太陽の皇女 月の皇子~羅乎(らお)の巻~ 第二章
第二章
1
ひとつ山を越えると空気は変わる。あんなに乾いた風を吹かしていたはずなのに、やや水気を帯びた大気は湿度とともに気温の維持にも一役買っていた。
それでも季節が進んでいることには変わりはない。昇った朝日にぎらついた様子はなく、今日も穏やかな快晴が見込まれた。
「こっちも刈入れ時か」
田畑には黄金色が広がる。由四里の周囲は既に刈取った後だったことを思い出す。もしかしたらこの辺りも収穫祭なんてことをするのだろうか。となれば、また宿を取るのが大変なんてことになるのかもしれない。
東方の大国、朱耀。点在する国の中で、神拿国と同様、珍しくも女王が治める国だった。東側で最も大きい港街の亜狭来は朱耀国のみならず、大陸東海上の拠点である。
「勿論、亜狭来に寄ったりは……しねえんだろうな、やっぱしな」
羅乎の言葉を李比杜は一瞥することで答える。しゅんとした羅乎を阿己良が笑う。
「亜狭来に行きたかったのですか?」
「まあ、あそこは行ったことねえから」
大陸上で一番賑やかとされる港町、ぜひ行ってみたい場所のひとつだ。
「朱潤の奴、海風が嫌いらしくて。だから徒歩の時しか――」
言いかけて、羅乎は阿己良の顔を見た。突然話をやめるのを不思議そうに見返す。
「……なんでもねえ」
これ以上何かを言えば墓穴を掘りそうで口を噤む。幸い、李比杜が声をかけたので、それ以上追求をされることはなかった。
「ここから森に入ります」
荷物運びの驢馬は直前に寄った村に預けてきていた。背中の荷物を確認するように背負い直して、李比杜が阿己良に説明をする。
「それほど大きなものではありませんから、夕刻には到着するでしょう」
阿己良が神妙に頷く。どこにつくのかとは問わなかった。羅乎もまた尋ねたりはしなかった。方角から見て、東幽門へ向かっているのだろうことは予想していたからだ。
東幽門――大陸に点在する闇世とこの世を隔てる門のひとつで、神拿国が管理している。闇世と呼んではいるが、門の向うに別世界があるということではなく、実際にはこの世に存在する悪い気を吸い込み、抑え込む為のものだった。
地上に生物が誕生し、陽の気が満ちて生まれた影の部分。それが封じられているのが、神拿国の管理下にある中央の月幽門を中心に配された東西南北の門だった。これが開かれると地上には悪い気が這い出て、世界の秩序を乱す。ひいては人間に限らず、全ての生命――陽の力を滅ぼしてしまうとされる。
その存在こそ、悪気と呼ばれるものだった。
悪気は人に巣食う。人だけではない、感情を持つものには何にでも巣食う。そして負の部分を拡大させ、本人も含め、周囲の生き物も巻き込んで破滅させる。
今、地上には大量の悪気が現れていた。それも唐突に、である。幾つもの村や町が既に餌食となっており、一刻も早く門の封印を強化する必要があった。
封印を行うのは琉拿教の――神拿国王家の役目である。そしてその為にあるのがあの三日月の飾りだ。羅乎の睨んだ通り、阿己良達一行は四方の門を確認に向かっている。偶然とはいえ、悪気を追う自分が琉拿の王族と出会い、さらには同行できたことは非常に幸運なことであった。
「李比杜、ちょっと待て」
進みやすいようにと李比杜は立ちはだかる下生えの草や邪魔な木々を排除していく。阿己良を真ん中に羅乎が最後尾という順番は山越えの際と同じだった。いくらか人通りのある山道と違い、ここには獣道程度しかない。それは人が使うものではないから歩くにはかなりの苦労を伴うものだ。
案の定、森に入って間もなく足場は急激に悪くなっていた。慣れない荷物を背負っている為か、阿己良が足を取られたのを咄嗟に羅乎が腕を掴んで支えた。小さく礼を言って、阿己良は自嘲的な笑みを浮かべる。
「僕、足手まといですね」
「いいえ、私が行き届かず」
慌てて戻った李比杜が詫びを述べるのに、阿己良はやんわりと首を振る。
「二人だけならもっと早く進めるのに、すみません」
「何言ってんだよ」
阿己良の呟きに羅乎は思いっきり顔を顰めた。
「東幽門に行くのに、琉拿の王族のお前がいなきゃなんの意味もねえだろが」
途端に四つの紫色の瞳が一斉に向けられる。羅乎は瞬きをした。
「な、なんだよ」
「何故、お前がその名前を知っているのだ」
「へ?」
「東幽門だ」
それだけではないと李比杜が続ける。
「何故、阿己良様の素性を知っている」
何を今更とは思うが――そういえば、それはあくまで羅乎の考えであって、二人から打ち明けられた話ではなかった。
「思えば、お前は我らの行き先を忖度もせず従ったな」
李比杜が阿己良を背に庇う。右手が剣の柄に掛けられた。
「胡散臭いとは思っていたが、阿己良様の手前、追求せなんだが」
