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カナリアは今日も坑道へ

「あ、あの! どうして……」


 緩やかに降下し始めた箒の上で、男の子の服を掴まえたまま尋ねた。

 異世界から来た事は誰にも話していない。ミキサンにもだ。

 知ってる人はいない筈のそれを口にした男の子に慌てる。


「俺も異世界から―――日本から来た」


「お、同じです! 私も!」


「だろうな。日本人って顔してる」


 そう言った男の子の後ろから覗き込む様に見たその横顔は、何処か懐かしさを覚える、日本の男の子の顔だった。

 男の子の背中からちょっとだけはみ出した私の顔に、当たる風が少し強くなって、潮の香りが強くなった気がした。


「着いたぞ」


 男の子が言い終わるのと、箒が大地―――海岸へと到着したのはほぼ同時で、箒は一度、ふんわりと砂埃を巻き上げると足の着く高さまでゆっくり降りていった。


 私が降り立ったのは、ロマンスが生まれそうな砂浜―――ではなくて、海面を上から見渡せる様なちょっとだけ低いところにある小さな崖の上。足元は妙にゴツゴツしていた岩肌で、申し訳なさ程度に茶色い土と緑の草が僅かに広がっており、二時間ドラマで推理でも披露しそうな場所。あんなに高い崖じゃないけど。



 私が箒から降りた事を認めると、男の子も股がっていた箒から降りて、箒を手に掲げた。


「どうして分かったんですか? 私が異世界から来たって」問う。


「箒で空を飛ぶなんて発想は異世界から来た奴でも無い限り出て来ないよ。―――面倒だからな、箒で飛ぶのは」


「それだけで……」


 さっき聞いたばかりの話を思い返す。

 箒で飛ぶには、物を浮遊させる魔法だけでなく、重心を固定させる魔法も無いと上手く飛べないらしい。通常なら前者だけで事足りる物に、わざわざ二つも必要とする箒を選択するのは確かに非効率だと思える。

 便利なんだか不便なんだか。

 でもまあ、「革新的に、魔具を用いた飛行魔法形態に一石を投じた」くらいにしておけば、なんか偉業っぽく聞こえるんじゃないかな?


「あ、そういえばお名前をまだ……」


 冒険者証明は確認したが、ランドールギルドではそれを鑑定玉に掛けたりはしない。あくまで目視で「冒険者かどうか」の確認のみ。だからまだ私は男の子の名前を知らなかった。


「む。そうだったな。―――ヒロだ」


「ヒロさん。私はシンジュです」


「知ってる。―――あと、実はもう1人仲間がいる」


「お仲間さんもランドールの街にいらっしゃるのですか?」


「いや、ここに……」


「ここに?」


 キョロキョロと辺りを見渡すが周囲には誰もいない。誰もいないところというリクエストで海岸までやって来たのだから、当然と言えば当然ではある。


「おい。準備良いか?」


「はい?」私に向けた言葉かと思い、少し怪訝な顔をして返す。


 少し間を空け―――


「グリランドール!!」


 そんな台詞を叫びながら、ヒロさんの帽子のフチをガバリと持ち上げた小さな何かが姿を現した。


「え?」


 あまりに突然の出来事に、しばしその小さな何かを見つめて固まってしまう。


 少しの静寂の後、


「ウケないじゃない!」


 帽子から飛び出して来た小さな何かが怒った顔をしてヒロさんの頬をペチッと蹴飛ばした。


「おかしい。ビリーとかいう奴の顔に笑いを堪えていたから絶対に笑うと思ったのに……」


 ビリー?

