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そのIは誰が為に

「ヒロ……どうしてあなたが?」


 立ち塞がる様に立つヒロの背中に、シスネがそう問い掛ける。

 ヒロは体はそのままに、首を捻って横目でシスネを見、そうしてそれに答える。


「取引だ。シスネ・ランドール」


 その言葉に、シスネが何かを思い出したかの様な顔を作る。


「俺ならあんたを―――あんた達を逃がしてやれる。助けてやれる。任せろ。簡単だ。余裕だ」


 自信満々といった様子のヒロにそう告げられたシスネは、一度確かめる様に胸元に手をやり、そこにある鳳凰石に服の上から触れた。

 そうして、迷わず取引の返事を投げた。


「乗ります。その話」


 ニッと歯を見せてヒロが笑う。


「交渉成立だ」


 言うやヒロは、肩に置いていたアテナを構え、片腕で狙いを定めると、シスネ目掛けて高速で飛来する地獄を貫く物(ピアス・オブ・ヘル)に向けて銃の引き金を引いた。


 アテナから放たれた弾丸は、ど真ん中、寸分違わず槍の先端に命中すると、そのまま槍の刃先から柄尻まで真っ直ぐ貫き、粉々に撃ち砕いた。


「すっご……」


 弾け、パラパラと崩れ落ちる槍を眺めながら、ミナが呟くように感想を溢した。

 口にこそしなかったものの、シスネやパッセルも同様の感想を抱いた。


 そんなシスネ達とは違い、それを行ったヒロは「当たり前だ」とでも言いたげに、ただ鼻をフンと鳴らして、銃口から微かに煙を上げるアテナをまた肩へと担いだ。


「あ~あ、カッコつけちゃって」


 その様子を見ていたハロが、呆れた様に言った。


「助けられておいて今更ですが、あの青年は何者ですか?」


 ヒロの背中に目をやりながら、パッセルがそんな疑問を口にする。

 その質問に、ハロは「ん~」と少し考えて、


「魔導の申し子―――かな?」


 と、ちょっと自信無さげに答えた。


「魔導の申し子―――。ヒロ―――。……あっ。あの大犯罪者の」


 連想ゲームの様に行き着いた単語を口にしたパッセルに、ハロは「やっぱ、そっちの方が有名か」と、苦笑いを浮かべた。



「犯罪者なのですか?」


 ヒロの事を全く知らなかったらしいミナが尋ねる。

 その問いに、シスネが小さく頷き、答える。


「有名になるまでは小悪党の様な扱いだったようですが、ある時、北の大都市でとある大事件を起こしました。彼が大犯罪者と呼ばれる様になったのはそれからです」


 シスネの言葉に、ハロがウンウンと頷く。


「私とヒロはね、ある魔法を会得する為に各地を転々と旅して回ってるんだけど。その過程で、重要施設だったり遺跡だったり、どうしても入らなきゃいけない場所や、どうしても手に入れなきゃいけないアイテムなんかがあってね。まぁ、と言ったって、入れてくれって言って入れる場所じゃないし……。それで、勝手に侵入したり、盗んでたりしてたら強盗扱いされちゃって……。―――まあ強盗なんだけどね」


