将軍イデア
それは、部屋の中にてシスネ達が寛いでいる時に訪れた。
まず最初に訪れたのは、「お待ちください!」という部屋の外から届いた慌てた様な男の声と、ドタドタと騒がしい足音。
それの次に訪れたのは、
「待たねぇよ、っと!」
そんな大きめの声を上げながら、部屋の扉を蹴り飛ばしてはいって来た一人の若い女性。
突然の荒々しい乱入者に、おやつのフルーツにパクついていたミナがびっくりして喉を詰まらせ、激しく咳込んだ。
今はミナなどどうでも良いと、咳込むミナをほったらかしにしたパッセルが、素早くシスネの前に体を滑り込ませる。
乱入者と対峙する。
「おーおー、来たばかりにしては随分と物が多い部屋だな」
対峙し、自らに威圧的な視線を向けるパッセルなど目に映っていないかの様に、その乱入者は部屋の中を見渡し、感想を口にした。
「お待ちください! いくら閣下といえど勝手に会うのは」
「うるせぇな。お前ちょっと引っ込んでろ」
僅かに遅れて部屋の中に入って来た兵がそう諌めにかかるが、女性は心底鬱陶しそうな顔をして兵の腹をおもいっきり蹴飛ばした。
くぐもった鈍い音が部屋に響き、兵が部屋の外へと飛んでいく。少し遅れて大きな質量の物が壁にぶつかる音。
兵を力づくで排除した女性は、そのまま部屋の扉を乱暴に閉めた。鍵を掛けるのも忘れない周到振りであった。
「よし! これで邪魔者は―――」
女性を呼ぶ声と、ドンドンと扉を叩く音を聞きながら、晴れやかな笑顔を見せた女性だったが、自分に青い顔を向ける女性と目があって言葉を止めた。
「イデア将軍。中央へお戻りになられたのですね」
青い顔をした女性―――刻まれたシワを一層深くして冷や汗をかくニーナがそう口にした。
「え~っと、確か城付きの教育係―――だったか?」
「はい。ニーナと申します」
青い顔をしたまま、しかし、慌てた様子は見せずに丁寧な物言いでニーナが返す。
「ああ、そんな名前だったな――――して? ニーナ殿はどうしてここにいる?」
ニーナはすぐに答えない。
答えられない。
まさか悪魔の姫君と親睦を深めようと(気に入られようと)、暇をみてはちょくちょくこうしてシスネの元へ訪れているとは口が裂けても言えない。
シスネに敗北したニーナ。
悪魔に敗れたニーナ。―――もっとも、シスネはニーナと勝負した記憶など全く無いのだが―――
そんなニーナは、王国の中ではごく少数派のシスネ支持者である。
しかし、ニーナはそれを隠している。
仮にも城遣えの者が悪魔と仲良しこよしなど、本来ならば有り得ない事であるからだ。
バレたらどんなお叱りを受けるか分からない。
城遣えを解雇。
解雇で済めばまだ良い方で、最悪処刑―――
そんな風に考えていたニーナであるので、乱入者―――しかも事もあろうに、王国の軍人で、『東の英雄』とまで称されるイデア将軍に、その事が露見してしまった。
イデア将軍は気性が荒い軍人として有名だった。
しかしながら、若くしてその確固たる実力とカリスマをもって軍団を束ねる猛者である。
戦場の事などニーナは知らないが、話に聞くには、この将軍は指揮官でありながら前線に出たがる過激な将軍として知られている。
彼女の腰に揺れている銀の装飾が施されたきらびやかな剣。
英雄だけが持つ事を許されるという『聖剣イプシロン』。
そんな聖剣を掲げ、先陣をきって敵に突き進んでいく様は、まさに戦乙女と呼ぶにふさわしいと、軍属の誰もが口を揃える。
指揮官でありながら前線に立つ彼女を、若さゆえの血気盛んさと小馬鹿にする者もいるが、共に戦場に立つ部下達にしてみれば、大将自らが戦場を駆ける勇猛果敢な姿は、なんとも頼りになると大変好評価であり、大きな支持を得ていた。
加えて、男勝りな口調と性格が相まって、苛烈が服を着て歩く様だとまで言われるイデアではあるが、その実、大変仲間想いな将軍としても知られている。