 ―――あっ、ハリポタか。


 そこでようやく気が付いた。


「いや、あの、ちょっとびっくりしてしまって……」


 ヒロさんの顔の隣でふわふわ浮かぶ小さな何かに視線を向けつつ釈明する。

 滑ったのは私のせいでは無い気がするけども……。


「ハロよ。あなた、妖精を見るのは初めて?」


「妖精! すごい! 初めてです! 可愛い!」


 興奮して矢継ぎ早に言う私の言葉に気を良くしたのか、妖精さんがちょっと得意気に胸を張る。


「ちょっと聞いた聞いた? 可愛いだって。私を見るなりデカイ虫ってほざいたヒロとは大違いだわ」


「うるせぇな。ほんとにデカイ虫だと思ったんだよ」


「失礼しちゃうわよ!」


 ぷんぷんと頬を膨らませる妖精さん。


「わっ、わっ、喋ってる! 動いてる! 何この可愛い生き物! ヤバス!」


 鼻息荒く顔を寄せる私に、妖精さんはちょっと焦った顔をして、「……これはこれで、ちょっと反応が怖いわね」と、やや引き気味にそう口にした。

 妖精さんに嫌われるのはイヤなので、それでちょびっと冷静になって食い付き気味に見ていた顔を引いた。


 そうすると、パッと表情を変えて「そ、れ、よ、り!」と、妖精さんが私を指さした。


妖精心眼(ルビーアイ)で確認したけど、あなた持ってるわよね?」


「持ってる? 何をですか?」


「『異界渡り』よ!」


 妖精さんの口から出た『異界渡り』という単語に反応する。


「異界渡りって……、あの異界渡りですか? 魔法の?」


「それだ」と、ヒロさん。


「持ってますけど……」


「異界を渡る為の大魔法『異界渡り』。ヒロはね、その魔法を求めて旅をしてるの」


「元の世界に帰る為にな」


「そうだったんですか……。それで私のところに……」


 そういう事であるらしい。

 異界渡りを持つ私の存在を何処かで知って、それで接触して来た、というわけか―――。

 そう思った途端に、先程まで周囲を彩っていた淡い春の花畑の様な背景が、春一番の皮を被った暴風に吹き飛ばされて何処か遠くに旅立った。


 別に残念じゃないですよ?

 デートのお誘いとか思ってませんでしたし?


「ほら、ヒロ! 先にあんた謝りなさいよ!」


「は? なんで?」


 肩透かしを食らった私が意気消沈したのが分かったのか、申し訳なさそうな顔をした妖精さんがそんな事を言った。


 別に残念とか思ってないし?

 人生初のモテ期来たとか思ってませんでしたし?


「ごめんね。コイツ、女心とか全然分からない奴だから」


「……いえ。―――はい。大丈夫ですよ? 全然」


 やめてつかぁさい。

 妖精さんのそのフォローが逆に痛い。箒の二人乗りにドキドキしていた自分が馬鹿みたいだから。


「話戻して良いか?」


「もう!」


 両手を腰に当てた妖精さんが、怒った顔でヒロさんを見る。


「なんだよ?」


「あ、大丈夫ですよ? えっと、異界渡りの話ですよね?」


「ああ、そうだ。俺は元の世界に帰りたい。あんたの異界渡りを使って俺を元いた世界に帰してくれないか?」


 頼む! と、ヒロさんは、両手を合わせて懇願すり様に告げた。


「え? ―――ヒロ、いますぐ行っちゃうの?」


 少しだけ困惑した様な顔つきで妖精さんが言うと、ヒロさんは「あー」と何かを考える素振りを見せた。


「まっ、でもさ、ゆっくり別れを惜しんでる間にまた消えちゃったりしたら困るもんね」


 眼を赤くして、端に涙をじんわり溜めた妖精さんが、気丈に笑顔を見せる。

 小首を傾げる私を置いてきぼりに、何だか最後のお別れの様な空気が周囲に広がり始め―――


「あの……。凄く言いづらいんですけど―――」


 小さく片手を挙手して、物悲しい雰囲気の中に無遠慮に割って入る。


「私は確かに異界渡りという魔法を持ってます。持ってはいるんですが……その、―――使えないんです」


「魔力が足りないって事か?」と、ヒロさん。


「大魔法だもんね」と、妖精さん。


「足りないっていうか……全然無いっていうか……。――――魔力が空っぽなんですよね、私」


 私がそう言うと、二人が一度、顔を見合わせた。


「そんな事あるのか?」


「さあ……。聞いた事が無いけど……。でも、ヒロ達のいた世界って魔法が無いんでしょ?」


「ああ」


「なら、空っぽでも不思議じゃないんじゃないかしら?」


「そんなものかな? 自分以外で異世界人に会ったのは初めてだし、良く分からないな。―――まあでも、それならそれでやりようはある」


 そう言うとヒロさんはおもむろに手を伸ばして、私の手を取った。

 不意打ちぎみのそのヒロさんの行動に、もじもじと俯き、恥ずかしさを覚える。


 ヒロさんは、そのまま自身の両手で私の手を包み込むと、しばらくジッと手に視線を落とし続けた。たぶん耳まで真っ赤になっているであろう私と違い、ヒロさんは平気そう。異性慣れしている人と、そうでない人の違いだろうか……。

