第24話 閑話
お久しぶりです。よろしくお願いします。
「ふう……」
青空の街中で誠二と別れ、ソフィアはその後しばし立ち尽くした。
馬車で一緒だった者にはそのまま待ってもらっている。
「……暑いですね」
「まったく」
どこまでも強い日差しに、彼女の鎧はきらめいている。見るからに熱を溜めていそうであった。
彼女はまるで辛そうな顔を見せていない。着込んだ文官と比べれば少し涼しい格好をしているとはいえ、鎧から伝わる熱は相当なものであるにもかかわらず、である。
「……んしょっと」
直前に発した言葉とは裏腹に、ソフィアは着ている鎧や自分の素肌を抱え込み、少しの間膝を抱え込んだ。
見ただけでは意味が分からない。おそらく誠二でも不可解に思うはずだ。辛うじて思い出せるのは、その身体には馬車の道中で誠二の頭を載せている、ということくらいだろう。
普通の村娘なら、晴れて街娘となった勢いで都の空気を堪能する所だろう。村にはないものが沢山あるのだから。
先程の文官が声を掛けてくる。
「さて、ソフィア殿……いや、」
風が吹き、言葉はかき消えた。
ベージュ色の髪の毛をはためかせ、ソフィアは微かな微笑みを浮かべながら振り返る。
「……私のことは、ソフィア、でいいです。私は勇者様をお守りする役目でここに喚ばれたんですから」
ソフィアは笑った。その表情は何ら後ろめたいものではなかった。
文官は微かに俯き、ソフィアの話を聞いた。
「……私はこの二年ほど、クレーフェで一人の村人として過ごしてきました」
服装は鎧を着込んだまま。手を後ろに組み、ゆっくりと何かを思い出すように足を踏みしめる。
「……苦労があったでしょう」
「いいえ、楽しかったです」
文官は労うが、ソフィアははっきりと首を横に振る。
「その村から、私はあまりにも多くの事を学ばせて頂きました。あのままレイスウェイクで過ごしただけでは決して味わえない貴重な経験を、いくつも」
鎧はより強い日の光に照らされ、輝きを増している。
ソフィアが纏っている弓使いの装備は簡素なもので、腕や脚などの肌がところどころ外気に晒されている。
しかし、所々剥き出しの素肌に刺さる日光にも、彼女は構う様子を見せなかった。村での暮らしでは当たり前だったからだ。
「たしかに、危ない目にはいくつも遭いました。猪にもたくさん遭いました。鳥を何羽も仕留めました。血もたくさん見ました。酔っ払った人同士のケンカに何回も飛び込みました。弓や小刀の使い方も覚えました。そして……何回も村の人たちに助けていただきました」
山村に暮らしていく上では、野生動物を含む大自然、そしてそれらを管理する人々との話し合いがあった。この間のような山賊もいた。決して思い通りにならない経験がソフィアをたくましくした。
「……そして先日、目の前にセイジさんが現れて、私を護る為に剣を振るってくれました。伝承で聞いた白銀の光を湛えた剣。私はあの方を……勇者様をお守りするのが天命だと感じました」
視線は文官に向きつつも、どこか遠くを見つめているようである。
文官も咎める様子はなく、そのまま口を開いた。
「おいたわしい。閣下が貴女を遠ざけておこうと考えなければ、この都から出る必要も……」
「する必要もない苦労をしたのは、セイジさんのほうです。セイジさんは本来ならここレイスウェイクに召喚されて日々を過ごすはずでした。召喚された目的を果たすその日まで……それがいきなり私の頭上に、降ってくるように現れた。何らかの力が働いて、私が引き寄せてしまったんでしょう」
「……」
「だから、その責任を取りに、私はここへ来たんです」
「それで宜しいのですか?」
「ええ。閣下もそのつもりだと思います。それに、言ったじゃないですか。私はたくさんのものをクレーフェから学びました。それをお役に立てたい。セイジさんを……勇者様を全力でお守りします」
諸事情が重なって赴いたクレーフェで、彼女は多くの知識や経験を得ていた。彼女の人生にとって予想外の事ばかりだった。
「勇者様は戦いには慣れていないと聞きますが……大丈夫なのですか?」
「セイジさんは強いですよ。できれば……一人の旅人として、セイジさんが勇者としての仕事を全うするのをお手伝い出来たらと思います」
「そうですか……ならば、一介の文官である私には何も言う事はありません」
「いえ、感謝致します。謁見が済んで、セイジさんという力も得て、閣下はまもなく動くでしょう。その時は、私も……」
その後、一台の馬車が走ってきた。六人乗りの大きな馬車で、石畳を駆ける馬の蹄の音はどこかけたたましい。
「謁見がお済みになりましたので、宮殿へと迎えに参りました」
「承知しました」
両脇を護衛の騎士に固められ、ソフィア達は馬車に乗り込んだ。
馬車はまもなく動き出す。デザイン等は普通に見かけるありふれたもので、この中に貴人が乗っているとは思えないほどシンプルだ。
「ご苦労様です」
「いえ、我々は仕事ですから」
相変わらず強く照る日光も、石畳の揺れも、ソフィアにとっては懐かしいものだった。そのまま彼女はしばし馬車に揺られた。いつでも弓を引けるよう準備をするのも忘れなかったし、幸いにその機会は来なかった。
宮殿に到着し、側仕えの騎士たちから誠二に関する通達を聞いたソフィアは、その内容に呆気にとられることになる。
「……えっ?」