戦場の苛烈な振る舞いと、口の悪さの中に見え隠れする慈愛に満ちた献身的態度。
それが部下達に「この将軍となら」と思わせるだけの盲目的なカリスマを生み出す。
しかもそれが、美しい容姿の若い女性とあれば、部下の士気も自然と高くなる。
イデア将軍率いる常勝無敗の王国精鋭部隊は、そうして出来上がった。
強さと美しさ、そしてカリスマをもって、四人いる将軍の内で王国の中では最も民衆人気が高く、最も部下に慕われる将軍。
それがこのイデア将軍という人物である。
そんなイデアだが、男勝りがたまにキズ。
むしろそこが良い、と惚れ込む物好きもいるのだが、部下達は、あくまで軍人としての彼女に惚れ込んでいるだけで、彼女を異性として意識して接してはくれない。
であるからして、彼女に浮いた話など全く無い。
表には決して出さないものの、自分はこのまま婚期を逃すのかとイデアは自分の将来について日々頭を悩ませていた。
イデアの隠れた悩みはともかくとして。
そんなイデア将軍にバレたのだ。
苛烈、過激、勇猛、勇敢―――。およそ戦場の兵を讃える形容詞の全てを網羅するのがこの目の前の将軍である。
――――この場で打ち捨てにされるかもしれない。
いくら貴婦人然としたニーナであっても、この状況、この将軍の前で青くなるなというのは無理であった。むしろ、取り乱さなかっただけ良く出来た方である。
イデアがじっとニーナの顔をしばらく眺める。
と、
「ミセスニーナには、出来の悪い私の補習授業を見てもらっていました。―――ミセスニーナ。ありがとう。もう結構です」
青い顔をしたニーナに、シスネがそう助け舟を出した。
それでもイデアは訝しげな表情を崩さず――――小さな息をついた。
「まあいい……。ニーナ殿」
「はい」
「悪いがランドール卿と話がしたい。席を外してくれるか?」
この場で斬り殺されるとばかり思っていたニーナが意外そうな顔を作る。
しかし、殺されないならば御の字。
不自然で無いようにシスネが上手く誤魔化してくれたお陰だろう。
ニーナは心で深くシスネに感謝した後、イデアの気が変わる前におとなしく従うのが得策だろうと、「では、わたくしはこれで」とシスネに一礼し、すれ違い様にイデアにも一礼。
そうして素直に扉の鍵を開けて出ていった。
ニーナがイデアに一礼した頃、
シスネ達にも動きがあった。
「パッセル。ミナ」
ケホケホとまだ少し咳込むミナの背中を撫でながら、シスネが二人の名を呼ぶ。
「すいませんが、二人も外してください。扉の前で待機していてくれると助かります」
ミナは咳込みながらもコクコクと頷く。
パッセルは、少しだけ何かを考えた後、「分かりました」と素直に応じた。
そうして、ニーナの背中に続くようにミナとパッセルが部屋を出ていく。
イデアとすれ違う時、クンクンとミナが鼻を鳴らしていた。
三人が出て行った部屋の中には、シスネとクローリ、そしてイデアの三人が残っている。
三人だけになった途端、用心深いのか、イデアはまた扉の鍵をカチャリと閉めた。
鍵を閉めたイデアは、踵を返すとそのままゆっくりとシスネ達の方へと歩みを寄せた。
イデアは足を動かしながら、腰に提げていた聖剣イプシロンを引き抜く。
そうしてイデアは、シスネの前まで来ると、聖剣をゆっくりとシスネに突きつけた。
シスネは無表情で立ち尽くしたまま、イデアのその一連の動きを静かに見ていた。
将軍イデアには3つの顔がある。
幾万の王国の兵を率いる軍人としての表の顔。
結婚出来るのか―――それ以前に恋人が出来るのかと悩む乙女のごとき裏の顔。
そして―――
「お久しぶりです。シスネ様」
「久し振りですね。イデア」
ランドール出身の両親を親に持つ『カモ』としての顔である。