 案外この人たらしかも知れない、と私が思い始めた頃。


「妙だな」と、怪訝そうな顔をしたヒロさん。


「どうかした?」


「魔力が流れて行かない」


 ちょっと険しい顔をしたヒロさんが言った。


「これはどういう……」


 少しだけ顔を赤くした私が問うと、


「俺の魔力をあんたに渡して、そうして譲渡した魔力であんたが異界渡りを使える様になる。―――と、考えてたが」


「駄目だったと?」


 頭の中でステータス画面を開いてみる。

 魔力値を確認すると0だった私の魔力が小刻みに増えて、そして減ってを繰り返していた。

 増えているのはヒロさんの言う、魔力譲渡というやつのせいだと思う。しかし、増えたそばから減っていき、あっという間にゼロになる。

 底の抜けた袋に水でも入れているかの様。


 しばらくヒロさんは、私の手を握ったまま魔力の譲渡を試みていたが、いくらやっても私の魔力値が増えていく事はなかった。

 真剣な表情でそれを行うヒロさんだが、はたから見ればそれは、互いに手を握り合って佇む同年代の男女。

 凄く気恥ずかしい。

 世の中の恋人同士は何故平気な顔で手を繋いで歩けるのか……。


 やや置いて、


「駄目だな」と、ヒロさん。


 ヒロさんの両手に包まれていた私の右手が、気恥ずかしさでちょっとだけ汗をかき始めた頃になって、ヒロさんがようやく手を離した。


 右手だけがやけに熱い気がした。


「魔力を蓄えておけないなんて、あんた妙な体質だな。こんなのは初めてだ」


「ははっ……」


 渇いた笑いしか出て来なかった。右手は汗ばむ位なのに笑いは渇く。摩訶不思議。

 それはそうと、魔力0でもショックだったのに、私は妙な体質まで持っていたらしい。

 私はとことん魔法という物に嫌われているようだ。


「どうするのヒロ?」


 軽い調子で妖精さんが尋ねた。上手くいかなかったのに、何故だか妖精さんの顔はちょっと嬉しそうに見えた。


「折角見つけた異界渡りの持ち主がそれを使えないんじゃ、地道に行くしかないな」


「すいません」


 なんだか責められている気がして謝罪の言葉を述べる。


「別にあんたが悪い訳じゃない。帰る方法が無くなった訳でもないし、コツコツやるさ」


「何か帰る方法が」

「こんなところで何をしておいでかしら?」


 ―――尋ねた私の言葉を遮って、ひく~~い声が上空から降り注いだ。思わずギクリと身体がこわばった。


「…………ミキサン」


 関節のサビた人形みたいにギギギと声の方へ顔を向けると、満面の笑みを浮かべたミキサンが空中に佇んでいた。

 笑顔だけれど目がちっとも笑ってない。悪鬼羅刹が無理矢理に微笑んだ様なその笑顔は、口の端がピクピクしていた。


「きょ、今日は何か用事があったんじゃ……?」


 冷や汗まじりにミキサンへ問う。

 別に悪い事をしていたわけでも無かった気がするけど、右手どころか全身から汗が滲んで来ている様な気がする。


「そちらはもう終わりましたわ。終えて戻って来てみれば、―――全く、油断も隙もありませんわね」


 溜息を混ぜて、うんざりそうにミキサンが吐き出した。


「わたくしが傍に居ないのを良い事に、この様な人気の無い場所で、真っ昼間から、堂々と、あまつさえ手を握って、逢引きとは……。―――あなた、覚悟はよろしくて?」


 笑みを浮かべたミキサンの言葉は、私ではなく、隣のヒロさんに向けて告げられた。

 ミキサンの表情は、真上に近い太陽が作る陰影も相まって、酷く恐ろしく見える。

 手を握っているところまでバッチリ見られていたらしい。別にそういう意図のある触合いでも無かったけれど、客観的に見ればやはりそう見えた様だ。


「なんだお前?」


 恐れを知らないらしいヒロさんが、少し気分を害された様な顔でミキサンに返した。


 瞬間、

 両者の間に火花が散った。(ように見えた)


