第一冊:家路【桜木編2】
第一冊目:家路 ‹桜木編2›
目の前に堂々と立っている小さな黒板は、
『この先、右折。ヒトミ図書館』
と水色の優しそうな字で案内していた。
ん?
こんなところに図書館なんてあったか?
俺が知らないことから、最近できたか小さいものなのだろう。
勝手にそう解釈したものの、
行ったことのない図書館に興味は奪われた。
「行ってみるか」
肩をすくめて、しょうがないというように道を進んだ。
それにしてもいつもより夕が暖かい。
日陰なのにぬくぬくして心地がとても良い。
右へ曲がり道を一直線・・・そもそも曲がり角など何もない道だった。
突き当り。物語に出てきそうな、小さな洋館のような建物を認める。
予想以上に大きいじゃないか。
なんで俺は知らなかったんだ?
とげとげしい門をくぐり、緑が作った道を行く。
そこまで長くもない道の先、似つかわしくないくらいの小さい扉。
はっきりとカフェのように「OREN」とかかっていた。
中を恐る恐る覗いてみると、本のかび臭いにおいが漂ってきた。
人は誰もいない、のだろう。
気配が感じられない。
床も椅子や机さえも、もちろん本棚も。
すべてが木でできているようだ。
嫌いじゃない。が、すごいこだわりだな。
本を扱っているだけでお金をかけていそうだが、
本だけではなく周りにまで、お金をかけているようだ。
入口からまっすぐ行くと、まるでミュージカルのような広さがあった。
あの小さい洋館のイメージは思いっきり覆された。
本来なら地下の扱いなのだろうが、とてもそうは見えない。
梯子と緩やかな階段が、今立っているところから降りている。
壁には背が低くとも届く程度に並べられた本。
びっしりと本棚が並んでいる。
まるで小説や漫画の中に出てくる図書館だ。
浮足立つ気持ちを、隠しきれないくらい、本の量に感動してしまう。
階段を下りながら、階段のカーブに沿うように作られた本棚を
手でなでるようにしていく。
「おや、いらっしゃいませ。お客様」
本に音が吸収されるかと思いきや、
思った以上に響いた声にびっくりして上を見た。
梯子からさっっと降りてきたのは少女。
あいつにとても似た、柔らかな表情をしていた。