ルカの場合
屋台には可愛らしい雑貨が所狭しと並べられていたが、ルカはそれには目もくれず、ただ一点を見つめている。
「いらっしゃい。君は……初めてのお客さんだね」
にこやかに声を掛けてきたのは、茶色の巻き毛が印象的な男性だった。
けれどルカは反応しない。
「あのう、もしもし?」
再三店主は呼んだが、一点を見つめたまま。
声が聞こえていないのかと思うほどの惚けようだった。
「何が、そんなに気に入ったのかな?」
ポンと強めに肩を叩くと、ようやく我に返ったようで、顔を店主へ向けた。
「え……」
だが今度は店主を見つめたまま微動だにしなくなってしまった。
「今度は何?」
それでも優しく問い返す店主は、よほど我慢強いのだろうか。
「え、いえ。あの。外国の人なんですね?」
「ああ、僕?そう。外国人だよ」
そう言って、くすっと笑った店主に、ルカは顔を赤くした。
「モデルさんか俳優さんみたいですね」
「僕が?どうして?」
「だ、だって、こんなに綺麗……」
ルカは自分で言っておいて、さらに顔を赤くしている。
「そうかな?自分のことはよく分からないけど。ありがとう。嬉しいな」
「この街に住んでるんですか?」
「いや。住んでるのは、違うところだよ」
それはそうだろうとルカは納得した。
だって、こんな綺麗な人、住んでいたらとっくに噂になっているだろう。
「ここに、こんなお店があるなんて、知りませんでした」
「まあ、宣伝とかしないし、知る人ぞ知るって感じだよね」
「……寮生の通学路になっているのに、誰も何も言ってないんです。それに……音楽も。聞こえてきたのは、今日が初めてなんです」
知っていたら、こんな素敵な場所、とっくに通っていたはずだ。
「音楽って、これのことかい?」
そう言うと、店主は屋台の陰から何かを持って来た。
それは小さな手持ちのハープだった。
小さいながらも繊細な彫りがなされていて、それが高価な物であることが窺われた。
店主はおもむろにハープを奏で始めた。
ポロロロ……ン。
それはまさしく、オルゴールのようにも聞こえたあの音色で、ルカはじっと聴き入った。
時に速く、時にゆっくりと。
単調ではない曲を、店主は優雅な指使いで演奏する。
ルカはまた惚けたようにその姿を凝視していた。