剣呑な空気を纏い、李比杜が声を低める。
「お前、何者なのだ。何が目的で我らに近づいた」
「べ、別に俺は――!」
「李比杜」
阿己良が声を上げた。その声すら切り裂くような李比杜の抜刀術はかなりなものだった。動いたと思う間に銀色の輝きが羅乎を掠めていた。本能的に上体を反らし、そのまま反転する。その視界に髪が僅かに宙を舞うのが見えた。素早く身体を起こすと、眼前に切っ先が突きつけられた。
「やめてください、李比杜」
主が止めるのにも構わず、李比杜は冷淡な目を向ける。
「言え、お前は何者なのだ」
普通ならその場で斬られていたに違いない。さすがの羅乎も無傷ではすまなかったはずだが、李比杜に本気で斬るつもりがないのは剣を向けられた羅乎にはわかっていた。
それでも李比杜は剣を納める様子はなかった。あくまでも羅乎の正体を探ろうという腹らしい。
「ただの、旅のおに――お姉さんだよ」
羅乎は指先で刃先に触れる。そこから剣を伝い、あっという間に小さな炎が李比杜の手元へと到達する。
「面妖な!」
生まれた隙で羅乎が距離を取る。炎を振り払った李比杜の剣が背後に迫るのを、身体を回転させてかわしつつ、正面から対峙する時には羅乎もまた剣を抜いていた。
剣が打ち合う金属音とともに両者の動きが一瞬止まる。だが、すぐにそれを弾いて距離を取ったのは羅乎の方だった。
まともに力で勝てる相手ではない。まして今は女の身だ。腕力が違いすぎる。
「くっ」
着地した瞬間に李比杜は距離を詰める。再び受け止めた剣勢は、肘まで痺れる程に強力だった。
二合、三合と打ち合う。一見すると互角に見えるかもしれないが、明らかに羅乎が追い詰められている。それは羅乎自身が一番感じていた。
背中に木の気配。後ろに下がることはできず、続く斬撃は膝を折って躱した。空気圧が頭上を通過していく。
さすがに一人で護衛をするだけはある。立ち居振る舞いからかなりの手練れだとは想像はついたが、予想を上回る動きだ。空気さえも裂くような鋭い攻撃はその大きな身体からは想像できない素早さだった。それでも本気ではないのだろう。殺すことが目的ならもっと容赦ないに違いない。
何度目かの打ち込みを受け止め両足を踏ん張る。腕だけで支えるには限界だった。
「やめて」
阿己良の悲鳴にも似た声が響く。
止めるまでもなく、勝負はついていた。李比杜の攻撃を支えるのが精一杯の羅乎の太腿に蹴りが入った。膝が崩れると同時に李比杜の剣がまだ新しい白茶の外套を刺し貫く。
「五合以上持った相手は珍しい」
「お……お褒めに、預かり、光栄」
殆ど呼吸の乱れていない李比杜に対し、羅乎の方は声を出すのが精一杯だった。力には速さで凌駕するしかないが、李比杜には速さもある。一対一では、まず勝てる人間はいないのではないかと思われた。
「身体のわりに、随分と立派な得物を持っているな」
剣士の習性か、李比杜の目が羅乎の手に向けられる。根元に鮮やかな金色の細工模様が刻まれた刀身は銀というよりも青みを帯び、木々に閉ざされた光の少ない中でも見事な光沢を放っている。そこいらの剣とは輝きからして違うのがわかったのだろう。
「借り物だ」
立っていることが億劫で羅乎は大木を背に座り込む。途端はだけた外套の隙間から冷気が入り込んで薄手の衣に纏わりついてきた。外套は剣で縫い付けられているので仕方ないとはいえ汗が急に冷えるのは不快だ。
「あのさ」
鋭い視線を感じつつ、羅乎は呼吸を整えるのに冷えた空気を大きく吸い込んだ。
「別に、怪しいもんじゃないって言ったところで信じねえんだろーから、俺としてはどうしようもねえけどさ」
こんな風に追い詰められ、剣を向けられ、なんと情けないこと。まるで盗みの現場を捕まった盗賊のようではないか。
「ほんとに、怪しいもんじゃねえんだよ」
性懲りもなく繰り返すのを、李比杜は冷ややかな目で受け流す。
「どこの国のものだ」
「別に、どこってこともねえけど」
羅乎は眉を寄せる。
「あんたらの敵は悪気だろ。国は関係ないよな?」
「……問うているのはこちらだ」
ほんの少し置かれた間に、羅乎は李比杜の逡巡を感じ取った。
「ちょっと待てよ。そこは大事なとこだぞ」
羅乎が大木を伝って立ち上がる。
「これって戦争なのか? 悪気の仕業じゃなくて」
「だったらどうなのだ」
「だったら、俺は……」
一瞬躊躇い、羅乎は舌打ちをする。真相を話すつもりはないが、このままでは埒は明かない。多少のことは仕方ないだろうと腹を括る。
「国家間の戦争なら俺は関わらない。っつーか、関わることは許されない。事が悪気の仕業だって言うから来たんだ。悪気が関係ないなら、一緒には――」
行かれないという言葉をかろうじて飲み込む。自分の言葉を不安げに聞いている阿己良と目が合い、どうしてかそれ以上を口にできなかった。
