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第2話 俺が悪い

前回のあらすじ:世界を救うにはまず目の前の人を助けな(アカン)

 誠二の後方から放たれた一本の矢は、確実に猪を仕留めていた。

 少女が弓を下ろし、ふう、と小さく息を吐く。誠二は張り詰めた空気が解けるのを感じていた。


(さっきのシャラン、って音は……矢筒か!)


 誠二はそうひとりで納得し、話しかける。


「ありがとな、助けてくれて」

「いえ。当然のことをしたまでです」


 少女の声は細くて小さく、咳混じりだった。しかし顔は安堵の表情を浮かべていて、あまり大事には至っていないようだった。


「お怪我はありませんか?」

「俺は大丈夫だ。それよりも怪我はねえか?」

「下は落ち葉なので。これくらい、何でもありません。えーと……貴方が無事で良かったです」


 少女は微笑む。柔らかくも、どこか芯の通った顔だ。

 

「とりあえず、村の人達を呼びますね」

「ああ」


 誠二が改めて見返すと、猪は非常に大きかった。運ぶのにも人手が必要そうだ。


「こんなにデカかったのか……」

「そうですよ。私もこんな大きさ見たことないです。なのに……あなたがいきなり向かっていくから驚きました」

「すまねえ」

「まったくです。でも……ありがとうございます」

「あ、ああ。いいってことよ」


 誠二がいきなり飛び出したことを少女は咎めた。だが続いて礼も言ったので、誠二は少し照れ臭い気持ちになった。


「これから私の村まで行くので、離れないでください。あと、叫んだりはしないようにしてください」


 少女は口に指を立てて「しーっ」の印を作る。野生動物は音に敏感だ。


 森を抜けるまで、二人は一言も喋らなかった。少女は手元と口元を締め、ふたたび気を張り詰めている。その緊張が、誠二にはっきり伝わったからである。

 少女の背中からは白い矢羽根が覗いている。麻色の服に銀色の肩当てや胸当てを付けた、シンプルな服装だ。 兜は身につけておらず、脚は服の端と黒いスパッツのようなもので覆われているだけだった。

 


 森の出口に差し掛かったところで、少女はようやく口を開く。


「お名前。まだ聞いてませんでしたね。私はソフィア、16です」

「俺は大澤誠二、21だ。セイジでいい」

「ではセイジさん、よろしくお願いします!」


 互いに自己紹介を終える。ソフィアは続いて「あの……」と口を開いた。


「お名前、珍しいですね」

「そうか? そうなのか」

「この辺りは初めてですか?」

「あ、ああ」


 誠二は何も答えられなかった。何せ彼にだって、分からない事だらけなのである。


「俺って、どんな風に見えてたんだ?」

「煙の中から、ふわ〜っと来て、でしょうか?」

「何だそれ」


 まるで魔術師だ。誠二は困惑した。


「……思えば手荒なヤツだ、女の子の上に落とすなんて……」

「そういえば、傷とか大丈夫でしたか? 結構な勢いで落ちてきたと思うんですけど」


 幸運にも、誠二はほぼ無傷であった。あれだけ激しく落ちたというのに、身体はソフィアの胸当てと服、それから落ち葉に接触しただけだ。

 誠二は落ちてきた時の事を思い出しながら話した。


「ああ、大丈夫……大丈夫だ」


 一瞬固まる誠二。

 落ちてきた時の事を思い出すというのは、即ち。


「えっ……あ」


 ソフィアが胸元を抑えながら俯く。


「あっ、あの、ごめんなさい……」

「いや、俺こそ、そんなつもりはねえんだ……」

「男の人がさっきみたいなことを意識するのは当たり前の事ですし、私も分かっているので、分かっているので……」

(可愛いな……)


 呟くソフィアの顔は真っ赤で、声は段々と小さくなる。胸に手を当ててもじもじするソフィアを見て、誠二はそう思った。

 そのまま二人は歩き出す。


「俺が斬り込んでいったときには、もう狙いを定めてたのか」

「……はい。途中で声をかけたら、かえって危ないかなと思いました」

「本当に、ありがとな。また引く姿も拝みたいもんだ」

「ふぇ⁉︎ そんな……」


 ソフィアは嬉しそうな顔を見せた。


「セイジさんも、格好良かったです」

「お、おう」

(格好……良かったか?)


 誠二は自分の剣さばきを思い返していた。

 凄まじい空振りだった。仕方のないこととはいえ、誠二にとってはあまり振り返りたくない事だ。


(結構賑やかになったな。森で話をしなくて良かった)


 誠二はそう思った。二人の目の前にちょうど、集落らしきものが見えてきていた。

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