悪役令嬢の私は、転生ヒロインに「ざまぁ」されました・・・
夜雨が降っております。
1
私は乙女ゲームの世界に転生しました。
私が転生したのは悪役令嬢。氷結のアイリーンと呼ばれていた女性です。
ゲーム知識を巧みに使い。実家を繁栄させていきました。
私の才能というよりも、未来が分かるのだから、とても簡単なことでした。
しかし、転生していたのは私だけではありませんでした。
ヒロインも転生者でした。
その事に私は気づきませんでした。
思い返せば、確かにおかしな点はありました。
しかし、私は油断していました。
あまりにも上手くいきすぎていることに、気が緩んでいたのです。
ヒロインは、私が裏で行っている数々の悪事の証拠を集め、皆の前で私を断罪しました。
そして私の婚約者、王子様を奪っていきました。
彼女は私を見て呟きました「金髪ロール、ざまぁ」
私は落ちぶれました、残ったのは執事のやす爺のみ。
私は誓いました、「あの女、絶対に許さない」。
2
私の家の稼業は「貸金業」。
様々な貴族、そして国家にお金を貸しています。
伯爵という地位も先代がお金で買ったものだと聞いています。
そんな裏の歴史を悪く言う者もいますが、私は誇っています。
市民から成り上がった、先代の商才あってこその今の私です。
本来、悪役令嬢という者はヒロインよりも有利な立場にあります。
そんな私に「ざまぁ」をした田舎娘のヒロイン、ミリー。
その思慮の浅さ、私の恐ろしさをしかと教えてさし上げます。
まず、攻めるのは周囲からです。
ヒロインはこの国の王子様と結婚しました。
ですが、王子と言っても第二王子。
実権をもたない飾りです。
私が妻になっていれば、第一王子を陥れて王位を奪う所ですが、あの転生者にそれ程の気概はないでしょう。
なにせ、私に「ざまぁ」を果たしながら、私を生かしているのですから。
それに実は私、第二王子にお金を貸しています。
付き合っていた時に、今後操縦しやすくするために鎖をつけていたのです。
証書を丁寧に保管しています。
◇
「やす爺、あれを頂戴」
「はは、お嬢様」
初老のやす爺は、歳を思わせないその動きで私に書類を渡します。
私は、「ざまぁ」された後の日、部屋にこもっていました。
涙で布団を濡らしていたのではありません。
必死に紙に文字を書いていたのです。
そう、ゲームの進行チャート、イベントフラグ、各キャラクターの設定をひたすら書きなぐっていました。
これはゲームです。
どちらがよりゲーム知識を有効活用し、よりよい未来を勝ち取るのか。
ヒロインであるミリーが私にとった手段は単純でした。
そんな罠に嵌った私が恥ずかしいです。
彼女のやり口はこうでした。
進行に必要は必須イベント、その中でも、悪役令嬢である私がヒロインにする嫌がらせ。
それを証拠にとっていました。
当時の私は、私のほかにも転生者がいることを考慮していませんでしたので、思いっきり嫌がらせを楽しんでいました。
ヒロインが隠し撮りしたであろうその写真の私は、まさに悪役令嬢でした。
「おーほほほ」と甲高い声で叫んでいたのが懐かしいです。
そのため、ヒロインはさほど頭を使わずに私を陥れることができたのです。
しかし、今は違います。
ヒロインの失敗は私を中途半端に追い詰めた事です。
そして、ゲーム中盤である現在で私を断罪したことです。
この二つの条件のどちらかでも崩されていたら、私の勝ち目なほとんどありませんでした。
しかし、実際は違います。
友人がいなくなったからといって、実家から追放されたわけではありません。執事もいます。
それに、これからのイベント。
現在はゲームにはない展開になっていますが、活用できる知識はあるはずです。
私はふと気づいていました。
細かな対人同士のイベントなどはルート進行によってかわりますが、天気や大きな事件などの項目は変化しないことを。
そのため、私はゲーム知識を書き出していたのです。
そして何より大事なのが、執事のやす爺です。