「確かに、悪気が動き出してはいる」
今度は李比杜が眉間に皺を寄せた。
「だが、それ以上はわからん。だからそれを確かめにいくのだ」
東幽門が開いているのかどうかは彼らにもわからないのだと言う。
「悪気が溢れたことは事実です。それは門が開いたからなのかもしれません。でも、それがなぜ突然、それもこれほど急激に広がってしまったのか、それはわからないのです」
阿己良が言葉を引き継いで続ける。
「あまりに急だったので、人為的なものではないかと……。それに」
「それに?」
李比杜が目で制止しようとしたのがわかった。しかし阿己良はそれに一瞬だけ目を向けると、再び羅乎を正面から見やる。
「母が封じられました」
「なんだって?」
諦めたような息をついて、李比杜は剣を収める。
「神拿国女王であらせられる嬉李様は、何者かによって眠らされてしまったのだ。全く目覚める気配もない。司教たちの話では何かよからぬ呪術が働いていると」
羅乎は目を丸くした。王家の人間だとは思っていたが、まさか女王の息子だとは思いもしなかった。中枢も中枢、ど真ん中ではないか。
「皇子……なのか?」
「え?」
「あ、いや――なんでもない」
今、話題はそこではなかった。
「なら、今、神拿国は大変なことになってんじゃねえのか」
「公にするわけがあるまい。今のところはなんの混乱も生じてはおらぬ。ただ」
「ただ?」
「悪気を除いては」
あのさ、と羅乎は己の剣を拾い、外套の裾を払う。
「あんたらから見たら、多分、怪しいと思うけど。なんつーか、俺も色々とさ、あるわけだよ。信用しろとは言わねえけど、とりあえず敵じゃないってことだけは間違いからさ。ほんのちょっとだけど、その辺安心してくれたら有難い」
「僕は」
阿己良が羅乎の手を取った。
「この阿己良は信じています。だって、こんなに綺麗な気配、他にはありません」
「……」
変わらぬ目線の高さから真っ直ぐに見つめてくる。迷いのない、純粋な紫の瞳に、こんな時なのに、やっぱりこいつは可愛いと思ってしまう自分がなんとも情けない。
「別に、目に見えるわけじゃねえだろ」
羅乎の方が険しい表情になった。神拿国の皇子がこんなに無用心でどうするのだ。
「見えませんけど、感じるんです」
どこまでも穏やかな表情は、自分なんかより余程綺麗な気配とやらを纏っているのではないかと思わせるものだ。
「はあああ」
羅乎は盛大に溜息をついて、剣を鞘に収める。
「どうかしましたか?」
「なんか馬鹿らしくなってくんな、お前見てると」
「え?」
「阿己良様を相手にお前とはなんだ、無礼な」
そう言えばと羅乎は思い出す。
神拿国の王家が継承している一番大きな力は癒しだ。そしてそれは悪気が一番嫌う力だ。ならば、このふんわり雰囲気を纏い、全身から癒しを放出しているような皇子は悪気からは大いに狙われる可能性も考えられるわけだ。
――それなのに、護衛は一人。
恐らく、女王が封じられたといった辺りに何かがあるのだろうが、そこまでを自分が知る必要はないだろう。女王がどうなろうがいずれ後継者が継ぐ。他国と異なり、王位継承がどうのということは無縁な国である。羅乎としては悪気さえどうにかできればいいのだ。
「まあ、とりあえず、阿己良皇子様に免じて、ここは一時休戦ってことでよろしく」
片手を上げて見せる羅乎を李比杜が険しい目でみる。
「いずれ、必ずはっきりさせてもらう」
確かに、森はそう険しいものではなかった。緩やかな登り下りがあるものの枝葉さえなければなんてことのない道程。阿己良も慣れてきたようで李比杜にしっかりついていくようになっていたが――如何せん、羅乎の方が遅れるようになってきていた。
「大丈夫ですか?」
労わるように当てられる手が温かい。
「李比杜、少し休みましょう」
声をかけた阿己良に否定を示したのは、羅乎自身だった。
「いい。意味がねえから。構わず進んでくれ」
李比杜が思案するような目で阿己良を見る。阿己良は首を振った。
「あとどのくらいだ?」
羅乎は両手を膝に置いた姿勢で李比杜を見上げる。
「もう間もなくだ。一息もない」
「くそっ、お前らはなんで――」
なんで平気なんだ――という言葉は飲み込んだ。
羅乎の体力を奪っているのは悪路ではなかった。周囲に漂い始めた歪んだ悪気の残滓。それが羅乎の気を殺いでいる。重たくなる足はまるで熱にうかされているようだ。
脂汗が滲んでいた。
――無理だって言われるわけだよな。
耐えられるのはここが地上だからだ。本来ならこれ程に濃厚な悪気の中にいては持たないだろう自覚はある。その為に多少の準備をして、耐性をつけてきているのだ。だから悪気ならばまだいい。だが、これはなんだ?
