序章2
「許せ、竜よ」
僕は空から火を噴く竜を捉えた。その竜は僕に気が付き、近寄ってくる。そして、僕の目の前に降りてきた。地面にその巨躯を下ろす。
「貴方からは、竜力を感じる。見た目を人間にできるファフニールの者か?」
その落ち着いた声音に僕は答える。
「まあ、そうだね。僕は、レヴィ」
と少し殺気交じりで言う。
「そうでしたか……では、国家騎竜に殺気を向けた為、貴方を――いいえ、雑魚を……殺します」
今の微量の殺気に気が付く――流石は国家騎竜。
刹那、彼から大量の竜力が溢れ出てくる。しかし、僕はそれに動じない。動じる必要がない。
「この竜力に耐えるだなんて、貴方、只者ではないですね……まあ、しかしながら、私には敵うはずもないので、消えてもらいます。では」
そして、彼は口内に竜力を溜め――放とうする。
「最後に一つ、僕の名前は、リヴァだ。名前で気が付けないだなんて、雑魚はお前だよ」
僕はそう言った。彼の瞳は動揺を隠せないようだった。そして、彼の身体は肉塊となって崩れ落ちた。
僕は自分が馬鹿だと思った。別に彼には罪はない。竜と人間は対立している者同士。彼は任務を果たそうとしたまでだ。僕は対立しているというのに、人間を好きになった。人間を好きになってしまった。もう僕は竜の立場にはなれない。そして、人間の姿をしていても、人間の立場にはなれない。
この世界が平和だとしたら、僕は人間のアベルを愛してやまない存在としてよかったのかもしれない。ほかの人々とも仲良くできたのかもしれない。竜と人間見た目は違えど、分かりあえたのかもしれない。
しかし、この世界、いや、この世に集まる魂には無理だったみたいだ。この世界が平和ではないのは、心がある時点で無理なのだろう。好き、嫌い、憎い、醜い、悲しい、寂しい――心は本当に厄介な災厄だ。
僕はアベルの元へ、戻る。
「た、助けてくれてありがとう、レヴィ。強いんだね……」
「ま、まあね。アベルもさ、自分や大事な人守れるように、強くなれよ……」
僕は、涙を流してしまった。
「どうして、泣いてるの……」
二人で泣いた。アベルは家族を失い、そして、僕は、彼への愛を捨てた。
僕はアベルを抱き寄せ、「さようなら」と言い、眠らせ、遠く彼方へ転移させた。
真っ赤に染まった月夜。月の光を遮る真っ黒な煙。そして、羽を羽ばたかせる白竜。
「リヴァ。貴殿を、反逆罪により懲役に処す」
「ははは、そうだね。僕に何するんだろうね」
僕は身体を竜力に締め付けられ、懲罰房へ連行された。
――アベル、元気で……
そうして、僕の人間への恋は終わりを告げた。たった数日の恋が幕を下ろした。