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殻殻殻

 だだっ広い城の中を、俺は何処に向かうでもなくフラフラと飛び回っていた。

 フラフラと言ったが、目的が無い訳でもない。

 と言っても目的はただの時間潰しでしかない。


 現在の時刻は、シスネが中央へと到着した日の夕暮れ時。

 着いて早々の今晩に開かれるらしい御披露目会とやらに出席する為、お着替えをするというシスネの部屋に居座る訳にもいかず、こうして時間を潰しているのである。


 別に誰に見える訳でもない俺が部屋に居たからと、それで誰かに咎められるわけじゃないが、やはり礼節、マナー的な何かを守っておくのは大事である。

 ノゾキは犯罪です。良い子は真似しないでください。


 そんな訳で城を散策していたわけだが、やはり王様の住む城というだけあって広い。

 シスネの屋敷も大概デカかったが、この城は更にデカい。俺の高校よりデカイ。放射能で突然変異したゴジなんとかさんよりは小さいかもしれない。実物を見た事が無いのでちょっと分からない。なら例に出すなという話でもある。


 広過ぎるとはいえ、幽霊というのは便利なもので、壁も扉も、人目すらも気にせず自由に見て回れるのは中々に楽しいもんだ。

 ただ、

 いかんせん広過ぎる城を、普通ならば気に留めてしかるべき「あの廊下を右」とか「2階のこの部屋を左」といったそういう目印となる物も気にせず動き回ったせいで、元いたシスネの部屋に戻れなくなってしまっていた。


 気配探知なり魔力感知でシスネ達の居場所を探せれば良かったのだが、幽霊の状態だとそういう便利な物も使えないのである。こんな体たらくでは幽霊が便利なのか不便なのか分からなくなってくる。


 幽霊ならば使えないあれやこれやであるが、憑依さえしてしまえばそれらは使う事が出来る。

 例え憑依した肉体がシンジュでもスライムであってもだ。

 ただ、元にした肉体の元々の能力値というのも影響があるらしく、スライムの状態だとシンジュの時程に能力値が高くない。

 簡単にいうと、俺の能力値+肉体の能力値、その合計値が憑依状態の能力値となる。


 シンジュは俺が憑依せずとも、魔力はともかく身体的能力値はずば抜けて高い。元いた世界のシンジュの運動音痴っぷりを知っている俺からしたら異常以外の何ものでもないのだが、活発かつ丈夫なのは良い事だ。――女の子に必要かはさておいて。


 シンジュに憑依すると、シンジュの化け物じみた身体能力と、何故か高い俺の魔力値が合算されて、肉体も魔力も常軌を逸した何かが誕生するのであるが、ミキサン曰く、「世界に敵なし」と言わせしめる程に強いらしい。

 魔王からの太鼓判なので疑ってはいないが、世界最強だからなんだという話である。俺に世界征服願望などないし。


 シンジュの時程では無いにしろ、スライム憑依時も魔力値的には強い。

 たぶん、それ以外の何かに憑依しても俺の魔力はそのままなのでやっぱり強いんだろう。今のところシンジュとスライム以外に憑依した事はないけれど……。


 スライムにも憑依出来ると知って以降、たまに他の生き物にも憑依出来ないかと試すのだが、今のところ憑依する対象は見つけられていない。


 幽霊の手で触れてみても、ただ物体をすり抜けるだけで、憑依時に見られるあの吸い込まれる様な感覚が無いのだ。

 意思というものが少しでもあると駄目だという事は分かっているのだが、シンジュとスライム以外は対象が睡眠中でも憑依出来ない。

 この事から察するに、憑依するにはなんらかの条件があるらしい。その条件は分かっていない。


 条件については判明していないが、解決した事もある。

 それは、スライムに憑依すると視覚、聴覚、などの五感の一部が駄目になる、という問題であり、そちらは解決されていた。


 そのきっかけだが――とっくにご存知なんだろう?