ぐずぐずの汚泥の中に腐臭の上がる生ごみと一緒に混ぜ込まれたような、とてつもない不快な感じ。何かを食い散らかして、その上に汚物をばら撒いたみたいな……。
「李比杜」
羅乎は己の思考に舌打ちをした。
この匂いは――知っている。
「すぐそこなんだよな」
「ああ、そうだが?」
「開いてるぞ、多分」
阿己良が李比杜を見て、李比杜もまたそれを見返す。何が、とは問う必要もない。
「なぜ、わかる」
「聖獣がいない。多分――死んでる」
随分前に食われた聖獣の子供を見つけたことがあった。あまりの悪臭に行ってみれば魔獣に襲われた小さな身体が無残に散っていた。確かその時も羅乎は気分が悪くなったのを覚えている。その腐臭に似ている。聖獣はきちんと葬らねば、恐ろしく不快な朽ち方をして、他の生き物とは比べ物にならないくらい酷い悪臭を放つ。
――阿己良達にはわからないのか……。
それは知らなかったが、悪気に対する耐性を付けたところで、所詮、自分は異質ということなのかもしれない。
しかし、そう簡単に聖獣がやられてしまうわけもない。東幽門を守るのは龍の一族。脆弱とは縁のない者達だ。悪気ごときに劣っては門番の意味はないのだから。
「急ぎましょう」
李比杜が羅乎に手を伸ばした。細い腰にしっかりと力強い腕が回される。羅乎の荷物は阿己良が引き受けた。
「こんな時だ。聖獣のことまで知っていたことは見逃してやる」
「そいつはどうも」
2
門は開いてはいなかった。隙間は開いているものの、必死に抵抗したのか、青い輝きが扉の前に丸まっていた。その肢体に群がるのは小物の魔獣達だった。強い存在をその身に取り入れ、のし上がろうとしているのだ。
辺りは赤い海だった。引き出された臓物を食む者、身体にはありつけず流れ出た血を啜る者、食しているのも様々なら、その異様な姿も様々だった。
羅乎は李比杜から身体を離した。呆然と、横たわった青龍の長躯を見つめる。生前の麗しさはどこにもなく、あるのは無残な肉塊だった。
扉に掛けられた呪印は生きている。ここから悪気は出ていない。周囲に溢れている悪気は元々あったものに魔獣の気が触れて増幅されたもののようだった。
「こ、こんな」
息を呑んだ阿己良が思わず発した声に魔獣たちの視線が集まる。李比杜が素早く剣を抜いて、阿己良を背に庇った。
しかし魔獣たちが見ていたのは阿己良よりも少し上――それに気付いた刹那、羅乎が剣の鞘を払った。
「李比杜、後ろだ!」
重い身体に鞭を打って跳躍する。
金属音が響く。跳ね返され、羅乎は宙で回転をすると地面に下りる。だが、いつものようには行かず、着地と同時に膝をついていた。
黒々とした体。四つん這いに着地して、空気を震わすような呼気を吐き出す。大きく開いた口は体とは対照的に真っ赤だ。
「窮寄」
李比杜の呟きに応えるように窮奇が咆哮する。
地を打つ尾は鋭利な刃物のように反り返っていた。魔獣達はこの大物の気配に戦慄して顔を上げたのだ。
「下がってろ、羅乎。お前は阿己良様を頼む」
窮奇を気にしつつも羅乎達に目をつけた魔獣もいた。たった今取り込んだ新しい力を試したいのかもしれない。事実、一つ目をした犬のような魔獣が数匹、にじり寄ってくる。
一匹が跳躍した。短い手足を振り回すと、それは急激に伸び、大きな鉤爪となった。
李比杜が一刀の元に斬り捨てる。断末魔の声を上げる間もなく両断された化け物は、また別の魔獣の餌となっていた。
「あんたにはこっちを頼むよ」
周囲を囲む唸り声が次第に大きくなっていく。一段と大きな咆哮は窮寄のものだ。
「阿己良は悪気に対する切り札だ。それに、護衛があんたの仕事だろ」
「しかし――」
「あいつは火に弱いんだ」
羅乎は李比杜ににやりと笑って見せる。
「ちょっとだけ本気出すから。あのくらいの小物ならなんてことねえよ」
窮寄は羅乎を敵と認めたようだった。蝙蝠のような羽根のない翼を広げ、舞い上がる。上空から一直線に羅乎を目掛けて降下してきた。
「脳みそ、お留守だよな」
図体のわりに小さい頭部目掛け、羅乎は手を翳す――瞬間、辺りを眩い閃光が覆った。
金属的な鳴声を上げ、窮寄が体制を崩して落下してくるのを下から斬り上げる。
窮寄の羽根の骨格部分は鋭利な刃になっている。目を回しつつも窮寄は剣を羽根部分で受け止めた。
