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第15話 異世界弾丸トラベラー

「あの方々……恐ろしい気配がします」


 ソフィアはそう言って矢を筒に直した。男たちが手元の筒──銃を下ろしたのと、ほぼ同じタイミングだった。


 グループは全部で四人。銃のような武器を携えているのが、先頭の男を含め二人。あとの二人は弓を持っている。皆は揃って黒いローブを身につけていた。

 先頭の男の風貌は、三十代前半くらいだった。全体的に、色調は暗めの格好をしている。武官よりも文官が似合う、そんな感じがする。


「ソフィア、気をつけろ。あれは」

「金属の弾丸を火薬の爆発力で高速で撃ち出す武器……いわゆる銃、ですね」

「知ってるのか?」

「はい。村に来る前にちょっと。セイジさんもご存知なのですか」

「ああ」


 音さえ気にしなければ、男の手元の武器が一番強いだろう。

 ソフィアは銃を見たことのあるような素振りを見せた。不用意に動いて撃たれることはないだろうと、誠二は思った。


「銃使いの方ともなれば、遠距離武器を扱う敵がどれだけ厄介なものか、よく分かっているはずです。私の弓は、今からでもあの方に届きます。ですから」

「狙われたらまずいって事だな」

「ええ。先程の私の戦いを見ていれば……まず一番に警戒をするでしょう」


 ソフィアは固い表情でそう言った。


「皆、武器を下ろせ」


 バティスタが号令をかけ、ほかの村人たちも武器を下ろした。思ったことはソフィアと同じようだ。


「これであの男に撃たれる危険は薄まった、のか」

「だといいのですが」


 そう言い、誠二たちはささやき声での会話を、ひとまず止めた。バティスタと男の話を聞く為だった。

 男はあくまで砕けた口調で、話を続ける。


「僕はホルスト・ナウムブルクと言います。突然乱入した何や知らん僕らに対してね、心を砕いて下さって、いや、ありがとうございます」

「ご助力、感謝申し上げる。して、何用か?」


 ホルストと名乗った男に、バティスタが歩み寄りながら答える。いつの間にか斧が届く距離にまで近づいていたが、男は動じない。自分が絶対に襲われないことを信じているようであった。

 山賊討伐の決定打となったとはいえ、目の前の集団は不審だ。そう感じたのは誠二たちだけではない。バティスタが呼びかけるまで、誠二と一部の村人は武器を下ろしていなかった。


「クランベルクから国境を越えて、猟に出たら迷いましてね。そしたら山賊とドンパチやってるから、微力ながら加勢した次第でございます」

「国の境を越えてまで、我らの村に来たのか?」

「でっかい猪がいる、って聞きましてね」


 誠二達が初日に会ったあの猪の事だった。既にソフィアが仕留め、カラスたちの餌になってしまった所だ。


「もう狩ったぞ」


 ということを伝えたのは、いつの間にか近くに居たエスティだった。


「へぇ。さっき光ってたお兄さんが?」

「違うぞ。その隣にいるソフィアだぞ。弓が上手いぞ」

「へー!」


 隣のソフィアが、軽く頭を下げる。兜は付けたままだ。


「あ、ところで困りますよね? この賊たちの死体の処理。僕はちぃと特技がありますんでね、お手伝いしますわ。あ、剣構えてていいですよ」


 そう言うと、銃を足元に置き、撃ち殺した賊たちの死体に歩み寄った。その手筈は速やかで、村人の誰も加われなかった。

 そして──


「聖天助くを勧めるは我らのあるじなりぬれば、

 一閃の光集まりて我らの道よ照り給え。

 眼前の道塞ぐるは聖天の敵なりぬれば、

 燃し還すこと許し給え聖人聖女あるじ様」


 ホルストが読み上げた言葉を、村の人は黙って聞いていた。当の本人は気怠そうに読んでいたが、それでも。

 そして、一筋の閃光が走り。


 炎が賊の体内から涌き出て、たちまち、それらを焼き尽くした。


「これは……火炎魔法⁉︎」

「初めて見るぞ」

「火が出た⁉︎」


 村人たちは驚きを隠せなかった。どうやらこの世界には、魔法が存在するらしい。


「ゴホッ、ゴホッ!」


 焼却の際の煙でえずいたのは、他でもないホルストが最初だった。死体の焼ける匂いは強烈で、村人が次々と離れていく。

 ソフィアやエスティはその炎を食い入るように見つめていた。誠二がその場を離れなかったのは死体に耐性をつける意味もあるし、炎に照らされた彼女たちの横顔が綺麗だったからというのもあった。

 向こうの世界の風景が、頭をよぎった気がした。


「山火事になったらえらい事ですね。──消えろ! 消えろ! っと」


 男は先程の詠唱が嘘のように適当に言い放つと、炎はたちまち小さな火になった。あとには骨まで灼かれ、何も残っていない。

 炎が燃え尽きた、そのあと。諸々の匂いも収まってきたからか、村の人たちが再び集まってきた。

 その中で一歩前に出たのは、壮年の男性だった。背が低く小太りで、優しそうな風貌をしている。


「あの人は……」

「ご紹介がまだでしたね。村長のフィリップさんです」


 フィンを側に従えた村長は、おどおどと語る。


「賊の討伐に力を貸していただき、お礼のしようもございません」

「いえいえ。勝手に賊撃ち殺して燃やして、やり過ぎだと思いましたね。ははは」


 男はそう答え、背後の同行者は黙ったままだ。他はみな神妙な顔をしているだけに、男の奇妙なまでの明るさが際立った。村の人にとって、さぞ不気味だろう。


「これからはいかがなさいますか」

「クランベルクへ帰ります」

「左様でございますか。何か御礼を」

「うーん、面倒なんでええです」

「皆さま、お見送りを……」


 一通り村長は言い、男は村落全体に向かって大きく頭を下げた。他にも、小太りな男が大きく手を振ったりする。

 去り際、後列の弓使いの少女が小さくお辞儀をし、矢筒をわずかに鳴らした。


「んじゃ、また!」


 こうして、リンツからの迷い人は帰っていった。


 村人達も解散となり、それぞれの場所へ戻っていった。誠二たちは酒場の椅子を借り、少しばかり眠る。


「あいつとは仲良くなれそうだぞ……だが山に迷うのは心配だぞ」

「同感だ。隣の国の奴でなけりゃ、酒でも呑みたい奴だったな」

「相変わらずの酒好きなんだぞ、ドロイゼン氏。よその酒が多過ぎだぞ。うちのも買うんだぞ」

「ブドウ酒ばかりじゃしゃーねえよ」


 ドロイゼンとエスティの二人は、そう感想を漏らしていた。概ね、ホルストという男にはいい印象だった。

 一方で、ソフィアの表情は複雑だ。


「リンツにもこんな人たちがいる。反旗を翻すようなら黙ってはいない……それを示したようにも見えます」

「しかし、こんな村になんの用だ?」

「偵察か何かでしょうか。勘ぐるのは良くありませんが……」


 ソフィアが指摘したような事を口にする村人も、実の所ちらほら居た。漠然とした不安は、少しばかりクレーフェを覆った。


 翌日、後を追うように、今度はアルフォリアの兵士たちがやってきたのだからなおさらだ。

 あと少し間違えば、ホルストたちと衝突していたかもしれない。それくらいのタイミングだった。


「場合によっては、隣国リンツ公国への情報調査の拠点をここへ張らせて頂きたい。協力を願う。また、その他別件もあるゆえ」


 先頭の隊長らしき人物は、そう語った。

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