第17話 tea-time-break
誠二たちが出立の準備をしていると、ヘリフォードが訪ねてきた。
「邪魔をする」
「どうぞー!」
「これは私が暮らすウィンタース市の土産だ。時間を取らせて申し訳ない」
「ありがとうございます。ありがたく頂きます」
そう言ってヘリフォードが差し出した菓子折には、何かしらの絵と文字が書かれていた。
木組みの箱で、凝った造りだ。
「あの、よろしければ一緒にどうですか?」
「気持ちはありがたいが、まだ用事があってね。勇者の話を聞かせていただいたが、大変そうだね」
フィンは相変わらずの無表情だったが、無関心という訳ではなさそうだ。
「正直、まだ実感が湧かないんですが……どうすりゃいいんですかね」
誠二の本心だった。
「気軽にしてくれていいだろう。私も記者の仲間や知り合いから話を聞くんだが、あまりきな臭い話は聞かない」
「そうですか」
「有事が起こらない限りは何もないが、どうなるかは分からないな。すまない、私は文化面担当なんだ」
「いえ。ありがとうございます」
「それと、最後に」
「はい」
「勇者を国民の希望の象徴とすること。そのための情報を広めること。それも報道の使命であると、私は考えている。ついては、私の社の者と顔を合わせるかもしれないが、よろしく頼む」
「はい。こちらこそ……この村をよろしくお願いします」
「ああ」
「綺麗な人でしたね」
「そうだな」
フィンの顔立ちは端正だった。そして、語り口調はきわめて冷静だった。
「ところで、そろそろお茶にしませんか?」
ソフィアからの提案で、誠二は休憩がてら菓子折を開ける。
表面には暖炉のような絵と、文字が描いてあった。温かみのあるデザインが合っている。
「何て書いてあるんだ?」
「かまど神の恵み、ですね」
名前付けのセンスは地球と変わらないらしく、誠二は少し親しみを覚えた。中身はクッキーだった。
俺とソフィアはテーブルに着き、軽く手を合わせる。
「食べ物への感謝ですね」
「こっちでも同じなのか」
「はい。命をいただく行為への感謝や詫びの礼を示すものです」
「だからソフィアは、あの時、なんでもない」
「そうですね」
亡骸に手を合わせてたんだな、と言い出しそうになって、誠二は留めた。
ティータイムには苦すぎる。誠二はそう思った。
誠二は言葉を呑み込むようにソフィア手製のお茶を啜り、
吹き出した。
「だっ、大丈夫ですか⁉︎」
「ごふっ、げほっげほっ‼︎」
ティータイムには苦すぎる。誠二はそう思った。
薬草っぽい味、ケミカルな匂い。ソフィアが手当てを受けていた時の薬をそのまま入れたような香りがする。
誠二の頭に一瞬、エスティの笑い顔が浮かんだ。
「……このお茶はおすすめか何かのなのか?」
「えっ、ええ。今のセイジさんに言うのもおかしな話かもしれませんが……すみません」
「いやいや、頂くよ、ごほっ」
「かまど神の恵み」は、お茶に合った。香辛料の強い味で甘さは蜂蜜だろう。精白小麦粉が広く出回っておらず雑味が強かったが、誠二はさほど気にする様子もなく食べた。
「美味いな……お茶にはビックリしたけどな」
「この味にはこのお茶が合うんです。原料も村でよく取れる素材なので、フィンさんもそれを見越して買ってきてくれたのかもしれませんね」
「そうだな」
ウィンタース市国に思いを馳せつつ、二人はふたたび準備に取り掛かった。片付けを終えた頃にはすっかり夜だったが、燭台の灯が部屋を明るく照らしている。火の元は動物の脂だそうで、原料には困らないだろう。
疲れからか、はたまた山賊との遭遇からか。ほどなく二人は床に就く。
「おやすみな、ソフィア」
「はい、セイジさん。おやすみなさい」