 ミキサンは、ゴミでも見る様な眼をしてヒロさんを見、


「わたくしこそ、なんだお前とお聞きしたいですわね。鼻垂れ小僧の分際で我が主を口説こうとするなど、100年早いですことよ。身の程を弁えなさい、小童」


「ミキサン、あのね、この人は」

「おいチビ。いきなり出て来て偉そうだな」


 私の言葉を遮って、ヒロさんの声が上空のミキサンへと飛んでゆく。


「いや、ヒロさん待って。違くて」

「偉そうではなく、偉いのですわ。少なくともお前の様な害虫よりは」


「ミキサン、ちょっと話聞いてくれる?」

「はっ! お前が? ただのチビだろ」


「ヒロさんも少し落ち着いて」

「身体の大きさと偉さは関係ありませんことよ? ―――ああ、虫の世界の事には詳しくありませんので、あなたの世界ならばそうなのかもしれませんわね」


「あの……話を」

「口の悪いチビだ。年上に対する礼儀ってもんを知らないらしい」


「聞いて欲しいな~、なんて」

「礼儀を知らないのはどちらかしら? 虫ケラの世界には、品という文化がありませんのね」


「お前こそ、今すぐ何処かで品性を買ってきたらどうだ? お子ちゃまの小遣いで買えるといいな。なんなら小遣いでもやろうか?」


「小童がわたくし共の前でチョロチョロしているだけでも目障り、且つ不愉快ですのよ。―――絶対魔王主義(ヒザマズケ)


 三流の煽りに三流の煽りで返す両者に、いつ止めようかと(何故ことごとく無視されるのかと)考えていたら、ミキサンが早々に実力行使にうって出て、内心慌てる。


 ミキサンがそれを口にした途端に、周囲の空気が重くなる。

 言霊に魔力を乗せて放ち、相手を強制的に縛りつけるミキサンお得意の絶対魔王主義という名のドS魔法。

 その強制力、制圧力は凄まじく、ランドールギルドの冒険者さん達や、ランドール家に仕える黒服さん達すら、指の一本すらも動かせなくなる恐るべき魔法。

 口汚いあからさまな煽りは三流だけど、魔法の腕前は超一流のミキサンの十八番。



 ―――だったのだが、


「断る」


 何事も無い様にヒロさんがピシャリと言ってのけた。


 そんなヒロさんの様子に、ミキサンの顔に小さな驚きが浮き上がった。

 私も驚いた。

 ミキサンのソレに逆らえる人なんて今まで居なかったのに。


「……ただの小僧というわけでも無いという事かしら?」


 やや険しい顔付きの思案顔をしてミキサンが言った。

 ミキサンのこの魔法に対抗出来るのは、魔王であるミキサンと同格以上の力の持ち主だけだと、以前ミキサンに教わった。

 つまり、いま私の隣にいるヒロさんは、ミキサンに匹敵する超一流であるという事らしい。


 考えてみれば、ヒロさんは私以外にも居たらしいこの世界で初めて会った異世界人である。

 もしかするとチートなんかを持ってたりするかも知れない。

 そう考えると、ヒロさんが魔王に匹敵する強さを持っていても不思議じゃない様な気がする。


 睨み合う両者。


「ヒロ、あの子」


 妖精さんが深刻そうな表情でヒロさんに声を掛けた。


「俺もさっきので気付いた。街の外で見た悪魔はコイツだな」


 街の外?


