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家出娘の旅・なぁなぁ

「なんなんだよお前ら!?」


 モンスターを殲滅せしめ、自分の魔法を潜り抜けて地底湖へと到達したシンジュ達に、チェリージャンはあらんかぎりの声を張り上げて叫んだ。


「なんなんだよと聞かれたら、答えてあげるが世の情け? みたいな?」


 チェリージャンの気持ちを知ってか知らずか、シンジュは緊張感の欠片も持ち合せていない様な態度で、隣のリナに疑問系の言葉を投げ掛けた。


 リナは、何故か怒っている精霊の様子と、神経を逆撫でしそうな飄々としたシンジュのその態度に、精霊をあそこまで激怒させるシンジュの器の大きさたるや湖よりもずっと大きいな、と妙なところで感心してしまう。


 と、感心してばかりもいられない。


「ねえ、あなたが精霊様?」


 ご立腹な様子の精霊に向けて、極力これ以上怒らせないように気を遣ってリナが問い掛ける。

 精霊に会いに来たのだから目の前にいるのが精霊だとは思っているリナであったが、どうもその姿のせいかピンと来ないでいた。

 精霊は、この大陸ではあまり見掛けない異国の服を纏った男性で、シンジュに言わせるならそれは『着物』である。

 そして服装と、茶色に水色が混ざった不思議な色合いの髪以外は普通の男の容姿をしていた。


「質問に答えろ!? お前らなんなんだ!?」


 疑問符ばかりが飛び交う空間で、リナは特段嫌な顔を見せずに落ち着いた口調で、ひとつひとつ疑問を潰していく。


「私はラフテ村のリナっていうの。こっちはシンジュ」


 リナが言って、シンジュがひらひらと手を振る。

 まるで友達の友達に会った時の様な微妙な―――されど、別に居心地が悪いというわけでもない空気に、イライラを募らせていたチェリージャンも、ゆっくりだが徐々に落ち着きを取り戻し始めた。


「ラフテの? 村人がなんでこんなところに……」


「精霊様の力が弱くなってるって聞いて、二人で様子を見に来たの」


「でも思ってたより元気そうだね」


 シンジュがへらっと笑うと、つられたリナも微笑んで頷く。


 チェリージャンはそんな二人を観察する。

 いや、観察という程の事でもない。

 少なくとも、いま自分の前にいる二人はそこまで警戒する様な者達には見えなかった。

 本当に何処にでもいる様なありふれた少女二人。

 一体そこに何の問題があるのかと首を傾げたくなる。

 なるのだが、問題なのは、その何処にでも、が()()()()というのが問題なのである。


「お前ら、本当に人間なのか?」


 一番の不安材料であった部分を、チェリージャンはそのまま二人にぶつけてみた。

 どうせもうここまで辿り着いてしまったのだ。今更変に回りくどい質疑を投げても仕方ない。


 チェリージャンの質問に、二人がちょっと不思議そうな顔をする。

 質問の意図が良く分かっていなさそうな顔。


「だから、ラフテの村から来たってば」


 まさか人間で無いと疑われているなど夢にも思っていないリナが、先程と同じ答えを口にする。

 微妙に噛み合わない話に、本当にラフテ村から来た人間なのか、とチェリージャンは思い始めた。勿論、それでも半信半疑。


「どうやってあのモンスターを倒したんだ?」


「どうって……」


 チェリージャンの問いに、やや言い難くそうな顔を作ったリナが、チラリと隣のシンジュに目配せする。


「拳で!」


 リナに促され、グッと胸の前で握りこぶしを作ったシンジュがちょっと誇らしげに答えた。


「……ちょっと何を言いたいのか分からない。もう少し砕いてくれないか?」


 チェリージャンが言うと、「砕いて?」と呟いたシンジュが小首を傾げた。

 それから「砕けばいいの?」とチェリージャンに確認し、チェリージャンが頷いた事を認めた後、シンジュはキョロキョロと周囲を見渡した。


 その時点でリナは、シンジュが()()()()()()していると悟ったが、まあ説明するより見た方が早いかという結論を導き出して、華麗に気付かないフリをしておいた。


 チェリージャンはチェリージャンで、()()()()()説明しろと言った途端に落ち着きなく辺りを見回し始めたシンジュに、若干の不信感を抱いていた。

 説明したくないのか?