くぐもった破砕音。凄まじい衝撃が腕に伝わる。それは恐らく窮寄も同じだろう。
「くそがっ!」
元々調子がいいわけではない。気合を入れて、最後まで剣を振り切る。肉を裂くというより板を叩き割ったような手応えがあり、窮寄はさらに悲鳴を上げ転がった。
痛みを見せつつもなんとか虚勢を張った魔獣は、己を鼓舞しているのか咆哮をあげる。
半ばよろけながら踏ん張る四肢に向かい、羅乎が手を振った。窮寄の周囲と、その黒い体を炎が包み込む。突然発した熱に窮寄がたたらを踏んだ。
さらに呼気を吐いて、手をしならせる。それに従って炎の鞭が窮寄の横面を叩いた。
「お前さんは固いからな」
窮奇の全身は鱗が剣に近い素材だ。その証拠に固く、光沢のある鱗が蠢くたびに炎の光を反射する。
羅乎は愛用の剣をゆっくりと手の平で撫でた。触れるその場から炎が宿っていく。
窮寄がよろよろと立ち上がった。窮寄は火を嫌う。普段、陽の光のない穴倉のような場所にいる為に眩しいことと熱いことが苦手なのだ。
なんとか立ち上がると、威嚇の声を発した。風のような速さで羅乎に迫る。
怒りに燃えた濁った金色の目がすぐ脇を通過する。至近距離で躱した羅乎の外套には鱗に触れただけで幾筋もの切れ目が入った。
振り返る間もなく鋭利な尾が羅乎の足元を薙ぐ。剣で受け止めると、羅乎も後ろへと弾かれたが、炎の熱に窮寄自身も苦しげに呻いた。
片方の翼は折られ、だらりと垂れ下がっている。もう飛ぶことはできないだろうに、それでも上空へと跳躍する。翼はなくとも見事な跳躍力だ。
背中の鱗が刃となって降り注ぐ。羅乎はそれらを炎の壁を作り出して受け流した。
「相手が悪かったな」
この窮寄は大して強くない。小柄なところを見るとまだ子供なのかもしれなかった。だからといって見逃すつもりはさらさらないが。
跳ね返された刃には炎が付随している。鱗に覆われていない柔らかな腹部に、幾つもの炎刃が潜り込む。瞬時に傷が焼かれるためか血が出ることはなかった。
腹を上に落下する。落ちた先は火の海だった。悶える黒い塊に、羅乎は炎を纏わせた留めの一撃を叩き込んだ。
窮寄の体で鎮火された剣を固唾を飲んで見ていた魔獣どもへと向ける。熱気に煽られた剣から窮寄の血が蒸発して白い煙を上げた。それを見るなり、蜘蛛の子を散らすように一気に飛散していく。そこまで見届けると、羅乎はその場に座り込んでいた。
「これが、お前の本気か」
魔獣達までが退散したのを見て、李比杜が溜息とも賛嘆とも付かぬ息を吐く。
「まだまだ。こんなのほんの一部だ。馬鹿にすんな」
李比杜の目が窮寄へと向けられる。牙の除く口からだらしなく長い舌が伸びている。
「お前は、魔法使いなのか?」
出された李比杜の手に捕まって、羅乎は口の端を上げた。
「そういうことにしといてくれ」
「敵にしたくはないな」
李比杜が呟く。
「なぜ、先程は使わなかった?」
つい先程、李比杜と対峙した時のことだろう。確かに李比杜に直接使うことはしなかった。
「本気とやら。使えばよかっただろうに」
「だって、李比杜も本気じゃなかったろ」
それに、と羅乎は続ける。
「俺の敵は悪気だ。李比杜じゃねえ。ただそれだけさ」
「……そうか」
何事か納得したような李比杜に頷いて、剣を振るい、窮寄の血油を払って鞘に収める。目を上げると、横たわった聖獣に祈りを捧げている後姿があった。
「護ってくれていました」
華奢な外套に歩み寄ると、気配を感じたのか阿己良が小さく呟いた。
「こんなになって……でも、門は無事でした」
声が震えていた。組んだ両手に、透明な滴が次から次へと零れる。
「逃げてくれてよかったのに。どうしてこんなになるまで」
「……そうだな」
でもさ、と羅乎は俯いた肩に手を乗せた。
「もしお前がこいつの立場だったとしても、同じことをしたんじゃねえの?」
阿己良が濡れた目を上げた。
自国から出たこともないくせにこんな山奥までやってくる。国の為、神拿国に生まれたが為に。旅をするのは命がけだ。街道を歩いていたって盗賊に襲われることだってある。それどころか強固な守りのない世界では悪気の餌食になるかもしれないのは琉拿の王族とて変わらない。むしろ清浄な気しか知らないのだから他国の人間よりも悪気に弱い可能性だってあるのだ。