 私がそれに小さな疑問を抱いたのとほぼ同時、上空のミキサンが「ああ」と小さく唸った。


()()はあなたでしたのね。危うく額に風穴が開くところでしたわ―――そうと分かれば、御返しをしてあげませんといけませんわね」


 そう言ってミキサンは微笑んだ。

 その溢れ出る魔力を微塵も隠そうとはせずに。



「はいはい、喧嘩はそこまでですわぁ」


 一触即発で睨み合うミキサンとヒロさん。

 そんな二人を制止する声が、パンパンという手を打った音と一緒に横から届けられた。


 そちらを向くと、私達から少し離れたところに、えらくド派手なメイド服を身に纏った女性と、数人の黒服さんがこちらに顔を向けて立っていた。

 奇抜な服の女性の名前はカナリアさん。ランドール家のメイド長さん。


「今日は家から出ない約束ですわぁ? 暴れないともぉ」


「用が終わるまでは、と言ったはずですわ。丸1日と確約した覚えはありません事よ?」


「そう仰らずぅ、ここはカナリアめの顔に免じて一旦お怒りをお収めくださいませぇ」


 ニコニコと笑顔で言ったカナリアさん。

 ミキサンは少しだけカナリアさんを眺めた後、小さく鼻を鳴らして、それから私のすぐ隣へと降り立った。


 それから、ミキサンはすぐ側にいるヒロさんを下から睨む様に一瞥すると、全身でグイグイと私の体を押して、ヒロさんとの距離を取った。


 ヒロさんも負けじと睨み返し、再び両者が口を開きかけるが、それを見越した様に、カナリアさんが「コホン」とわざとらしく大きな咳をして、二人のそれを遮る。


 カナリアさんは両者が口をつぐんだ事を認めると、チラリとヒロさんへ顔を向けた。


「魔導の申し子・ヒロ―――ですわねぇ?」


 カナリアさんに名を呼ばれたヒロさんが、少しだけ驚いた顔をする。

 魔導の申し子? もしかすると2つ名ってヤツだろうか?


「今日のところは、私共ランドール家はあなたを()()()()()()()致します。―――どうぞ、お引き取りを」


 凄む様な台詞。されどカナリアさんは微笑んだまま、あくまで穏やかな口調でそう提案した。

 刺がある様に聞こえたのは私の気のせいだと思いたい。


 シスネさんと初めて会ったあの日以来、カナリアさんとはたまに話をする機会があった。主にシスネさんからの伝言役として。

 メイド長、というランドール家の重役ポジションという事もあって、最初の頃はカナリアさんと会うとかなり緊張もしたが、

 出会い頭の挨拶が「ごきげんよぅのコニャニャチワァ」という快活なものだったり、

「今日は陽射しが強いですわねぇ」と、言いながら手に持つその日傘には、肝心の生地が無く、骨組み部分しかなかったりとカナリアさんは会う度にちょいちょい小ボケを挟んでくる。


 それでこっちが呆気に取られたり、驚いたりすると、まるで初めからこちらの反応を見るのが目的だったかの様にクスクスと笑う。

 同じランドール家でも、いつも凛々しくあろうとするシスネさんや、キチッとした黒服さん達とはまるで正反対。


 その証拠に、さっきミキサンに言った「私の顔に免じて~」に掛けているであろう、頬に書かれた『仲良く』という文字。

 どう見たって悪ふざけにしか見えないが、それを目にしたミキサンは反論するのも馬鹿らしいとばかりに大人しくなった。


 そんな風に、カナリアさんはいつもニコニコと微笑みを湛える人で、それに加えて、周囲の目を惹く奇抜な服も相まって、妙に()()()()()()()()()()人である。


 しかしながら、かと言って親しみ易いわけでもない。

 奇抜な服で微笑むその顔が、何処かブキミさも醸し出す。そんな不思議な雰囲気の持ち主。


 真面目な話にもちょくちょく冗談を交えて口にする。それで、真面目な話なのか軽い話なのかが分からなくなる。

 見た目、口調、雰囲気と、五感で伝えたい事を表現する。

 なんと言えばいいのか―――ピエロみたいな人?

 真剣なのにふざけている様に見えて、ふざけているのに怒っている様に見える人。掴み所が無い人。


 悪い人には見えないけれど、フォルテちゃんに「危ない奴だからあまり近付くな」と脅されているので、出来るだけ今の距離感のまま接しようと思っている。



「ヒロ」


 少し沈んだ様な声で傍にいた妖精さんが言った。

 ヒロさんはちらりと隣を見て、アイコンタクトでもしたかの様に小さく妖精さんに頷いて見せた。

 ヒロさんは大沼蛙を呼び出し、箒を取り出すと、


「いくぞ、ハロ」


「う、うん」


 こうして、ヒロさん達二人は何処かに飛び去った。

 離れていくヒロさんの背中を眺めながら、少し名残惜しい様な気がした。

 別にもったいぶったわけでもないだろうけど、ヒロさんにはもう少し聞きたい事とかあったりする。


 いや? 違いますよ?

 歳の近い異性だからとかじゃないですよ?

 口も愛想も悪かったけど、でもそこがちょっとカッコよかったとかそーーゆーーのじゃないですから。

 同じ異世界から来た人って事でですよ?

 ええ、そうですとも。



 ちょっとグレそう。

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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