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第16話 この中に一人、勇者がいる!


「来るのが遅ぇ!」


 私、フィン・ヘリフォードは、一部の村人の怒りの言葉を聞いた。クレーフェの村に公国軍が来たという話を聞いた時の事である。

 先日の山賊出没騒動のあと、村は公国軍へ対応を要請していたが、結局、再来を許した。彼らはその事に憤っているようだ。


 国への申し出は対応まで時間がかかる。今回の取材も3ヶ月ほど前から申請を出し、ようやく実現したものだった。ましてやクレーフェは、レイスウェイクから馬車で2日を要する距離にある。

 村人たちの苛立ちももっともだろうが、軍が賊の再来に間に合わなくても、何ら不思議はないといえよう。


 しかし、よくよく軍の人々の話を聞けば、軍中央部はクレーフェに別の要件があり、その整理に時間がかかっていたのだという。


「勇者を迎えに来ました」


 軍隊長のそばに控えていた男性は、そう村長に言った。軍の人々とは違いゆったりとした服装である。おそらくは文官だろう。

 後ろに控えていた私も、自ずとその話を耳にすることになった。

 村人が怒りを増しているのは、おそらくこの点だ。村の有事は国事のついで、という態度をあからさまにされては、確かに不快かもしれない。


「勇者を?」

「この村に、勇者が降臨めされたとは……して、どちら様でしょうか?」

「うむ」


 軍隊長が話をする。


「光る剣を持っていた奴がいただろう。あの輝きこそ、まさに勇者だ」


 勇者。

 強靭な身体能力、及びどんな魔術師をも凌駕する魔力量、それらを兼ね備えた存在であり、国家防衛に関する抑止力の一つとして重宝されてきた。剣を振るえば森ひとつを吹き飛ばし、龍殺し・神殺しさえも夢ではない。そう言われるほどの、規格外の存在である。


「しかし、こんな辺境の村に、勇者など現れるものなので?」

「ええ。今回は多少、想定外の事が重なりまして」


 普通、現れた勇者を軍がお披露目することはあっても、迎えに行くとは聞かない。召喚の魔方陣は都の中に描かれていて、詳しい場所は一般庶民には伝えられていないからだ。

 召喚の儀式は腕利きの魔術師を呼び寄せてなされるようだが、こちらも詳細は機密事項となっている。

 その召喚がこの村へ波及したとなれば、たしかに異常事態だろう。

 普段は、都の外に出ない情報だからだ。


「私も同行してかまいませんか」

「ええ」


 どうやら、特別な警戒はないらしい。緘口令くらいは敷くだろうか。

 村長のベタンコート氏と軍の人々、および私は、現れたという勇者のもとへ向かうこととなった。




「迎えに来ました──勇者様」


 目の前の男が、誠二にそう話しかけている。

 いま誠二たちがいるのは、この村の村長であるフィリップ・ベタンコートの家だ。

 ソフィアの家よりも造りがしっかりしていて、大きな暖炉やテーブルが備えられている。壁には農村を描いた絵画が飾られ、それに教会が描かれた小さい絵が添えられていた。


 そんな家には周りの人間が締め出され、居るのは誠二と村長、そしてソフィアとフィンだけだった。


「このことは、なるべく村の外の人々には内緒にしておいてください」


 文官はそう言うが、誠二や村長の側にいるソフィアやフィンには何も言わなかった。二人は誠二の付き人か何かとして見られているのかもしれない。

 それぞれ弓と槍を手にし、誠二と村長の護衛として付いている。


「勇者様。我がアルフォリア公国の都、レイスウェイクまで赴いて頂けますか?」

「えっ、ええ?」

「実は、あなた様をこちらの世界に喚んだことは、国にとっては機密事項でございます。ゆえに、この小さな村に大軍団を率いれば、たちまち騒動となってしまいますゆえ。むろん、私どもでも精一杯の護衛を致します」

「はあ……」


 軍隊長はそう言った。誠二は突然の話に付いていけなかった。


「それと、側の弓使いのお方」

「はい」

「貴女にも来て頂きます。勇者様の護衛として、実に頼もしい活躍をされたとの事で……」

「えっ?」


 更なる申し出に一番驚いたのは、誠二だった。


「はい」

「えっ?」


 誠二は本人のソフィアが何も驚いた様子を見せないのに、更に困惑していた。


「誉れ高き勇者様の旅路に同道できること、誇りに思います」

「誇りって……ソフィア、村は」

「セイジさん」


 ソフィアは、誠二が初めて見る表情をしていた。何もかもを受け入れ、様々なものを呑み込んだような顔である。

 誠二が信じられない気持ちで目を見遣ると、ソフィアの顔はいつもの精悍なものに戻っていた。


「出立は明日です」

「承知致しました」


 ひとまず軍人たちは去っていった。ソフィアはびしっと姿勢を整え、静かに礼をした。


「村の人たちには伝えたのか?」

「はい。……先ほど聞きました」


 ソフィアが言う。誠二は疑問に思いつつもそれ以上触れてはいけない気がして、話を変える。


「まぁあの声のこともあるし……いやなんでもない」

「?」


 誠二はあれ以来すっかり物言わぬ存在となった天の声が気になっていた。勇者である、と言われてさほど気にならなかったのもその声があったためだ。


 その後誠二は、村長とフィンから勇者の仕組みを教わった。とはいえ、分からないことは多い。

 それでも、前に進むしかない。前の現代日本でのことを思えば、誠二に悪い気はしていなかった。


 疑問をひとまず棚上げし、誠二たちはソフィアの家に帰り、出立の準備をした。

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