…………っ、……?」


 そう『言う』僕は、だけども口をパクパクとさせるだけで。

 確かにしゃべったはずなのに、僕の口から声は出てこなくて。


 ――……は? え、いや……へ?


 一度呼吸を落ち着けてから、何度も声を出そうとするけれど……僕の口から声は一切出てこない。

 『あいうえお』から始めて、思いつく限りの言葉を叫んでも見るけど、やっぱり声は出てくれない。

 と言うより、口から「はふはふ」と息が出ていくだけで。声帯とかいまいちよくわかんないけど、とにかく、僕の喉は何の音も発してくれなくて。


 ――ちょっと待ってよ、おかしいだろこれ!?


 何度繰り返しても声が出てこないから、僕は、だんだんと怖くなってきた。つーか、こう、ちゃんと考えたいのに、頭が全然思った通りの事を考えてくれなくて。だから、今だって、自分が何を考えてんのか、よくわかんないし。……っていうか、とにかくもう、怖いし、泣きたいし、だって、僕……っ!!


 そう思う僕は、だから、お父さん達を呼ぼうとして。

 でも、そこで改めて、自分が迷子だったことを思い出して。


 ……そんな時だった。僕の後ろで、また、草むらが『ガサガサッ』と揺れたのは。


「ひゅっ!!」


 びっくりして息をのんだ音が、僕の耳に届く。

 数泊遅れて、その音が自分の喉から出て来たんだって、理解する。

 そして、ゆっくりと……ゆぅっくりと首を回して、草むらの方を見て。

 唾を飲み込んで、両手を胸の前でぎゅっと握って、僕は静かに草むらを見る。

 何が居るのか、瞬きもしないで見定めようとする。


 けれども、そうして恐怖に襲われていた僕は、出て来たモノに呆けてしまい。

 いいや、熊とかいろんな事を想像したからこそ、一番会いたかったものに出会えてホッとしたんだ。


「こんなところに……子供?」


 ――だって、僕の前に出てきたのは……どう見ても人間で。


「…………まさか、迷子?」


 ――さらに言えば、優しそうな雰囲気をした……お兄さんとお姉さんで。


 だから、僕は物凄く安心して、涙があふれてくるのを理解して。

 でも、お兄さん達の『服装』を見て、近寄ろうとした足を止めて。


 ――……なんでこの人、『剣』なんてもってるの?


 僕には剣の知識なんてないけど、どうみても、お兄さんの腰に有るのは剣だった。いいや、ゲームで見慣れていたからこそ、僕には、お兄さんの腰に有るモノが短剣としか思えなかった。

 だって、お兄さんの服装は、どう見ても『冒険者』っていうべきもので。と言うか、ファンタジーゲームに出てくる『勇者』と言うか『主人公』と言うか、とにかく日本ではまず見ることが出来ないモノだから、剣って思うとしっくりくるんだよ。……胸にある金属の板とか、厚手の手袋とか、籠手とか脛あてとか。そう言うのがあるからこそ。


 それに、お兄さんの隣に立っているお姉さんも、変だ。


 ここは山の中だから、まだお兄さんの格好は分からなくも無い。コスプレとか言われたら納得できるし、お母さんの友達がそう言うのが好きだから、僕も一回、着たことがあるし。だから、こういう森の中で着ると雰囲気が出るんだろうなって、そういう気持ちは分からなくもないし。

 でも、このお姉さんはおかしい。

 どう見ても、おかしいとしか言えない。

 森の中に……と言うか、山の中にワンピース一つで来るとか、小学生の僕でも「山を舐めてんのか」って言いたくなる。つーか、そんな格好で森の中に居るのに、どうして『これで当たり前』と思えてしまうのか、全くもって意味が分からない。……だって、ほら、僕は自分でもおかしいって思っているのに、何故か当たり前とも思っちゃってるし。そう言う謎の説得力があるから、僕にはただただおかしいとしか言う事が出来ないんだ。


 ――つーか、なんでこのお姉さん、髪が『青』なんだ? なんで、髪の毛が『光ってる』みたいに見えるんだ?


 だからこそ、僕は逃げるように、一歩後ずさり。

 でも、ようやっと出会えた『人間』だから、走って逃げることも出来なくて。


 ――だって、ここでまた一人になったら、今度こそ僕は戻れなくなるかもしれない。


 山の中を一人で歩き続けるのは、もう嫌だ。

 あの一人ぼっちの寂しさは、二度と味わいたくなんてない。

 強がって堪えてたけど、本当は、ただ怖くて恐ろしかったし。

 胸がきゅっとしまって、死んじゃいたいくらいにつらかったし。

 それに、僕は早くお父さん達に会いたい。

 お父さん達に会って、抱きしめて欲しいんだ。


 だって、怖いから。

 怖くて、寒いから。

 だから、帰りたいんだ。

 あの、温かい毎日に。

 

