第6話 酒場内放浪記
周りも巻き込んで、宴が始まった。テーブルに並ぶ料理は芋と肉類が多め。ソフィアの獲った鳥がいっそう森らしさを添えている。
「ジャガイモはこの村でよく獲れる。そして今はちょうど家畜を捌く季節だ。いいところに来たな」
「いやーいいっすね!」
ドロイゼンが村の食糧事情について説明を加える。家畜を肉にするのにも旬があるようだ。
「何だ、この野郎!もういっぺん言ってみろ!」
「おう、何度でも言ってやらあ!」
そんな声が聞こえる。
「大丈夫っすか、アレ?」
「早速やり始めやがったな。セイジはあっちで呑んどけ。行ってくる」
「気をつけて」
村人たちは早速揉め始め、ドロイゼンは仲裁のために席を立った。誠二はカウンター席へ移る。
「それで、何でまたこの村に?」
移った先では酒場のマスター・アルノにそう問いかけられた。口髭を生やした老紳士だ。
「はい、俺は……」
誠二は迷った。迷った結果、ありのままに伝える事に決めた。
「突然、どっかから声が聞こえてきて。もやが晴れたら、この村が見えた。そんな感じです」
「不思議だな。魔法、としか言いようのないものだ」
「中央のお偉いさんとかなら知ってるんじゃね?」
アルノと村人の男がそう会話を交わす。どうやら受け入れられたみたいだ。
ドロイゼンが戻ってきたので、誠二は何が原因で揉めてたのかを聞いてみた。
「畑持ちと森のやつらとの言い争いだってよ。ま、どこにでもある話だ」
案外重い話だったので、誠二は驚いていた。これまでの関わりで見ると森側の人と関わりが深いように、誠二には思えた。
「それにしてもセイジさんの剣、すごかったです! 経験者ですか?」
「まあな……」
ソフィアが移ってきてそんな話を始めた。誠二ができれば思い出したくない、あの空振りである。
「張り詰めたように構えて、そして思い切り振り下ろす。かっこ良かったです!」
「はは……」
克明に覚えられていたようで、誠二は苦笑する。ソフィアの顔に嘲笑う兆しがみじんもない所が救いだろう。その表情は猪の大きさを語る時とほぼ同じで、輝いていた。誠二は少し複雑な気分になった。
「ところで、ソフィアはここの生まれじゃないのか?」
ソフィアが獣の解体に慣れなかったという話を聞いて、誠二は違和感を覚えていた。弓に長け、他の村人とも親しげなため、生まれ育ちからここかと誠二は思っていたのである。
「ここに来たのは2年くらい前ですね。色々あったんですけど都からも離れてますし」
そう語るソフィア。都会の喧騒が苦手なタイプなのだろうかと誠二は考える。
そのあとはしばらく、静かに飲み食いをして過ごした。
「ところで、セイジさん」
「うん?」
宴も盛り上がりを過ぎた頃、ソフィアが姿勢を改めて、誠二に話をする。
「今日のお宿は?」
「あ」
誠二は考えていなかった。昨日の今日では考える時間もなかった。
「なーんも考えてなかったわ。どうしよっかな、はは」
「そ、そうですよね──では」
ソフィアは膝に手を置き、何故か口ごもった様子で続けてこう言う。
「しばらく、わたしの家に泊まりませんか?」