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招待状




「いっそお前と二人だけで行ってみるか?」


「ご冗談を」


「不服か?」


「困ったことを仰います」


「これも側近の務めであろう?」


「二人が嫌なのではなく、ゆく事そのものに反対しているのです」


「そうか。それは困ったな」


 剣と盾を描いた大きな印旗が掲げられる玉座の間。

 アルガン王と賢者アリンの姿があった。


 ヨビによって破壊された王城。数日前までは崩壊寸前だったが、今や破壊の痕など無かったかの様に――むしろ、改築時に意識して仕立て直された造りは、以前よりも装飾が過剰になっていて、派手な佇まいを見せている。


 中央の優秀な魔法使い達の手によって二日足らずで城は元の姿に戻っていた。

 中央の象徴とも云える王城の再建は、何を圧してでも実行すべき急務とされた。

 王の健在。その周知は、傾きかけている王国にとって革命や離反への牽制として必要な事であった。


 当然ながら、自分達を優先する中央政権に対し、国民達が不満に思わないわけではない。

 下手をすれば、それをきっかけとした暴動が起きる可能性は勿論あった。

 しかし、実際は国民の――特に首都ハイヒッツの人々の王家に対する目は、さほどに厳しいものではなかった。


 それもこれも、その不満をランドールが飲み込んだためである。

 ランドール家は中央の支援に際し、「中央への支援は、中央政権からの打診によるもの」という体裁を取った。

 中央に協力を求められたので、それに従ったという建前で支援を始めたのである。


 それは事実とは異なり、実際は支援の話はランドール側からであり、中央はただそれに頷いただけに過ぎない。

 だが、それが結果的には中央政権に対する批判をおおいに和らげる結果となった。

 半死半生のハイヒッツ国民に、王はまだ我々をまだ見捨ててはいないのだ、という安心感を抱かせるには、それで十分だったのである。


 売れるだけの恩を売っておく――というフォルテの言葉通り。このあくまでも王家を立てた形での応急的な支援によって、ランドールは中央の国民だけでなく、中央政権へ恩を売る事も出来た。


 中央政権にとっては、こちらがにっちもさっちも身動きが取れない状態でのランドールからの提案に、なんて姑息な連中だと不満に思う部分もある。

 あるが、実際問題、ランドールの支援が無ければ、ここまで穏便に、且つ迅速に中央の復興に向けての目処など立たなかったのも事実。

 中央は、この一件で確かな「借り」をランドールに使ってしまったのである。


 そんな中央に、フォルテからの新たな連絡が入ったのが、今から数十分程前の事。

 

 そのフォルテの言葉を簡潔に纏めるならば、「祭りをやるから、どうぞ陛下もお越しください」というものであった。


 この切迫した状況で祭りなどふざけるな――と、政権の上層部は怒り心頭であったが、しかし、開催するなとも、参加しないとも言えない状況であった。


 現在、立場が下にも関わらず、主導権は間違いなくランドールにある。

 この祭りにケチをつけようものなら、ランドールが中央と裏で交わした内情を暴露した上で支援を打ち切るという行動に出かねない。

 もしそうなれば、民の不満は支援を打ち切ったランドールではなく、確実に中央政権に向く。

 今の切迫した中央政権ではそれらの不満は抑えきれるものではない。

 それを理解している重鎮達。

 ゆえに、祭りの開催も、招待も断れずただ不満を積もらせる事しか出来ないのである。


 声にならない怒りの声を上げる上層部であったが、そんな中でアルガン王だけが、何故か笑っていた。

 実に愉しそうに――



「本当に行くおつもりですか? 別に陛下が行かずとも代わりを行かせれば良いではありませんか。今の中央の惨状ならば、断る理由などどうとでも出来ますし、代理さえ立てればある程度の体裁は保てます」


 愉しそうに笑うアルガンに向け、側近アリンは半分諦めつつも再度尋ねた。


「ああ、行くとも。ご指名は俺だ。こんな愉快な事態に、俺が行かずしてどうする」


 言って、アリンをからかう様にまた笑う。

 淀みなくハッキリと明言したアルガンの言葉にアリンが嘆息した。

 息と共に呆れを吐き出したアリンが、居住いを正して真面目な顔を作る。


「分かりました。護衛の数は如何程に?」


「貴様に任せる。だが、祭りだという事を忘れるな。無粋な人数は要らん」


「陛下、悪魔領に行こうというのですよ?」


 アリンの言葉にアルガンがハッと皮肉じみて鼻で笑う。

 それからアルガンはアリンから視線を外し、他所を眺めて、警備の兵達が遠く玉座の間の脇に控えているの確認したのち、目を細めた。

 やや声を落としてアルガンは口を開く。


「結構な事だ。――アリン、こう考えろ。悪魔は神の敵。なれば、敵の敵は味方だ」


 自信ありげに告げたアルガンを横目に一瞥した後、アリンは一呼吸の間を取って呟くように言葉を投げた。


「背中から刺されるやも」


「刺されんさ。少なくとも、教会をひっくり返すまではな。あのイカれた教会と事を構えるならば、悪魔とて立派な道具になりえる」


 口の端を僅かに持ち上げて笑う王に、――この好食は何を考えているのやら――と、アリンはアルガンを横目に見ながら考える。

 否――考えたくもない。

 考えればろくな事が思い付かない。


 この王は――いや、王になる前から、この男はこうなのだと自身に言い聞かせた。

 身の危険を考えれば、当然、断るべきランドールからのお誘いである。

 しかし、どうせ一度言い出したら聞かないのならば、それを前提に物事を考えた方がよっぽど建設的だと、アリンは気持ちを切り替える事にした。


「護衛の件ですが、あの野蛮人カジカが軍を抜けたのは痛手でしたね」


「腕だけは確かな男だったからな。もともと忠誠心など露ほども期待していなかったゆえ、あの男が離れた事は、予想通りと言えば予想通りだがな」


「それはそうですが、今回のように少人数での護衛となると欲しかった人材ではあります。――そうですね。私とイデア将軍は確定として、カジカが抜けた後釜となると、あとはろくなのがいませんよ。先の件でブナハ将軍を含めた使える方々はしばらく動けませんし」


「それを考えるのは貴様の仕事だ。俺に振るな」


「そうですね。私の仕事でしたね。じゃあイレブン呼びますね」


 アリンがそう口にした途端、今まで愉悦そうに微笑みを絶やさなかったアルガンが渋い顔をした。


「本気か?」


「本気です」


「本気だろうが、正気ではないな」


 アルガンが物騒な事でも口にする様に吐き出す。


「私だって嫌ですよ。あの男を連れて行くの。――正直、苦手なんです」


「俺もだ。アイツは魔法の才覚ではなく、あの鬱陶しい性格で三賢者になったのではないかと思っている」


「同意します。しかし、あの男を護衛として連れて行かねばならない程の覚悟をもって挑まねばならぬ事だ――そういう自覚を持って頂きませんと……」


 皮肉を多分に含めたアリンの物言いに、アルガンがチッと舌を打つ。


「あまり行きたくなくなって来たな」


「じゃあ行くの止めましょう」


 正面を向いたまま、されどしたり顔で言ったアリンの横顔を、忌々しそうにアルガンが睨みつける。


「貴様がアイツを呼ぶのを止めれば良かろう」


「最適な護衛の選抜は私の仕事ですので、妥協は致しません」


「チッ」


 もはや不機嫌さを隠そうともせず、アルガンは隅に控える兵達の耳にも届き、それで彼らを萎縮される程の大きな舌打ちを鳴らした。

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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