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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第一章 産声
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1-2


 日にちの感覚がなくなり掛けているが、アレからまだ半年は経っていないと思う。

 あのウサギの魔獣に襲われた次の日、眼が覚めると体の底から力が溢れるような妙な感覚を感じた。

 魔獣を殺した事か、魔獣を食った事で、“レベルアップ的なナニか”が起きたようだ。

 ゲームじゃないんだからレベルアップがどうのこうのと言うのも変な話だが、一晩で劇的に身体能力が上昇するような現象に付ける名前を他には思いつかない。

 実際にどのような事が起こっているのかは置いて置いて、この異常な現象を納得する為にも、レベルアップが発生したと解釈しておいた方が精神的にも楽だった。


 とまぁ、自分を騙しつつ、力をつける為にも“レベルアップ”を起こしたかったので、その日から森の中で食料を探すついでに、魔獣も探してみた。

 結果は惨敗。

 まぁろくに狩りの知識も経験も無い俺に、易々と見つける事ができないのも当然ではある。

 だったらと、今度は狩った獣の血や肉を餌にして魔獣を釣ってみた。

 大物がかかる危険もあったが、そうなったら逃げればいいだけだ。と、その時は軽く考えていたのだが……。


 結果的に言うと釣り自体は成功した。釣れたのは数匹のオオカミの群れと、明らかに異質な一際大きなオオカミが一匹。

 うん、成功したには成功したが、余分なもの(狼の群れ)まで着いて来たのは予想外だった。しかも、気づかれる前に逃げようとしたけれど、すぐに気づかれてあっと言う間に追いつめられてしまった。

 今思えば、力が溢れる高揚感に調子に乗っていたんだろう。今更反省したところで、後の祭りだが。


 それでも勝てたのは、あのウサギの皮で作った小手と、足の骨で作った突刺ナイフと、頭蓋骨で作ったピッケルのお陰だろう。

 小手と言っても左腕に皮をまきつけただけの物だが、それでも普通のオオカミの牙なら通さなかったし、ピッケルは普通のオオカミの頭を簡単に割り、突刺ナイフはオオカミの魔獣の毛皮を貫いて止めを刺した。

 俺も体中傷だらけになって死にかけたが、オオカミの魔獣を食ったら次の日には元気になった。

 それまでは偶然や勘違いの可能性も考えてはいたが、これで魔獣を殺すか食う事でレベルアップ的なナニカが起きる事は確信ができた。


 その後、懲りずに同じ事を繰り返し、オオカミの魔獣を数匹とウサギの魔獣を数羽、それと一匹のシカの魔獣を狩る。

 一度の失敗で懲りないのか?と思われるかもしれないが、オオカミの魔物を食った事での肉体的なレベルアップに加え、オオカミの骨と皮で装備も新調したのでいけるだろうと考えての行動だ。

 それに、他に魔獣を探す方法を思いつかなかったからなぁ。

 獣道に罠を仕掛けても引っかかるのは普通の獣ばかりで、森の生活に慣れても、普通の獣より体の大きく目立つ筈の魔獣の痕跡は、中々見つけられなかったんだもの。


 新たな装備の方は、太い木の棒に溝を掘って二つに割った狼の下顎を括り付けた牙鉈に、長い木の棒の先に皮紐で尖らせた骨を括り付けた槍。狼の皮は脚絆にした。

 ストーンナイフが通用しなかった魔獣の皮の加工だが、これにはウサギの魔獣の歯が役に立った。

 さすが魔獣だけあってウサギの歯の切れ味はすさまじく、魔獣の皮を易々と切り裂いた。


 まぁ、相変わらず見た目は酷いが気にしない。実際、そこまで手が回らん。

 ちなみにオオカミは全て群れを持ち、ウサギは全て以前のウサギと同じく、超音波のような鳴き声を使い、岩をも砕く鋭い歯を持っていた。

 魔獣がどうやって生まれるのかは分からんが、同じ種類の魔獣なら同じ能力を持っているようだ。

 もっとも、例外があるかもしれないから油断はできないが。


 それとシカの魔獣の方だが、コイツは角に炎を纏わせて攻撃してきた。

 動きも俊敏で、オオカミの群れの前にシカの魔獣と戦っていたら負けていたかもしれない。それぐらいの強敵だった。


 コレが、今日までの間に起きた内での大きな出来事だ。

 これ以外は適当に寝床を変えながら、食って寝てトレーニングして食い物を探していた。


 そして今日、俺の生活を一変させる事件が起こる。



 ・



 何時もの様に木の上に作った寝床で寝ていたんだが、遠くから聞こえてきた爆発音に飛び起きた。


 なんだ!?


