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黒い花

 ふんわりふわふわ空中からお届けします。

 どうも、パパです。


 ぽかぽか陽気に誘われた訳でもないが、シスネ一行にくっついて遠路はるばるやって来たハイヒッツ王国。その中央の城の中。

 そこが現在俺のいる場所である。

 三つ目の武道家ではないが、シンジュは置いてきた。



「お初にお目にかかります、アルガン殿下」


「よく来たな、シスネ・ランドール候」


 なんて感じで始まったシスネと王子様の顔合わせ。

 ランドールで聞いた様な仲の悪さを想像し、もっとピリピリしたムードになるかと思っていたが、案外空気は悪くない。

 ―――と思ったのも束の間、「ふん、噂にたぐわぬ異形で安心したよ」とアルガンが爆弾発言。

 薄く笑い、完全にシスネを馬鹿にしている。


 他人事ながら流石にカチンときたが、相変わらずの幽霊な俺は言い返せる訳もなく、仕方ないのでアルガンの顔目掛けて、脳天が突き付ける程のパンチを数発お見舞いしてやった。

 比喩じゃなく、ほんとに脳天突き付けてたぜ? 物理的に。俺じゃなきゃ即死だったね。


 実体のある残像と戦う俺はともかく、当のシスネはアルガンの暴言にも表情ひとつ変える事なく対応していた。

 世話役としてシスネについてきた二人のハトも、内心はどうあれシスネに倣ってただ静かにシスネの後ろに控えていた。


 クローリという怪物も同様だ。

 いや、ほんとに……。

 正直、クローリを初めて見た時はぽかんとしてしまった。

 2メートルをゆうに越すその体躯もそうだが、そのナリでオネエな事に驚きを禁じ得ない。

 キャラ崩壊も甚だしい。


 世の中って色んな人がいるよね。


 そんな皆違って皆良いと喧伝豊かな世の中において、このアルガンという王子は大層に人相が悪い。初対面の相手を小馬鹿にする性格も悪いし口も悪い。足も臭い。


 まあ足が臭いのは根拠の無いレッテル貼りの様なものなので置いておくとしても、出るわ出るわのシスネを見下した言葉の数々。お金を食べる不思議な機械の箱が「777」とフィーバーしたように、次々と暴言が開いた口から飛び出してくる。


 眉ひとつ動かさず聞いているシスネ達に思わず敬服してしまう。実は王子の話を聞いてなくて、今日の晩御飯のオカズでも考えてるんじゃないかとすら思った。


「分かっていると思うが、貴様との結婚は形だけのものだ。妙な期待はするなよ。正妻の座を用意はしたが俺は悪魔と寝る程耄碌しているつもりはない」


 この野郎……。言いにくい事を平然と言ってのけやがる。

 政略結婚なのは誰もが理解していた事だが、こうはっきりと面と向かって言われる身にもなれ。

 ランドール住民が聞いたら半狂乱の末、暴動が起きかねない発言だ。ブログは確実に炎上。やってないと思うけど。


 住民達は、政略結婚とはいえシスネが幸せになる事を期待し、信じて彼女を見送った。みな笑顔だった。

 だが、こいつの話を聞く限り、その淡い期待も御破算だ。むしろ最初から無かったのだろう……。

 分かってた。そりゃ分かってたよ? 会った事も無い相手と政治的な損得勘定で結婚して幸せになれる可能性は薄いって。


 分かっていたけどムカつく。


 こいつはいつか必ず一発ぶん殴ろう。決めた。絶対殴ってやる。鼻の穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたる。