 きっかけは、ギルドで耳にした『娘にボーイフレンドが出来た疑惑』のせいである。

 穏やかな心を持った俺が、(どこぞの馬の骨に対する)怒りによって目覚めたのだ。伝説のすぅぱぁなんちゃらさん。金色にはならない。むしろ世界を染め上げる程にドス黒いオーラを撒き散らして、魔王の皮を被った幼女を泣かせてしまった。反省している。

 反省しているが、気が晴れた訳でも不安が解消された訳でもない。

 このイライラは、まだ見ぬ馬の骨に倍返ししてやるつもりだ。


 馬の骨の事を考えたらまたちょっとイライラして来たので、気分転換にフラフラと城の中の散策を続ける。別に迷子だからあちこち動き回っているわけではない。

 迷子? 何をバカな。大人ですから。


 そうやってイライラを抑えようと散策していて、たどり着いたのは別のイライラの原因の元だった。

 ハイヒッツの第1王子アルガンの部屋である。


 いけ好かない顔である。

 まず人相が悪い。

 ややつり上がった目は性格の悪さを表しているようだった。偏見どんとこい。

 椅子に座って偉そうにふんぞり返っているのも鼻につく。

 なによりムカつくのは目付きが悪かろうがふんぞり返っていようが、イケメンだという点である。偏見通り越してやっかみである。


 この女にモテそうな金髪王子の顔をぼこぼこにするのが、今の俺の生きる目標です。幽霊だけど生きる目標である

 楽しみだ。その日が待ち遠しい。

 「これは圧政に苦しむ民の分」ドカッ。

 「これはシスネの分」ボコッ。

 「そしてこれが、全国のモテない男達の分だ!」バキッ。こんな具合。

 完璧である。これはまだまだ成仏出来ませんね。にっこり。


 ホクホク顔でその日その時に思いを馳せていると、アルガンの部屋に女性が入って来た。格好からしてそれなりの役職だと思うが、女性はまだ若く見える。二十代そこそこ。


 無いと思うが、部屋に男女が二人きり。このままイチャコラするんじゃないだろうな?

 そうなったら部屋ごと魔法でふっ飛ばしてやる。


「手配の方は滞りなく」


 女性が言うと、アルガンは深く椅子に体を預けたまま応じた。


「そうか。ご苦労。――あの女は?」


「今夜の御披露目に向けて準備中との事です」


 女性が答えると、アルガンは一度息を吐いて、預けていた体を起こした。


「悪魔の末裔というのは、教会の連中の比喩だとばかり思っていたが、まさか本当に人では無いとはな」


 アルガンの言っているのは、おそらく黒く染まった人花の花についての結果を受けての事だろう。

 あれはシスネではなく、ミキサンに御守りと称して渡されたスライムのせいなのだが、まさかモンスターを胸元に隠しているなど誰も想像すらしていないだろう。

 そのせいでシスネは本物の人ならざるモノ――悪魔と誤解されてしまっている。

 御守りとして渡された物が、逆に不必要な問題を新たに浮上させる事になるとは……。流石魔王と驚いておくべきなのか……。


 もっとも、渡したのはミキサンだが、渡せと言ったのは俺である。

 理由は単にシスネが心配だったから。


 いくら娘が大事な俺とはいえ、まだ若いシスネを無視して娘にかまける程には俺の面の皮は厚くない。

 俺に政治的ななんやかんやが出来る訳はないが、ランドール家を悪魔と危険視し、危害を加えようとする奴から守ってやるくらいの事は出来るはずだ。


 しかし、その為には憑依する肉体が必要だ。幽霊のままでは何も出来ない。

 流石にシンジュを中央に連れてくるなど出来ないので、代わりにスライムを送り込んだわけだが、完全にそれが仇となってしまった。

 守りに来たのか余計な負担をかけに来たのか分かったものではない。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 迷惑をかけてしまったからには、かけてしまっただけの誠意、頑張りを見せねばなるまい。

 アルガンの顔をぼこぼこにしている場合では無いのである。

 ぼこぼこは確定事項なのでぼこるけども……。


 それからアルガン二人はなんだか政治的な難しい話をしだしたので、興味もない俺として面白くもなんともない。

 アルガンに中指だけ突き立てた後、部屋を後にした。


 ランドールがどうのこうの言っていたが、危惧されていた攻めるとかそういう話じゃなかったので特に集中して聞く事もないだろう。

 街の守りに関しては心配ない。自信がある――と、俺ではなくミキサンこと魔王がランドール出発前に言っていたので、向こうの事はミキサンに任せようと思う。


 それからまたしばらく、うわ言か、或いは戯言を吐き出す亡霊となってさ迷って、なんとかシスネ達の部屋にたどり着く事が出来たのだが、部屋は既にもぬけの殻であった。置いていかれた間抜けな殻が出来上がった。セミのぬけ殻より使い道がない。セミのぬけ殻は身だしなみを彩るアプリコットとして活躍する。可愛いとは言ってない。


