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第一冊:家路

第一冊:家路


あなたと帰る道。

寒くてもぬくぬくしている。

熱くても鬱陶しくないほどぬくぬくしている。

あぁ、これが好きってことなんだなって勝手に思って、

私はあなたの隣でふふふっと思わず笑ってしまった。

「なんだよ」

「あ、ごめんごめん。思い出し笑い」

「ねぇ知ってるー?思い出し笑いするのは変態なんだぞー?」

からかってくるあなたがかわいくて、ほっぺたをつっつく。

「ちがうよーだ、変態はりゅうくんだい」

「変態なのぉ?」

変顔されながら言われたら、笑わずにいられるわけないじゃない。

まったく、かわいいな。

なんて幸せをかみしめて、いつもいつも家に帰っていた。


どんなに幸せでも、なぜかこの関係は続かなかった。



途中から読むのが辛くなって一回本を閉じた。

なんだこれは。

俺はいつのまに本を読んでいたんだ?

たしか、ここにきて、あいつがいて・・・。

居ない。


俺が今読んでいた本は、とてつもなくあいつを表しているようだった。

気分が悪い。

だがやめる気はない、そう思ってもう一度本を読もうとしたとき。

本をばらっと落としてしまい、開こうとした部分がわからなくなった。

しおりはあっさりと外れて消えた。

落ちた本の開かれたところへ目を奪われた。



あなたはいつも一歩引く。私はいつも一歩出す。

交代で引いて、出して保っていたら違ったんだよ。

私がいつもあなたを押していて。

あなたはいつも引いていた。

私が喜び笑うこと、あなたはそれを見ていた。

あなたが喜び笑うこと、私はあまり見ていなかった。


あなたが一歩踏み出せば。

私が一歩引いてたら。

この先交わることなんてあるんだろうか。

そう、期待していたんだ。

それから、私は一歩引いてみた。

そしたらなんだか笑えたの。



・・・。

あいつはもしかすると、一歩引いたのかもしれない。

確かに彼女ばかりを考えて、喜ぶ姿が好きだった。

辛い気持ち、悲しい気持ち、全部全部ため込んで彼女に見せなかった。

どんなことがあっても、言わずともわかってくれると思って隠してた。

いつまでも、一歩踏み出してもらえることに甘えていたのかもしれない。

踏み出す勇気がなかったから、俺は早く踏み出された二歩目に耐えられなかった。

あぁ、俺も好きだったんだ。


それから、どこをどうやって帰ったのか。

図書館の彼女にありがとうを伝えて出ていったことしか覚えていない。

むしゃくしゃする気持ちはいつしかなくなっていた。


女々しいが、まだ俺はあいつが好きだった。

だから、またあの髪や頬に触れられる日に、俺は向かうことにした。

また、一緒に過ごせる日を望んで。



それからだが、俺はあの図書館へ行こうと思った。

不思議な話だが、看板もなく、図書館なんてものは消えていた。

いや、洋館はあったが、知らない夫婦がにこやかに庭で昼をとっていた。

彼女に見せたかったものは、もうなかった。

でも今この関係があるのは、ここのおかげだった。

読者どもよ。感情に任せて何かを失うのはいいが。

一歩踏み出してみれば、案外戻るものだった。

失って後悔ばかりじゃ何も変わらない。


ほら、なにしてるのー?先に行っちゃうぞー



ありがとう。

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