実はこのやす爺、ゲームの設定の中では一番有能なキャラなのです。
いや、設定というよりは、意図せず有能になってしまったのでしょう。
シナリオライターの未熟さか、予算的な物か分かりませんが。
無理やりな悪役令嬢の無茶難題を、このやす爺が影で支えています。
原作では、悪役令嬢の、「やす爺頼みましたよ」の一言ですまされる描写ですが、ゲームをプレイして考察すると、その凄さが分かります。
このやす爺、昼間に起こった些細なヒロインの失態を、たった半日で全貴族に伝えるネットワークを持っていたり、敵国と戦争が起こった時に、異様に敵の内情や王城の内情を把握しており、要人暗殺といった秘密工作まで行っています。又、悪役令嬢の悪戯がばれた時も、国で一番強いとされる騎士団長とその部下たちを蹴散らして令嬢を避難させるという、武勇にまで優れています。
極めつけはあれです。
朝、悪役令嬢から、「アミル産の紅茶が欲しい」と頼まれた話です。このアミル産の紅茶、設定では、アミル国のとある場所でしか育てることができず、葉をとってから1時間しか持たないという、超レア種なのです。アミル王国は悪役令嬢の家から100km離れた場所にあります。魔法も現代技術もない、文化基準は中世のこの世界。
しかし、やす爺は昼にはそれを持って現れます。悪役令嬢はそれに驚きもしません。やす爺7不思議として、ネットの片隅でささやかれている現象の一つです。やす爺は時空間を超越します。
そんな有能なやす爺に、私はゲーム設定を書き込んだ紙を見せます。
「やす爺、これは予言の書よ。これにはこれから起こる事が書かれています」
「はぁ~そうなのですか」
紙をぼーっと見るやす爺。ゲームでもこんな感じでした。
普段は決して優秀そうに見えないけど、特定の場面になると決まって物凄い働きをする。そして、その発動条件は簡単です。
「やす爺、この紙の内容を読み込んで、私があのヒロイン、ミリーに完膚なきまでに勝てるシナリオを用意して、明日の朝までにね」
私は丁寧にやす爺に説明します。
ぼっーと話を聞いているやす爺。
そして最後に一言。
「やす爺頼みましたよ」
その瞬間、やす爺の表情が鋭くなります。
ゲームでいわれているバーサクモード。
やす爺は物凄い勢いで紙を読み込み始めます。
そうして何やら紙に書き込んでいきます。
今は夜の22時。
私は寝ます。
◇
チュンチュンと、雀の泣く声がします。
私が起きてリビングに行くと、やす爺がいました。
いましたというより、倒れていました。
憔悴しきったやす爺が、ソファの上に項垂れています。
「やす爺、やす爺、大丈夫ですか?」
私は肩を摩ります。
「お、お嬢様、申し訳ありません。しかし、シナリオは用意致しました」
そういって机上の、紙の束を私に指し示すやす爺。
「ありがとう。今日は休んでいてかまわないわ」
「いえ、滅相もございません。今日もお嬢様のお傍に付き従う所存です」
「いいえ、これは命令です。今日は休暇です」
「・・・・そうですか、命令ですか。それでは」
やす爺は部屋の出口にとぼとぼと歩いていく行く。
だが、そこで立ち止まって私を見る。
「本当に大丈夫です。今日は休暇です」
「分かりました・・・」
落ち込みながら部屋を後にするやす爺。
なんでしょう、その姿は私の心を打ちます。
やす爺はどうみても仕事人間です。
「執事の仕事こそ人生」というのを地でいっています。
私はやす爺から何か大切な物を奪ってしまったのかもしれません。
いや、でも休暇も大事です。
頭を切り替え、私は机の上の紙を手にします。
やす爺が徹夜で作った書類を読み込みます。
「アイリーンお嬢様、昼食になります」
メイドさんが私を呼びに来ました。
いつもはやす爺の仕事ですが、今日は休暇中です。
「はーい、今行きます」
私は厨房にいくと、サンドイッチを片手に持ち、部屋に退散します。
そして再びやす爺の書類を読み込みます。