 おそらく御披露目会とやらに出席する為、出掛けた後なのであろう。たっぷりおめかしもしているかもしれない。お洒落にセミのぬけ殻なんかを胸元に――は、多分使ってない。


 スライムも居なくなっていたので、シスネが持っていったのだと思われる。御守り代わりのスライムだが、俺が居ないとあまり役には立たないかもしれない。それでもまあ、時間も守れないどこかの間抜けよりは役に立つ。


 御披露目会に俺も行きたいのだが場所が分からない。またさ迷わねばならないらしい。

 未練がましい死者が世をさ迷よう様にな!

 ちくしょうめっ。


 まあ城の重要人物の御披露目会ならば大々的にやるだろうし、一旦城の正面にでも向かえば、それらしい参加者をすぐに見つけられるだろう。後はその人の後ろをくっついていけば御披露目会場につけるはずだ。

 よし、そうと決まれば早速参加者をストーキングだ。

 生者に取り憑く亡霊のようにな!

 ちくしょうめっ。


 誰からのツッコミも無ければ笑いのひとつも起きやしない。

 なんかだんだん虚しく――なんだ?

 

 窓の辺りから外に出ようとしていると、背後のドアがガチャンと鳴った。

 おそらく鍵が開いた音。

 そちらを向くと頭巾を深く被った人物が丁度、扉を開けて部屋の中へと入って来るところであった。


 怪しさ満点である。

 泥棒!

 と、叫んでみたけど意味はない。

 

 突然の泥棒の登場にあわあわしていると、泥棒は部屋をゆっくりと見回し、部屋に置かれたテーブルの方へと近付いていった。

 テーブルの上には中身の入っていない花瓶と何か良く分からない雑貨が置かれている。

 洋服棚などシスネ達の私物が入ってそうな場所には目もくれない泥棒に妙だなと思う。


 泥棒はテーブルで上に手を置いてしばらくそのままじっとしていた。

 変な奴だと思った。


 泥棒はひとしきりテーブルに触れて満足でもしたのか、何を盗むでもなく静かに部屋を出ていった。


 超変な奴だ。

 まさかテーブルフェチという訳でもあるまい。

 見た目は泥棒っぽかったが何も盗ってはいない。

 となると、なんだ?

 ――工作員? 暗殺者的な。


 暗殺者とか刺客みたいな人って本当にいるんだな。

 とりあえず最初の感想はそれだった。


 あんなのはフィクションとかでしか見た事ない。まあ当たり前といえば当たり前。誰が好き好んで一般庶民を暗殺しようなどとするものか。


 さっきのが暗殺者だとすると、アイツはテーブルに何をしたんだろうか?

 テーブルを角度を色々変えて観察してみたが、特におかしなところもない。

 気のせいかとも思ったが、何もしないなら最初からわざわざ鍵開けてまで部屋に来ないという話。


 ――魔法でも掛けたか? トラップ的な何か……。

 そうだな……。それはありそうだ。

 爆弾でも仕掛けてくれれば分かりやすいが魔法というのは普通に見ただけでは分からないものが多々ある。

 

 まさか暗殺者も目の前に自分の犯行の一部始終を見ている奴がいるなどとは思っていまい。マヌケもいいとこである。置いていかれた間抜けよりマヌケである。貴様なぞカタカナでマヌケだ。漢字を使うまでもない。

 とは思うが、幽霊だと相変わらず何も出来ない。精々犯行を眺めるだけ。そんなもの推理ドラマの視聴者だって出来るし、参加型のバラエティーなら「後ろー後ろー!」と教えていたところだ。


 しまったな。暗殺者と分かっていれば後を追っていたのに。テーブルなんぞを調べている場合ではなかった。どうやら真のまぬけが見つかった様だな。変換するまでもない。


 まあ過ぎた事は置いておいて、これからどうしようか?

