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シスネとフォルテ・Ⅱ

 こんにちは。

 ランドールの隠れた秘密兵器ことパパです。

 隠され過ぎて埃を被っています。


 どうやらバレてるらしい。


 何が?

 俺の存在が。


 王様のいる首都ハイヒッツが悪魔達に襲われたのが昨日の事。

 なんか目つきの悪い悪魔をぶん殴って、ヨビという少年をランドールへと連れて戻ったところで、憑依が解けた。


 再びいつもの役立たずになった幽霊は、一晩中駆けずり回って、ピーク時に比べたら随分減ったとはいえ僅かに残っていたモンスターや悪魔の討伐をする者達や、事後処理に奔走する者達を応援する役に大抜擢されて、そして見事にやり遂げた。完徹で貫徹。眠くならない幽霊って超素敵。超暇。


 それから一晩明け、今後どういう動きを取るつもりなんだろうかと気になったので、ランドール家に情報収集に来たわけだが、そこで、シスネとフォルテが話し込んでいるところに遭遇し、綺麗どころが二人もいるぜと喜んで二人の会話に聞き耳を立てた。


 その中で、まさか俺の話が出てくるとは思ってもみなかった。

 若い女の子が俺の話をしているのは、幸せといえば幸せなのだが、素直に喜べないのも事実。


 バレたきっかけなんかもわざわざ話してくれていたので、今後はその辺りも気を付けようかと思ったりしたが、思ったところで「加護の気配ってなんぞや?」という根本的な問題に直面した。


 正直、俺は何かの達人ではないので、「むっ、敵の気配が消えた」などと敵に言ってもらえるような事は出来ない。

 いやまあ、出来る出来ない以前に「気配ってなんぞや?」というそもそも論が待ち受けているのだ。

 魔力とか気配とか、そういう目に見えないふわっとした物を会話に混ぜないで欲しい。存在自体がふわっとしている幽霊にそれを言う権利があるかどうかはひとまず横に置いておいて。

 

 加齢臭みたいなものだろうか?

 俺が憑依する度にシンジュはその見た目にはそぐわぬ加齢臭を放ち、スライムに憑依する度にランドールのあちこちから加齢臭が街に漂うのだ。


 なんだそのバイオテロは?

 俺は知らない間にテロリストになってしまっていた。

 という事はだ。

 若い女の子二人は、こそこそと部屋の中で俺の加齢臭について話していたわけだ。「アイツ臭いから何処にいてもすぐ分かるよねー」みたいな感じである。

 俺が傍で聞いているとも知らずに。



 おじさん泣いちゃうけど?



 まぁ、それは半分冗談としても、

 良い大人なので泣いたりはしないけれど、シンジュに隠している、というところまでバレているのが気にかかる。

 俺がシンジュに自身の存在を隠しているのは、父親が既に死んでいるという事を悟らせないためである。

 俺は施設育ちゆえそう思うのかもしれないが、天涯孤独という単語は、ふとした時に結構ズンと来る物がある。

 娘にああいう気持ちをさせたくない。


 とは思うが、

 流石に俺がシンジュの父親である事まではバレていないようだったが、洞察力がフィクションの探偵並みであるシスネに隠し通せる自信がない。


 というか、俺が隠せてないのだろう。

 その証拠に――と、偉そうに言うならば、

 その証拠に、俺はミキサンにもシンジュの父親である事は言っていないのだが、ミキサンの態度から察するに薄々バレている気がする。

 ミキサンどころか、プヨプヨも分かっている様な口振りであった。


 なんでみんなそういうの分かるの?

 なんかそういうオーラやらニオイが俺から出てるの?

 また加齢臭の話?

 どいつもこいつも、クサイクサイとおじさんに言葉の暴力浴びせて楽しいか?

 そろそろ良い大人だけど泣くよ?


 まぁ誰もそんな事は言ってない俺の被害妄想はさておき。

 今後どうしようかと悩むところ。

 匂いの話じゃないからな。一応な、言っとくけど。

 

 ミキサンやプヨプヨは、薄々気付きながらも、俺が隠していると察してくれていて、シンジュに告げるつもりも無いようだ。

 プヨプヨは口を滑らせそうなので心配ではあるが、そこは彼を信じよう。


 問題は、ランドールの姉妹である。

 いや、正確にはシスネ。

 彼女が問題だ。


 先程の会話を聞くに、二人ともその話を誰かにするつもりは無いらしいので、そこは秘密大好きランドールを信じておくとする。

 問題はそこじゃない。

 いや、そこも問題なのだが、だからと言って、「言わないで」と、釘を刺せない部分が問題だ。


 そもそもとして、シスネに俺がシンジュの父親だと知られるのが不味い。


 中央滞在のおり、胸元にいたのがスライムに憑依したおっさんなどと、絶対に知られてはいけない。


 バレたら社会的に死ぬ。

 シンジュの父親は女子の胸元に体ごと埋める変態だと、威厳的に死ぬ。

 肉体的に既に死んでいるのに、この上まだ死にたくはない。


 それはひじょーにまずい。

 加齢臭どころではない。


 というか、シスネの胸元にたまに――ホントたまにだぞ? ずっとじゃないぞ? たまにいたのは事実だけど、そもそもスライムだと感触なんてほとんど無い。

 全然無いわけじゃないから弁明は出来ないんだけど、仮にあっても、シスネって全然ボリーミーでもないし……。


 サイズの問題でもないか。

 元いた世界だと、子供に声をかけただけで事案だし、胸元にいたら完全にアウトだよね。

 そう考えると、シスネ以外にもバレるのは不味いんじゃないか?

 中身がおっさんと知らない人々は、愛くるしいスライムに抱き付く者も少なくない。

 特に意味もなく、幽霊だと暇だという理由でスライムに憑依して街をうろついた事は一度や二度ではないが、その時に、他のスライムと違って妙に人なつっこいスライムを「この子可愛い~」と、結構高い頻度で女性が抱き締めてきた覚えがある。


 別に俺から抱きついたわけではないので、完全に冤罪だが、実はアレが俺というおっさんが詰まったスライムだと知ったら、きっとあの時俺に向けていた女性達の笑顔は一変して、汚物でも見る様な目を向けて来るに違いない。


 シスネの言葉を借りるなら、

 嫌悪と侮蔑の入り交じった目。

 酷い罵りと汚い言葉。

 ただそこにあるというだけで沸き上がる憎悪と殺意、といったところである。

 きっと流れでそのまま処刑されるんだ、俺。

 歴史は繰り返す。


 

 そんな事を考えながら何故か話題がヒロの事へと波及したシスネとフォルテの声をぼんやり耳にしていると、そこに扉を数回叩く音が新たに追加された。


 そうして許可を得て、扉の向こうから顔を出したのはランドール家のハウスキーパー、カナリアであった。


「例の少年が目を覚ましたと連絡がありましたぁ」


「姉さん」


 カナリアの言葉を聞くなり、フォルテがカナリアに向けていた顔をシスネへと向け直した。


「ええ。会いに行きましょうか」


 互いに顔を見合せ、姉妹が頷き合う。

 そうして、カナリアを連れた姉妹が部屋を出るのを見送って、俺はしばらくぼんやりと考え事をしながら部屋を漂った。

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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