だが、阿己良はこうして旅に出た。困難だろう選択をしたのなら、それはこの青龍と同じではないのだろうか。
「だったら、ありがとうでいいだろ。一緒に世界を護ってる仲間なんだから」
阿己良が瞬いた。
「仲間……そう、ですね」
「神拿国の皇子様じきじきに祈ってもらえて、あいつもきっと喜んでるよ」
「あいつ? もしかしてお知り合いですか?」
「……ちょっとだけな」
羅乎の言葉にごく自然な口調で阿己良が問うた。詮索するような空気もなく、さりげない質問に、羅乎は思わず素直に頷いていた。
「こんなことしかできなくて、申し訳ないです」
そんなことないと羅乎は微笑む。本当なら人知れず消えていた命だ。
「ありがとな、阿己良」
3
門の隙間をきちんと閉じ、三日月の飾りを通して封印という鍵をかけ、一行は急ぎ町へと戻った。かなりの強行軍でもあり阿己良だけでなく羅乎もかなり消耗していた。宿へ入るなり、食事を取るのももどかしく、泥のように眠った。
目覚めたのは翌日の昼過ぎ。李比杜の姿がないところを見ると旅支度の為の買出しに行っているものと思われた。枕元に置いた剣に手を伸ばして、何気なく見れば隣の寝台には阿己良が眠っていた。
羅乎は溜息をつく。寝ていたとは言え、何か感じれは起きる自信はある。信頼してくれているのかもしれないが……。
「護衛が主人を寝かしたまま置いて出掛けていいのかよ」
それは甚だ疑問だ。まさかと思うが、李比杜もまた琉拿を出たことがないのだろうか。とにかく李比杜には一言言っておく必要があるかもしれない。
身支度を整えて羅乎は今度は違う種類の重い溜息をつく。なんて均整の取れた身体なのだろう。我ながら、うんざりだが惚れ惚れする。おまけに、覗いた鏡に映る顔は、
「姉貴そっくり」
――それを喜ぶ弟は少ないに違いない。
銀鼠の着物に同色の袴、濃紺の帯と言う、実に地味な配色。加えて外套が白茶。羅乎自身もここまで地味な恰好は珍しいが、彼女も絶対にないだろう色合いであるのになんというか、やはり姉弟なのだと再認識せざるを得ないのが悲しい。
自分の外套を寝台に放り投げ、一向に目覚める気配のない寝台を振り返る。
……起こすべきだろうか?
枕元に腰を下ろした。暫くその寝顔を見つめる。無垢な寝顔の可愛らしいこと、起こすのは忍びない。寝返りをうつと柔らかな白金髪が頬を滑る。覗き込む羅乎の間近に顔が迫ってきた。
「……」
色の白い頬は暖かな布団のせいかほんのり桜色をしている。いつも真っ直ぐに見つめる大きな目を縁取る長い睫毛。ふっくらとした唇を薄く開き、静かな寝息を立て続けている。
思わず触れようとして、羅乎ははたと我に返った。
――何やってんだ、俺。
改めて崩壊しかけた己の理性に対し、こいつは男なのだと言い聞かせる。
「いや……でも」
羅乎は腕組をした。ちょっと待てと自分に問いかける。
羅乎は本来、男だが、今は女である。だとしたら、性別的には問題ない。今なら、あくまで表面的にはだが。
――いや、待て待て。違うだろ。
自分は男だ。その根本を忘れてはいけないだろう。そこが一番大事なはずだ。今現実どうであろうとなんだろうと、男なのだ。どんなに好みの容姿であっても相手も男なのだ。この一点だけは、どうしても譲れない。譲ってはいけない、絶対に。
とはいえ……なんと殺人的な愛らしさなのだろうか。
苦悩している隣でもそもそと動く気配があった。はっとする羅乎をぼんやりとした紫の目が捕える。
「羅乎?」
「よ、よお!」
寝ぼけたような掠れ声に羅乎は大慌てで寝台から立ち上がると、意味もなく大きな声で挨拶をした。
「いいいいい、今、起こそうとしたとこだったんだ」
とんでもなく上ずった声になったのが自分でも情けなく、腹立たしい。
「そうでしたか、ごめんなさい。お手数をかけてしまって」
律儀に告げて、起き上った阿己良が白い襟元を整え、薄藤の帯を直す。李比杜はどこかと問うのに羅乎は買い出しだろうと答える。
「どうかしたのですか?」
背中を向けたままの羅乎に、阿己良が首を傾げる。
「え、な、なんで?」
「なんだか、声が」
「ああ、さっき、むせたから、まだちょっとな」
