表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/321

豊穣祭、二日目・急転Ⅱ

短いです

 今後について、残酷にもシスネが侯爵夫妻の護衛の任をリナに言い渡し、まさか自身もまとめて「守られる側」だとは思っていないリナが真に受けて、口からひゅるるぅと魂を飛び出させていた頃だった。


 なんだこりゃあとドームを見た感想を大きな声で喚きながらシンジュが広場へと姿を見せた。

 傍らには、とんがり帽子を被った魔法使い。

 気付いたフォルテがハトを引き連れたまま二人に近づく。


「遅かったな」


「……ああ」


 何故かげんなりした様子でヒロが応じた。

 ヒロが愛用するローブがグチャリと濡れ、白色に染まっていた。


「あっ、聞いてよフォルテちゃん。ヒロさんってばわたしの頭を箒で殴ったんだよっ。ヒドイと思わない!?」


 ぐぐっと顔を近付けて鼻息を荒くするシンジュに、どーどーと苦笑いを浮かべたフォルテが落ち着くように促す。


「お前が俺の話を聞かないからだろ。人が親切で呼びに来たってのに、バカスカ撃ってきやがって」


「私を誘き出すための敵の卑怯なプロパガンダかと思って」


「やかましいっ」


 コント染みたやり取りを交わしてから、シンジュはドームに顔を向け、見上げた。

 興味深そうに上から下へと視線を這わせながら近づく。

 手前で足を止め、ソッと手を伸ばす。

 恐々と人差し指を近付け、コツンと小突くように触れ、何事もないのに安心したのか何度かチョンチョンとつついてから、べたりと手の平をつけた。

 熱くもなく冷たくもないガラスのような触感。

 顔を近付け、片眼を瞑り、中を覗き込む。

 しかし、黒いモヤのようなモノが充満していてモヤ以外にこれと云ったモノは見えなかった。

 シンジュは一度両目とも閉じると、すぐにまた開いた。

 そうして開いた時には、黒目がちだったシンジュの瞳は12色のグラデーションへと変化するオーロラのような瞳へと変わっていた。


「何か見えますか?」


 中をまじまじと覗き込んでいたシンジュに、いつの間にか隣に立っていたシスネが尋ねた。

 シンジュは声の方に顔を向けると、じっとシスネの顔を無言で見つめた。


「何か気になる事でも?」


「いえ、そういうわけではないです……。そう言えば、ミキサン見てませんか?」


「……彼女ならこの中です」


「あら~、ミキサン閉じ込められちゃったんだ……」


 シンジュは苦く笑った後、口元に手をあてがい何かを考え込んだ。

 すぐに何か思い付いたようで、パッと顔を上げた。


「わたし、ちょっと用を思い出したので一度家に戻ります」


「……わかりました。あなたなら大丈夫だと思いますが、気を付けてくださいね。なんなら護衛にカラスを付けましょうか?」


「いえ、大丈夫です」


 ペコリと小さくお辞儀をすると、シンジュはやや駆け足でその場を離れていった。

 来たばかりですぐまた広場を離れていくその背中を、シスネは無表情に見送る。


 ――いま、話題を逸らした?


 そんな事を思ったあと、シスネは謎のドームへと顔を向け直した。

 シスネの目にはドームの中で不気味に蠢く黒いモヤだけが映った。今にも何かがモヤの中から飛び出して来そうな気がし、薄気味悪い――とシスネは僅かに顔をしかめた。


 ――彼女はその眼で何を見たのだろう……。

 私に言えない何を、彼女は目にしたのか……。


 シンジュの態度に僅かな不安を覚えた。


「薄気味悪い」


 シスネは湧いた不安を絞り出すように、モヤの充満するドームに向かってそうポツリと吐き捨てた。





 同時刻。

 正面から堂々ランドールへと入り込む影があったが、突如として出現した黒いドームによってもたらされた混乱の渦中であったため、それは誰にも気付かれなかった。

これで十章の前半が終了

後半は書き溜まり次第公開予定です


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on小説家になろう 勝手にランキングに登録しています

ミキサン
面白いと思ったら、ブクマor評価をお願いします。

素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