気づくと、夜になっていました。
私は感激していました。
やす爺はやはり有能でした。桁違いです。
これならあのヒロインに、「ざまぁ」できると私は確信しました。
この仕事を褒めるために私はやす爺を探しました。
しかし、室内には見当たりません。
ふと外に出ると、ベンチに座っている老人が一人。
ハトに餌を上げながら悲観にくれています。
私はその姿に心が痛みました。
私はそんなやす爺の方を叩きます。
「お、お嬢様」
やす爺は飛びあがるように驚きます。
「やす爺、ごめんないさい。私、別にあなたの仕事を奪うつもりはなかったの。その、ただ休んでほしかったの」
「滅相もございません。私めに休みを頂き感謝感激です」
やす爺は地面に頭を擦り付けながら話す。
「やす爺、本当のことを言ってもいいのよ。、いえ、本音を言ってほしいの」
すると、やす爺は私の顔を伺うように見ます。
「それは命令でしょうか?」
「はい、命令です」
すると、やす爺は頭を上げます。
「そうですか。実は私、今日はずっとこのベンチに座っていました。いざ、自由を貰いましても、やることがありません。何も浮かびません。ただ、ずっと空を見ていました。そして、ふと思いました、私の願いはなんなのだろうと。考えました。何度も考えました。でも、一つの考えしかでてきませんでした」
「それは何?」
「私は、お嬢様に仕える事のみが願いです。ただそれだけです。ですから、これからもお仕えしたいのです。お嬢様から必要にされないのは、実につろうございます」
「分かったわ。今日の事はごめんなさい。そして今命じます、いまより仕事に戻ってください」
「はい、お嬢様」
やす爺は満面の笑みで答えました。
◇
次の日。
「では、これより作戦を始めます」
「はぁ!、お嬢様」
私の執務室で、やす爺と二人して机の上を紙を見ます。
やす爺が作成した「ざまぁ」作戦。
まずは、ファーストステップ。
「やす爺は銀行をお願いします。私は商人にあたります」
「はい分かりました」
私は商人の元に赴き、大量の農作物を仕入れます。
元々私の家に運転資金を借りている商人です。
交渉はスムーズに進みました。
そんな感じで複数の商人を回り、大量の食品を買い込みます。
家に帰ると、やす爺は既に執務室に戻っていました。
「お嬢様、お早いおつきで」
「いで、やす爺こそ」
やす爺は、かなり遠方の銀行までいったというのに、さすがです。
「私の方は問題ありませんでした、やす爺の方は?」
「はは。資金を低金利で借りることが可能でした。お嬢様の予言の書の通り、あちらの国、懐に暗いものを持っているようです」
「そうでしょうね。ふふふ」
おっと、つい悪役令嬢口調がでてしまいました。
一週間後が楽しみですね。
◇
それから4日後。
王国全土は突如嵐に襲われます。
3日3晩の嵐で、畑に大損害が生じ、食品の値段が高騰します。
やはり思った通りです。窓から外を見て微笑む私。
原作では、楽しい王子とのキャンプ旅行。
急な嵐でロッチに閉じ込められて、そこで王子様との関係を深めるイベント。
ですが、これを利用しない手はありませんでした。
あのヒロインはそのイベントをこなしているようですが、今はささいな恋愛よりビジネスです。
私が安く買い上げた食糧。
その価値が僅か数日で4倍にも膨れ上がりました。
「さすがお嬢様。見事な予言です」
「いいえ、やす爺の資金調達能力とプランのおかげよ」
「滅相もございません」
「謙遜しなくてもいいのよ。それじゃ、後の売買頼みますよ」
「はい、お嬢様。なるべく高く売り抜けてきます」
そういって部屋をでていくやす爺。
◇
次の日。
「やりましたねお嬢様」
「これはまだ序の口ですよ」
部屋には大量の金貨と証書。
たった一週間で数十年は暮らしていけるだけの大金を稼いだ私達。
「この資金を使って、次のプランを実行しますよ」
「はは!」
「では、行きましょうか、王宮に」
◇
私はやす爺をつれて王宮に来ました。