わざとらしく咳払いなんぞをしてみる。
「あの」
阿己良が羅乎が羽織ろうとするものを見やって口を開いた。
「それ、外套じゃなくて、布団ですけど?」
「は? え? ああ、もう一眠りしようかと思って」
阿己良が目を丸くする。
「起こしてくださったのに?」
「あ、俺はまだ眠いからさ」
「でも、剣が……」
「え?」
「帯刀したままでは危ないと思いますが」
羅乎は観念して布団を投げつけた。
「お前、ひょっとして楽しんでねえか?」
男だなんて言って、本当は女で、自分の反応を楽しんでいるとしか思えない。もしそうならとんでもない悪女だ。
「楽しむ……そうかもしれません」
阿己良が笑う。
「僕の周りには羅乎のような人はいませんでしたから、羅乎と一緒に旅が出来て、今はとても楽しいです」
なんと穢れのない眩しい笑顔なのか。こちらが酷く汚れているような錯覚に陥ってしまう。
「ら、羅乎? どうしました?」
思わずよろめくと、支えようとでもいうのか心底心配そうに阿己良が手を伸ばした。それをぴしゃりと振り払って、羅乎は再び背を向けた。
「お、お、お――俺は、お前が嫌いだっ」
「え」
「なんつーのか、その、お前といると調子狂うんだよ」
言ってて情けないが、これは完全な八つ当たりだ。
「そもそもなんなんだその純粋培養的な感じ。だいたい、男子たるもの今時って――えええええっ?」
振り返ると、阿己良少年は滂沱の涙を流していた。
「お……あ、えっとだな」
「どこがお嫌ですか? 頑張って直します。ですから、そんなこと言わないでください」
「その、そうじゃなくて」
お願いですと羅乎の腰に縋りつく。動揺しつつも、その薄い胸板に間違いなく男なのだという失念を抱き――そんな自分の思考を頭を振って追い出し――羅乎は慌てて違うのだと言い訳をする。こんなところに李比杜が戻ってきたら何を言われるかわからない。否、もしかしたら今度こそ殺されるかもしれない。自分の命の為にもとりあえず泣き止んでもらわねばならない。
「全然、嫌いじゃねえよ。さっきのはそういう意味じゃなくて」
「では、どういう意味ですか」
「えっと、その、なんつーか、その純粋なところがいいんだけど、うざいっていうか」
「やっぱり嫌いってことじゃ」
「いや、だからそうじゃなくて。そもそも男ってところが」
「そ、そんなっ! 李比杜、お帰りなさい」
「いや、お帰りって、李比杜は関係ねえだろって――うわ、出た」
振り向けば、そこには鬼の形相の李比杜がいた。
「何をしている」
李比杜のこめかみの血管が浮き上がる。
「何故、阿己良様が泣かれているのだ」
「お、お帰り李比杜様……あ、あの。これはですね、その」
李比杜が大きな拳骨を握った。
「ち、違う! 誤解なの! やめてー!」
「女の顔をぐーで殴るなんて」
「ごめんなさい」
文句を言うたびに頭を下げるのは主人である阿己良だった。頬を擦るたびに蘇る鈍痛についつい零れる愚痴。部下に代わり、律儀にいちいち謝るあたりが、やはり阿己良である。
その李比杜は最前列で驢馬と一緒に歩いている。朝以来、一言も言葉は交わしていない。
「阿己良様。そんな奴に頭など下げずともよいのです」
「でも、怪我をさせてしまったのは事実です。本当ならすぐに治して」
「え、ほんと?」
琉拿の癒しの力だ。しかし阿己良の言葉に反応した羅乎の声を遮るように、李比杜が殿下と呼んだ。
「それは尊い力なのです。無駄に使ってはなりません」
「でも」
「羅乎のそれはおしおきなのですから、いいのです」
「だからって、女性の顔を殴るなんて」
以前、李比杜は羅乎を女と思えないと話していたことがある。カッとなって思わず殴った、そしたら一応女だったといったところだろう。恐らく、李比杜自身やや後悔しているに違いない。仮に逆の立場だとして、羅乎としても女を殴るというのはあまりいい気分ではない。
「ほんと。痕になったらどうしてくれるの。酷いわ」
だからこそ、ねちねちと愚痴ってやっているのだ。
「痕になどなるか。なんならこの俺が嫁にもらってやる」
「野蛮人の嫁なんてお断りよ」
「誰が野蛮人か。お前なぞより余程出自がはっきりしておる」
「女に手を上げるのが野蛮だって言ってるのよ」