 それとも―――まさか他に仲間が隠れている!?


 魔力感知で、三人目の存在は確認出来ていないが、それは巧妙に気配を隠しているだけなのかもしれない。あのモンスター共を容易く蹴散す程の実力者ならば、自分の魔力感知を掻い潜り、居るはずの無い三人目の伏兵として潜んでいても不思議はない。

 危険だ。

 チェリージャンの中の危機意識が激しく信号を鳴らし始める。

 地底湖のある広い空間の真ん中でチェリージャンは、壁の方へと歩いていくシンジュの背中を注視しながら、いつ飛び出すかも分からない潜む伏兵の存在に警戒した。


 そんなチェリージャンの警戒はすぐに杞憂に終わるのだが、それはそれで別の問題がぶち上がったりするが、そんな事はシンジュにはどうでも良い事であったりする。


 壁の傍までやって来たシンジュは、ゴツゴツと長い年月を掛けて作られた様な壁の一ヵ所を、何かを確める様にポンポンと軽い調子で叩いた後、「合図!? 来るか!?」と警戒感を最大限に高めたチェリージャンの方など見向きもしないで、少し足を広げ、腰を落とし、右手を大きく掲げた。


「せーの!」


 という掛け声と共に、シンジュが右手を振りかぶった。


 ドンッと轟音が響き、一拍遅れて、殴りつけた箇所を中心に壁に無数の大きな亀裂が走った。


「え?」


 警戒し、周囲ばかり気にしていたチェリージャンは直ぐには何が起こったのか理解出来ず、すっとんきょうな声を漏らした。


 そうして、状況の理解が追い付かないチェリージャンの思考を置き去りにしたまま、洞窟の壁が爆音を伴い崩壊、爆散した。


 轟く爆音とガラガラという壁の崩れる音を耳にしながら、チェリージャンはただただ呆然とその光景を眺めるしかなかった。


「うわぁ……。今までって手加減してたのかしら?」


 チェリージャンの傍で一緒になって見ていたリナが、呆れを含んだ様な顔と声色で溢す。

 しかし、リナのそんな呟きなど洞窟内に反響する幾多の音にかき消され、チェリージャンの耳には届かない。


「なっ……なっ……」


 何か言おうとするチェリージャンだが、驚きばかりが先行して上手く言葉が出て来なかった。

 言葉通りに()()()シンジュは、ひと仕事終えたとばかりに満足そうな表情を浮かべて、舞い上がる砂埃をバックに悠々と二人が待つ場所へと歩みを寄せた。


「まああんな感じよ。いまのは岩だからまだマシだけど、モンスターなんかゴミのようだったわ」


 ようやくにしてリナの声が届いたのか、その言葉に驚愕の表情を張り付けたチェリージャンが勢いよくリナへと顔を向ける。


「なんなんだあの化け物は!?」


「だからシンジュだってば。ギルド職員だそうよ」


「嘘をつけ! あんなギルド職員がいてたまるか!」


「知らないわよ私に言われたって……」


 嘘つき呼ばわりされたリナが少々ムッとする。

 そこに意気揚々とシンジュが戻ってきた。


「お前!」


 すぐ近くにまで迫った化け物に、チェリージャンが冷や汗を流しながら睨むつける。


「な~に?」


「本当は何者なんだ!? というか、なんでいま壁壊した!?」


「え? シンジュだよ? 砕いてって言ったから」


「そうじゃねぇ! 洞窟だぞ!? 崩れたらどうする!?」


「え~?」


 憤るチェリージャンに、何故自分は怒られているのかとシンジュが首を捻る。

 ―――砕いてと言ったのは精霊さんだし、一応確認までしてそれから砕いたというのに、何故怒られなけばいけないのか?

 ―――だいたい、精霊さんだってさっき天井落としてたじゃん。


「納得出来ない!」


 頬を小さく膨らませたシンジュが抗議する。


「納得出来ないのはこっちだ!!」


 抗議に、より強い抗議でチェリージャンが返し、そのあまりに鬼気迫る表情にシンジュがビクリと肩を震わせる。


「精霊さん、納得出来なくても納得しなさい。シンジュは基本馬鹿なのよ」


「あー! また馬鹿って言った!」


「馬鹿力って意味よ」


「なんだ……。―――結局馬鹿じゃんか!?」


 そこからギャアギャアと言い合う二人をチェリージャンは眺めつつ、状況の把握に努めた。


 ―――本当に人間なのか?

