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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第一章 産声
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1-1


 朝起きて、朝飯を食って電車に乗り、学校で授業を受ける。


 何時もの日常だ。

 しかし、同級生も道行く人々も異形の怪物だった。

 緑の肌、牙をむき出しにした口、ぎょろりとした目、禿げた頭に短い角。

 そんなヤツラがスーツを着て電車に乗り、制服を着て授業を受けている。

 ソレを不思議に思う事無く、俺は他のヤツラと同じ様に授業を受けて、購買で買った芋虫を校庭の片隅で一人食う。

 午後の授業を終えて、部活に顔を出す事も無く電車に乗って家に帰り、玄関の扉を開けた瞬間、目に入ってきたのは緑色の天井だった。


「うん?」


 体を起こして周囲を見れば、木の枝と葉っぱで作った壁と天井が目に映る。


 ああ、夢か。

 ひでぇ悪夢だ。

 今の俺と人間時代の俺の記憶が混ざりだしているのか?恐ろしく不快な想像だが、事実だとしてもどうしようもない。


 んな事より、問題はこれからどうするかだな。

 川にたどり着いてから十日が経つ。やる事が多すぎて、一々いちいちひにちなんか数えていないから多分でしかないが。


 最初に取り掛かったのは寝床の確保。

 これは木の上に木の枝や葉を組み合わせて床と壁と屋根を作っただけだが、寝ている間に獣に襲われないだけで十分なので、当分はこれで良いだろう。


 次に食い物。

 これはもう、手当たり次第に食える物を食った。お陰でこの辺りの食えそうな果物や木の実は無くなりつつある。

 しかし食う物が無くなったら移動すれば良いだけだから、食い物の心配はそれほど必要ないだろう。

 それに石斧や弓矢を作ったので獣を狩る事もできる。

 一番のネックは獲物を見つける方法だが、この森の獣は雑食か肉食なので放っておいても向こうから来てくれた。

 その代わりに、いつ何時襲われるかも分からないので気が抜けないのだが。


 着る物も大分改善した。

 もっとも、木の板を足の裏にくくりつけただけのサンダルに、剥いだ皮を噛んでなめしただけの貫頭衣と、見た目はかなり酷い。

 それでも皮のふんどし一丁よりかは遥かにマシだ。

 

 とりあえず衣食住の確保はできた。だが、次の段階に進むには少々問題がある。

 俺は川の周辺を調べながら行動範囲を広げているが、未だに人やそれに類する生物を見つけてはいない。

 俺と同じ姿かたちの緑肌共の集落がこの森のどこかにある事は分かっている。

 しかしこの体に残る記憶を思い出す限り、そいつらとは交渉できそうもない。

 と、なると別の交渉相手を探すか、緑肌共を従わせるだけの力を身に着けなきゃならない訳だ。

 まぁ、別の交渉相手を見つけた所で、俺に力がなければ対等な交渉なんて出来る筈も無いが。

 そうなると、やはり“力”が欲しい。せめて誰にも舐められない程度の力が。

 格闘技の経験は無いが、毎日トレーニングの真似事はやっている。お陰でこの体にも少し筋肉がついてきた気がするが、この程度でどれだけ意味があるのかはわからん。

 石や骨で自作できる武器には限界がある。

 まともな工具も無い状況では大した加工ができないので、強度の高い長物が作れないのが痛い。

 全力で突いたら致命傷を与える前に穂先が外れる槍では、威嚇にしか使えないからな。


 何か、手っ取り早く手に入る力は無いものか……。

 材料さえあれば黒色火薬くらいなら作れるが、硝石や硫黄なんて今の状況では手に入らないしなぁ。


 っと、貯めて置いた食い物は昨日の夜に食ったので最後だったな。先の事を考えるのも大事だが、最優先は今日のメシだ。



 ・



 森の中を走る。進路は適当だ。多少迷った所で、川に戻れれば寝床にしている木に帰る事は難しくない。

 寝床の周りは果物も木の実も食い尽くしたから今日は少し遠出をしよう。


 木々の間を抜け、森の中を走る。

 似たような木々が生い茂っているのでどれだけ走っても風景は変わらなかったが、この辺りの木にはまだ木の実や果物が生っていた。

 果物と木の実を食えるだけ食い、集められるだけ集める。

 草の蔓で編んだ風呂敷は、前に使っていたぼろぼろの鹿皮なんかより、しっかりと食い物をしまう事ができた。両手に一つずつと背中に背負えば、三日程度は持つはずだ。


 せっせと木の実や果物を集めていると異様な気配を感じ、木に登って辺りを見回すと、風上に一匹の大きなウサギを見つけた。

 今まで見てきたウサギより二回りは大きい。


 気配の元はあのウサギか?美味うまそうなウサギにしか見えないが……。

 まぁいいや。折角の肉だ、捕まえて晩飯にしよう。


 音を立てないように気を行けて静かに木を下り、木の影に隠れて束ねていた弓矢を組み立て、ボーラを構える。

 耳を立て、数歩毎に立ち止まって鼻を鳴らしながら、ウサギが近づいてくる。警戒しているのか、餌を探しているのか、どちらかは分からないが良い感じだ。

 あと少し。


 今だ!

