ルカの場合
退屈な講義が終わり、やっとこれで、 本当に学校から解放される。
ルカはホッと息をついて鞄を肩に掛けた。
そんなルカに、遠慮がちに声を掛ける同級生が一人。
「ルカ」
「ん?」
「これから遊びにいくんだけど……どうする?」
「ん、じゃあ。一回帰ってから、そっから合流するわ」
「え、ま、まじ?やった。じゃ、ナカイスーパーのフードーコートにいるからさ」
「うん。OK」
たまには人付き合いってのもしないとな、と思う。
けど。
行ったら行ったで、つまらない思いをするんだろうなということも分かっていた。
彼女達の話題と言えば、男のことと、ファッションのことと、将来のことと……。
聞いていたら気分が滅入るような話題ばかり。
もっと建設的な話題はないのかと言いたくなる。
かと言って、ルカ自身にも、大した話題があるわけではないのだが。
それでも同じ所を堂々巡りの会話は、時にいい加減にしてと叫びたくなるくらい、つまらなかった。
(思考の赴く先が全く違うんだよね)
大通りから続く、小さな路地へと入って行きながら、ルカは我知らず、自嘲の笑みを浮かべていた。
この路地は途中から急な坂道になっていて、丘にある寮に帰るには最短のルートだった。
学生は学校の行き帰りにここを通ることが多いが、一般の人は大通りを行くことが多い。
街灯もまばらで、夜は暗い道になることもあって、めったに人の通らない道だった。
この時も通行人と言えば、ルカだけだった。
しばらく歩いて坂道に差し掛かった時だった。
いつもは木の葉が揺れる音しかしない静かな道に、ゆったりとした音楽が流れている。
(あれ?)
訝しく思いながら、引き寄せられるように音楽が聞こえてくる方に歩いて行った。
小路からそれ、獣道のような土の道を歩いて行くと、林が途切れて広場のようなところにでた。
「わ……」
思わず声を出してしまい、誰もいないのに辺りを見回してしまった。
広場はそれ程広くはなく、その真ん中には、まるでおとぎ話から抜け出てきたような屋台が据えられていた。
それがオルゴールのような静かな調べとあいまって、そこを不思議な空間に仕立てている。
ルカは無意識のうちにその屋台に近付いていた。
ゆっくりと、引き寄せられるように。