第一話
僕の生まれたところは日本でも異常なほどに宗教が重要視される街だった。僕はたいした特徴もない普通の一般家庭に生まれて十歳になるまで普通に過ごしていた
そんな時に、僕の回りに変化が起き始めた。お父さんにもお母さんにも見えない不思議な存在が見えはじめた
その不思議な存在は、最初は皆が見えないことに嬉しそうに笑っていたが僕がその存在に視線を向けているとその存在も僕が自分のことを見ていると気づいて慌ててどこかに煙のように消えていく
『なんだろう?みんなには見えてないのかな?』
僕のこの疑問は日に日に増していく
その日から段々と不思議な存在が数を増やしていく。小さい小動物から多種多様な人型から異形の存在まで一日経つ事に僕の周りに増えていく
そんなある日に、一人の人型の存在から僕は話しかけられた
『よう。坊主、今暇か?暇なら俺とお話ししようぜ』
今の僕の身長よりもはるかに大きい身長に、僕のお母さんよりも大きい胸に腰まである綺麗な長い真っ赤な髪の毛。顔立ちも綺麗で、少しつり目で鼻筋がスッとしている綺麗で格好いい女の人だった
『俺の名前は、サタン。坊主には特別にサっちゃんと呼ばせてやろう。光栄に思えよ』
サタン改めサっちゃんがものすごく偉そうに言ってきた。僕はなんでこんなに偉そうに言うのだろうと思っていたらサっちゃんがニヤッと笑う
『坊主、俺は七つの大罪の一つである『憤怒』なんだぜ。配下の連中もいっぱいいる。俺は結構偉いんだぜ』
そうなのか。サっちゃんが本当に偉い人みたいでビックリした
『ごめんなさい。サっちゃんなんて呼んだらダメだね。サタンさん?それとも、サタン様?』
『やめろやめろ。俺は坊主には普通に接してもらいたいんだ。何せ久々の"器"になりそうな人間だからな』
"器"ってなんだろう?僕はそんなにサっちゃんにとって大事なんだろうか?
サっちゃんが近寄ってきたと思ったら急に僕の頭を撫でる。サっちゃんは何か僕に触れたこと自体がとても嬉しそうだった
『そう言えば、坊主の名前はなんだ。これから先も坊主呼ばわりはあんましよくねえからな』
僕の名前?確か僕の名前は"儀式用素体1470"だったはずだよ
僕がそう言うとサっちゃんは笑顔だったのに急に表情を変えた。ものすごく怒った顔だ。周りのみんなも怒ったような雰囲気だ
そんなに僕の名前は変なのだろうか?
『坊主、それはな。人としての名前じゃないんだ。物につける記号のようなものだよ』
物に?でも僕は生きている人間だよ?人間ってみんなこんな名前じゃないの?
『普通の人間はな、それぞれの家の名前があってそこに本人の名前があって一人の人間として認識される。まあ、今の世の中には自分の名前だけで家の名前を持たない子供たちもいるがな』
そうなんだ。僕の周りの子供たちもみんなそんな名前なんだけど
僕の言葉に再びサっちゃんたちがざわめきだす。『人間はそこまで墜ちたか』とか『我々と同じように"器"を見つけるのと同時に人工的な"器"を作る方法を探るための人体実験を始めたか』なんて言ってる
そういえば、大人の人たちは『天使様や神の眷属でも儀式によって召喚できれば我々も悪の殲滅に一役買うことができる』って言ってたね
サっちゃんは僕の話を真剣に聞いた後に、周りのみんなに何処かに連絡しにいくように伝えていた
『坊主、いま配下の連中に他の大罪の所や天使や神の連中に伝言を頼んだ。この街は各勢力から監視員が派遣されて二十四時間の監視が開始される』
監視ってなに?みんなは何か悪いことしてるの?
『悪いことをしようとしているかもしれないから俺の友達たちに頼んで悪さしようとしたら止めようってお願いをさせに行ったんだ』
そうなんだ。みんなに教えた方がいいのかな?
『いや、友達にも親にも周りにいる大人たちにも内緒だ。いいな?』
うん、わかった。僕とサっちゃんとの約束だね。僕は絶対に内緒にするよ
僕のこの言葉にサっちゃんは満足したのか再び僕の髪をクシャクシャと撫でる
『じゃあ、またくるよ。その時には、坊主の名前も考えておいてやるからな』
僕の名前?いまの名前じゃダメなの?
『今の名前よりももっといい名前を俺たちが考えといてやる。待っとけよ』
そう言ってサっちゃんがみんなと同じように煙のように消えていった
僕はその光景を見てサっちゃんたちは何者なんだろう?と心の片隅で思っていた
僕の人生はこの時にサっちゃんに出会ったことで大きく変わっていくなんて想像もできなかった。だけど、その変わっていく運命が僕にとってはとても幸せな運命だったんだということがその時になって理解できるんだけど
その日から段々とサっちゃんのお友達や部下さんたちが僕のもとに遊びに来るようになった
『う~んと、サっちゃんにルーちゃん。それにレヴィちゃんにベルちゃん。それからベーちゃんにマモちゃんにアスちゃんだね』
みんなのほんとの名前はどこかで聞いたことがあるような気がするけれども、まあいっか