聖剣を鞘ごと引き抜き、刃のある側を自分の方へと向けて、シスネへと差し出したイデアは、シスネが剣を受け取った事を認めた後、そう告げて膝をついた。
シスネと久方の再会の挨拶を交わした後、イデアは片膝立ちのまま顔を上げ、クローリを見た。
「先生も、お久しぶりです」
「元気そうね。随分活躍してるそうじゃない。私も鼻が高いわ」
「いえ。これも先生のご指導あっての賜物です。―――それと、すいません。先程はお見苦しい態度をお見せしてしまって」
「いいのよ~。こっちでの立場もあるでしょうに。―――ほら、立って頂戴」
クローリに促されてイデアが立ち上がる。
「相変わらず、あなたは真面目ですね」
無表情で、しかし柔らかい口調のシスネがそう言いながら、両手に抱えていた剣をイデアへと返した。
「母に似たのでしょう。まあ、明るい母と違って真面目だけが取り柄ですが」
そう述べて、イデアが笑う。
イデアはシスネから返還された剣をまた腰に提げ直すと、少し真面目な顔を作る。
「父から、シスネ様が中央に行くという報告を受けた時は、またいつもの冗談かと思いましたが……。本当においでになるとは」
イデアはそこで一拍置き、
「仕事で遠方に出ていたのですが、ランドール改革の話を耳にして、すぐにこっちへ戻って参りました」
イデアが告げると、正面の二人が不審な顔つきを見せた。
「ランドール改革とは?」
シスネから返って来た言葉に、今度はイデアが不審な顔をする番であった。
しかし、すぐにイデアは驚きの表情を浮かべる。
「まさかご存知無いのですか!?」
イデアの言葉にクローリがやや険しい表情を作る一方、シスネはいつもの鉄仮面を張り付けたままであった。少なくとも表面上は。
「詳しく話してください」
シスネが急かすでもなく促すと、イデアは大きく頷き、自身の知る限りの王国主導によるランドール改革についてを話し始めた。
☆
イデアの話を聞き終わっても、シスネはその鉄の表情を崩す事は無かった。
無表情のまま、ただ小さく「そうですか」とだけ呟いた。
「申し訳あります。強引な形だろうとは思いつつも、私はてっきりシスネ様の承諾を得てのものとばかり思っていて……。まさかアルガンがそんな強行策を取るとは」
「まあ、強引には違いありませんが、どちらにしろそういう話が来たならば街以外は全てくれてやるつもりでしたから」
「え? そ、それは……」
シスネの意外な言葉にイデアが驚き顔を見せる。
一方で、クローリもシスネと同じくイデアの話にあまりショックを受けている印象ではなかった。
「シスネ様は、元々アルガンに渡すつもりであったのでしょうか?」
「ええ。―――逆境の中でアレが王位に就くには、相応の手柄が必要でしょう。未来の夫が王にならなければ、私がここに来た意味がありません」
「それは……そうかも知れませんが」
イデアが何か言いたげにそう言うと、シスネが少しだけ逡巡する。
少しの間のあと、
「……中央に来て以来、アレと何度か話をしました。―――まあフィアンセとの仲睦まじいコミュニケーションというやつです」
珍しくシスネがそんな冗談を口にしたが、クローリはおろかイデアもピクリとも笑わなかった。
普段、粛々と真面目に物事に取り組む人が冗談を言うと、それが冗談なのか本気なのか、周囲は大変に迷う。
しかも、自分より上の立場であればなおのことその迷いは大きい。
笑っては失礼なのではないかという思いが、場に居心地の悪い空気を作り出す。
加えて、例え冗談だとハッキリ分かっていたとしても、そもそも面白くないという根本的な問題に直面したりする。
しかし、そこはまあ、氷の姫君と揶揄されるシスネである。
自身の冗談で場に全く笑いが生まれなくても、駄々滑りしても、かくあるべきとばかりのポーカーフェイスを浮かべている。