ぐ、と李比杜が言葉に詰まった。それに対し勝ったとばかっりに羅乎はにやりと笑ってやると、実に悔しそうに李比杜がじとりとした視線を投げてくる。
「羅乎。だったら、その、僕が」
剣呑な二人のやり取りに真っ赤になった阿己良がおずおずと口を開く。頭から外套の帽子を被っているので、俯いてしまうと本当に男か女かわからない。
「僕が羅乎を貰います。部下の不始末は主人の不始末。僕が、責任を持って」
たった今まで睨み合っていた羅乎と李比杜は互いの顔を見合わせた。
「阿己良様、それは――」
「あのな、阿己良」
言いさす二人に阿己良が続ける。
「勿論、羅乎が、いやでなければですけど。その、僕は」
嫌なわけがない。こんなに可愛らしい伴侶がいたらそれはそれは毎日幸せだろう。だが、それはあくまで相手が女の場合だ。
「阿己良、そんな真面目な話じゃねえからな。それにそもそも俺まだ結婚する気ねえし」
その前に元に戻らねばならないし。そしてそれよりなにより、今現在立ち向かっている事象を片付けねばならないのだから。
「東幽門はあんな有様でもかろうじて保ってたが……。この後はどうするんだ?」
恥ずかしそうに俯いたままの頭を撫でつつ、羅乎は李比杜の背中に声を投げた。いつまでもふざけているわけにもいかない。
案の定、悪気の話題になると李比杜も表情を改めた。
「北幽門だな」
なるほど、と羅乎は頷く。
すべての門を確認するなら効率よく回る必要がある。東幽門のある朱耀国から比較的近いのは北幽門だ。
「俺の感じじゃ西南は比較的ましなんじゃねえかって思うんだけど、実際どうなんだ?」
「被害は少なそうだ。常駐してる連中からは特に異常なしの報告を受けていた。あくまで琉拿を出る前の話だが」
「常駐って?」
「琉拿から南幽門や西幽門は遠い。あちらには直轄で管理している寺院があるのだ」
随分昔には四門それぞれの近くに監視場所を設けていたが、国家間による戦争が起こると神拿国は監視場所を廃止した。現在、東幽門は朱耀国にある。朱耀国は特に門を監視してはおらず、国境さえ越えれば別段何の届けもなく東幽門へ行くことが可能だ。北幽門は霊山としてそこだけが神拿国自治とされ、現在も直轄領地となっている。その他の門を有する西南の大国は神拿国とも親交が篤く、治外法権領地を認めているというのが現状なのだと李比杜が話す。
「中央はどうなってるんだ」
大陸中央にそれぞれの門の中心をなす場所がある。そこに行くべきではないのかというのが羅乎の考えだったが、李比杜は首を振る。そして、
「月幽門は行っても意味がない」
呟くように、李比杜が言った。
意味がないとはどういうことかを問う間もなく、李比杜は背を向けた。この会話はこれで終わりといわんばかりなその様子に羅乎は首を傾げる。
そもそも月幽門が基本だったのだ。他は月幽門を補う形で生まれたものなので、四門で賄えないのなら月幽門を使う必要があることは明白だ。羅乎としては月幽門さえ機能すればなんとかなるのではないかと思うのだが。
――それとも、何か考えがあるのか。
もしくは、何か他に事情があるのか。
「……」
所詮、本来は自分は部外者なのだ。神拿国の人間以上の情報を持っているわけもない。
ここまで旅をして、まだ事態はそれほど深刻ではないと思う一方、壊滅的な状況にある場所を見ている。点在する被害箇所、それなのに表面的には静かな感じ。
何故、大地にはこんなに雑念が溢れているのだろう。入り乱れる様々な生気。自分という存在すら見失いそうなほど色々な思いが蠢く世界。繕っても、また別の場所が綻びる。
「どうかしたのですか?」
月幽門には行かない理由を阿己良に問えば話してくれたのだろうか。
だが、やはり教えてもらえない気がして羅乎は開きかけた口を閉じる。教えられないと断られることも嫌だが、答えられないことを問われ困惑する阿己良を見るのはもっと嫌だと思った。
「……別に」
羅乎は薄く雲の広がる空を見上げる。それを晩秋の太陽が大地を見下ろす。
――放っておけ、と。
手を出したところでどうしようもないのだと、そう言われたことを思い出す。どこか諦めたような李比杜の横顔はそんな風に言った連中の顔と似ている。
……誰しもが無駄だと言った意味が、ほんの少しわかるような気がした。