 見えない事をいいことに、決意と共にアルガンの正面に居座りメンチ切っていると、アルガンの言葉が続く。


「正式な婚姻はゴタゴタが落ち着いてからになるが、一応、部屋は用意してやった。悪魔を城に入れているだけで不愉快なのだ。面倒を起こすなよ」


 そう吐き捨てるとアルガンはシスネを一瞥し、鼻で笑って広間の奥へと引っ込んでしまった。


 10分程の短い顔合わせだった。

 ただシスネが暴言を吐かれただけの10分間。


 怒る事も、泣く事も、反論する事もなく、シスネはただ静かに佇んでいた。





「ああああぁぁぁあ! 腹立つ腹立つ腹立つ!」


 用意された部屋へと案内され、シスネ達以外の人間が居なくなった途端、ミナの怒りが爆発した。


「ミナ、聞こえるわよ」


「分かっているよパッセル! 分かってるけど!」


 ミナが憤怒の表情をしたまま、同僚のハト、パッセルに八つ当たり気味に言葉を返した。


「あなた達、良く我慢したわねぇ。偉いわ」


 頬に手を当てたクローリが二人をそう誉めた。

 俺も二人は良く我慢したと思う。いや、この場合はクローリもか。


「それはだって……。シスネ様に恥をかかせる訳にはいきませんから……」


 しおらしい態度で唇を尖らせたミナはそう言った後、「でも!」と声を荒げた。


「シスネ様に向かって悪魔悪魔と! 何様ですかアイツ!」


「そりゃあ王子様でしょ」


「なんでパッセルはそんなに落ち着いているのですか!?」


「うるさいうるさい」


 そこから始まるハト同士の小さな口論。仲は良いようである。

 クローリがやれやれといった様子で息をつき、それから二人から視線を剥がしシスネへと向けた。


「シスネ様」


「……なんです?」


「あー……。―――そうそう、人花が気になってたんだけど、あれなんでかしら?」


 クローリがそう尋ねると、口論していた二人がピタリと言葉を止めてクローリを見た。

 ミナが問う。


「ジンカ?」


「ほら、城の庭に咲いてた変わった花があったでしょ? あれよ」


 クローリの答えにミナが「あー」と納得顔を作る。


 あれか。庭に咲いてた変な形の花。ジンカという名前の花であるらしい。

 ジンカねぇ……。ジンカジンカ―――ごめん、小ボケが思い浮かばない。ボケ無しで適当に、はははと笑っておいてくれ。


「それが何か問題なのですか?」


 と、今度はパッセルがクローリに尋ねた。


「人花はちょっと珍しい花でね。形も面白いし綺麗だけどアタシはあの花はあんまり好きじゃないのよ」


 そう前置きしてクローリが続ける。


「あの花ね、人を見分けるのよ」


「見分ける?」


「そ、見分けるの。人花の花びらは普通は白いのよ」


「白、ですか? 私が見たのは白色と赤色、黄色と、あと一本だけ黒もありましたね」


「そう。あの花はね、近くに人が来ると色が変わるのよ」


「色が、ですか?」


 ミナが頭の上に疑問符を浮かべて頭を傾げる。


「普段は白色をしているんだけど、人花の側に男が来ると赤色に、女が来ると黄色に色が変わるのよ」


「へー、そんな不思議な花があるんですね」


 ミナは納得顔で小さく頷きながら反復するように「男が赤、女は黄色」と呟いてから「ん?」とまた疑問符を浮かべた。


「黒はなんですか?」


 ミナが尋ねるとクローリが小さく苦笑した。

 何か言いにくい事でもある様な表情だった。


「黒は人ならざるモノを表す色です」


 人ひとり位なら片手で持ちあげてしまいそうなその体格とは裏腹に口の重くなったクローリ。そんなクローリに変わりシスネが答えた。

 淡々としたいつもの表情。


「人ならざるモノ……。―――モンスターだと人花は黒って事ですね」


 シスネの言葉に、シスネの言わんとしている事と、クローリの口が重くなった理由を瞬時に察したパッセルが、ミナより先にそう口にした。

 ミナが「なるほどなるほど」と呟く隣ではクローリがばつの悪そうな顔をしていた。


 自分らしからぬ失態を演じてしまったと、そう顔に書かれたクローリの様子に、俺は申し訳ない気持ちになる。

 たぶんクローリは、あのアルガンに散々なじられたシスネを思って声を掛けたのだろう。

 が、声を掛けた直後に、何か心境の変化というか続けようとしていた言葉を止めて、その代わりとして咄嗟に出て来たのが人花の話題であった。

 おそらく、人花を見た時に頭に何か引っ掛かりでもあったのだろう。だから咄嗟に出て来たのが人花の事だったわけだ。

 慌てて出てきた話題ゆえ、話の流れまでは考慮されておらず、人花の一番の特徴ともいえる色の話から、その理由、人ならざるモノの事―――俺はクローリに会うのは初めてだが、クローリの様子や、パッセルのフォローを鑑みに、普段のクローリならばそんな流れになると予測出来た事を予測出来ず、それでクローリはばつの悪そうな顔をしているのだと思う。


