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第12話 丸太は持ったな


 先日の賊襲来の件で、誠二は自身の剣の威力を実感していた。何らかの力はあの天の声から与えられているとみていい、でなければ世界を救って欲しいなどとは言わない、誠二はそう考えていた。

 山賊たちの刃が、心持ちスローモーションに見えた気がしたのも事実だ。


 それでも、誠二にはどうしても頭をもたげる感情があった。


「俺、まだなんにもしてねぇな……」


 先程の山賊との戦いでは前にこそ立ったが、剣は樹を木っ端微塵にしただけで、人には向けていない。誠二は元野球部だったが、金属バットの方がいいくらいだ。

 エスティの慰めの言葉を受けてなお、誠二は無力感に苛まれていた。


「とりあえず、外に出てくる。ソフィアは休んでおいてくれ」


 そう申し出た誠二に、ソフィアは一緒に行く、と言った。申し訳なさそうに。


「セイジさんは私のお客さんです。客人を放っておいてひとりで家に居ても気が休まりません!」

「お、おう」

「……ただ、さすがに狩りはできないので、今日は畑の方々とお話ですね。まだ弓もうまく扱えないですし……」


 口ではそう言っていたソフィアだが、朝には弓矢の訓練を欠かさず、的にさえ当てていた。表情はいつもと変わらず、誠二にとって凛々しく端正な顔に見えた。


「バティスタさんの所ですか?」

「ああ。昨日の剣がどうなのか不安でな」

「セイジさんのあの剣なら、大丈夫だと思いますけどね。動きも速かったですし」


 大きく振りかぶったあの殺陣(対空)を思い出して、誠二は恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。

 誠二が向かったのは、村有数の木こりであるバティスタの所だ。


「セイジ・オーサワです。よろしくお願いします」

「バティスタだ。よろしく頼む」


 彼を一言で表すなら、間違いなく「巨人」だろう。豊かな口髭を生やし、物静かながらも穏やかな表情を浮かべている。加えてがっちりした身体、無口。黙して身体で語れ、を地で行く人だ。斧を軽々しく持つその姿はとても強そうに見え、事実バティスタも木を粉砕していた。

 誠二も自分の技を披露してはみるものの。


「森林伐採とかに使えそうですか、この技は」

「強い打撃が与えられたせいで、強度に疑問が残る。資材には使えないな」

「了解しました」


 林業には使えないという評価だった。力任せに叩き込むだけでは、木はすっぱりとは斬れない。


「腕をそう振るったとなれば、木が腰の高さの切り株になる。すると伸びてきた脇芽が動物に食われてしまう。後で木が使い物にならなくなる。腰掛けを作るなら話は別だが」

「そうなんですか」


 誠二は少しばかりの林業の知識を得た。


「森を蔑ろにしたから、国軍はこの村の支持を失った。森を焼き払い、確かな補填をしない軍に、ついて行く村人はいない」

「そうだったんですか」


 やがて始まった過去の村の話に、誠二は相槌を打つのがせいいっぱいだった。過去のアルフォリアの軍は、この村に対して何かをやらかしていったようだ。


 バティスタとの情報交換を済ませ、ソフィアの下へと帰る途中、聞いたのはドロイゼンの怒鳴り声だった。


「ヴィルツてめえ!そういう話はもっと先にしやがれ!ソフィアちゃんが怪我したじゃねぇか!」


 ヴィルツ、と呼ばれた中年の男に、ドロイゼンが吼える。

 この村に、文字が読めない村人は多いのだ。


「仕方ねえだろ!俺だって今朝聞いたんだ! ブラッグスもバティスタも居ない時に、俺らがどうやって新聞を読めって言うんだよ⁉︎」

「なんの話ですか?」

「あ、ああ。おうセイジ。いやな、コイツがこないだ仕入れた話を言わなかったんだ」

「話って」

「あの森に山賊が出るってえ噂さ。まったく、それを昨日のうちに言っとけばよ……」


 誠二が賊との繋がりが噂にならなかったのは、ソフィアが緩衝役に立ってくれており、デキる解説役だったことに尽きる。


「なぁソフィア……ただ居合わせただけで、よく分からん俺にこんなに心を砕くこともないだろうに、と思うんだが」

「やっぱり他人顔はできませんよ。 その……出会いの出来事から、もう最後まで付き合おうと思っているので」


「あれな……何というかすまん」

「確かにちょっと恥ずかしかったですけど……なんだか気持ち良かったですし、あの時守ってくれた人を忘れたりしませんよ」


 ソフィアは誠二に恩義を感じているようだった。こうして一日は、平穏に過ぎた。


 そして翌日。


「おうセイジ。ちょっといいか?」

「はい」


 ドロイゼンから聞いたのは、村に新しい人間が来るという連絡だった。


「前から決まっててな。賊が出たというのも説明したんだが、それなら自分が戦力になると言ってな。これがまた凄い奴でな」

「どんな人なんですか?」

「見たほうが早い。来るか?」

「はい」


 こうして、誠二たちは村長の所へ集まった。

 

「ウィンタース特別市国から参りました。日報『ベオバハター』の記者、フィン・ヘリフォードです。本日はこのクレーフェ村を取材させて頂きたく参りました」


 長身で顔立ちは端正、切れ長の目に変化の薄い表情、抑揚の乏しい声で、人を近づけにくい雰囲気を出している。傍らには槍が添えられている。


「昨日山賊が出たとのことですので、戦力としても馳せ参じました。よろしくお願い致します」



 歓迎の宴があり、その夜、寝静まった後。鍋を打ち鳴らす音と鈴を鳴らすような声で、誠二は目覚める事になる。


「セイジさん、起きてください!」

「うん?」


 胸元を鎧で覆い、兜をしっかりと被り、背中からは矢羽根が覗いている。

 起き抜けの誠二が目にしたのは、今までで一番厳重に武装し、神妙な表情を浮かべたソフィアの姿だった。

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