非日常
そっとベッドから起き上がってカーテンを開けた。
苛烈な程の朝の光。
眩しくて、残酷な光だ。
今日も生きよう、生き残った以上それ以外は選べない。
制服に着替えて、寮の自室を出た。
寮生にはあまり広くはないけれど、一部屋を与えられている。室内には簡易シャワーやトイレがあり、食事以外の用は自室だけで済む。
ルーシェと同じ境遇の身寄りのない生徒はここで卒業までを過ごし、軍へ入隊すれば軍の寄宿舎へ移る。
「おはよう、ルーシェ。食堂に行くなら一緒に行きましょう」
「エフィ、おはよう。一緒に行きましょう」
ドアの横で待っていたのはここで親しくなった一番の友人だった。
名前をエフィ、焦げ茶の髪に、オレンジの瞳が快活そうな印象を与える整った顔立ちの美少女だった。
彼女も両親を魔族の襲撃で亡くしていた。元はどこかの豪商の娘だったと言う。立ち振舞いは洗練されていて、よくルーシェは見とれてしまう。
「今日は地下の施設で実地訓練が始まるから、いっぱい食べないと持たないわよ。」
「実地訓練?」
「そうよ、先生達の捕獲した低級の魔族を使ってね。何でもありよ、怪我をしない方が評価がいいから覚えておいて」
実地訓練は初めてだった。
魔族と対するのはあの日以来で、意識しなくても体が震えた。
「…怖い?」
「さすが、親友。少しだけ、怖い」
あの時ともう違う。
一年経って、その間に多くを学んだ。
垂れ流しにしていた魔力も扱えるようになったし、自分らしい力も見つけた。それについてはまだ改善の余地もあるが、ただ呆然と立ち尽くすだけの子供ではなくなった。
戦うことは覚悟していた。
けれど、怖いと思う。
「感情の、コントロールも出来るようにならないとね」
そう言ってルーシェは笑った。
エフィも、笑ってくれた。
食堂につくと、受付で皆同じメニューを受け取って空いている席に座る。
なんだかいつもよりも騒がしかった。
「どうしたんだろうね」
「ねえ、何かあったの?」
エフィが向かいに座っていたクラスメイトに尋ねる。
「エフィ、ルーシェはまだ聞いてないのね。…今日の訓練よ。ただの実地試験ではないって朝先生達が話していたってもっぱらの噂よ。私達はまだ一年なのに、何があると思う?」
「分からないわ」
「聞いて驚いてよ、視察よ!軍の幹部の方々が将来有望な芽を見に来るのよ!」
視察?
「それ本気なの?」
「本気も本気よ。先輩が前もこうだったって言ってたもの」
それが本当なら大変だ。
軍の幹部による視察はそう何度もある訳ではなく一年に一度あるかないかというところだ。
去年はなかった。
一昨年は今卒業していった生徒達が当たったという。
その場でうまく自分を売り込む事が出来れば入隊は早まることになる。
願ってもないチャンスだった。