 あっはっはっは、とバツが悪そうにハロが頭を掻く。

 そうしながらも、クローリに施すハロの治療は続けられていた。


「それで小悪党、ですか?」


「そそ。でね、その要領でさっきお姫様が言った様に大都市に行った時に、ちょーっちやり過ぎちゃって」


 ハロがそう言った時、また懲りずに飛んで来た槍を、アテナを掲げたヒロが撃ち抜いた。

 届く発砲音に、シスネ達は一旦会話を止めてヒロを見る。


 シスネ達に背中を向けている為、表情こそ見えないヒロだが、自身の後ろで繰り広げられるひそひそ話の中身に、自分の名前が出て来る事に内心そわそわしていた。

 何を話しているのかヒロは非常に気になった。

 しかも、自分が助けに来た直後に気を失った大男を除いた、女子のみのトーク。

 気になって気になって仕方がない。

 しかし、ちょっと距離がある為にハッキリと内容が聞き取れず、モヤモヤした気持ちのままヒロは槍を迎え撃っていた。


 そんなヒロの気持ちなど知らず、ヒロの背後では女子達の話が続く。


「それで、彼は何をしたんですか?」


「ミナ」


 ミナの質問を諌める様にすぐさまパッセルが声を掛けて制止した。


「あ、いーのいーの。別に大量殺戮とかそういう話じゃないから」


「私が聞いた話では、北の大都市の工廠施設を軒並み爆破したとか」


 シスネが言うと、またハロは「ん~」と小さく唸った。


「まあ正解っちゃあ正解なんだけど、私達の言い分では少し違くって……。―――これ言って良いのかな?」


 ハロがそう溢した瞬間、パッセルの眼がキランと光った気がした。

 間髪入れずにパッセルが口を開く。


「大丈夫ですよ。私達は王国であって王国ではないランドールの者です。問題になんてなりません」


 キッパリとした口調でパッセルが言う。

 ハロの口調からそうだろうと断定したパッセルが、「王国の秘密を暴露しろ」と心の中で悪そうに笑い、ハロを急かした。


「それもそうよね。―――え~っと、貴族連中だと思うんだけど、」


「うんうん」


「必要なアイテムをそこで探してる時に、そいつらが、工廠施設の中で奴隷を使って禁魔法の研究してたのを見ちゃったのよね」


「禁魔法ですか?」


 パッセルではなく、禁魔法にやや食い付き気味な様子を見せたシスネが尋ねた。


「そっ」


「どんな物です?」


「あ~、そこまではわかんない。ただ、その時の光景がとにかく酷くって、それで怒ったヒロが工廠を全部破壊しちゃったってわけ。―――ああ、そこに居た奴隷達を巻き込まない様に助けた後の話ね。今頃は、自分の村でのんびりしてるんじゃないかしら?」


「へー……。でも、それが本当なら彼は大犯罪者どころか英雄だと思いますけど……」


「まぁ、そこは王国側か奴隷側かで判断が分かれるところだから仕方ないわよ。王国の中の出来事である以上、どうしたって悪役よね」


 そう言ってハロが笑う。

 それからハロは、「けど、」と口にした後でシスネ達から顔を外し、アテナを掲げるヒロの背中に優しげな目を向けた。


「私はね、ヒロは間違った事はしてないと思ってる。―――そりゃまぁ、やり方は無茶苦茶だし、口も愛想も悪いけど、それでも、ヒロは正真正銘の英雄よ」


 一拍置き、なんてね、と恥ずかしそうに頭を掻いたハロがまた笑う。

 そこまでハロが言ったところで、シスネが少し逡巡する素振りを見せた。

 少しだけ間を空け、


「少し変な質問をしますが、」


「な~に?」


「その奴隷の中に―――」


「おい」


 シスネの言葉を遮って、ヒロの無愛想な声が届く。

 女子全員がそちらに顔を向ける。

 声以上に無愛想な横顔を女子達に向けていたヒロが、めんどくさそうに言う。


「お喋りも結構だが、もう少し緊張感というモノをだなぁ」


「余裕でしょ?」


 ハロがあっけらかんとした様子で返す。


「それはそうだが………。そろそろ団体さんがお着きだぞ」


「団体さん?」


 ハロが首を傾げた直後、ドタドタと足音を踏み鳴らして王国の兵士達が列をなして林の中から現れた。

 その中には、兵士とは違った装いをした十人程の騎士達の姿も混ざって見える。


「懲りないなぁ、あんたらも」


 ヒロは騎士の姿を目にすると、少し呆れた様な表情で言った。

 そうして、アテナを蛙の腹に収め、それに代わり2つの短銃を取り出した。

 その2つの短銃―――ローザ、クララとヒロに命名された銃をそれぞれ両手に持つと、少し離れた位置にいる団体さんに向ける。

 そして、言う。


「そこから一歩でも近付いたら撃つ」


 つい先程、ミナとパッセルを助ける過程で同じ騎士仲間達がこてんぱんにされたばかりの騎士達は、向けられた銃口に険しい表情を作った。

 しかしその一方で、兵士達の顔には困惑の色が見て取れる。


 それも当然で、そもそもこの世界にはまだ銃という物は無い。

 アテナも、そしてローザとクララも、全てヒロの手作りである。

 手作りゆえに、構造は酷く大雑把。

 ヒロは元々銃は好きだが、その好きはあくまで一般男子的な好きの範疇であり、中の構造などを詳しく知っている訳ではなかった。

 ヒロは、ミキサンの持つ『魔具創造』という魔法の下位互換の様な魔法『物質生成』という魔法を持っており、それを駆使し、知恵とひらめきによって、それっぽい外側を作り、それっぽい引き金を取り付け、それっぽくなるよう、それっぽい感じに仕上げたのだ。