「…………君は、どうして此処にいるの?」


 そう言われた僕は、だからビクッと、身体を振るわせて。

 恐る恐る声を出そうとしたけど、声は全く出てこなくて。

 だから僕は、震えながら口をパクパクと動かし。

 ただただ泣きそうな顔で、声がでないって伝えようと躍起になって。


「……声、出ないんじゃねーか?」


 お兄さんがお姉さんにそう言うのを聞いた僕は、だから、一度コクリと頷く。

 頷いた上で、もう一度口をパクパクと動かす。

 声が出なくても、口の形でわかってくれるんじゃないかって、そう思ったから。

 僕が困ってるんだってことを、なんとしてでも解って欲しかったから。


 そんな僕を見るお姉さんは、少しの間思案するような顔をして。

 突然、何かをひらめいたような表情に変わって。


「あのっ……えっと、あー……君は、読み書きは出来るの?」


 そう言われた僕は、今更ながらに文字を書けばよかったんだって気が付いて。

 お姉さんの言葉にコクコクと二回うなづいてから、手近な石を手に持って。


 僕の名前や家の住所とか、とにかく、思いつく限りの僕の情報を地面へと書いていく。

 お父さんとお母さんの名前と、僕の通ってる小学校の名前とか、とにかく、僕が何者なのかを知ってもらえそうな事を地面へ書き殴っていく。……だって僕、テレビで「迷子の時は名前とかを警察に言うんだ」って言ってるの、聞いたことあるし。お姉さんたちは警察じゃあないけど、僕にとっては、僕を助けてくれる唯一の人間だし。だから、言わなきゃダメなんだって、そう思ってさ。


 ――そうだ、これでやっと、僕は助かるんだ。お父さん達の所へ、戻れるんだ!


 なんて思いつつ、最後に『助けて下さい』って書いた僕は勢いよく顔を上げて。

 でも、そうして二人の顔を見た僕は……呆けた顔しか出来なかった。


 だって、お兄さんは、お兄さんは……。


「……なんだ、これ? 文字……なのか?」


 そう言って、首を傾げて不思議そうにしていて。

 それに、お姉さんは、お姉さんは……。


「……まさか、これって」


 そう言って、口を手で押さえて驚いて。

 そうして、僕と文字を交互に見比べて。


 僕には、二人がどうしてこんな反応をしたのか、理解が出来なかった。

 僕の行動の何がおかしかったのか、全く思い当たらなかった。

 何故なら、僕が書いたのは……日本人なら誰でも描けるだろう、平仮名と漢字で。

 ちょっと汚いかもしれないけど、誰でもが読める、ちゃんとした日本語のハズで。


「……リズ、これ読めるのか?」


「ううん、私にも読めない……でも、見たことはある。

 確かこれ、『古代文字』よ。何千年も前に使われてた、古い文字よ」


「はぁ!? 古代!?」


 そう叫んだお兄さんは、本気で驚いてるって分かる顔をして、僕の方を見て来た。

 つづけて、お姉さんの方が……僕へ疑うような視線を向けても来た。

 けれど、僕には意味が分からなくて。

 二人の表情が、何故か異様に恐ろしく感じて。


 ――だって、こんなの、わけわかんないよっ!!


 『古代文字』って、一体なんだよ!!

 何千年も前に滅んだって、どういう事だよ!!

 僕の書いた文字は、普通に普通の日本語だよね!?

 小学校で習えるような、そんな簡単な日本語だよね!?

 確かに、僕の字はあんまり綺麗じゃあないのかもだけどさ!!

 でも、それでも僕は、ちゃんと日本語、書いた、はずだよね!?


 そう思うから、僕はまた地面へガリガリと文字を書いていく。

 平仮名だけとか、学校で習ったばかりの漢字を使ったりとか。

 とにかく読んでもらいたくて、たくさんたくさん文字を書いていく。

 泣きながら、泣きじゃくりながら。

 とにかく怖いから、安心したくて書いていく。


 けど、そんな僕の手を、お姉さん……リズさんは優しく掴んで。

 急に掴まれた僕は、だからビクッと、身体を跳ねさせて。


「……ごめんなさい。私達には、貴方の書いたものが、読めないの。……本当に、ごめんなさい」


 ゆっくりと顔を上げれば、お姉さんが申し訳なさそうな……いいや、泣きそうな顔でそう言った。

 首を左右に振って、もう一度「ごめんなさい」って、そう言ってきた。

 だから僕は、お兄さんの方にも目を向けるけど。

 お兄さんもまた、首を左右に振って。

 小さい声で、「ごめん」って、そう言って。


 ――ごめんじゃ、ないよ。だって、僕はっ……!!


 どうしてこんなことになったのか、僕には何も分からない。

 僕が悪いのか、それともそうじゃあないのか。

 だって、僕は只の子供で。

 子供の僕に、何かが出来るわけが無くて。

 だから僕は、ただ泣くことしか出来なかった。

 声が出ないから、静かに泣き続けるしか出来なかった。


 そして、だからか頭が、くらくらとしてきて。

 目の前が、ぐるぐると回り始めて。


「……っ、おい、おい!! しっかりしろ!!」



 ――最後にそんな言葉を聞いて、僕は、気を失った。


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