門を抜け、謁見の間に参ります。
「これはアイリーン嬢、どうなされましたか?」
国の宰相が私たちを出迎える。
「はい、実は、ご提案がありまして」
「ほほう。先の嵐で大儲けをしたアイリーン嬢の提案ですか。興味深いですね。国は食糧に困り、民草は飢えているというのに。さすがは「氷結のアイリーン嬢」。異名は伊達じゃありませんね」
宰相は明らかな挑発。
やす爺は身構えます。私はやす爺を目で制します。
「それもあってきたのです」
「ほほう。聞きましょう」
「はい、私。実に心が痛んでおります。嵐が来るなど、予想もしていなかったのです。ただ、新しく商売をしようとして買い集めていた食品が、このような結果になるとは」
「ほほう。意図したものではなかったのですか。そうですか。私はてっきり、嵐の事をアイリーン嬢は知っていたのかと思いましたよ。あまりの手際の良さでしたから。是非、私も見習いたいぐらいです」
「ご謙遜を。宰相閣下とは比べようにもありません」
「それで、お世辞はこの変にしておきまして、ご提案とは?」
「はい」
私はやす爺に目を向けます。
それを受け、やす爺は懐から書類を取り出します。
それを宰相閣下の部下に渡します。
「その書類をご覧ください」
「何かな、呪いの魔法書でないといいんだがね」
そんな皮肉を言いながら、書類を見る宰相。
「そこには、宰相閣下と他国との関係が描かれています。金銭の流れ、証拠」
これはゲーム知識の応用です。
この宰相はゲーム終盤のあるルートで、他国と協力して謀反を起します。結局は主人公勢に倒されるのですが。その知識から逆算して、やす爺に証拠を集めてもらいました。
私の言葉を聞き、書類を見ている宰相閣下の目が険しくなります。
宰相は徐に右手を上げます。
部屋の隅から現れる武装した男達。
数は7人。
やす爺が身構えます。
しかし、宰相は落ち着いたまま。
「それでアイリーン嬢。これを陛下ではなく、私に見せた理由はなにかな?」
私は平然と答えます。
「決まっています。私はあなたを告発する気はないからです。寧ろ、協力関係を築きたいと思っています」
「ほほう。面白い。それで私に何を求めるのかな。御嬢さんは」
「簡単なことです」
そうして私は要件を伝えました。
すると宰相は、
「分かった。いいだろう。これからも良き関係を」
「はい、宰相閣下」
そうして私はやす爺と王城を後にします。
◇
家の執務室。
「お嬢様、見事な態度でございました。宰相閣下に押されぬ態度。さすがです」
「やす爺こそ。7人相手にいい睨みでしたよ。もし、あの場で戦いになっていたら、どうなていましたの?」
「それは分かりません。見た所、相当訓練された兵士の様でしたので」
「そうですか」
まぁ、やす爺のバーサクモードでしたら問題ないでしょう。
「それでですが、そろそろ本命に挨拶しにいきましょうか?」
「はぁ、お嬢様。それでしたらこちらから行かずとも、いい方法が御座います」
「それはどんな方法ですか?」
「はい、かくかくしかじかでして・・・・・」
「面白いです。任せます」
◇
数日後。
「ちょっと、なんで私がアイリーンの家なんかにいかなきゃいけないのよ」
「ミリー、話を聞いておくれよ。しょうがないんだ、彼女には借りがあるんだよ」
「あるのはあなたでしょ、それにあなた王子でしょ。なんで王子が貴族の家に赴くのよ。おかしいわよ」
「そういうものなんだよ」
「もう~」
ふくれつらをしたヒロインことミリーと困り顔の第二王子。
彼らは馬車から降り、私の家の前で言い争いをしている。
そんな姿を家の二階から見る私。
隣にはやす爺。
「第二王子様は、この前の嵐で治めている領地で損害をだしまして、金策に困っております。融資の話をしますと、すぐにのってきましたよ」
「そうでしょうね。さすがですわ。やす爺」
「滅相もございません」
「では、客人をもてなしますか」
「はい」
ミリーと第二王子様を客間で迎える私とやす爺。
私は笑顔で、
