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護られ勇者の異世界紀行〜聖弓の少女と代打、俺〜  作者: 高荻 泰晴
第2章 公国の都レイスウェイク
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第25話 荷物をまとめてどこへでも行けと言われても仕方がない内容

 ソフィアを驚かせた通達の内容とは何だったのか。

 時は誠二の謁見まで遡る。


「すげぇ……」


 帯同した騎士ロビンスの先導を受け、誠二は宮殿内部へと入っていた。改めてその佇まいに驚く誠二に、ロビンスは鼻高々だ。


「閣下が国内の民を動かし、贅を尽くして建てられた城だ。どうだ、見たこともないだろう?」

「いやーすげぇっすね!」


 現代日本に生きてきた誠二の周りには高層ビルこそ無数に立ち並んでいたが、こういった西洋の城のような建物は皆無だった。しかも飾りではなく実際に使用していると来ている。中は燭台があるものの薄暗かった。


「これより閣下との謁見に移る。失礼のないように」

「はい」


 そのまま誠二たちは奥の部屋に通され、公国の主であるシェレンベルク公爵と顔を合わせる事になった。赤カーペットが伸びた先に階段があり、その頂点に玉座がある。物語の王宮などでよく見る風景が広がっている。

 先に騎士ロビンスが恭しく礼をし、膝を折る。誠二も見よう見真似で頭を垂れた。


「閣下。勇者セイジ・オーサワを連れて参りました」

「うむ、面を上げよ」

「はっ」


 その辺りに居そうな小太りのオッサン。それが誠二が目の前の椅子に座る男を見た感想だ。違いは髪の色くらいなものだった。

 誠二はといえば、日本での野球部の監督の顔を思い出していた。元々この男やロビンス以上にいい思い出のない人物で、加えて諸事情あった誠二を追い出した張本人だった。誠二の公爵への印象は少し悪くなった。


(人は見かけで判断しちゃいけねえけど、この公爵様? だっけ、うーん……)


 誠二は心の声を抑えた。目の前の公爵は何も悪いことはしていない。そう思い直したからだ。

 そんな誠二の気持ちなど知る由もない公爵は、話を続ける。


「ワシはアルフォリア公国を治めるゲルト・フォン・シェレンベルクだ。勇者オーサワ殿、そなたの活躍は聞き及んでおる。ヴィシュトー辺境伯領クレーフェにおいて、賊の討伐に一役買ってくれた事を感謝する」

「ありがとうございます!」

「本来ならばここレイスウェイクにそなたを喚ぶつもりだったのだが、魔法陣に手違いがあったようでな。ご足労をおかけした」

「俺は何もしてませんよ。 クレーフェの人たちが追い払ってくれたので」


 実際そうだった。誠二はあの山賊の討伐で剣を振るってすらいない。しかし、そんな事はいまのゲルトには関係のない事らしい。


「ふむ、しかし貴殿が勇者の証を見せた事には違いあるまい。その剣に宿っていた白銀の光が証明している」

「えっ、あの光がそうだったんすか?」

「オーサワ殿、閣下の御前ですぞ」


 誠二は砕けた口調をロビンスに窘められる。


「よいよい。その剣の実力はこれから見させてもらおう。ついて参れ」


 そうゲルトは鷹揚に言うと玉座から立ち上がった。誠二も続いて移動した。

 一行が立ち止まったのは何の変哲もない壁の前であった。


「これ、なんですか?」

「まあ見ておれ。他言は無用じゃぞ」


 誠二が疑問に思いながらも待っていると、目の前の壁が轟音を立てて動き出した。


「隠し通路! すげぇ!」

「そうだ、我がシェレンベルク公爵家が誇るいざという時のための仕掛けだ」


 若干興奮しながら話す誠二に、鼻高々に答えるのはロビンスだ。公爵も頷いている。

 扉の先には階段があった。それを降りた先は無数の柱が立ち、燭台の灯りがともる広い地下空間だった。


「さて、思う存分力を見せてもらおう。まずはその剣に勇者殿の力を込めてみたまえ」

「はい!」


 こうして誠二の腰の剣──「聖剣」の力試しが始まった。

 村人たちが見たであろう光り輝く景色、勇者という存在は実のところ、この世界の人々にとっては生きる伝説であった。ゲルトとロビンスは目の前の勇者がその圧倒的な力を見せつけ、やがて彼らの望みを叶えてくれる存在になることを信じていた。


 そんな思いをよそに誠二はゆっくりと腰の剣を抜き、まずは振ってみる。


「……ん?」


 ゲルトとロビンスが続けて声を上げる。誠二は野球部時代のバッティングフォームを思い出しながら軽快に素振りをしていたのだが、ゲルト達の声色に反応したのか少しばかり振り抜く速度を弱めた。


「……誠二殿。あの白銀の光は出ないのか?」

「うーん、分からないっすね」

「素振りでは効果がないのかもしれぬ。物に当てようとする意志を汲むのかもしれんな……オーサワ殿、この柱に当ててみてくれ」


 誠二の答えは軽かった。ゲルトは石柱の一本に誠二を導き、剣を振らせてみせる。


「この柱にですか? 崩れやしませんか?」

「聖剣は敵意のないものすべてを救うと言われておる」

「じゃあ大丈夫って事ですか」

「おそらくは」


 続けて振り抜いた剣は柱の要を的確に捉え、ヒビを入らせ、そして倒壊させた。第一撃であった。


「倒壊する! 倒壊する! あわわ!」

「閣下! あとオーサワ殿! 退路はこちらです!」

「はい!」


 地下空間でも柱の一本が逝ったのはマズかったようで、闇が包んで様子のよく分からない天井から何となく崩壊の音がしていた。その事は三人の共通認識だった。

 かくして三人はほうぼうの体で玉座に舞い戻った。


「……俺、なんかやっちゃいました?」

「うーむ、うーんこれは、うーん!」


 玉座のそばでゲルトとロビンスがヒソヒソ話をしている。そして何かしらの結論を出して誠二へ向き直る。


「……閣下、オーサワ殿にはちょうど動乱の多い地域がある。その揉め事を解決してもらいましょう」

「そうだな。勇者殿以外にもアテはある。まずは勇者殿には力を鍛えてもらおう」

「えっ?」


 という訳で、誠二はレイスウェイクから北へ馬車で半日の街、キルヘンへ赴く事となったのである。

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