第20話 now roading
誠二たちを乗せた馬車二台は、街道をひた走っている。
森を抜けるまでの道は悪路だった。
「気持ち悪い」
「大丈夫ですか?」
近くを森の木々に囲まれている中では、遠くも見ようがない。
森を抜けて以降は、道がなだらかになった。
交通量の多さも影響していて、あるいは単に、農村にまでは舗装の手が回らないのかもしれない。
「セイジさん、大丈夫ですか?」
「なんとか」
そういう誠二は言葉少なで、ソフィアへの態度も素っ気ない。
「もし良かったら……」
「ん?」
「膝の上で……休みますか?」
「‼︎」
ソフィアは、全体的に軽装だ。髪は肩にかからない位に短く、飾った彫金の胸当てが右胸に輝いている。あとは肩当てくらいなもので、兜は外している。
そして、履いているスパッツのようなもので、脚は太ももの上半分が覆われている。
そして、それだけである。
太陽に照らされて光ればいっそう、ソフィアの素肌は眩しかった。
そこに寝る。つまりは。
「それは、膝枕、か?」
「はい」
「いいのか? いや俺はいいけど、ソフィアは」
「……はいっ」
ソフィアはそう答える。顔を赤らめて、脚をすり合わせて。
「失礼します!」
「はっ、はい……」
柔らかい。頭を載せた時に一瞬、強張ったのが分かる。張りのある素肌が目に入って、誠二の顔はますます熱くなるばかりだった。
「んっ……」
ソフィアの微かな声が聞こえた。
誠二が少し顔を上げると、ソフィアは恥じらいを含んだ笑顔を浮かべて、誠二の顔を見ている。
「あの、すみません。もし何かあったら、また声をかけます」
「あ、ああ。分かった」
ソフィアの行動が功を奏して、誠二の酔いは吹っ飛んでいた。
ただ、その後二人が共通する熱っぽさを感じたのはむべなるかな、である。
「……揺れるな」
「揺れますね……」
ソフィアは揺れの緩衝として頑張っていた。臨戦体勢を整えたまま、平然と揺られているのだから、誠二はまたも頭が下がる思いがした。
風景にはだだっ広い草地が広がり、たまに家屋の並びが見える。壁に囲まれた都市も、何度か見た、
畑、畑の農村か、壁に囲まれた都市かという風景で、区切りがはっきりしている。そんな景色を誠二たちは眺め続けた。
レイスウェイクまで、馬車で二日。まだまだ道は長かった。
★─★─☆─☆
私の脚に頭を載せたセイジさんは、いつのまにか眠りに入っていました。
さっきは身体が熱くなりかけましたが……どうにか治ったようです。
私も、悪路をはじめて旅した時は、何度も止めて頂きましたっけ。外の空気を吸う時には、同行の方々が刀や剣を持ち出して守って下さいました。あの方々の行いは、今でも忘れていません。
今度は、私の番。セイジさんを守るためにも、弓は手放せませんね。
この時に備えて、私はきちっとした休息を取ってきました。都でセイジさんは色々なことに出会うでしょうから、今は英気を養っていただかないといけません。
何もないのが一番ですが、いつでも応戦できるように。さあ、気を引き締めていきましょう。
あと、膝枕には満足して頂けて何よりです。……何よりですが、やっぱり恥ずかしいですね、これっ。
風を感じられますし、気兼ねなく走れるのはいいんですが。セイジさんに見られるのが嫌ってことじゃないんですが、身体が熱くなってくのを止められなくて。あの、ですね、その……
結局、私はドキドキしっぱなしでした。少しばかり破廉恥な妄想に浸ったのは、セイジさんには内緒です。
彼とはやや向きの違う酔いに蓋をしながら、旅は進んでいったのでした。