 引き金を引くと弾が出るのは、何て事はない、『物質生成』でせっせこ作った弾を、銃の中に注いだ魔力を破裂させて飛ばしているだけである。


 ただ、『物質生成』によって生み出された弾ゆえ、基本的には用途別に使い分ける必要がない。

 モンスターを倒す時には殺傷力の強い弾を生成し撃つ。

 逆にほぼ無傷で捕獲なり、鎮圧したい時には、ゴム弾なり麻酔弾なりを生成して撃つだけでいい。

 ゆえに、銃の使い分けを必要とせず、短銃が一丁と、出力の違う長距離用の狙撃銃が一丁づつあれば事足りる。

 短銃を二丁持つ必要は無い。

 でもヒロは二丁の短銃を扱う。


 何故なら、二丁拳銃の方がカッコいいからだ。

 その辺りについては、15歳というヒロの年齢を考慮して頂きたい。


 余談であるが、マシンガンも作りたかったヒロだが、弾の生成が全く追い付かずに断念した経緯がある。

 殺傷力が高いので普段はあまり使わないのだが、仕方がないし、折角作った銃が勿体ないので、マシンガン用に作った銃を転用して火炎放射器を作った。

 このヒロお手製の火炎放射器は、火に限らず水も出る。なんなら土や風だって出る。


 この火炎放射器兼水鉄砲だが、水鉄砲と侮る事なかれ。

 最高出力で放つと、岩をも貫通する水が飛び出る。

 ぶっちゃけ、ちょっと強めの水刃(ウォーターカット)を刃の形状から点にまとめて飛ばしているのと大差ないが、ヒロはその出来に満足している。


 後者は、なんか使ってみたらダサかったので、使わないだけ。

 土を飛ばすのは弾丸と大差ないし、風はそもそも目に見えなかった。

 客観的に見て、ただ銃を向けて突っ立っている様に見えて間抜けなのだ。

 よって、土と風はヒロ自らが封印を施した。無かった事にした。



 とまあ、そうやって、どうしても銃を使いたかったヒロの情熱によって、銃という概念の無い異世界に、魔法銃使いという新たな戦闘スタイルが生み出されたのだ。


 しかし、魔法銃による戦闘はどマイナー。

 何故ならヒロしか使い手がいないから。

 

 その為、クロスボウガンに似てはいるが、矢も弦も無いその見た事もない物を向けられても、兵士達はそれがどれだけの物であるのか判断がつかなかった。


 であるからして、銃がどういう物かという事と、それを扱うヒロがどれ程実力を持っているのかを実際に見て知っていて、そのせいで動けない騎士達。

 そんな騎士達に業でも煮やしたのか、隊長らしき兵士が、「捕らえろ!」と指示を飛ばした。


 騎士達をその場に残し、武器を手にした数十人の兵士が一斉に走り出した。

 それを見たヒロが険しい表情で吐き出す。


「またか……。何故、みんな銃にビビらない!?」


 銃の概念が無いからである。


「何故、言われても誰も手を上げない!?」


 銃の概念が無いからである。


 ぶつくさと文句を言いながら、ヒロはローザとクララの引き金を引いた。

 引きまくった。

 少し乾いた発砲音は、手拍子でもしているかの様に小刻みなリズムをとって林の中に響いた。


 2つの銃から放たれた麻痺弾が、視認出来ない速度で兵士に次々と当たった。

 当たった者から順番に倒れていく。

 麻痺弾なので痛いが死にはしない。体の自由が利かなくなるだけ。

 ただ、倒れた者を避けきれず、止まり損ねた後続が踏んでいた。

 けどまあ、踏まれたくらいなら痛いが死にはしない。


 そうして、パンパンと銃声が響く中、三分もしない内に、その場に居た数十人程の兵士は全員地面に転がった。

 一歩も動かなかったはずの騎士達も、当然の様に撃たれ、「理不尽」だと呻きながら転がっていた。

 体を痺れさせて這いつくばる彼らに向けて、ヒロは言う。


「言っとくが、手加減したんだからな。次はビビれよ」


 そう言って、ヒロは右手のクララをくるくると回した。

 常日頃から練習している成果を、ここぞとばかりに見せつける。

 撃っている時も、撃ちながらたまに腕を交差させたりした。それに意味は無い。


 意味は無いが、

 いつ如何なる時も、(後ろで女子が見ているし)カッコつける事に余念が無いのが、15歳の男子ヒロなのである。


「ヒロ! カッコいい! よっ! 世界一!」


 後ろのハロがやや大袈裟気味に黄色い声援を贈る。

 それをヒロは、(嬉しいくせに)フンと小さく鼻を鳴らして、何でも無い様な顔でやり過ごした。

 ストーリーに直接関係ありませんが、ヒロの使う二丁の銃「ローザ」は、黒人差別と戦った女性ローザ・パークスから。「クララ」は、最低賃金労働者である移民、並びに女性の地位向上の為に戦ったクララ・レムリックから。

 まあ、武器の銃の名前にするのもどうかと思いましたが……。

 狙撃銃「アテナ」は、言わずとしれた女神アテナが、母権制という、母方の血筋によって家族、及び血縁集団を組織する制度の象徴という側面があったので採用しました。

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ミキサン
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素晴らしい考察が書かれた超ファンタジー(頭が)
考える我が輩
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