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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
序章
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プロローグ-2


 ……しかし、腹が減った。生きるんなら、先ずは水と食い物だな。

 しかし目の前には見渡す限り草原しかない。これじゃ、水も食い物も見つけるのは難しいかな?


 なら、後ろは?

 振り向いて見ると、こちらは右を向いても左を向いても果てしない森。地面には引きずった様な後がある、俺はあの森から這い出てきたのか?


 記憶を探ろうとした俺の頭に、再び強烈な痛みが走った。


 痛ってぇ、何でこんなに頭が痛いんだ?


 頭をさすった手に、ぬるりとした感触。


 げ、頭から血が出てやがる。


「あの忌々しぃゴミ溜めのクソ共がぁぁぁ!」


 血を見た瞬間、なぜか俺の中で、強烈な怒りが湧き起こった。


 ……うん?どう言う事だ?

 ゴミ溜めのクソってのは何の事だ?


 考え込む俺の脳裏に、妙な記憶がよみがえる。


 見覚えの無い集落。

 木を組み合わせただけの掘っ立て小屋に、緑の肌の半裸の住人。

 短い脚に長い腕、短い角の生えた頭に毛は無く、つぶれたでかい鼻ととがった耳に、大きく裂けた口からは牙がはみ出ていた。

 肌の色は違うが、今の俺と同じ種族か?

 汚物に向ける視線で俺を見る両親(ゴミ溜めのクソ)、当然の事ながら緑の小鬼だ。

 何匹もいる兄弟(ゴミ溜めのクソ)からも排斥され、残飯をあさる毎日。

 森で獲った獲物も集落の住人(ゴミ溜めのクソ)に奪われ、野草で飢えをしのぐ日々。

 最後の記憶は、笑いながら棍棒を振り上げる、俺より一回り大きな集落の守り人(ゴミ溜めのクソ)


 俺は、頭を殴られて意識を失った?

 まさか、頭を殴られて、前世を思い出したのか?

 んなベタな。


 しっかし、生まれ変わっても鼻摘み者とは、我ながら変なカルマでも背負しょってんのかねぇ?

 ははは……。まぁ、それでも地獄の黒鬼じゃあ無く、こう言う種族って事は分かったかな。


 だが、そうなると、今の俺が本当の俺で、前世の俺が異常な記憶……。の筈だが、この体での記憶は曖昧なのに、人間だった頃の俺の記憶は妙にはっきりしている。


 今の俺の記憶が人間の俺の記憶に押し流されたのか?

 いや、元々まともな扱いをされていなかった今の俺の自我自体が希薄だった可能性もあるな。

 それとも多重人格のように主人格と副人格のような関係とか?

 う~ん、仮説だけならいくつか立てられるが本当の所は分かりようがないか。


 まぁ、いいや。

 とりあえず、今生きるのに必要な記憶は今の俺の記憶だ。思い出せ、俺!最低限、喰える物と喰えない物!言葉!ついでに周囲の植生!


 って、すげぇなこの森。殆んどが雑食か肉食獣で完全に草食な獣がいねえ。油断してたらウサギや小さなリスにまで喰われかねないのかよ。

 それどころか人や獣を襲う植物まで生えてやがる。なんともひどい世界に生まれ変わったもんだ。

 しかし、こんだけ物騒な世界なら、少しくらい遊んでも誰からも文句は言われないよな?日本じゃちょっとした実験あそびでも、隠れてやらなきゃならなかったからなぁ。


 んでも、そこいら辺は生き延びてからだな。

 まずは水と食い物……。

 あまり森に深入りして集落の連中に見つかってもまずいが、食う物を選ばなければ食料は森で何とかなる。

 それよりも問題は水だ。木に登って近くに川か湖でも無いか見てみよう。


 でかい手は伊達では無いようで、すいすいと木の天辺まで登れたが、森も草原も見渡す限りの緑。水場とおぼしき物は何も無い。


 どっちに行っても同じかな。なら運を天に任せよう。

 木から降りて足元に落ちていた小枝を拾い、それを地面に立てて手を離す。


 倒れたのは右、か。



 ・



 黒鬼になって数日、未だに俺はあてども無く森の中を歩いていた。


 腹が減った。

 木の実、果物、草、虫、目に付く物で喰えそうな物は何でも喰った。

 一度だけだが、狼にでも襲われたのか食い散らかされた鹿の残骸を見つけて、肉を食う事ができた。

 ほとんど肉は残っていなかったが、骨にこびりついた腐りかけた肉でも腹さえ壊さなければ栄養になる。酷い見た目のこの体だが、何を食っても腹を壊さないのはありがたい。

 しかしこの体、燃費が悪いのかすぐに腹が減りやがる。鹿の皮で作ったボロ風呂敷に食い物を一杯にしても、一日持たないんだから参った。


 獣にも何度か襲われた。

 体高が俺の胸まであるオオカミや、鋭い歯を持ったウサギの群れ。幸い追い払う事ができたが、杖代わりの木の棒では致命傷を与える事ができず、肉にありつく事はできなかった。


 まだ水辺は見つからない、喉が渇く。

 果物や草の汁で喉を潤しても、そんな物では全然足りない。

 それでも歩く、どの道動かなければ死ぬだけだ。


 渇きが限界にまで達した時、俺の鼻が水の匂いをかいだ。


 み、水。


 荷物を捨て駆け出した俺の耳に、水の流れる音が聞こえた。


 川?


 木々の向こうにキラキラと光る水面が見えた。何も考えず、俺はそこに飛び込む。 


 美味い!


 はっ!はははっ!ただの水がこんなに美味いなんて、初めてだ。


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