第5話 for the sake of Sake
「ふー……やりました!」
そう告げるソフィアの顔は晴れやかだった。誠二はといえば、あまりの早技に呆然としていた。懐には小刀を携帯し、血抜きを済ませる様はまさにプロだ。
「俺の所にこの間捌いた豚があるから出すぞ、と言おうとしたんだが……」
「それじゃドロイゼンさんにお世話になりっぱなしじゃないですか」
「いつも鳥とか持ってきてくれてるのに、これ以上何も言わねぇよ」
「デキる弓使いは違うぞ」
「えへへ……ありがとうございます」
弓を構えるソフィアの顔は凛としており、うかつに触れられない雰囲気を出していた。まるで透き通る水のようでもあった。伸ばした腕、見据える眼差し、支える身体まで、全てがひとつの方向にまとまって、獲物を射抜いたその姿。誠二は綺麗だと思った。
そうして、彼女の収穫も5羽ほどに増えた頃。
貰い物の剣を手にただ突っ立っていた誠二を見て、ドロイゼンが一言述べた。
「……そろそろ、兄ちゃんの立場が無くなってくる頃じゃねえか?」
「……っすね」
「セ……セイジさんは今日、大切なお客様ですし……」
「違いねぇ。今の弓さばきとか見たら、兄ちゃんも惚れたりなんかしてな」
「ドロイゼンさんっ」
ソフィアは再び顔を赤らめる。それでも更に2羽ほどを射抜き収穫とした。
「そ、そろそろ行きましょうか! だいぶお待たせしたので!」
「ああ」
計7羽の鳥を台車に載せ、誠二達は村に戻ることになった。
「鳥ならソフィアの出番しかないんだぞ……大猪をバラせなくて、ここにいる意味が見つからなかったぞ」
誠二と同じでほとんど立ちっぱなしに終わったからか、エスティは、帰り道でそう独りごちた。
「仕方ねぇ。森のお天道様は気まぐれってもんだ」
「宴で暴れる奴らをシメて気を満たすんだぞ」
「その意気だエスティ。俺も愛しのナイフが飢えた頃でな」
「あの、今日は二人ともお手柔らかに……」
「ああ」
「任せるんだぞ」
エスティとドロイゼンは、そう不敵に微笑んだ。
(怖えな……敵には回さないようにしよっと)
誠二はそう決めていた。
肉屋へと帰ってきた一行は、酒場への道を歩いていた。誠二が見慣れない顔だからか、すれ違う人々が一行を見る。
ソフィアはといえば、獲物の鳥になにやら手を合わせている。
「私も教会に身を置いてはいるが、こんなに敬虔な態度はしたことがないんだぞ」
「……」
「心があれば神は見てくれるんだぞ。深入りすると金をせびられるから、これくらいがちょうどいいんだぞ」
「おい教会!」
実際、教会はそれなりのしがらみもあり、エスティ曰く面倒臭い組織になっているらしい。
その中で、エスティ自身はどうかと言えば。
「酒、服、 あとお布施。私が教会にいる理由なんてそんなもんだぞ」
「えぇ……」
それで良いのか、と思う誠二をよそに一行は酒場に着き、エスティは給仕のメイド服に着替える。
「エスティ、エールとリンゴ酒をたくさん手配してほしい。アルノにも言っといてくれ」
「まかせるんだぞ」
肉となった鳥を酒場に届け、ドロイゼンはそう言った。アルノは酒場のマスターだ。
エスティがふん、と胸を張る。敬語とか上下関係を全力で無視していくスタイルなエスティに、誠二は段々と慣れつつあった。
「酒は大丈夫なのか?」
「強いぞ。呷って気分を上げるぞ」
「おいおい……」
「それなりに付き合えるか?」
「まあな」
エスティは狩りの心残りを酒で晴らそうとしていた。ここは飲酒に寛容らしい。
誠二も苦手ではない。
「アルノさんの料理、美味しいですよ」
「そりゃ良いな」
「お客さんですから、座っててくれてもいいんですよ?」
「いや、手伝うさ」
誠二は机や椅子を運びにかかった。
「よっこいせ」
「はぁっ!」
二人とも、酒瓶の入った木箱をいくつも持ち上げていた。誠二もそれに続く。
ソフィアは弓使いということもあってか力持ちだった。その割に腕や脚は細いな、と誠二は若干照れ気味に見つめながら思った。
エスティはウエイトレス業のなせる業か、あるいは狩人スピリッツの何かが働いているのだろう。
「皆さん、ありがとうございます」
「クレーフェにようこそ、兄ちゃん。これからよろしくな」
「それでは!」
『乾杯‼︎』
こうして、宴会が始まった。
Sakeは日本酒という意味です、本来は。