自分で愛想笑いのひとつも浮かべて雰囲気に媚びたりはしない。屈しない。
ただちょっと―――心の中で言った事を後悔するだけだ。
そして、淡々と物事を進められるイメージはこういう場では役に立つ。
まるで何事も無かったかの様にシスネは続ける。
「話をして思ったのですが、アレは自分を演じている気がありますね」
「演じている? アルガンがですか?」
「はい。あくまで勘の様な物なので確証などありませんが、私はそういうモノには敏感です。なんとなく、嘘だろうというのが分かります。アレは王位以外に何か目的があるようです」
「王位以外ですか? ―――まさかランドールを」
「私も最初はそう思いました。ランドールを破滅させる様な物かと……。それで、更にコミュニケ―――色々と質問してみたのですが、どうもそういう感じではない様です」
「……なんでしょうね? 私には心当たりありませんが……」
眉を僅かにひそめたイデアが呟く様に応える。
そもそもイデアは、アルガンのあの暴君の様な態度が演技だというのもにわかには信じられないでいた。
いたのだが、イデアも同じ様にシスネ達の前と王国の中とでは性格が全く違う。
将軍イデアを演じている。
本来のイデアは、王国で評価される様な苛烈が服を着て歩いている、ようなタイプではなく、真面目で、努力家で、他者への対応も丁寧だ。
自身は『カモ』として王国に入り込んでいるので、演技をする事に不自然さは覚えないが、アルガンが演じる理由は思い当たらない。
まあ、演技ならば本性は隠しているわけで、そうであれば思い当たらないのは当然であるのだが……。
そんな半信半疑であるイデアの心中を察してか、シスネが空気を変える様に言葉を発する。
「どうであれ、私は王妃にならねば本格的には動けません。ただ悪魔の姫君という肩書きだけしか持たない今の私の言葉には、価値がありませんから」
同意する様にクローリが頷く。
クローリは「そうねぇ」と呟いた後、先程の話で疑問に思っていた点を口にする。
「ただ、半分なのよね? ちょっと想定外かしら? ―――それってどうなの?」
尋ねられたシスネは、一度だけクローリを横目に見て、それから少し考える素振りを見せた。
「条件の中に『規模』は含まれていません。大丈夫だとは思いますが、カナリアに確認を取ってみない事には」
クローリの「半分」や「想定外」の意味は理解出来なかったイデアだったが、シスネの言葉には反応した。
イデアは、「それでしたら」と告げた後、魔法を行使した。
イデアが使ったのは『大沼蛙の腹袋』という、魔法生物の中に物を保存しておく事の出来る拡張魔法。
イデアが魔法を行使した途端、その手のひらに茶色い蛙が何処からともなくピョコンと現れる。
現れた蛙は、プクリと頬を大きく膨らませると、口から拳大ほどの水晶玉を吐き出した。
「私のをお使いください。既に認可を受けた水晶なので、これなら中央の外とも連絡が取れるかと」
イデアが手にした水晶玉をシスネへと差し出す。
「ありがとう。助かります。ですが、それには及びません―――クローリ」
聞いてクローリが小さく頷き、部屋の隅にあった棚へと向かった。
クローリは棚の引き出しを開けると、奥の方から水晶玉を掴み出した。
「まさか認可済の?」
「ええ。パッセルが―――さっきいたハトの子が手に入れて来た物よ」
「意外……ですね。シスネ様の手に渡らぬように徹底されていると聞き及んでおりましたが……」
「親切な方から頂いたそうです」
「そう……ですか」
シスネの言葉を真に受けたわけでは無かったが、イデアは特にそこを言及しようとは思わなかった。
むしろ、「ああ、中央にそんな親切な奴がいたんだな」と納得するように自身に言い聞かせた。
ランドールの子飼い達は、大きく分けて2つ。戦闘を主とする70人の『カラス』と、屋敷仕えの30人の『ハト』で構成されている。
