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シスネとフォルテ

「さきほど耳にしたのですが、王国から、彼を引き渡せとの要求が来ているそうですね?」


「ええ、すぐに引き渡せと……。城を襲撃し、王を殺そうとした大罪人だそうで」


「どうするのです? 彼を引き渡すのですか?」


「まさか。中央に反発するのも、後々大変だとは思いますが……、今更です。ランドールの事を優先するなら、渡さないという選択はマイナスの方が大きいのでしょうが、同胞は売れませんよ。――それで、肝心の彼はどうですか?」


「まだ眠ったままです。ですが、シンジュが付きっきりで看ているので心配はありません」


「そうですか……。ヨビと言いましたか、彼の名前」


「そう聞いています」


「名前だと思いますか?」


「……いいえ。違うと思います」


「やはり、番号のようなものでしょうか?」


「そうだと思います」


「ヨビが……、仮に『予備』だとして、他にもいると思いますか? ヨビと私と姉さん以外のランドールに連なる一族が。大陸の何処かに」


「……その事については、私も考えました。予備があるなら本命もあるのかと……。しかし、如何せん情報が少なすぎて判断出来かねます。 ――ただ、」


「ただ?」


「ミキサンに尋ねてみました。可能性を」


「魔王はなんと?」


「答えを先に言うならば、いない、です」


「どうしてです?」


「彼女曰く、大陸の歴史というのは繰り返される。これは、前に話しましたね?」


「はい。神がそう仕向けると――。正直、いまだ眉唾だと思うところではありますが」


「そうですね。長い大陸史の中、たまたま同じ様な流れになっただけ――という可能性も勿論あると思います。その上で、いないと言いきったミキサンの答えの根拠なのですが、彼女が言うには、私達が可能性を探る存在――つまり『本命』は、私とあなたなのだそうです」


「私と姉さんがですか?」


「そうです。磐上を、自身の思い通りに動かそうとするのが神ならば、私達は駒です。その私達本命が思い通りに動かなかった時、私達の代わりに盤上に投入されるのがヨビであり、予備なんです。ゆえに、いない、なのです」


「……もしも、ですが。そうだとすると、もしも神の思惑通りだったならば、自由の翼を得ていたのは私か姉さんだった、という事になるのでしょうか?」


「そういう事なんだと思います。そしてそれはおそらく、フォルテ、あなただったと思います」


「私ですか? 何故そう思われるのです?」


「歴史が繰り返される――その魔王の考えを肯定するならば、かつての若者のように、住み慣れた土地を離れ中央へと赴いた私は、かつての若者がそうだったように、人々の怨嗟の声を浴びながら処刑され、死んでいたはずだからです。そうなると、残っているのはあなただけという事になります」 


「……何故、私はそうはならなかったのでしょうか? 予備を出して来たという事は、当然、そう出来ない理由があったという事でしょうし……」


「あの自らの主君を神のごとく崇拝する魔王の言葉を信じるなら、『我が君の恩寵の賜物』、だそうです」


「シンジュのですか? 彼女、ランドールを出た後に、何か神の予定を狂わせるような大それた事をしたんでしょうか……。何か聞いてますか?」


「いえ。彼女からは何も。――フォルテ、あなたは気付いていましたか?」


「何をですか?」


「シンジュの中に、もう一人、違う誰かがいます」


「…………意味が良く分からないのですが?」


「私も良くは分かっていません。最初は、記憶を失くした事から来る二重人格の様なものか、或いはメアリーのような魔法によって顕著化する人格かと考えていたのですが、それとはどうも様子が異なる……。 ――とにかく、彼女の中にはもうひとつ、別の人格を持った誰かがいるのです。そして、魔王が我が君と敬うのはそちら」


「シンジュではなく、ですか?」


「そうです。そして、これもハッキリとは分からないのですが、その者は、シンジュに限らず他者の体にも意識を移す事が出来るようです。二重人格や魔法では無いと思ったのはそのためです」


「意識を……。プヨプヨが体を入れ換える様な、あんな感じですか?」


「似たようなモノだと思います」


「……もしかしてですが、姉さんの言うもう一人の誰かというのは、女神の加護を所有していたりしますか?」


「持っているでしょう。でなければ、おそらく私はこの事に気付かなかった」


「……あぁ――なるほど。たまにランドールの街のあちこちで加護の気配が突然湧くのはそれが理由ですか」


「そうだと思います。加護の気配が分かるのはランドール家の者だけですし、おそらくそれに気付いているのもランドール家の者だけでしょう。そして、私が気付いているというのは、その者も、そして魔王も知らない」


「んん~、他者に意識を移せる存在……。放っておくのは危険でしょうか?」


「あくまで私の感想ですが、危険はないと思います。私がいまここにいられるのは、その誰かのお陰というのもありますから。――わざわざ御守りと称してまで私の中央行きに付いてきてくれたのです。そこは信じて良いと思います」


「聞いてみましょうか?」


「ミキサンにですか?」


「ミキサンにも、シンジュにも」


「ずっと隠しているのです。尋ねても答えてはくれないと思いますよ」


「なら、ポロっと口を滑らせそうなプヨプヨにでも」


「……止めておいた方が良いと思います」


「どうしてですか?」


「シンジュが知らないからです」


「知らない?」


「はい。知りません。シンジュはそのもう一人について、おそらく知らない。その者が意識を移している間、彼女はたぶん意識が無いので気付けないのでしょう。態度や口振りを見るに、ミキサンも話していないようです」


「アレか~……。例の夢遊病ですよね?」


「はい。そうだと思います」


「あ~、そういう事か。確かに、夢遊病時の事は覚えてないと言ってましたもんね」


「おそらく口止めでもされているのでしょう。魔王がシンジュに教えていない以上、余計な詮索をしてシンジュにその事が知れたら、魔王の不興を買いますよ」


「ん~、怒るだろうなぁ」


「はい。ですから、向こうから言って来ない内は、こちらからその事について行動を起こすのは止めておいた方がいい」


「分かりました。私の胸にしまっておきます」


「はい。そうしましょう。――ところで話は変わるのですが、フォルテはヒロをどう思います?」


「はい?」

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
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