 振り回していると音で気づかれそうだから、精一杯の勢いをつけてボーラを投げる。蔦に繋がれた二つの石が勢いよく飛び、ウサギに襲いかかった。

 当然の事ながらウサギは飛んできたボーラを避けようとするが、ボーラを投げた俺はすぐさま弓を構えて矢を撃つ。

 細かな場所は狙わない、ウサギのどこかに当たれば良いんだ。

 幸い矢はウサギの胴体に当たり、それに驚いたウサギはボーラを避ける事ができず、二つの石の勢いでピンと張った蔦に絡めとられた。


 上手くいった!だが、これで安心してちゃいけない。

 絡んだ蔦はいつほどけるか分からないし、矢は当たったものの、しなる枝と草の蔓で作った弓の力は弱いからたいして刺さっていない筈だ。


 だから、石斧を大きく振り上げ、走る。

 ウサギは蔦を体から引き剥がそうともがくが、上手い具合に絡まっているのか、ウサギはまだ地面に倒れたままだ。


 ウサギが俺を見る。

 ウサギまで後数歩、石斧を握った手に力をこめる。

 ウサギが噛みつかんばかりに大きく口を開けた。


 威嚇か?いくらでかくても、ウサギ相手にびびるかよ!


 と、意気込んでみたが、興奮した頭に冷や水をぶっ掛けられたような悪寒を感じ、咄嗟に右に避ける。


「キィィィィィィ!」


 ソレと同時にウサギが甲高かんだかく鳴き、左腕に違和感を残して俺の左側を“ナニカ”が通り過ぎた。


 ナニが起こった?

 左腕を見ると、ぱっくりと傷が口を開いて中から赤い肉が見えている。見る間に血が溢れ、その時になってやっと鋭い痛みを感じた。

 何かを飛ばした?いや、硬い物が触れた感じは無かった。甲高い鳴き声……。音。超音波?指向性の超音波で切断した?おいおい、超音波カッターってそう言うもんじゃねぇだろ!!!


 体勢を崩した俺に襲い掛かろうと、未だに蔦の拘束の解けないウサギが暴れ、その結果、後ろ足が拘束から抜ける。


 クッソォ!考えてる暇なんかねぇ。


 ウサギが俺に跳び掛ってきた。俺はウサギにむかって全力で石斧を振り抜く。

 ガツン!と硬い物同士をぶつけた様な音がする。

 ウサギは俺を跳び越えて、俺の後ろへ。俺は煎餅の様に(・・・・・)斧の頭を(・・・・)噛み砕かれて(・・・・・・)、柄だけになった石斧(・・・・・・・・・)を手に、呆然とする。


 嘘だろ?


 背後で音がする。振り向けば、跳び上がったウサギが目の前に。

 咄嗟に殴りつける。殴られたウサギはトンボを切って着地、何事も無かったかのように俺に襲い掛かってきた。


 コイツ、まだ俺を喰う気か?


 そうか、コイツは食い物(・・・)を探して()の所に来たのか。

 つまり()コイツの餌(・・・・・)か!

 はっはははっ!喰われて堪るか!!!

 だが武器はもう無い。

 だったら……!


 ウサギがまた襲い掛かってきた。

 右手に残った石斧の柄をウサギに突き出す。ウサギは器用に空中で避けるが、その一瞬の隙を突いて左手でウサギの耳を掴む。

 吊り下げられたウサギが大きく口を開けようとするが、それより早くウサギを地面に叩きつけ、後ろから首を握り締めた。

 ウサギが無茶苦茶に暴れる。爪に斬られて手が血だらけになるが、それでも構わず首を絞める。


 ――やがて、ウサギの体から力が抜けた。殺ったのか?

 しばらくしてもウサギに動きは無い。死ぬかと思った……。ははは、でも生きてるよ。ハハハハハ!


 森の中に俺の笑い声が響く。っと、今、他の獣に来られたらまずい。落ち着け落ち着け。

 ――――ふぅ。

 しっかし、このウサギ、どんな喉の構造をしてたら切断力のある超音波なんか出せるんだ?解体ついでに調べてみるか。

 道具の中で一番手をかけたストーンナイフでウサギを解体。の筈が、並みのウサギの皮なら何なく切り裂けたのに、このウサギの皮には歯が立たない。

 皮まで特別製かよ。仕方がない、口の中から皮を剥ぐか。


 おかしいな。口内にも喉にも特別な構造がない。もしかしたら魔法とか超能力みたいなものか?

 馬鹿な……、と否定できる材料も無い。何しろ俺の状況が異常すぎる。

 いや?集落の呪い師(・・・・・・)?が魔法を使えた(・・・・・・)

 魔法を使う獣は魔獣(・・・・・・・・・)

 今の俺の記憶はだいぶ把握できてきたが、日常生活以外の記憶は断片的過ぎて今一要領を得ないな。

 まぁこの世界には魔法と呼ばれる力があって、一部の生き物はその魔法とやらが使える事は確かなようだ。


 だとすると、重要なのは魔法が能力なのか技術なのかって事だな。

 技術なら俺でも習得できる可能性があるが、能力なら素養が無ければ使えるようにはならないだろう。

 見た感じこのウサギに特別な器官は存在しないようだが、ウサギの体を知り尽くしている訳じゃないから魔法器官のような物がどこかにあっても、目立つ場所に無ければ分かりゃしない。


 分からない事を悩んでいても仕方が無いか。

 食料も集まったし、とりあえず夕飯が一品増えた事に感謝して、寝床に帰ろう。


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