ただし、細かく分けた場合、その2つ以外にも大きな違いが両者には存在する。
それは、クローリとカナリアという二人の教育者の考え方、育て方による違いのようなもので、カラスが戦闘にのみ重点を置いて育てられたのに対し、ハトは戦闘面以外の『万能性』を視野に入れて育てられた事である。
屋敷仕えという事で家事全般は当然の事として、それ以外に、例えばそれは、ミナのように鼻の利く者であったり、パッセルのように諜報に長けた者であったりという、言わば「才能」という個性である。
カナリアは、ハトを育てる際に個々人の持つその才能を伸ばす育て方をした。そして、逆にそれ以外の才能の無い部分は全て切り捨てた。
欠点の改善を放棄し、才能にその努力の全てを傾けさせたのである。
カナリアが考える『ハト』の形は、広く浅くをカバーするものではなく、狭く深くを追求するもの。
それは言うなれば、それのみに特化した専門の『道具』を作りあげるというものであり、それが30人あるという事である。
右に倣えで特筆すべき事もない同じような技能の集団など必要ない。
ランドール家にとって必要なのは、ひとつの事しか出来ないが、そのひとつの分野に関しては並ぶ者などそうそうない一流の道具である、というのがカナリアの考え方。
ミナがシスネに向けて「自分達は道具である」と形容したのも、この考え方がハト達にも浸透しているからである。
道具というのは、ひとつの物事においては大変優れた使用効果を発揮する物だが、同じ用途のより優れた道具が現れた場合、古い道具は必要がなくなる。
どうせ使うなら、切れる包丁よりも更に切れ味の良い包丁を。よりよい道具を。
現在いる30人のハトとは、そうした切磋琢磨を繰り返し、生き残った一流の道具なのである。
古い道具、使えない道具に価値は無い。
見放され、捨てられる、見向きもされない。
流石にランドールの外に放逐などしたらシスネが咎め立てるので、カナリアに使えない道具の烙印を捺された者はカラスとしての新たな教育を受ける事になる。
争い事の無いはずのランドールで、ハトよりカラスの数が多いのはそのせいである。
また、そういう烙印の下でカラスとなった使用人達が多いせいか、本来なら同等の立場であるはずの使用人であっても、ハトは若干カラスを下に見ている空気があり、カラスも若干見下されている様に感じている。
そんな理由で、両者はほんの少し仲が悪かったりする。
女神の加護の力により、出番のほとんど無いカラス達。それが余計に「給料泥棒」という意識を暗に、されど顕著に示すのも良くない。
自身は『カモ』としてランドールに尽くすイデアだが、その辺りの両者の若干の仲の悪さは知っていたので、カラスを指南する立場にあるクローリの前で、変にハトの仕事ぶりを評価するのは気が引けた。
仮に、徹底した水晶の管理を潜り抜け、水晶入手を成功させた事に対して、「流石はハトだ」とイデアが口にしても、クローリは使用人は使用人であり、その評価は全体への評価として特に気にせず受け止めるのだが、―――余計な事は言わないに越した事はない―――というのがイデアの感想であった。
余談ではあるが、ランドール家のハウスキーパーでありハトの教育者たるカナリアは、この人の持つ才能を見抜く力に長けた才能の持ち主である。
ランドール家の為ならば如何なる無茶苦茶な手段とて平然とやってのけるカナリアが、クビにもならずハウスキーパーとしての地位にあぐらをかいているのは、その目利きの才能によるものが大きい。
世が世、世界が世界なら、有能な指揮官、或いは有能な人事として活躍していた事であろう。
クローリから水晶を受け取ったシスネが、通信用の水晶を起動させたのは、イデアがそんな事をぼんやりと考えていた時であった。