 シスネと合流ののち、スライムに憑依してテーブルをどうにかすべきか――。

 しかし、暗殺者なんてものに狙われてるシスネをほったらかしにしていいものか……。たぶんクローリがシスネの側にはいるのだろうが………………悩むところだ。


 そもそも、この世界の魔法トラップってどういうものか見当がつかない。

 やはり開けたら爆発する爆弾みたいに、誰かが触ったりしたら発動するのだろうか? 触るな危険と注意書を明示すべきだと提案したい。

 提案は受け入れられそうにないが、とにかくシスネの側にいれば問題ない――のか?


 とりあえず御披露目中は側についておき、終わったら先回りしてテーブルをどうにかしよう。そうしよう。

 あの不審者だが、城に侵入して来た暗殺者というより城の関係者なのだろうと思う。でなければあんなに堂々と騒ぎのひとつも起こさず入っては来まい。城の警備がザルだったらお手上げである。サルだったらバナナ一本で懐柔されそうだ。


 そう決めて、窓の辺りの壁をすり抜け外に出る。

 外から城を眺め、シスネの部屋の場所をしっかり覚えてから城の正面、入り口に向かう。


 城の出入口には、案の定、参加者とおぼしき着飾った人々がちらほらと目についたので、折角だからと一番若い女性の後をくっついて城の中へと入った。別に誰のケツを追っかけようが個人の自由だと開き直っておきたい。


 途中、「これはこれは」「あらお久しぶり」などと顔見知りと挨拶を交わす女性。

 そういうのいいから早く行かない?

 い!そ!い!で!る!の! ――と、ありもしない腕時計を指差して急かしてみたが、完璧に無視してくれちゃてますよこの人。


 何人かと挨拶を交わした後、女性は同じ年代とおぼしき女性と立ち話を始めてしまったので、もういいやと見切りをつけて、奥へと向かった。見切り発車。

 いい加減ほかの参加者の姿も多く見られたので女性の長話に付き合う気はないのだ。


 人間道しるべに従い、参加者達の頭の上を飛んで進んでいく。

 会場と思われる広間にはすぐついた。


 とんでもなく広い部屋だった。

 部屋の隅々にまで凝った調度品が並び、あっちこっちに白いテーブルクロスを敷いた沢山のテーブルが設置されている。壁際にはお高そうなソファーや椅子も置かれていた。

 こういうの映画で見たなぁ、などと眺めてから、眺めている場合じゃないと、シスネ達の姿を探して広い部屋をうろうろする。完全に不審者である。


 ――いないな。どこだ?

 ちょこまか動き回りつつキョロキョロと顔を動かすが、シスネ達の姿は何処にもない。


 ああ……、そうか。

 シスネは今日の主役なのだから、全ての参加者が揃った後での登場か。

 ならこの部屋の何処か奥の部屋にでも待機しているのかもしれない。

 そう考え、広い部屋の壁に上半身だけを突っ込んで、そのまま壁沿いを横にスライドしていく横着者。横長の滝を手刀で横切りしていく感覚に似ている。滝など一度も切った事はないが。


