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かみさん  作者: 花澤 雪
1章 かみくんと再開
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夢幻の白

 茹だるような暑さが身体にまとわりつく、ある夏の日の事だった。

 私に一人の友だちができた。その名は、「かみ」くん。全体的にお人形さんのような見た目であった。例えば、おばあちゃんが使っている絹のハンカチのような美しい白い髪、お母さんのパールのネックレスのような丸くて優しく光る目。

 なぜそんなに綺麗な顔なのかを聞いたら、かみくんは

「アルビノなんだ」

と言っていた。その頃の私は「アルビノ」という言葉を知らなかったので、首を傾げるしかなかった。そんな私を見てかみくんは

「今は考えなくていいんだよ」

と言っていた、気がする。


「守谷さん?」

「わっ! ……なんだ、三宅さんかぁ。びっくりさせないでくださいよ」

「言うようになったね、君」

 先程の回想に出てきた「私」である守谷美咲は5歳。無知で無邪気な少女は今、うん十年の時を経て、立派な独身女性(24歳)になってしまった訳だ。

 地元の小学校、中学校、高校、大学というように、適当に生きて……もちろん真面目に勉強したりもしたが(と、いう事にしておきたい)。とにかく普通の人生を送っていたら、ひょんなことから地元の某ビルで勤務するOLとやらになっていた。


 先程私の浮いていた意識を現実に戻したのは、職場での先輩である三宅みずほさん。31歳独身である。地毛だという焦げ茶色の長い髪を低い位置で一つにくくったサイドテールヘア、涼し気な釣り目、くっきりとした高い鼻を持つ、かなりの美人だ。

 そんな彼女がなぜ独身なのか……

「あーぁ、どっかにいい男転がってないかなぁ」

 これである。

「ねー、守谷さーん。いい男紹介してよー」

「それ昨日も聞きました。……ていうか一週間前に合コンセッティングしてあげたじゃないですか!」

「それはそれ、これはこれ。しかもイケメンいなかったじゃん」

「……はぁ」

 三宅さんは重度のイケメン催促症候群だ(もちろん、そのような名前の病気はない)。

 彼女の持つ美貌故に、出会いはそこそこ保証されているものの、本人の理想がすこぶる高いのだ。

 例えば、先日開いた合コンには、顔は中の中から上の中、仕事もしており、それでいて優しそな男の人が何人も来ていた。

 けれども彼女はそれで満足はせず、「……うわ」と言った挙句舌打ちまでお見舞いしたのだ。普段はゆるりとした人だというのに、男が絡むとこうだ。私はひっそりとため息を吐いた。


「そうだ、守谷さんに伝言預かってたんだ。」

「え? 私にですか? 珍しいですね」

「うん、さっき内線で連絡受けてね」

 内線というのは、会社の中でのみつながる電話機のことだ。三宅さんが親指と小指を立てて、手をふるふると動かしたので間違いないだろう。

「会社のビルの入り口にいるみたいだよ。見たところノルマも終わってるみたいだし、ちょっと早いけど上がっていいよ」

「お、まじですか! ありがとうございます。……お先に失礼します!」

「はーい、おつかれさん」

「お疲れ様でしたー」


 三宅さんと、部署内の皆さんからの挨拶を聞き流して入り口へ早足で向かった。私の友人と呼べる人たちは、皆自分とは違う地域へと就職、進学していったので、今回の客人には心当たりがなかったのだ。それなのにわざわざ来てくれるとなると、果たして誰なのか。

 天然娘のゆきちゃん? 頼れる姉御肌の桜? それとも昨日メールでやり取りした真由だろうか?


 はやる気持ちでエレベーターのボタンを連打して1階を目指した。

「あ、えと、守谷さんお疲れ様です!」

 先にエレベーターに乗っていたどこかの部署の男性社員に声をかけられた。横を向いて挨拶をしようとした時、チン、と軽快な音が響いた。

「お疲れ様でした!」

「はい……!」

 ついに顔を見ることができなかった。けれど今回ばかりは許してほしい。

「あの! 守谷ですけれど、お客様ってどなたですか!?」

「はい、外にいらっしゃいます……あ、あの方です」

 受付の人が指す方向には白髪で更新長の男性の後ろ姿が見えた。ご老人だろうか……? いや、それならあそこまで高くはないだろう。言えるのは、私が知らない人の可能性が高いということだ。

「ありがとうございました!」

 息を軽く吐き、その人の元へ向かった。

 残り1メートルの時にその男性は振り返った。


「久しぶり、美咲ちゃん」


 見たことある双眼と目が合った。

 祖母が使っている絹のハンカチのような美しい白い髪、母の持っているパールのネックレスのような丸くて優しく光る目。


「かみくん……?」

「覚えててくれてた」

 ふわりと笑う彼は、あの時より大人らしくなったものの、雰囲気は何一つ変わってはいない。


「かみくん!」


 そう、かみくん……神島天くんだった。

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