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③魔界のお姉さんのそばにいるのは、いつも僕だけだったりする

○魔界のお姉さんのそばにいるのは、いつも僕だけだったりする


 この日の僕は、細長い卵型のベッドの中で冷や汗を流していた。

 耳鳴りがする。体中にまとわりつくベタベタするモノが気持ち悪い。怖い。

 僕は生命維持装置の中にいた。


 最後の審判未遂から10年。

 僕たち人類は一生に一度、ある選択をする必要が出来た。

 肉体を脱ぎ捨て、魂の状態になる選択だ。

 最後の審判未遂以前の人類の魂は、母の胎内において無意識のうちに脳というサーバーにインプットされ、肉体の機能が停止すると、すべてがリセットされ、魂は宇宙を彷徨うのである。自分を失うのだ。そして何所かのサーバーにインプットされる。それは人であるとは限らないし、生まれも選べない。その繰り返しだった。それは1っ択であり、他の選択肢はなかった。

そう聞くと恐ろしい話だ。自分で決める選択の余地はなく、すべてが運任せなのだから。


 しかし人類は別の選択肢を手に入れたのだ。

 半永久に自分を失わない、永遠なる魂に生まれ変わることだ。

 それは、仏教でいう輪廻転生からの解脱であり、業からの解放に近かった。人が魂の永遠を知る時代を迎えたということだ。


 社会は肉体の放棄を勧める風潮にあったが、それには理由がある。

 永遠の魂になるには、魔界からの技術提供により可能となった特殊処理がひつようなのだ。

 その処理を行う以前に、事故や病気等で死を迎えると、魂は宇宙に吸い込まれてしまう。そう、個を失い、輪廻転生の渦の中に再び投げ込まれてしまうのだ。

 だから処理は早い方が良いという事だったが、みんな思い切りのつかないものだ。今のところ処理を行わないで死んでいく人が大半らしい。分かるような気もするが。


 そこで文部省主導のもと、修学旅行先を地球外惑星必修として、魂のみの存在のすばらしさを体験させ、修学旅行の時を、肉体を捨てる第一の選択期間にしたいというお役人の意向らしいが、僕を含め誰もその処理を希望する者はいなかった。まだ死という事象がピンとこないお年頃である。


 そして、僕は肉体を保持するために、生命維持装置のなかにいるのだ。


 魂と肉体の分離作業の最大の障害は恐怖らしい。多少ビビリである僕との相性は最悪と言ってよい。

「はぁい、怖がらないで~」

オペレーターのお姉さんの声に多少の笑いが混ざっている。こんな怖がりな子初めてだわ。という声が聞こえてくるようだ。格好悪い。

たぶんクラス全員、土星に旅立ってしまったのかもしれない。何をしているシン。男を見せろ、シン。と、周回遅れの僕が言ってみる。負け犬の遠吠えにしか聞こえない。


「早く、早くいこうよ」

 誰かが手を引くような感覚がある。たぶんはやてだろう。ごめんな。

そう思った瞬間、急速な浮遊感と共に、天井にぶち当たった。

はやてちゃん、だからそんなに引っ張ちゃだめだって言ったでしょう」

 ナビゲートしてくれていたお姉さんの声だった。おでこの辺りに痛みはあるが、そこをやさしく撫でてくれる感触もある。痛みが遠のいていくと、頭から肩にかけて柔らかいひざの感触もある。鼻からは何か甘いような良い匂いが鼻腔をくすぐるようだった。視覚もぼんやりとだが、回復してきた。目の前にたわわに実った二つの乳房のようなものがある。

 僕は唖然としつつも見入ってしまった。


「もぉ、シン」

 怒ったようなはやての声が聞こえるが、僕は目の前の風景に見入っていた。たわわな乳房のその奥に、整った美しい顔立ちがある。しかしこめかみのあたりから二本のツノのようなものが前方に突き出し、首の辺りには、蛇の皮のような模様がある。

 これが魔人という人たちなのか。

 そんな事を思っている間も、いい匂いが鼻腔をくすぐる。

 僕の股間は極度の興奮状態にあったらしい。

「もぉシン。いいかげんにしなよ」

「大丈夫よ。若い男の人は最初はこういうものなのよ」

 妖艶な魔人の女性が、はやての事をなだめている。

「な、なんだ」

 ぼくはこのあたりで我に返った。

 僕は素っ裸で、股間を硬直させ、2人の女性の前で寝そべっていた。しかもそのうちの一人、妖艶な魔人の女性の膝枕というシュチエーションでである。


 どんなご褒美だよ。


「あ、あれ、服」

 僕は、これを着てと渡された服を慌てて着る。どうやら大概は、魂の状態になっても、普段来ている服は着ている状態で抜け出るらしい。裸で出てくるのはレアケース。僕は元来、裸族なのだ。

 それと弁解のためにも言っておく。魂の状態になって、感覚が研ぎ澄まされた状態にあるので、股間が過剰反応することはよくあるケースなのだ。ここは強調しておこう。


「なんだそれ」

 僕は裸の自分より、むしろそっちの方に驚いた。

「あ、これ、いいでしょう」

 はやてがニヤニヤしている。僕ははやてが杖のように持つ、大太刀に目を止めていた。大太刀というより、大鉾だ。まるでRPGゲームじゃないか。モンハンか?一狩り行くのか。ちょっとうらやましい。

「あ、それも珍しいわね」

 魔人のお姉さんが、不思議そうに言っていた。二人の言う事には、はやてが体から抜け出た時には持っていたという事だった。何かを持って出るという事はレアケースながら、確認されていることらしい。しかしお姉さんも初めて見る事象だと言っていた。

 そしてもう一つ、別のクラスではあるが、修学旅行参加者の中に巨大な大鎌をもって出てきた娘もいたらしい。どうやらこの修学旅行、レアケースのパレードらしかった。

「じゃぁ、君たちも行った方がいいわよ」

 お姉さんは、かなり時間が押してるといった感じで僕たちを促した。クラスメートはおろか、参加者全員、引率教師までも、もうゲートシステムを通って、土星に行ってしまったという事だ。なんて教師だ。地獄に落ちろ。


 ゲートシステムは、巨大な円形の輪だ。全容は見えず、半円くらいしか見えないほど巨大な建造物だ。地球の両極にあたるところに建造され、各惑星の極へと、高速のエネルギー流を通して接続されている。

 僕たちはそのエネルギー流に乗って、土星に向かう事になる。所要時間は1時間弱ということだ。

「じゃぁ、手を出して」

 僕が手を出すと、魔界のお姉さんが僕の手にタグを付けた。隣を見ると、はやての手首には既についている。

「これは?」

 お姉さんの説明によると、居場所を特定できるGPSのようなものらしい。地表で暮らす僕たちの世界と違って、この惑星内部全てを連結させた世界は広い。途方もなくだ。そして魂だけになった僕たちは、極々まれに、瞬間移動に巻き込まれることもあるという事だ。

 そうなった時、この広い世界を捜索することは不可能らしい。そこで居場所を知らせるタグを付けるのだ。考えてみれば恐ろしい話だ。


 地球側から見て、ゲートの向こう側は、超高速のエネルギー流という事だ。

 僕たちはそのエネルギー流に乗って、土星までをわずか1時間18分という時間で行ってしまうわけだが、なかの時間はわりとマッタリと流れている。

 信じられないことに、僕たちは、そのエネルギー流に半ば突き落とされるようにして投げ込まれた。決して、怯えて物にしがみついているところを、業を煮やした職員に突き落とされたわけではない事は言っておく。



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