 若い男性。違う――恰幅の良いおっさん達。違う――マダムの群れ。違う――ハゲ。違う――またおっさん。違う――あ、いた。


 やっぱりシスネは四人揃って奥で待機していた。

 シスネは大きな鏡の前の椅子に座っていて、その周囲をハトの二人が囲み、シスネの髪をとかしたり化粧をしたりと世話しなく動いている。


 クローリはクローリで、空いたスペースで何故か化粧に精を出していた。

 キツイ。これを御披露目するとか正気かよ……。

 筋肉隆々の男が、真っ赤な口紅で頬をほんのり赤く彩る顔は、絵に描いた様なオネエであった。

 都会の良い男を捕まえる為、彼は彼で余念が無いのだろう。

 何しに中央来たんだろうコイツ……。


 おっとスライムくん。君はここに居たのか。


 クローリが視界に入るのが精神的にキツくて、顔を逸らした先の棚の上に、スライムがポツンと置かれていた。

 おとなしいなこの子。おりこうさんである。

 何が起こるか分からないのでとりあえずおりこうさんに憑依しておく。おりこうさんからおっさんに中身が変化した。


 憑依と同時に辺りが無音の暗闇に包まれる。相変わらずそのままでは五感も何もあったものではない。第六感でどうにかしろと強要されている気分にさせられる。


 第六感の代わりに似て非なる不思議なパワー、魔力感知と気配探知、それから暴視と水操作を発動する。


 これで周囲の様子が分かる様になった。

 先の探知系はあくまで周囲の警戒用。暗殺者がうろうろ――しているかどうかは分からないが、っぽいのがいるのは間違いないのだ。警戒しておいて損はない。

 視界は暴視くんが担当して、聴覚は水操作くんが担当している。


 過去に試した時、神眼の時は周囲を見る事は出来なかったが暴視だと普通に見えた。目という肉体を使ったスキルか、魔力によるスキルかの違いで見える見えないが決まるらしい。

 原理? そんなものは知らん。見るんじゃない、感じるんだ。


 また、音というのは振動らしいので水操作を上手く使うと音として認識出来て、人の会話くらいならはっきり聞き取れる。

 これら二つが出来る様になったきっかけはギルドでぶち切れた事なので、人間一度はぶち切れてみるもんである。ただし、幼女に八つ当たりで切れて泣かせてはいけない。冷静になった後で罪悪感に苛まれる。死にたくなる。

 笑えよ。


 それから、忘れない内に『分裂体創造』という魔法でスライムの体を増やしておく。

 使った途端に、体から魔力が飛び出してスライムを形作る。

 そうしてあっという間にスライムが湧き、5体に増えた。あっという間にすぐに沸く事で定評のある電気ポットよりあっという間だった。


 スキルというのは普段から使わないと忘れがちになる。危機探知さんがいい例である。

 という訳で、危機探知さんも発動しておく。危険を察知するとビービーうるさいやつだ。防犯ベルか貴様は。


 さて、この増やしたスライムだが、実は弱い。

 今現在、俺の憑依しているスライムは、およそスライムとは思えない魔力と様々な能力を有しているが、これは俺の憑依ありきの能力である。

 したがって、ただ分裂体を増やしただけのスライムには、憑依による能力向上が無い。ゆえに弱い。サイズが拳程しかないので普通のスライムよりも弱いだろう。


 何故そんな弱いスライムをわざわざ増やしたかというと、一応の予備である。

 流石にスライムが一体だけだと心もとないからだ。

 この小さく弱いスライムは憑依していない時に死にかねず、そうなると憑依する対象が居なくなってしまい非常に困る事になる。

 おそらく胸元に入れたままなのを忘れて眠りについたシスネが、寝返りをうっただけで圧死する。

 美女の胸で圧死するなど男のロマンを感じずにはいられないのだが、ロマンと実用性は必ずしも一致しない。プリンをバケツいっぱい食べたいとロマンを語っても、いざバケツプリンを食べると半分足らずで飽きるみたいな。


 なので予備。

 この子らには適当な場所に潜伏してもらって、今使っているスライムが消失した場合に活躍してもらう予定である。


 潜伏に際し、こんな場所でなくほんとはシスネの部屋で増やせば良かったのだが、シスネの胸元に入れられたままのスライムに憑依するのは人道上問題しかないし、夏場のセミよりうるさい防犯ベルがビービー鳴りかねないので自重したのだ。別に普段使わないから忘れていた訳では断じてない。

 


「出来ました」


「ありがとう」


 増やしたスライム達に隠れているよう号令を掛けた直後、そんな声が届く。

 こちらの準備が完了してすぐシスネの方も準備が整ったようである。

 こちらに振り返ったシスネを見たが、さほどに変わった様子はない。髪がいつも以上に輝いて見えるくらいで、化粧もしているのかしていないのかデリカシーの無い俺では判断出来なかった。

 俺は化粧の事は全く分からないド素人だが、シスネは元が良いのであまりいじらなくても良いのだろう。美人は得である。


 チラリと見たクローリは分厚い化粧に加え、上下のまつ毛を増量していた。

 くそっ……、キツイ……。


 正直、暴視を切りたくなった。目の毒である。

 そして、意外にも化け物を前に危機探知さんは働かなかった。ショックで壊れたらしい。

 戦闘力18万だとっ!? 化け物めっ!

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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