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序章1

 僕が木の上から下を見下ろすと、一人の小さな男の子が居た。

 一週間前、彼を、兄に暴力を受けているところを、連れ去った。そして、彼は「ここに居たい。もう戻りたくない」と言った。しかし、僕は、「親が心配してるだろう」と言って、彼に帰るようにと促した。すると、彼は僕を押し倒し、口づけをしては舌を入れる、というまですると、「また来るから」と言って、暗闇に去っていった。

 そんなことがあり、一週間、僕の目の前に、再び現れた。

 「また来たんだ」

 「うん……会いたかったから」

 僕は木の上から降りると、彼に接吻をする。僕は、自分は彼を気に入ってしまったのだろうと思う。あれだけの出来事で。

 「それで、あれからどう?」

 「お兄ちゃんのこと両親に言ったら、大人しくなったよ。勇気出して言えたのも、君のおかげだよ。ありがとう」

 「僕、何かした覚えないんだけど……、まあ僕が力になれたのなら、いいんだけど」

 僕は少し照れたように笑みを浮かべる。正直、ありがとうなんて言われたのは、初めてのことで、なんか嬉しさとむず痒さを感じる。

 「それで今日、どうする?まだ空も明るいし……なにか話でもする?」

 僕は、そう続けて言う。

 「うん!まだあなたのこと何も知らないし!」

 彼は少し食い気味に、興味津々に応える。

 「じゃあ、自己紹介から!僕は、アベル!」

 「えっと、僕は……レヴィ。よろしくねアベル」

 彼――アベルは、自分の名前を伝えると、木の麓にもたれかかる様に座り、僕に隣に座るよう、芝生の地面を優しく叩く。僕はそれに従い、ゆっくりと腰を下ろす。

 「ねえ、レヴィは何歳?」

 「僕は、十二歳かな」

 「へえ、僕より四つ年上だ……同い年くらいかと思ってた……」

 そう言われると、確かに僕は小柄だし、顔立ちは幼いし――まあ仕方ないよなあ。

 「今更かもだけど、自分のこと僕っていうんだね、女子なのに」

 「え、まあ、そうですねえ、ええ、はい」

 僕が女子に間違えられるのは仕方がない気がする。髪も肩くらいまであるし、目も大きいし。

 「ん、どうしたの?なんか曖昧な反応して……あ、もしかして、男の子だった、とか?」

 「いや、別に、如何もしてないよ。曖昧な反応もしてないよ。女の子だよ」

 こ、こいつなかなか鋭い。反応には気を付けないと。

 「ふうん……」

 え、何その反応、露骨すぎやしないか。物凄く小声で、「男の子がよかったなあ」って連呼しているんだけど。

――よし、ここは本当のことを言おう。

 「やっぱ女の子じゃなくて、男の子だよ!」

 そう言うと、アベルは僕の方に一瞬で振り向き、目をキラキラさせている。しかし、その刹那、その目の輝きは失われる。

 「気なんて使わなくていいよ。僕、別に男が好きとかそんなんじゃないからねっ」

 まず、会って数分の人に、そんな分かりやすく同性が好きなアピールしちゃうんだ。あまりそういうものは信頼ない人には話したくないんじゃ。

 いや、僕は信用されているのかもしれない。もし、そうだとしたら、僕は――。

 「あ、あのさ、僕が男の子である証拠、見せてあげよっか」

 「え――」

 僕はノーパンであるスカーとの中を、ゆっくりと晒していく。たわわになる太もも、そして――。

 「あ、ほんとだ。本当に男の子だったんだ……」

 僕が男の子であることを知ると、アベルの瞳には、失われた輝きが取り戻され、鼻息が荒くなる。そして、刻一刻と僕に近づいてくる。

 「あのー、ちょ、まてよ、ンアーッ」

 そうして僕は、卒業した。



 辺りはすっかり暗くなり、月明かりが木々の隙間から降り注ぐ。

 「じゃあ、僕は帰るよ。ごめんね、暴走しちゃって」

 アベルは顔を赤くして、謝る。

 「いいよ、気持ち良かったし……じゃあ、気を付けて」

 「うん、後、そのネックレス綺麗だね」

 そう言って、僕にキスをして、颯爽と僕の前から消えていった。僕は自分の首に飾られた赤い宝石を触る。

 「綺麗か……そうかもしれない」

 僕は木の上に飛び乗り、

 「ちょっと久し振りで、楽しかったな……」

 と呟き、眠りについた。


 僕は、二日後、焦げ臭さに目を覚ました。そして、首のネックレス――赤い宝石が、光っていた。焦げ臭さと赤い光が、僕に警告を発していた。アベルが危ない、と。

 僕は急いで、アベルの住む街へ駆けていく。僕の行く手を阻む木々共を華麗に躱しながら、駆けていく。

 そして、僕の視界に淡い赤の光、黒の煙が、入ってきた。

 「……アベルッ」

 僕は勢い止まらず、街に突っ込んでいく。我ながら鈍ったな、と思う。突っ込んだ所為で、皮膚と服に傷が付き、身体が灰に汚れる。僕は直ぐに立ち上がり、アベルがいるであろう所に向かう。

 「居たッ!」

 僕は走る足を止め、乱れた呼吸を整え、地面に座るアベルに近づく。

 「アベル……」

 僕の弱々しい声にアベルは泣き顔で振り向く。アベルはか細い声で、

 「お母さんが……お父さんが……お兄ちゃん、が……」

 アベルが指さす方、家の残骸に潰されている焦げた骸、恐らくそれがアベルの家族なのだろう。

 僕はアベルを抱きしめた。こうして落ち着かせるしかなかった。頭を撫でてあげるしかなかった。そして、反逆者にならなければいけなくなった。アベルが好きだから。

 「許せ、竜よ」

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