「先日はどうも、御機嫌ようミリー」
「まだ生きていたのねアイリーン」
「こらこらミリー、ちゃんと挨拶をしないと」
「いいんですよ王子様。私たちは仲良しですので」
「アイリーンがそういうのであれば・・・」
王子は心配そうにミリーと私を見る。
「それでアイリーン、何故私まで呼んだの?」
「ただ友人の顔がみたかっただけですわ。おーほほほ」
ミリーは訝しげな表情で私を見る。
「そう。ならもう帰っていいの?」
「そんな焦らないで、積もる話もありますし」
「私はないわ」
「こらこらミリー」
なだめる王子。
「そうですか。私はミリーは話を聞いておいた方がいいと思うんですけどね。聞かないのなら無理にお引止めしませんが」
っと、もったいぶる私。
やす爺は私をどでかい扇で仰ぐ。
ふぁさーとなびく私の縦ロール。
話にくいつくミリー。
「そんなにいうなら聞いてあげてもいいわよ」
「そうですか。実はですが、宰相閣下の件です。ミリーさんなら分かると思うのですが」
ギクリとする表情のミリー。
やはり彼女も宰相の謀反ルートを知っていたようだ。
「なんの話だい?」」
一方、王子様は普段通り。
私はやす爺に目を向けます。するとやす爺が。
「王子様、私、お嬢様より融資の話を一任されております。別室にてその話を」
「そ、そうか。それじゃやご婦人方。失礼するよ」
と言って去って行くやす爺と王子様。
するとミリーが、
「で、宰相がどうしたの。謀反の話。それなら大丈夫でしょ。あのルートへの入口はもう何日も前に過ぎているんだから」
ミリーもやはりゲーム分岐についてある程度把握しているようだ。
「そうですね。でも、それで安心していいのでしょうか?知ってのとおり、あなたが身勝手に動いたせいで、ゲームは流れはおかしくなっています。実際のゲームになかった流れです。それなのに、宰相が謀反を起さないと断言できるのですか」
「確かに・・・」
「そうでしょう。だから気を付けてほしいのです。あなたは王城に住んでいるのでしょう。それならある程度監視できるではずです」
「で、なんであんたがそんなこと気にするのさ?」
「私もこの国の貴族です。政治がころころするのは私の得になりません」
「そう。話は終わり?」
「ええ、終わりですよ」
「そう。それなら私は帰るわ」
「そうですか、王子様を待たなくても宜しいんですか?」
「馬車は二台あるの。なんたって私は王子様の妻だから」
そう言って去って行くヒロインのミリー。
私は彼女の後姿を見送る。
その後、やす爺が王子様を連れて出てくる。
「あれ?ミリーは先に帰ったのかい?」
「はい、急用があるとかで」
「そうかい、すまないね。ミリーはちょっとじゃじゃ馬でね」
「いいえ、いい友達ですわ」
「そうかい、それじゃ」
王子様は馬車に乗り込み、私の家を後にします。
その姿が消えると、
「それでやす爺」
「はい、上手くいきました、計画通りです」
「そうですか。それではもうすぐ終わりですね」
「はい」
3
王城。謁見の間。
その場には、多くの貴族が集まっている。
国王陛下、第二王子、妻のミリー、そして私とやす爺も勿論いる。
私は陛下に向かい、一歩前に出る、
「陛下、一言宜しいでしょうか?」
「申してみよ」
「はは!この室内に、敵国に内通している者がおります」
緊張が走る室内。
陛下は部屋全体を見回し、
「そ奴の名は」
「はぁ、宰相閣下です」
「なにをおっしゃるのですか、アイリーン様」
顔をひきつかせる宰相。
この前の会談から急転して、この展開。解せないという顔だ。
「陛下、これが証拠にございます」
やす爺が私の言葉を受けて、陛下の部下に書類を渡す。
「宰相閣下は、他国と内通し、謀反を計画しておりました」
「ま、待ってください。私にはなんのことやら」
陛下は書類を見ている。
苦々しく私を見る宰相。
「書類には、宰相閣下と他国の要人との金銭のやりとりを記載しております。そして・・・」
