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第9話 クレーフェ地誌

「セイジさん、おはようございます」

「んー……」


 こちらの世界に来て、はじめての朝。

 昨日の激動の一日すら忘れそうになるほど、目覚めは穏やかなものだった。


 陽の光は明るく差し込んでいる。

 とりあえず太陽のある世界で良かった、というのが誠二の感想である。曇りの多い世界や、日光の存在しない世界というのもありえたと考えるとゾッとする。


「──起きてますか?」


 物思いにふけっていると、ソフィアが話しかけてきた。上半身だけ起こして目を閉じてれば、二度寝にも見える。

 可愛い子が起こしてくれた経験こそ無かったものの、穏やかな日常にはどこか懐かしさを覚える。



「いいお目覚めですね」

「ああ。光に起こされた」


 山と森が近いせいか、朝は霞がかった景色が広がっている。鳥のさえずりが聞こえるところが、いかにも森を戴く農村らしい。


「わたしもです。この家でいちばんのお気に入りな所です」


 ソフィアは嬉しそうに微笑む。全てが柔らかな日の光に包まれた上等な朝だ。



 二人は昨日の酒場に赴く。


「お、ゆうべはお楽しみ──」

「え、エスティさんっ」

「そんな訳ねぇだろ」


 エスティはかなり飲んでいたにも関わらず、変わらない口調で誠二たちの前に現れた。


 朝食のマッシュポテトは程よい塩味だった。腹8分目になった所で、食堂を出る。

 食べるものには困らないような状況で何よりだ。


 その後誠二は、昼まで世界についての勉強をした。まずここがどの国のどこかという所が分かっていなかったのである。


「ここはアルフォリア公国の真ん中ちょっと東に位置する、クレーフェという村です。南に馬車で2日くらい行けば王都に着けますね」

「おおう……」


 馬車で2日。元野球部の身体をもってしても耐久チャレンジになりそうだと、誠二は思った。


「山を一つ越えれば、隣の国のリンツ公国に着きます。こちらは北に鉄道で半日の所に、首都があります」

「一応、ここはアルフォリア領なんだよな」

「そうなんですが……前の戦争で公国軍にだいぶ迷惑をかけられたらしく、正直、あまり国民という意識はないですね」

「やっぱ戦争があるのか……」


 誠二は不安を覚える。この手の話では定番のはずの魔王も出てこない。目的が分かっていないのはどうも気が定まらない。

 やはり「世界を救う」には、村から出なければならないらしい。


「怖い思いをされたようでしたらすみません。伝えておいた方がいいと思ったので」

「……ありがとな」


 ソフィアは沈痛な面持ちで頭を下げた。丁重で真面目な子だと、誠二は思った。

 

「そうだ、言葉」

「はい。そういえば……」

「通じるのが不思議だったんだがな……なんでだろうな」

「神の贈り物でしょうか?」


 心底分からない、といった表情で頭をひねるソフィア。


「読み書きは大丈夫ですか?」

「多分大丈夫じゃねぇわ」

「でしたら、明日から教えます!」

「ああ、助かる」


 昨日の村の文字も読めなかったのだ。今のまま街に放り出されれば、間違いなく死ぬだろう。誠二はそう感じていた。

 もっともこの村も、文字が読める人はそんなに多くない。お触れ書きなどもあるが、読んでくれる人間がいれば困らない。村にいる分には必要ないということだ。

 クレーフェには時計や立て看板も無く、酒場の看板は絵だった。


 太陽も高くなったので、森へ足を運んだ。

 ここクレーフェは規模が小さくはあったものの、所々に農地が点在していた。


「もうちょっと大きなところでは、人をたくさん雇って、もっと大々的に作業をしています。王都を中心に人が増えていますから、その分を支えるにはそういうやり方も必要だという事ですね」


 ソフィアの説明もそこそこに、やがて誠二たちは森へ入った。


 ソフィアの弓は、予想外の形で見ることとなった。

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