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第7話 行くな! 越えるな!


「ソフィアと、 一緒に?」

「ええ……駄目、ですか?」


 頰を赤らめて頷くソフィアを前にして、誠二は確認する。


「大丈夫です、……農村で働く人々の間では、そんなに珍しくないです」

「……何が?」

「だっ、男女が一緒に寝ることが」

「は⁉︎」


 誠二は驚いていた。


「はい、収穫期に併せて、のっ、農場主さんは作業のための人を雇います。村から村へ移動をしながら生計を立てていく人たちもいます」

「……奴隷はいるのか?」

「制度としては、百年ほど前になくなったと聞きますね」


 奴隷の身分はこの世界に存在しない。かわりに農場労働者が、現代日本で言う期間工やフリーターのような立場で働いている。


 そういった内容のことを、ソフィアは全く落ち着かない口調で話した。

 心が穏やかでないのは誠二も同じである。


「それで……個人的に仲良くなって、夫婦になって次の村へ、とかも頻繁に」

「へー」


 変な目では見られませんよという念押しを、ソフィアはしてくれる。もちろん、誠二としてもその事は大変気になる事だった。


「それに、困っている人に男女もありません! それに、森の中から突然現れた方なんて……なんだか神秘的じゃないですか!」

「つっても、俺は狩りも裁縫も出来ねえが。いいのか?」

「わたしが精一杯のことをします! それに……私は弓しか使えないので、さっきみたいに剣が使える人だと……何かと心強いです」

「おう。ありがとな」

「いえっ!」


 ソフィアは誠二に、日本で言えば座敷わらしのような役割を期待している、と言った。誠二が幸運をもたらす存在かどうかはこれからの話だが、ソフィアの家に呼ばれることは彼女の願いだったということだ。

 彼女自身が旅人だけあって、誠二と一緒に村を出ることも想定していた。

 誠二もあの天の声によれば「勇者」という事でもあるし、活動がこの村に留まるとも考えづらい。


「どう……ですか?」


 落ち着きをようやく取り戻したソフィアが、そう伺いを立てる。

 誠二にとって、懸念事項は山ほどある。リスクは避けるべきだ──そんな考えが頭を巡る。


「──よろしくな」

「はいっ!」


 誠二は考えた末、言葉を紡いだ。ソフィアはとても嬉しそうな表情をしていた。誠二は胸の高鳴りを感じた。

 人々の賑わいが増したのも気のせいではないらしく、耳を澄ませば「よくやったな、兄ちゃん!」のような声も聞こえてくる。


「俺の家に泊まらせることも考えてたんだけどよ、無用だったな!」

「ドロイゼンさんの家って」

「肉屋の側だな」


「ウチに泊まるならお金もらうぞ。100ターレルだぞ」

「エスティさん、それはちょっと……」


 どのみち、他の選択はなさそうだった。エスティはにやり、と笑みを浮かべている。カップル?誕生を諸手を上げて歓迎してくれている。

 宿の相場を誠二は知らなかったが、ソフィアの反応を見るに高いのだろうと予測をつけた。


「さ、早く行くんだぞ」

「俺らはもう少し飲んで帰るからよ」

「それではっ、あの! 家まで案内します!」


 こうして、その場全員に見送られる形で、酒場をあとにした。


「暗いなぁ」

「ええ。こんな夜に歩くのも、久しぶりです」

「少し、さみぃな」

「はい、そろそろ寒くなりますね」


 他愛もない話をしつつ、しばらく歩いた。


「ここです」


 ソフィアの住まいは、周りと同じような小屋だった。ひととおり挨拶と荷物の確認を終えると、ソフィアは部屋に誠二を招いた。


 燭台に火がともされる。寝床にはシーツが掛けられていて、見た目は日本のベッドと何ら変わらないが、一枚めくると藁が敷き詰められている。



「寝るところは狭いですので……ちょっと窮屈かもしれませんが」

「俺はいいけど、ソフィアは大丈夫なのか?」

「ええ!」


 という訳で、就寝の時間となった。


『おやすみなさい!』


 寝入ってから少し経ち。

 ソフィアは、微笑みを浮かべた顔で眠っている。ひと仕事あったから疲れるだろう。それを眺めて誠二は微笑んだ。

 

 昼こそ太陽光が自分を照らしていたが、気候は日本の秋口のようで、少し肌寒かった。それこそ、人肌に触れて寝るのにちょうど良い位に。

 ソフィアの申し出も、まったくの無茶苦茶という訳ではなかったようだ。

 そして彼女は……寝相がそこそこ悪かった。


「んー」


 ことあるごとに触れるソフィアの身体は、誠二の眠りに介入してくる。


「くー」


 彼女が寝返りをうてば、誠二の身体に触れるのは少しの膨らみ。「まだ一線超えるには早い」と念じながら眠ることになった。


「……どうしたもんかな」


 誠二が眠れぬ一夜を過ごしたことは、言うまでもない。


 こうして、彼の異世界最初の一日は終わったのだった。

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