 慌てて木の上に登り、天辺から周囲を見回す。かなり離れた場所で土煙が上がっていた。


 行って見よう。


 おおよその方向に全速力で走る。しばらくすると、金属のぶつかる音や悲鳴が聞こえてきた。

 足音を忍ばせ、物陰から隠れて様子を見る。


 巨大なオオカミの魔獣が戦っていた。俺の食ったオオカミよりも遥かに大きく、脚だけで俺の身長を超えるほどだ。体のあちこちに傷があり、背中にある肉が弾けた様な傷が一番酷い。

 戦っている相手は、……人間(・・)の集団。


 お、おぉぉぉ!人間だ!!


 駆け出そうとして、ふと我に返る。

 ああ、そう言えば、今の俺は人間じゃ無いんだった。

 こんな格好でアイツラの前に出てどうする?下手をすれば、化け物として殺されてもおかしくはない。


「i I Than fikuZo!!」


 ん?よく聞き取れなかったが、いま人間達の誰かが「一旦引くぞ」と叫んだか?


 俺が葛藤している間に状況が変わったようだ。

 男が一人、叫び声を上げて逃げ出すと、それに続いて他の人間も逃げていく。当然、狼の魔獣はそれを追っていき、残ったのは人間の死体と荷物だけだ。

 しまったな、あいつらの会話にもう少し注意を向けておけば、もしかしたら言葉が通じるかどうかも分かったかもしれない。

 しかし今更どうしようもないので、次の機会に期待しよう。


 さて、俺も逃げるか。流石にあんなにでかい魔獣は相手にできない。だが、折角なので人間の荷物を少しいただいていこう。

 狼だって、喰えない武器や道具にまで興味を持たないだろ。


 時間も無いし、荷物はぶちまけて使えそうな物だけ持っていくか。と、手当たり次第に落ちているズタ袋だの肩掛け鞄だのをひっくり返していると、一つの鞄からありえない量の荷物が出てきた。


 な、なんだこりゃ?

 魔法の鞄ってヤツか?この世界には、こんなもんまであるのか!!

 ははは!こりゃいいや、この鞄に入れられるだけ入れて持って帰ろう。


 落ちている荷物を粗方入れ終えても、まだ鞄には余裕がありそうだ。ついでに死体からも拝借するか。


 うはっ、すげぇなこりゃ。

 頭を吹き飛ばされるは、胴を踏み潰されるは、手や足を付け根ごと食い千切られるは、スプラッター映画顔負けの凄惨な死体ばかりだ。

 一見無傷な大男も、うつぶせに寝ているのを裏返せば袈裟懸けにバッサリと爪の跡が残っている。傷は金属製の鎧ごと、骨を切り裂いて内臓にまで達していた。

 大男でコレなら、俺が攻撃を受けたら両断されかねないな。


 武器や防具、小物入れに入った薬なんかを回収していて気がついたんだが、こいつら軒並み背が高い。

 女でも頭一つ近く、一番大きな男なんて、俺より五割増し以上にでかい。

 ……いや、違う。俺が小さいのか。

 この大男が身長二メートルだとしても、俺の背丈は百二三十センチって所だ。


 っと、そんな事より早く用事を済ませて逃げよう。下らん事で落ち込んでる場合じゃなかった。

 お?この女はまだ息があるな。頭でも打って気絶でもしてるのか?

 どうする?放っておけばさっきの狼が戻ってきて片付けるだろう。連れて行けば色々と役に立つかもしれないが、最悪、あの狼が追ってくるかもしれない。


 見捨てるのは簡単だが……。

 しかし、こんな機会は二度と無いんじゃないか?。なにより、この女に対して命の恩人としてのアドバンテージを得られるのは大きい。


 連れて行くか。

 そうと決まったら、荷物と女を担いでとっとと逃げよう。


 

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