謁見の間の扉が開き兵士に連れられて入ってくる男。
宰相はその男を見て驚く。
「宰相の部下が他国と金銭のやりとりをしている現場を王城の兵士に捉えて頂きました。宰相閣下、その男に見覚え、ありますよね?」
宰相はその男を見て、
「確かに私の部下だが、私は関係ない」
「そうでしょうか?」
「この男からあなたに送金された記録があるのですが」
「ば、ばかな、そんなもの・・・・」
「やす爺」
「はい、お嬢様」
やす爺は、懐から書類を取り出す。
それを陛下の部下に渡す。
それを読む陛下。
そして、
「宰相、何か申し開きはあるか?」
最後通告にも似たそのセリフ。
「ばかな・・・・どうして」
頭を抱える宰相。
そして声を上げる。
「違うんです、私は違います。この娘にはめられたんです。私は断じて敵国と通じてなど」
「しかし、金銭の授受の記録に、敵国とのやりとりの跡、それに現行犯まで。どうやって宰相を言葉を信じればよい」
「それは・・・・」
宰相は私を睨みつける。
私はそれを受け流す。
「しかし陛下、この場にはまだ裏切り者がおります」
「まことか!」
「はい、その者とは、第二王子と婚約者ミリーです」
静まり返る会場。
皆が第二王子とミリーを見つめる。
「ば、ばかいわないでよ」
「そうだよ、僕が何をした」
二人は身の潔白を主張する。宰相のように怯えてはいない。
「やす爺」
「はぁ!」
やす爺は懐から書類をとりだす。
まさに四次元ポケットようなやす爺の懐。懐が広い男性。
それを陛下の部下に渡す。
「それには、第二王子様と婚約者様が敵国に通じている証拠が記載されています」
陛下は書類を見る。
「ちょっとアイリーン、嘘ばっかいわないでよ」
「そうだよ、アイリーン。僕は何もしてないよ」
が、陛下は、
「この書類をみると、容疑は疑いようがない」
「はぁ!」
「なんだって!」
二人は驚愕に震える。
驚くのも無理ない。
本当に彼らは何もやっていませんからね。
まぁ、何もやらなかったからこそ問題なのですが。
私は宰相を脅したあの日、取引をしました。
宰相の秘密を黙っておく代わりに、他国との貿易に噛ませて欲しいと。
共犯関係を築きたかった宰相です、すぐに話に乗ってきました。
私は、嵐で儲けた金を使い、他国に金をばらまき、宰相から私に鞍替えさせました。
反抗する勢力は、やす爺に一言「やす爺、頼みましたよ」で解決。
次の日、その勢力は消えていました。
そして、第二王子への融資です。
その資金の出所は他国。厳密には私の金を他国に回し、それを他国から第二王子に渡しているのですが、一見、他国から第二王子に金が流れているように見えます。
第二王子は実務にからっきりなので、書類の細工に気づくことはありませんでした。
そして第二王子はその金で治める領土を回復し、ヒロインミリーに貢いだ。
ミリーもゲーム知識を使い、有効に動いていれば今の状況には陥ることは無かったのに。
ごねるミリーと第二王子。
だが証拠には抗えない。
宰相と共に、兵士に拘束される二人。
泣き叫ぶミリーを連れて行く兵士たち。
そんなミリーに私は近づきます。
ミリーは私の顔を見て泣きやみます。
私はミリーの耳元で呟きます。
縦ロールを揺らしながら。
「ヒロインざまぁぁ」
4
捕えられたミリー。
ですが、勿論私は手加減しません。
私の優位性は、原作知識とやす爺です。
ミリーは今だに脅威です。
一生牢獄で過ごすか、この世から去ってもらわなければなりません。
これから兵士がミリーの屋敷を捜索する頃には、私が作り上げた犯罪の証拠がごっそりとでてきますでしょう。一生牢獄から出られない程には。
私はそうしてやす爺と王宮を後にします。
青い空を見ながら私は思います。
やっぱ悪役令嬢は、「ざまぁ」しないとね。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
他にも悪役令嬢物を書いておりますので、宜しければお読み頂ければと思います。