第三話
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「奴らは約七十人くらいなんだって」
「海外からも何人か派遣されてるんだろう?」
「まぁね。だから、気をつけてよ」
いつの間に買ったのか、大型のタッチパネルを操作している笹本山葵はにやにやしながら約七十人の兵士のリストをこちらに見せてくる。
「なんでそんなに薄ら笑いを浮かべてるんだよ」
「いや、なんでもないよ」
とある軍事会社の社長を殺害しろという命令がこの笹本山葵に下り、それを受け、霊太はこの不気味な高層ビルに招かれた。
別にこの少女とは強固な関わりも無いし、寧ろ互いに敵対意識を持っているほどに二人は犬猿の仲なのであり、こうして共闘することには遺憾を感じざるを得なかった。
しかし、この少女には戦闘能力がほぼ無く、戦闘に不慣れな霊太でもこの少女を殺そうと思えば簡単に殺せる。
そんな彼女は、いつのまにか霊太の上司。
それが気に食わないこともなくはなかったが、自分が生きていくうえではこの少女は不可欠であり、ややこしい関係にあるため、こうしてここにやってきていた。
簡単に言うならば、ビジネス。
この少女とかかわりを持つこと自体が、ビジネスなのだ。
残念ながら、霊太はこの少女のことを好いていないし、恐らく彼女も自分を好いていないため、この関係は絆なんてもので結ばれているとは言い難い。
二人の間にあるものはたがいの利益だけで、それ以上の関係は無い。
だから、霊太は驚いた。
「ねね、これ使ってみてよ」
銃を渡された。
しかも見たことも無い、オリジナル。
「なんだ、これ」
自分としては、この渡されたハンドガン、つまり拳銃がとても軽いことに驚きを覚えているのだが、そんなことよりも彼女が自分にモノをくれるということに驚いた。
銃弾は全て自腹で払ってね。
そんな事を言うやつだったのに。
なんだ?
「それが軽いのは金属じゃなくて、超強化プラスチックで製造してあるかららしいよ。それに、それが吐き出す銃弾も鉛なんかじゃなくて、BB弾に似た、プラスチック製の銃弾らしいよ。まぁだから、非殺傷の拳銃だね」
「それ、俺のために作ったの?」
「そうだよ。今回はなかなかにヤバイからね、相手が相手だけに。だからまぁ、君にも思い切りやって欲しいわけだよ」
「俺が人殺しが嫌いって知って、これ作ったってわけか」
「うん」
驚いた。
この銃は確かに、自分に向いている。
自分は人殺しを許容できない。
だからこそ、自分とこの少女は分かりあえないと思っていたのだが。
「あと、電動だから、そんなに威力は無いよ」
「そ、そうなのか」
「うん。だからさ、バッテリー切れに気をつけてね」
バッテリー。
そんなもので動くこの銃は、本当に自分にピッタリだ。
殺さなくても良い。
それだけで、心が軽くなる。
「もうそろそろだよ」
彼女は大型のタッチパネルをしまい、拳銃を代わりに握る。
「わかった」
小型の警防をベルトに装着し、予備の電動非殺傷ハンドガンを二丁腰のホルスターに装備する。
弾薬は懐にしまう。
この作戦は、自分と彼女、そして彼女の部下十五人によるもので、到底こちらが無傷で済むとは思えない。
無謀だし。
でもまぁ、勝ち目はあるか。
このオリジナル・ガンもあるのだし。
「んじゃ、いこうか」
俺は高層ビルの大きな扉へと走り出す。