第五話
不死。
俺は不死。
不死身。
それ以上の説明は要らないはずだ。
俺は、不死身。
一瞬の出来事はやはり一瞬でしかないのだが、その一瞬をものにするかものにしないかが、殺し合いでは重要になる。
それを彼女から教わった自分は、その意味を七割ほど理解していない。
よくわからない。
戦闘について、特に考えたことも無いし、考えようとも思わなかった。
戦闘は、自分にとって死の繰り返し。
死んで死んで死んで。
不死。
それは死なないという能力でもあり。
無限に死を繰り返すという矛盾でもある。
だから俺は、死なない。
「うっ!」
意識が戻り、意識が吹っ飛んでいたのはコンマが恐ろしいほどに付くような小数点の世界である。
死んだ瞬間には意識が戻る。
ついでに、体も治癒される。
だから、不死。
「くそっ」
意識が戻った瞬間に後ろのめりになっていた体勢をたて直し、左脚で地面を思い切り蹴りだす。
体を前に出す。
「だ、大丈夫?」
後方から、声。
しかも近い。
「お、おい」
自分の後ろに大型の防弾楯で弾幕を防ぎながら、苦笑いしている少女が、自分の隣にいた。「な、何してるんだ!」
こんなところにいたら、危険だ。
この少女が死んでしまったら、自分の首が飛んでしまう。
しかも自分は不死身なのだから、何度も何度も飛ばされる。永遠に。
「だ、だってさ、放っておけないでしょ」
「んなこといってる場合じゃない―」
そうやって話していると、再び顔面に銃弾がのめりこむ。
そして一瞬にして、治癒。
「痛い……」
思わず右目の辺りを手で覆い、敵の方を睨む。
「話は後、下がってて!」
思い切り地面を蹴りだし、左手に握られている銃をカウンターの辺りに向けて、一発撃つ。
勿論その弾丸が敵に当たることは無く、カウンターのデスクに思い切り当たる。
カァンという音が響き、舌打ちしながらも黒い人間に向けて銃弾を当ててやろうと、震える手を何とか落ち着けて、一番がたいの良い男に向かって一発撃つ。
プラスチック弾は物凄い速度で進み、男の右肩あたりを掠めて奥のほうに消えていく。
自分には戦闘能力が無い。
というよりは、戦闘に向いていない。
この不死身の体だけを頼りに、無限に続く痛みにこらえながらも、最強の突撃兵として突き進んでいくだけ。
死なない故に最強。
それが自分だ。
「くそっ!」
非殺傷拳銃を左に握り締め、照準を再び開始する。