1、スローライフを送りたい
国土こそ小さいものの、東の大帝国に負けず劣らずな王国があったーー
古ロスニア王国、金銀財宝で作られた町並みは旅する者を驚かす、一夜富豪の夢に浸れるこの国の、煌びやかさとは程遠い、辺境、スワロー地方、地方を治める名門錬金術師一家の末娘として生まれた、
エイル・フローレンスはスローライフを送りたいーー
「ごみでも食ってればぁ?素質泥棒さん?」
そういって、くすくすと笑う
(あー面倒くさい)
私より二つ上の姉、アイル・フローレンスには錬金術の素質がない、その代わり私には国の錬金術師も驚くほどの素質あった
姉は私が素質を奪った、と考えている、迷惑な話だ、1歳ごろから開花した能力を数年前に生まれていた姉から奪った、など、ありえる話じゃあない
けど、本当は分かっている、姉には、はけ口が必要なのだと、この戦乱の時代、名門にあるまじき、役に立たない、普通の人間として生まれてしまった姉には
(徴兵もされないし、うらやましいぐらいなんだがな)
さっきの傲慢な態度とは打って変わって背を向けてあるき去る、姉の背中はずいぶん小さく思える
(父さんも自分が輝ける場所で輝けばいい、といってたのに)
エイルは短いため息をつく
今、父と母は家にいない、大帝国との戦争にいった
もうすぐ、自分も呼び出しを食らう
(いけない事は分かっているだろうに)
頭で理解していても、本能がそうはさせないのか
「わかんないなぁ・・・」
腕を組んでうなっても分かりはしない、その点、錬金術は楽だ、式は嘘をつかない
一人、平和な辺境の地でスローライフを過ごす、そんなささやかな夢をエイルは胸に秘めていたーー