 シスネは人花が黒くなる理由について、おそらくあえて『人ならざるモノ』という言い回しを使った。

 そしてパッセルもあえて、モンスターという単語を強調した様にみえる。

 両者ともに、悪魔という単語を使わなかった。


 人花が黒くなるのは、花の近くに人ならざるモノ―――つまりはモンスターや悪魔がいる時である。

 確かにあの時、庭には一本だけ真っ黒な花びらをした人花が咲いていた。

 王国の中央の中。王の住まう城の中でである。


 通常ありえない。

 あの場で人花が黒く咲いているというのは、幾重にも巡らされた厳重な警備の目を掻い潜り、王の城に人ならざるモノが侵入したという証に他ならないからだ。


 あの場にいたのは王国の使者団とシスネ一行のみ。

 にも関わらず、人花が黒色に染まったという事は、それらの中に人ならざるモノが紛れ込んでいるという事実。

 その事実の答えとして、やり玉に上がるのは悪魔の末裔と風聞を聞かせるシスネであろう。事実無根の風評被害。


 アルガンがあそこまでシスネを罵ったのも多分このせいだ。

 人花が黒く咲いている事を部下にでも報告を受けたアルガンは、長く流布し続ける悪魔の末裔という噂は噂ではなかったと、そう確信をもってシスネと対峙し、結果ああいう態度になった、という事なのだろう。



 シスネに気を遣うクローリやパッセル。そして、良く分かってないミナ。

 そんな三人に向けてシスネが「人花は」と口にした。

 パッセルが「まだ続けるのか!」みたいな顔をしたのが面白い。


「人花は、そういう特殊な花という事もあり、貴族などは屋敷の庭に良く植えてるそうです。育てるのが大変な花だそうですので、ある程度の知識がある庭師がいるところでなければ無いかもしれませんが……」


「防犯の為ですか?」


「そうです。―――モンスターはともかく……、悪魔は人を化かしますから」


 興味津々のミナ。

 その隣には苦笑いするクローリ。

 シスネを挟んだ反対側に「もうフォロー出来ない」とでも言いたげにクローリに向けて首を振るパッセル。

 三者三様の表情の中、シスネは続ける。


「二人の面白い顔も見ましたし、そろそろネタばらしをしておきますが……」


 そう言って、シスネは自身の胸元へと手を差し入れて、何かを取り出す様な仕草を見せた。

 シスネの様子に、三者三様だったはずの三つの顔が怪訝な顔に統一される。


 三人が注目する中、シスネが胸元から取り出したモノ―――


「スライム?」


 ミナが言った。

 その視線は、シスネの手の平に乗る人の拳程の小さなスライムに向けられている。


「サイズは随分小さいですが、そうです。スライムです」


「何故スライムがそんなところに?」


 クローリが尋ねる。


「出発の前夜、御守りと言って渡されました」


「誰にですか?」


「……魔王に、です。―――おそらく人花はこの子に反応したのでしょう」


 そこでシスネは一度言葉を区切り、手の平に乗る小さなスライムから目を外し、おもむろにクローリを見て、続きを口にする。


「そう心配せずとも、以前カナリアに人花を見せて貰った時に、私は―――フォルテもですが、ちゃんと黄色い花が咲きましたよ」


 シスネの言葉を聞き終わるや否や、クローリとパッセルが大きく息を吐いて全身から力が抜けた様に脱力した。

 二人の様子にシスネが珍しくクスリと笑い、ミナは意味が分からず眉を寄せたまま小首を傾げていた。


「はぁ……、そういう事は先に言っておいて欲しいわ。余計な気を遣っちゃったじゃないの」


「すいません。二人があまりに深刻そうだったもので、つい可笑しくて」


 言ってまたシスネがクスリと笑い、「ところでクローリ。あなたは赤と黄。どちらが咲きました?」と訊いた。


「もう! イジワルなんだから」


 そうして三人で笑い合う。

 ミナはやっぱり意味が分からず、笑う三人に眉を寄せて首を傾げただけだった。



 おっと忘れるとこだった。

 肉体同様、俺の無いに等しい名誉の為に言っておくが、

 スライムに憑依してシスネの胸元にいたりなんてしてないんだからね!



 ……ツンデレの使い方が違うような気がする。

 ―――ツンツンしてデレデレだよね?

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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