 ―――さっきの……。

 と、チェリージャンは二人から視線を外し、壁の方へと目を動かす。

 チェリージャンの視線の先の壁には、15メートルはあるであろう大穴がポッカリと開いている。

 深いのか奥の方が暗くて見えない。


 また視線を二人に―――シンジュへと戻す。


 ―――あれだけの事をしておきながら、あの瞬間、この少女からは全く魔力を感じなかった。

 腕力だけで?

 嘘だ。あり得ない。

 あり得ないが、現実にそのあり得ないが目の前で起こった。

 一体本当に何者なんだ?


 っていうか……。


「なんでお前ら喧嘩してんだよ!? 意味が分からんぞ!? 友達じゃないのか!?」


 叫んだチェリージャンの声に、ピタリと言い合いを止めた二人が一度チェリージャンを見、それから顔を見合わせた。


「リナとは今日会ったばっかりだもんね」


「そうね」


「でも友達だよね」


「……まあ。……そうね」


 言って照れくさそうに二人で笑い合う。


「ますます意味が分からん!? 本当に何しに来たんだお前ら!? わざわざ喧嘩しに来たのか!?」


「そうだったわ」


「精霊さん、元気があるなら湖を元に戻せない? 今すごく大変みたいで」


 シンジュのその言葉に、チェリージャンは憮然としていた態度を止めて、別の意味で眉を潜めた。


「……やっぱり外では異常が起きてるのか?」


「ええ、そうよ。湖は枯れるし、井戸も枯れた。実りが少ないもんだから、ラフテはモンスターに何度も襲われたし、村の人もいっぱい死んだわ」


 あっけらかんとした態度で言ったリナであったが、その内心までは誰にも分からない。

 ただ、チェリージャンにはそのあっけらかんなリナの態度でさえ、自分を責めている様に感じられた。

 リナの話から察するに、チェリージャンが思っていたより事態は深刻であった。

 自分が管理を怠ったばかりにその状況がある。責められても仕方がない。


「すまない」


「……別に精霊さんのせいだなんて思ってないわ。私達が弱かった。それだけよ」


 リナはそう言うが、チェリージャンの胸中は罪悪感でいっぱいであった。

 自責の念で俯いてしまったチェリージャンに、


「ねぇ精霊さん、なんとか出来ないかな?」シンジュの問い掛け。

「……勿論なんとかしてやりたい。だが―――」


「だが?」


「駄目なんだ。俺はここから出られない。いや……多分だが、お前らも入ってしまった以上は出られないんじゃないかと思う」


「え?」


 チェリージャンの言葉に、小さな驚きをもってシンジュとリナが顔を見合わせる。

 それからすぐにチェリージャンへと向き直ったリナが尋ねる。


「出られないってどういう事? しかも、私達まで」


 リナの問いに、やや渋るような表情をしつつもチェリージャンはポツリポツリと語り始める。


「数ヶ月前の事だ。俺はここの真上にある―――ルイロットの湖に棲んでいたのだが、そこに突然悪魔が現れたんだ」


「悪魔!?」


「それって、―――こんな……吊目の奴じゃなかった?」


 リナが目の端を指で持ち上げてチェリージャンに問う。


「下級の悪魔は大体そんな感じだな。流石にどれがどの個体かは見ないと区別がつかない」


「……そう」


 リナは呟くように返し、それからグッと下唇を噛んだ。

 おそらくリナは、チェリージャンの語った悪魔と、村を襲い、父親を殺した悪魔が同じかどうかを確かめたかったのだろう。

 それを判ってもシンジュはリナに「知ってどうするのか?」とは尋ねなかった。

 ただ、少し口が悪くて、気が強く、プライドの高そうで冒険者になりたいと語ったこの少女の、力になってあげたいなと、シンジュは漠然とではあるがそんな事を思った。


「話を戻すぞ? ―――それで、悪魔が現れた事に直ぐに気付いて、どうにかしなければと思って悪魔の現れた場所に向かったんだが……。―――気づいたらここに。この洞窟に閉じ込められていた」


「どういう事?」


「さぁな。俺にも正直何がなんだか」


 言って、チェリージャンは小さく肩をすくめた。


「分かってるのは、悪魔が現れたって事と、俺が閉じ込められたって事。それと、俺を閉じ込めたのは派手な格好をした女だって事くらいか?」


「女?」と、リナ。


「ああ。女だ。俺がここに落とされる前に、一瞬だが姿を見た。あの女がやってたのは何かの儀式だろう。どんな儀式かは分からないが、直後に俺はこの洞窟に閉じ込められた。多分だが、悪魔を呼び出したのもアイツだ」


 その光景を思い出したのか、忌ま忌ましそうに顔を歪めるチェリージャン。


「その女はなんの為に精霊さんをここに閉じ込めたのかしら?」


「知らない。この洞窟は通称『悪魔の穴』って言ってな。悪魔が魔法で作り出した特殊な洞窟だ。そこに閉じ込められたせいで俺の力が外の一帯に届かなくなった。なんとか出ようと色々試したんだが、どうも中の者を外に出さない事に特化した洞窟らしくて上手くいかない。で、現在に至る」


「出られないじゃ困るのよ。なんとか外に出て、精霊さんには外を元に戻して貰わなのきゃ」


「そう言うがな……」


 そこでチェリージャンが、フワッと自身の体の周囲に風をまとわせた。

 途端に、人間と同じ容姿をしていたチェリージャンの姿が変化し、透き通った身体をした本来の精霊たる姿になった。


「精霊っぽい」


「うんうん」


 リナが言い、シンジュが小刻みに首を振って同意する。


「当たり前だろうが。っぽいってなんだ、っぽいって。―――それより、あそこの石が見えるか?」


 チェリージャンが指差した方に二人も顔を向ける。

 洞窟にある地底湖の中心。

 揺れひとつ無い水面が浮かぶ水の中にそれはあった。


「なにあれ?」


「光ってるみたいだけど?」


 シンジュとリナの二人が問う。


「この洞窟の核で、俺をここから出さない様にしている元凶だ」


「魔石?」


 シンジュが言うとチェリージャンは静かに頷いた。


「魔石がどうかしたの?」と、今度はリナ。


「こういう洞窟などの無機物に魔法を付与するには、必ずああいった魔石を魔法の媒体にする必要がある。つまりは、魔法の核だ」


「って事は、あれを壊せば出られるんじゃ?」


「そうだ。壊せば出れる」


「なら壊せば良いじゃない?」


「それが出来ないから、こんなじめじめした暗い穴の中に数ヶ月も閉じ込められてるんだ。モンスターと一緒にな」


 チェリージャンは心底うんざりした様子で魔石を一瞥した。


「壊せないの?」


 地底湖といっても実は浅い。

 深いところでも大人の膝程の深さしかない。

 それに加えて、水の中とはいえあんな丸見えの石が壊せないのかとリナが不思議そうな顔をして尋ねると、「まあ見てろ」とチェリージャンが魔石に向かって腕を突きだした。


 そうしてチェリージャンの手から放たれたのは、ここに来る少し前にシンジュ達に向けて放たれた岩石を放つ魔法と同じ物であった。

 ただし数はひとつだけ。その代わりに、岩石の先端は鋭く尖り、質量も3倍はありそうな程に大きい。


 放たれた岩石は、水面を貫くと大きな水飛沫を周囲に撒き散らしてそのまま魔石を穿った。

 否―――正確には魔石を穿つ直前で岩石はピタリと動きを止めて、止まったと視認した直後に派手な音を立てて弾けてしまった。

 ボチャボチャと岩石だった欠片が地底湖に落ちる。


「今のって、結界?」


 シンジュが、以前に見た自宅に掛けられている防犯用の結界と良く似た現象を目にし、同じような結界なのだろうかとチェリージャンに尋ねた。


「そうだ。厄介な事にかなり強力だ。今の俺ではとても壊せん」


「ああ、そういう事なら」


「私の出番だね!」


 妙に楽しそうにリナとシンジュが顔を見合わせる。

 その様子にチェリージャンは眉間にシワを寄せ、


「お前ら、魔法は使えるのか? 見たところあれを破壊出来る程の魔力がある様には見えない。シンジュだったか? お前にいたっては、魔力の魔の字も見えない。すっからかんだ」


 チェリージャンが言うと、「魔力なんて飾りです。異世界人にはそれが分からないのですよ」と、哀愁漂う微笑みを浮かべた。

 これにはチェリージャンだけでなくリナも首をひねった。意味が分からない、と。

 そんな二人をよそに、バシャバシャと無造作に地底湖の中へと入っていくシンジュ。


「ま、待て!」


 慌ててチェリージャンが止める。

 歩みを止めたシンジュが振り返り、「壊さないと出られないんでしょ?」とチェリージャンに向けて口を開く。


「そうだが……。これは魔法の結界だ。お前の強さはさっき見せつけられたから知っているが、対象が魔法である以上、壁のようにはいかん。腕力でどうこう出来るシロモノでは無いんだ」


 チェリージャンの言葉に、シンジュは顎に指をあて「ん~」と少し考えてから、「とりあえずやるだけやってみよう」と息巻いた。

 その様子に、リナが愉快そうに笑い、チェリージャンは頭を数度振って「怪我しても知らんぞ」と呆れた。


 やって駄目ならそれから考える。というスタンスのシンジュは、そのまま魔石の傍まで足を進めた。

 地面深くの洞窟の中の地底湖ゆえか、水はやけに冷たかった。


「いきます」


 魔石の傍まで来るとシンジュはそう言って、人の頭程の魔石の上で拳を構えた。


「秘技! 岩石割り!」


 勿論そんな秘技などシンジュには無いのだが、とりあえず技名は叫ばないといけないスタンスのこの少女は、リナとチェリージャンが見守る中、気合いと共に握った拳を振り下ろした。


 先程チェリージャンが放った魔法同様、拳が魔石に触れるか触れないかというところでピタリと止まる。

 それでもなお止まり切れなかった周囲の衝撃は、ドンという派手な音を鳴らし、シンジュと魔石を中心にして周囲の水を吹き飛ばした。

 弾けるように飛び散った水が、地底湖の外で見守っていた二人に粒となって降り注ぐ。

 ザアァと地底に雨が降る。


 雨が治まり始めると、併せるようにシンジュの周囲の水も元へと戻り、再び冷たい水が魔石ごとシンジュの足を包み込む。


「だから無理だって」


 傷ひとつついていない魔石を認めたチェリージャンがシンジュに投げ掛ける。


「まあ、試しにね。試し……」


 頭を掻いてへらっと笑ったシンジュの動きが、突然ピタリと止まった。

 まるで時間が止まった様に微動だにしないシンジュ。

 少しして、シンジュの顔に表情が生まれた。

 その顔にじわりじわりと広がったのは、愕然として、今にも泣き出してしまいそうな表情だった。


「レベル……2……」


 愕然とした表情のまま、うわごとのようにシンジュが呟いた。


 そんなシンジュの様子を不振に思ったリナが「シンジュ?」と地底湖の中に足を踏み入れようとした直後―――


「マズイ!! 近付くな!!」


 鬼気迫る表情をベタリと縫い付けたチェリージャンが叫び、叫ぶと同時にリナの身体を抱きかかえた。


 そうしてチェリージャンがリナを抱えたまま距離を取ろとした途端、チェリージャンの背中を激しい衝撃が襲った。

 リナをかばいながら広い空間の壁まで吹き飛ばされるチェリージャン。


 背中を強く打ち付けたチェリージャンだったが、精霊である彼に物理的なダメージは無いし、痛みもない。

 仮にあったとしても、今はそんな痛みにかまけている場合ではなかった。

 チェリージャンはすぐに体勢を立て直すと、リナを片腕で抱いたまま、いまの自分が出せるだけの魔力を用い、自分とリナを守る為の結界を作り出した。


 チェリージャンの腕の中、一体何が起こったのか分からず茫然とするリナ。


 チェリージャンの腕の中。

 リナは見た。

 チェリージャンが必死に結界を張るのを。


 リナは見た。

 地底湖の中心で、広い空間を埋め尽くす程の真っ黒で禍禍しいモヤを周囲に撒き散らして佇むシンジュの姿を。






 この日この時。

 シンジュの持つスキル『狂』がLVをひとつ上げた。

これにて四章完結です。

毎度の事ながら、五章は書き溜まり次第順次掲載予定です。

ブクマ、評価で執筆速度が上がります(気がします)

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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